その後はすぐに拠点に付きました。霧隠先生と、神木さんと宝くんが二体の
「あれ? そういえばお前ら全員か?」
「あ! そういえば誰もギブアップしてないのか。さっきのロケット花火は誰が……」
「ひゅーー……」
急に聞きなれない人間の声が頭上からしました。男が一人降ってきます。見覚えはありません。しかし鎖で繋いだ
「シュタッ。ゴー! ベヒモス!」
「うわっ」
そして
「ボヤッとするな!」
霧隠先生は私たちに言うと、胸から剣を取り出して、
「待ちくたびれたよ……!」
霧隠先生はそう言って指笛を吹きます。すると土中から蛇が這い出てきて、燃え上がるとその炎は描いた魔法円へと広がりました。そして魔法円は光をあげ、男や
「魔法円を描いた時に中にいたものは守られ、それ以外を一切弾く絶対牆壁だ。まあしばらくは安全だろ」
「ちょ……絶対牆壁……!?」
なんですそれ是非覚えたい。今度お願いします。やのうて! 状況が判りません。皆口々に疑問を口にします。
「これも訓練なんですか? いくらなんでもハードすぎじゃ……」
「そんな事よりさっきのは何なんですか!?」
「訓練は終了だ。今からアマイモンの襲撃に備えるぞ」
「……は? アマ……!?」
アマイモン? ……地の王? あの遠足に乱入する不審者みたいなのが? 与えられた状況説明も大概意味不明です。
「
霧隠先生は淡々と備品から聖水のポリタンクを取り出します。でも。
「アマイモン……?」
「アマイモンって
「そうだよ。
「なっ、なんでそんな大物が……!」
言う神木さんに霧隠先生は容赦なく聖水をぶっかけます。
「何かの冗談、でっ、すよね」
志摩さんにも。
「ていうかさっき先生『待ちくたびれた』て……」
私にも、全員に黙らせるように。しかし、奥村くんにはかけません。
「アブねッ! お前にかけたら大変なところだった」
奥村くんは何が大変なのか、アマイモンは何故来たのか、霧隠先生は何を待ちくたびれたのか。全部一つもわかりません。説明を求めるだけもう無駄でしょうか。あと、水をかけられたので、お化粧の方もとれていないか気になります。一応、ファンデーションテープも使ってはいますけど。
「
霧隠先生は十字を切りながら詠唱します。
「よし。まあこれでいざ何かあっても体が乾ききるまでダメージを軽減するだろ」
「……!? 奥村には何もせえへんのですか?」
「あー……。コイツなんつーか聖水アレルギーでさー」
「聖水アレルギー!? そんなの聞いたことないわ」
坊が聞くと霧隠先生は答えました。案外求めれば与えられるのでしょうか。
「つっ……つーか! 雪男は?」
「あ」
「そういえば……!」
「んー、アイツはちょっと邪魔だからどっか行ってもらったよ」
「は!?」
いや邪魔て! 奥村先生優秀な
しかし、霧隠先生はもう質問に答える様子はありませんし、得体の知れない
今仲直りは本当にいくらなんでもどうかと思いますが、視線が杜山さんにいきます。すると、ぼーっとした顔をしています。ただ事態を飲み込めないと言うにはいささか病的です。
「杜山さん?」
返事が帰ってきませんし、目すら合いません。
「杜山さんも聖水アレルギーなん?」
他に健康を害しそうな要素はあったでしょうか。
「ねえ杜山さん、どうしたん……。こないだ、心配してくれたのに怒ったの、謝るから、あてに杜山さん心配させて? なあ、ほんまにごめんなさい。ねえ、どないしたん」
無反応です。ここまでくればとうとう病的です。怒って無視している感じでもありませんし、杜山さんはこんな悪ふざけもしないでしょう。目の前で手を振りますが何も反応を返しません。何に近いかと言われれば、……悪魔の寄生?
フラリと、やっと動いたと思えば、杜山さんは歩き出します。しかも、円の外に向かって。
「杜山さん? どこ行くん、ここから出たらあかんって……、なあ、杜山さん!? 杜山さん!」
肩を掴んで止めますが、振り払って歩こうとしますから腰に腕を回して踏ん張ります。
「杜山さん! なあ、待って! あかん、先生! 杜山さんおかしいです!」
踏ん張っても、どうしても体重以上の力というのは出にくいので、取り憑かれたように歩く杜山さんを止められません。霧隠先生は不安ですが、ここで他に誰も頼れません。
「おいおいおいおい! 止めろ!」
止めろと言われても。抱きついて駄目ならと持ち上げましたが振り払われて降り出しです。原因を断たねば、と思い至った時に、目の前の杜山さんのうなじで何か動くのが見えました。
「何、これ……何や動いとる、虫? 先生、杜山さんの首筋の、肌の下に何やおります! これ潰してええんですか先生!」
「虫……? 待て、それは神経に寄生している可能性があるから不用意に潰すな!」
「言うても、もう、うわっ、とっと」
もう、杜山さんの足は魔法円に差し掛かっていました。私は後ろから抱きついたままずるずる引きずられてきたのですが、これをこのまま円の上でやると円を消しかねません。坊が後ろから引っ張って加勢してくれましたが、円を消す訳にはいかないので足を上げたりして重心がブレてたたらを踏んでいるうちに、ついに杜山さんは円から出てしまいました。
「オン・バサラ・ギニ・ハラ・ネンハタナ・ソワカ!」
強化合宿の反省で磨いた初動スピードで被甲護身の印を組みます。壁を作れば、真っすぐ進み続ける杜山さんの足止めと、ちょっとは外のものから守ることも出来るはずです。しかし。
すぐそこの木の上からアマイモンが飛び降りてきました。アマイモンは私の被甲護身の印を一瞥すると、デコピンの要領で壁を弾きました。
その途端、体が浮きます。腰をしっかり落として、衝撃に備えて、アマイモンに見られても、心だけは折れないようにいたのに。圧倒的な力の差の前にはそんなもの通用せず、後方に弾き飛ばされました。
「その娘に何をした!?」
「ん?
子猫さんが私を助け起こしてくれましたが、お礼もおざなりになります。目の前の出来事が大変すぎて。
「さあおいで。ビヨーン」
アマイモンは杜山さんを腕に座らせふざけた掛け声で跳びたちます。
「ま……まてこのトンガリ!」
「コラ! お前が待て!」
駆け出そうとした奥村くんの前に、さっきの
「行け! アタシも後を追う!」
霧隠先生はむしろ奥村くんを行かせる発言をしました。本当にこの先生何なんでしょう。奥村くんに何か強い“秘密”があったとしても明かされていないこちらからはただ不安しかありません。他人のことは言えませんがいくらなんでも命の危機です。坊が奥村くんを呼び止めても奥村くんは振り向かず、霧隠先生はこの牆壁から出るなと言い残して
置いてきぼりに置いてきぼりが重なって、もう考えるのも頼るのも無駄な域になりました。落ち着いて何が私にとって問題か考えます。一度頭を空っぽにすれば、浮かんでくるのは杜山さん。アマイモンの意図は考えても無駄ですが、言いなりにするのはどう考えても穏やかでありません。でも、さっき私がアマイモンに軽く弾き飛ばされたのは事実です。奥村くんは聖水での防御もしていないうえ、さっき仲間がいると言ったばかりなのに一人で走っていってしまったのは不安ですが、一番事情通のような霧隠先生が送り出したし、何か強い秘密があるはずです。
急に、何か重いものが吹き飛ぶ音が聞こえました。顔をあげると奥村くんが夜の森の上を飛んでいます。円の中から悲鳴が上がります。
「うわあああ!!」
アマイモンに吹き飛ばされたようです。奥村くんは聖水での防御をしていません。車に跳ねられたくらい、もしくはそれ以上の衝撃でしょう。内臓破裂やら全身骨折やらが脳裏によぎります。奥村くんは地割れと土煙の中に落ちていきます。アマイモンは、まだ杜山さんを抱えていました。
「……あ……の……、クソが!!」
坊が走り出します。みんながぎょっとして止めます。私は一緒に走り出しました。
「何考えて……絶対外に出るなって言われたのよ!」
「坊! あかんよ!」
「坊! 冷静になって! ネッ?」
志摩さんが坊の服を掴んで止めました、が。
「……俺は今猛烈に腹立っとるんや! 冷静なんぞ犬にでも喰わせろや!!」
マジギレです。でも、私、いま、“都合がいい”と思ってしまった! 坊の前に立ちはだかります。
「待って坊! あてが! 犬です!! あてが代わりに行くんで、坊はここに!」
そしてそのまま坊を後ろに突き飛ばすと、走り出しました。後ろがうるさいですが、子猫さんと志摩さんが坊を止めてくれると信じて。勝算、勝算、そんなものありません。さっきから考えてますが、あの実力差では隙を衝こうと0.5秒で逆転されます。杜山さんかて遠くから正気に戻す方法なん思いつかへん。
でも、でも、杜山さんのこと、好きやから。
杜山さんは、もう、あての事嫌いかもしれんけど、あては杜山さんのことが好きやから。
鞄の中には金剛杭が15本。小さいの10本と中くらいの5本。持てるだけ利き手と逆に持ちます。ついに、アマイモンが見えました。奥村くんは倒れ伏しています。
「……変だな。この女はキミの大事な人間じゃないんですか?」
「くたばれ……!」
奥村くん、とりあえず意識あって喋れるみたいです。そこだけは安心できます。
「なーんだ。……じゃあもうこの女は用済みだな。折角だから目玉を一つ頂こうかな」
「地の王!!」
まだ何か続けようとしたアマイモンの言葉尻に被せました。アマイモンはこちらを見ます。喋りながら走って近づきます。せめて、私の射程範囲内まで。
「持ってくなら私の目にして下さい! その子、私の友達なんです! その子の目ェに比べたら、面白みないかもしれへんですけど!」
実力で勝てないなら、理性ある悪魔である以上言葉で交渉を。そう考えてはいましたが、言葉は考えずにするすると出ました。アマイモンはこちらをじっと見ると跳んできます。
「まあ、くれると言うなら……」
「先に、その子をお願いします」
アマイモンは、用済みと言っていただけあって、すぐに杜山さんを降ろしました。そのまだ意識のはっきりしない体を抱きとめます。そしてアマイモンは私の顎を固定して、長い爪をこちらに向けました。怖い。でも目玉で
「ああ、でも確かにそっちの女のほうが珍しい色をしているな……」
「やめ」
奥村くんが言いかけた時、聞き覚えのある笛のような音が乱入しました。顎を固定されているので目線だけ向けると。
「坊!」
例の花火を持った坊がいました。何でここにおるんですか!
「俺らは蚊帳の外かい。まぜろや」
アマイモンは無言で坊の方を見ています。不穏な沈黙。坊の隣には志摩さんと子猫さんもいます。止められずに共に出てきてしまったのでしょうか。
「よせ……バカ!」
奥村くんが止めます。概ね同意なのですが、アカン、坊が来てくれて、ホッとしている自分もいて。
「奥村くん! 鶯花さん! もしスキが出来たら逃げるんや!」
子猫さんが言います。私の顎はまだアマイモンの手の中で、実は骨も強く掴まれすぎてギリギリ言っています。スキなん出来るやろか。
「俺はあくまで杜山さんを救うためやからね……! 鶯花さんはよこっち来て!」
志摩さんもなんか言ってます。でもさっきからアマイモンの注意が花火に向いているので逃げようと力はこめているのですがびくともしません。
「いいからお前ら逃げろ! 鶯花としえみは何とか帰すから!」
「あっ!」
奥村くんの避難を促す声の直後、子猫さんが何かやらかしたような声を上げたかと思うと、花火がすぐそこ、アマイモンの頭に着弾しました。
「わああしもた! 手元が……!」
「子猫さん! 杜山さんになんてことを……!」
私と杜山さんとアマイモンの身長差的に一歩間違えば私の抱えている杜山さんの顔に当たりかねない位置でした。しかしその済んだ話以前に、その着弾地点です。アマイモンの頭の、角のようなところの髪の毛。そこが花火ではぜて髪の毛がちりちりのふわふわになっています。アマイモンはなんだか最初分かっていませんでしたが、自分で触って感触から状態を察したようでした。そのたっぷりの間がおかしかったのか、志摩さんが吹き出します。
「ブロッコリ……!」
「志摩……!」
何で言わんどこう思ったことを言ってまうの! しかしその途端にアマイモンの手が私の顎から外れます。隙、といえば隙です。走って逃げます。
しかしアマイモンは志摩さんのもとに行ったのです。そんな隙求めてへんかった。逃げたつもりが追いかけた形になって、アマイモンが志摩さんを蹴り飛ばしたところで坊のもとに着きます。蹴り飛ばされた志摩さんは木の幹に当たって、生きているようですが動きません。アマイモンが今度はこちらを向くのは分かっていたので、手の中の金剛杭全部落として、先手を打って被甲護身の印を結びます。
「オン・バサラ・ギニ・ハラ・ネンハタナ・ソワカ!」
我ながら馬鹿の一つ覚えとしか言えません。しかし時間がないのです。杜山さんを抱えたまま印を結び終えて、アマイモンはこちらを今度はデコピンではなく蹴り飛ばしました。単純にウェイトならさっきより増えているはずですが攻撃もさっきの比ではありません。吹き飛ばされて、頭に固いものが当たったと思った時、杜山さんの体重を上に感じながら意識が落ちました。
しえみちゃん聖水アレルギー疑惑に限りませんが、『オリ主が自分に与えられた情報で推理する(しかし微妙に外れている)』という塩梅が好きなのでそういうのが多いです。燐くんスゴイ悪魔と契約してる説とか。