「他に改変したいことは?」
「……彼女を助けてあげたい」
「( ꐦ◜ω◝ )」
「ロクサーヌ、誤解しないで聞いてほしい。実は彼女はまだ今の夫が生きてるんだ」
「どういうことですか?」
「俺の第二夫人だった彼女は未亡人だった。それも、この春に夫を迷宮での傷が原因で亡くしたばかりの。なぁルティナ?」
「ふっ、そうです。そろそろ彼女からエリクシールの依頼がでるころかもしれません。彼女は当時の旦那のために、なりふり構わず手を尽くしていました」
彼女の美談の一つとして社交界に流れていましたから、付け加えた。
「ロクサーヌ、不本意だろうが聞いてくれ。彼女は、俺の…色々と秘密を抱えた俺を受け入れてくれた方の人だった。決して一般的には悪い人ではなかったんだ」
「えぇ、そうです。姉御肌で、決して一般的には悪い人ではありませんでした。ただ…」
「ただ、帝国の普通の貴族だった。それに、皇帝の推薦…というか勅命もあって、カガ家のために尽力してくれた」
でも…あれだけは……
「まぁ想像してみてくれ。出身地不明の寄る辺なき自由民の男が、92階層あった迷宮の討伐を果たして、皇帝の肝入りで叙爵されたんだ」
これには、ルティナも苦笑いしている。
「あの…92階層と聞こえたのですが?」
「残念ながらその通りだ。俺たちは、あと1層、あと1層と、疲弊しながら攻略していて、92階層の迷宮を討伐する、という意味をそこまで考えていなかった」
ぶっちゃけ、俺には、88層を越えて89層に上がるという決断の方が大変だった。
「えっ、でも帝国では、クーラタルの迷宮が一番古くて深いんですよね? 帝国の初代皇帝が、クーラタルの迷宮の91階層まで攻略したんですよね?」
「ロクサーヌ、ロクサーヌ、ロクサーヌ」
ちょっと声におどろおどろしい成分が混じっていることは否定しない。
「クーラタルの迷宮の最高到達記録は91階層。初代皇帝パーティーが成し遂げたという伝説的記録だった。でも、ラスボスが91階層かどうか、なんてわかっていなかった」
まぁ、すくなくとも、来年の夏時点で、95階層まで走破したがね、とぼやいた。
「で、そんな皇帝の威信に関わるような成果をあげた俺はどうなったと思う?」
「えっと、旦那様は、凄く称賛されたのではないですか?」
「はい、その通りです、ロクサーヌお姉さま。しかし、過ぎたる成果を残したばかりに、面倒事も増えました。なにせ、迷宮討伐を国是としている帝国で、これまでで一番高階層の迷宮を討伐したのですから」
肩を竦めると続けた。
「取り入ろうとする有象無象がやってきました。ミチオ様の身内が居なかったのはマシでした……今では、異世界から来たので身内がいないことも知りましたが」
当時はミチオ様の親戚だと騙る人たちまで名乗り出てきたんですよ? とルティナはうんざりしたように言った。
そして、
「ミチオ様は、叙爵するにあたって、わたくしたちとの約束通りに、ロクサーヌお姉さまを正妻として、他のパーティのメンバーも側室として迎えてくれました」
しかし、そんなことは全然意味が無かったんですっ!、と吐き捨てるように言った。
「ミチオ様は、特に、人間の女に狙われ続けました。身内に引き込みたい家、嫁入りして実家の迷宮の討伐をしてほしい娘、ミチオ様がもつ力を、財産を狙った娘、それ以外にもたくさんいました」
わかりますか?
「なぜなら、『人間は異種族と子供を産むことができない』からだ」
「なぜなら、『異種族は人間の子供を産むことができない』からでした」
…あぁ、俺はルティナも苦しめていたんだなぁ。
「その状況を苦慮した当代皇帝に、配慮という名の勅命で嫁に来たのが、彼女だったんです」
「あの…、皇帝が配慮するほどのことだったんですか?」
「ええ。…それに前にも言いましたが、ミチオ様が帝国解……秘密組織に入会したときに直接個人的面識をもった、と」
「あぁ、当代皇帝ガイウスはいい奴だった。某秘密組織に入会する俺の順番が早かったから、師兄とか呼ばれていてな、40歳のおっさんにだぞ」
「…あのぉ…当代皇帝に対して、不敬になるのでは?」
「「無い、無い」」
これは言わないが、貧乳派のマゾだぞ? それに、前回、ストッキングを履いたセリーに、駿馬のハイヒールブーツで踏まれて悦んでいたんだぞ? 無理無理。
「結果的に、騒動も下火になり、皇帝の肝入りでミチオ様の第二夫人として娶ることになりました」
「わかりました。敵なんですね?」
「そうなのです。敵なのですっ!」
いや、ホントに不敬になるとヤバいから、二人で盛り上がらないでくれ。
「それでは、嫌な人だったのですね」
ルティナと顔を見合わせて……いるような雰囲気になった。
「あー誤解があるようだから先に言っておく。彼女自身は一般的にはいい人だったぞ」
「む~~っ、そうですか? 色々な人と園遊会を開いたり、晩餐会で饗応してばかりでした」
「すまん、すまんなルティナ。金庫番だったお前には迷惑をかけた」
「それらのために、服を何着も作って、宝飾品も天然ものにドロップアイテムも買って、ミチオ様の料理も広げてしまうし……それは大人気になりましたけど、どれだけ出費があったと思っているんですか? 金貨百枚単位で飛んでいったんですよ?」
と、責めるルティナ。
「…で、どうだったのですか?」
「それもな、俺が貴族としての社交から逃げていたからだ」
「えっ、でも、ミチオ様は、迷宮討伐という貴族の責務を、一身に背負って…」
「彼女も魔導士だった…Lvは低かったが。貴族としての矜持は十分持っていたよ」
「……それじゃあ」
「俺が社交関係を彼女に任せていたんだ。今だから言えるが元俺のいた国には貴族はいなかった。だから、貴族としての振る舞いなんてなにも知らなかった」
ため息を一つついた。
「俺にはもったいないくらいの女貴族だった。でも、俺は彼女を迷宮討伐に誘う気になれなかった」
「ミチオ様…」
「そう、俺が嫌だったんだ。パーティに入れるのは。お前たちと同じ立場にすることがっ!」
ごめんなルティナ、そう言って、ルティナの頭を撫でた。
「彼女は、そんな俺のわがままを受け入れてくれた。だから、社交方面は全面的に対応してもらっていた。これも俺がお前たちに見栄を張って隠していたことだ」
なぜなら、
「結局、彼女も帝国の普通の貴族だったんだっ!」
握りしめた拳に力が入っていくのを止められない。
「人間は人間としか子供を生むことができません、だから、後継ぎをお願いしますって」
俺がどれだけロクサーヌを愛していたのかっ!
俺がどれだけルティナを愛おしく思っていたのかっ!
俺がどれだけミリアに癒してもらっていたのかっ!
俺がどれだけベスタに助けられ慰められてきたのかっ!
俺がどれだけセリーを心から頼りにしていたのかっ!
俺がどれだけみんなに愛を注ぎ込んてきたのかっ!
「旦那様…手から血が…」「ミチオ様…そんなにわたくしたちを…」
あの言葉だけは許せなかったっ!! と怒号を発してしまった。
「もっと皇帝ときちんと話をしておけばよかったんだ。俺は一代貴族でいい、後継ぎなんて、人間の嫁なんて望んでいないことを」
俺にはロクサーヌ達だけだってもっと主張していればよかったんだっ! と叫んだ。
これが、
「俺の最低、最悪の選択だった、まぁ勅命だったから下された以上拒否はできなかった。後継者作りまで含めて」
だから、
「俺は、彼女を取り戻す気は欠片も無い。でも、まだ未亡人にすらなっていないんだ…」
俺の顔はさぞ醜く歪んでいることだろう。
「それなら、現在の夫と生きていけばいい、俺に係ることなく」
そういう意味で助けておきたいんだ、そう結んだ。
「わかりました。やっぱり敵です」
「そうです。やっぱり敵なのです」
「それに、そのぅ…彼女は、そのっ…色味が……」
「ルティナ、そこは俺から言う」
ロクサーヌ、冷静に聞いてくれ。
「実は、彼女な、鳶色の瞳と濃い鮮やかな栗色の髪をしていたんだ」
大きくため息をついた。
「…これも皇帝が余計な気を廻した結果だったんだ。普通、死別して一年程度しかたっていない未亡人を選んだりしないだろう? そりゃ前夫との間に子供はいなかったけどさ」
「それは……さすがに彼女にちょっと無神経ですね」
「師兄の好みのタイプを選んでおいたぞ、なんて後で聞かされたときは、頭かち割ったろかっ!と思った……というか叩いてちょっと騒ぎになった」
「あの事件の真相はそうだったのですね…一つ迷宮討伐が増えた原因でしたが…」
「わかりました。皇帝も女も敵です」
「そうなんです。皇帝も女も敵です」
ほどほどにね。
それにしても、
「旦那様の第二夫人…」
それは…
「む~っ、彼女は、一人だけでミチオ様の相手をしていたんですよっ」
「だって、俺がお前たちと同列にしたくなかったんだ。だから、夜も別にしていたんだ」
「でも、彼女との新婚当初は、三日に一日抱いてもらえなかったんですよ」
いや、彼女にしてみると、新婚なのに三日に一度しか枕を共にしなかった、になるのだが…
でも、その分濃厚に攻め立ててやったから満足してたんじゃないかな。
毎回、逝きっぱなしにして失神させてきたから。
まあ、S●X自体に貴賤はないしな。
それに勅命でもあったし。
毎回腰が抜けた彼女を、ダイニングまでお姫様抱っこで運ぶのは半ば習慣になっていたし。
まぁ、その性もあったのか、
「さらに悔しいことに、ミチオ様の子供を早々に妊娠してしまいました。忌々しいことに、早々に」
そう、さくっと妊娠したのだ。
「勅命でもあったからな。でも、その百倍はロクサーヌ達に愛を注ぎ込んだんだけどなぁ」
「うっ、それは…そうだったのですか?」
「あぁ、まあ今となっては証明のしようもない話だが」