花に嵐   作:上枝あかり

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外科室 2

 しばらく休塾が続いたと思ったら、昨日から特別課外授業なるものが始まりました。フェレス卿直々の任務らしく、内容は“学園七不思議”の解決。最初の“真夜中に学園を彷徨う白無垢(シロムク)”は男子で成仏させましたが、戦況としてはわりと悲惨な様子でした。子猫さんが泣きながらキレて、私と坊で耳鼻科で暴れる子供相手みたいに止めるという優曇華の花レベルの事態も、日頃の宝くんへのストレスだけが原因ではない気がします。そして今日は“女子寮トイレの繭子(マユコ)さん”に女子のみで当たるそうですが、男子の惨状を思うにもう少し情報がほしいところです。しかし、流れている噂が中に閉じ込められて助け出されたら廃人だった、では出来の悪い怪談じゃあるまいし繭子(マユコ)さんの実態を語れる人はいないでしょう。ここまで悪質化する前や現れた時期などの話など聞けたらいいのですが、そもそも私に話を聞けるほどの友達は塾関係にしかいません。だから、聞き込みはできません。……できないので、休み時間だからと言って特にやることはありません。ありませんけど、何とか現状から理由をつけて逃げ出したいです。今は休み時間なのですが、椅子に縛り付けられています。精神的に。

「今度本を貸してあげる。医学博士が書いている本でね、君達が悪魔と呼ぶものがいかに人間の幻覚なのか、全部科学的に説明している本なんだ。もし難しいところがあったら解説してあげる」

 目の前には何だかわかるようなわからないようなことをずっと喋っている山田くん。私は赤べこのごとく首をカクカク縦に振って、聞いていますよのポーズを取っています。私の耳は馬の耳。馬耳東風や馬の耳に念仏と、馬の耳はものを聞き流すのに都合がいいことになっているのです。でも馬の耳になりきれず聞こえる部分は色々聞くに耐えず地味に精神が削られます。

 山田くんは私の予想を裏切ってくれず、あれから毎日毎休み時間話しかけてきました。話しかけてきては、いかに寺や仏教や祓魔師(エクソシスト)がインチキで腐敗しているのか聞かせてくれるのです。私がこれみよがしに勉強していようと読書していようとお構いなしです。昼ごはんを買いに行くとかトイレに行くのには流石に着いてきませんが、子猫さんが話しかけてきてくれるのは阻止しようとしてきます。それ以上拒絶して相手を刺激し坊のところに行かれるよりはマシということで甘んじていますが、もう朝はギリギリまで廊下で時間を潰すようになりました。坊と会える昼と放課後は私の聖域となり、鞄や食事の用意を授業時間やホームルーム中に整えて、起立礼の後間髪入れずに走って逃げるようになりました。どうやら山田くんは教室の外に出てしまえば追いかけてこないようで、理由は知りませんが助かるのは確かです。しかし明らかに教室から浮く行動ですし、休み時間には予習もしたいので全部ダッシュで逃げるわけにはいかず、結果今みたいになっています。

 牛と馬のハイブリッドをやっているのにも疲れてきて、ちらと視線を横にずらすと、丁度朔子ちゃんが教室に入ってくるのが見えました。神木さんに声をかけたと思うと、神木さんは急に朔子ちゃんのスカーフを掴み、そのまま教室の外に出ていきます。ああ、あても連れてってほしい。今日は悪霊(イビルゴースト)と戦うのです。こんなところで精神を消耗していられないのです。しかし願いも虚しく逃げる方法が思いつきません。昨日のお昼に聞いた奥村くんの話では、魔障を受けた覚えがないのに悪魔が見えて精神的に追い詰められてしまっている男の子だっているそうなのに、随分な違いじゃないですか。気づかないような魔障を負わせる悪魔がいるのか何なのか知りませんけど、狙うならこっちでよかったんじゃないでしょうか。せめてもの逃避に、私は教科書の内容に一層集中しました。

 そして昼休み、例によっての教室から浮く全力スタートダッシュで迫る山田くんを撒き、ご飯を食べてから女子寮に向かいます。昼間に帰るのは、何だか不思議な気分です。男子諸君は何やら準備とかで少し席を外し、神木さんがお狐さんを召喚して準備を整えてからトイレのドアを開けます。

「うわぁ……。素敵なトイレ……」

 しえみちゃんが呟きました。洋風のきれいなお城みたいなトイレで、入学当初は私もそう思ったものです。しかし見慣れた今なら、様子がおかしいのに気づきます。神木さんが言いました。

「シッ、見なさい」

「! 魍魎(コールタール)……!」

 トイレは水場なので確かに魍魎(コールタール)が好みますが、この学園のきれいなトイレにたくさん漂っているのは異常事態です。背後でドアの開く音がして振り向くと、奥村先生が間仕切りの向こうから顔だけ出して小声で言います。

「お待たせしました! 三人とも、僕達はここに控えています。存分に戦ってください」

 どうやら男子全員間仕切りの向こうにいるみたいです。ぎゅうぎゅうでしょうに隠れて小声なのは、繭子(マユコ)さんを警戒してでしょうか。

「……わかりました」

「とりあえず個室を調べよう!」

 抜穂祭の日だったのに喚ばれたことで不機嫌なお狐さん達は、まだいてくれるものの床に座り込んで動く気配がありません。私たちはたくさんある個室を一つずつ調べていきました。開けて、ドアの影にも何もいないことを確認して、閉める。単純な作業ですが、個室という結界の向こうに悪霊(イビルゴースト)がいないか、毎回びっくり箱を開けるようにどきどきします。絶対、どこかにはいるのです。それがこのドアの向こうなのか、背後のドアの向こうなのかはわかりませんが。それこそ被害者のしていた肝だめしのように繰り返していると、しえみちゃんが私達を呼びました。

「ここだけ閉まってる……!」

 鍵が入室中を示す赤になっていて、ドアは沈黙しています。昼間の女子寮、ましてやいわくつきのトイレです。まずこの中身が繭子(マユコ)さんでしょう。さて、どうアプローチするべきか。結界を張ってもいいのですが、その場合中から手を出せないのと同様にこちらからも手が出せなくなってしまいます。そういう制限のない結界は、一つだけ手持ちがありますが、あれは悪霊(イビルゴースト)との相性は悪めです。考えていると、しえみちゃんがドアをノックしました。

「すいません! 入ってますか?」

「ちょ」

 うわあ思い切ったことする!

「はーい」

 中から、誰、とも特定し難い女の声がしました。加工音声のように個性を感じない、悪霊(イビルゴースト)によくある一発で背筋を撫ぜる声。

「あたし、あんたきらーい。てんねんぶってんじゃねーよ。かおがかわいければなんでもゆるされるとおもうなよ」

「……え?」

 声はそのまま、なんだか怖いことを言います。あたしって誰でしょう、新寮の死人みたいな話は聞かなかったんですけど。

「チッ、ええい……まどろっこしい!」

 神木さんがドアを蹴破りました。ふたりとも大胆です。ひょっとして私がビビりなんでしょうか。しかし開けた先の個室には誰もいません。先程までと同じ空室。そして、じっとりした声は後ろから。

「ありえない。しねよ、ぶす」

 振り向けば背後に、長い長い黒髪と、その間からいくつも目玉や口を覗かせた悪魔が立っていました。おぞましい姿ですが、悪霊(イビルゴースト)ならスタンダードってくらいでしょう。金剛杭をすぐそこの足元に二本投げます。

「オン・キリキリ・バザラ・バジリ・ホラ・マンダマンダ・ウンハッタ!」

 下がりながら真言を唱え壁を作ると、一緒に下がった神木さんとしえみちゃんが壁の後ろになります。悪霊(イビルゴースト)は封が切れたように沢山の口からそれぞれ言葉を漏らしだします。

「あのおんな、めだちたがり、うざいきゅるる」「しょうじききょうみないきゅるる」「きゅるきゅるきゅるおわってる」「おとこにこびうるしかのうがないくせに」

「あはっ」「つまんねーさいあく」「あいつまじむかつくきゅるきゅる」「かおとりかえたーいきゅるる」

 さっきまでと言ってることに一貫性がありません。あたし、とか言っていましたが、核となる存在はいないようです。なら別に、言っていることを気にする必要はないでしょう。

「杜山しえみ! アンタは後ろに下がってなさい! いざって時の為に緑男(グリーンマン)だけ巨大化させといて」

「う、うん!」

「冬隣はそのまま!」

「うん!」

 神木さんはテキパキと私たちに指示を出し、今度はお狐さんに言います。

「ウケ! ミケ! (たまゆら)の祓いよ! 略式じゃなくて正式でいく!」

「え~、正式かぁ。霊力を使うなぁ。疲れるよぉ」

(うぬ)にそこまで仕える義理はないわ!」

 お狐さんたちは座り込んだまま、あくびをしながら言いました。ストライキ状態みたいです。これは時間がかかるかもしれません。火傷隠しのカーディガンに仕込んだ金剛杭を出して利き手に握り、いつでも投げられるようにします。本来空間を囲う結界を無理やり面で作っているので、あまり強度や対応力がないのです。相手が仕掛けてきたら適宜対応する必要があります。

「いつでも言いなりになると思うな!」

「せめて供物(おやつ)ちょーだいよ!」

「な、な、いっ、言うことをききなさい!」

「やだ」

 後ろは後ろで大変みたいですが、私は手騎士(テイマー)の素質もありませんし、よそのお宅の事情に口を出すのもこじれそうなので、せめて安心してお狐さんと交渉できるよう防衛に専念します。悪霊(イビルゴースト)はすぐに結界の脇を見つけて、そこから髪の毛の触手を伸ばしてきました。札をつけた金剛杭を投げて真言を唱えます。

「マ!」

 杭の札から障壁が展開し、髪の毛を阻んで千切ります。この状況なら悪霊(イビルゴースト)を閉じ込めるのもアリの気がしますが、悪霊(イビルゴースト)は不定形に広がるので杭打って囲むのが難しいのです。中心のみ打って円で囲うか、いやいっそ封印系の縛る発想で……。

「あっ! ニーちゃん! (ウルチ)(モチ)の稲を出して!」

 背後のしえみちゃんの声と、返事するニーちゃんの声。なるほど、抜穂祭を抜けてきたというお狐さんには効果的そうです。しかし、させないとばかりに複数の髪の毛が同時に飛んできました。二本金剛杭を投げ、真言を唱えて潰しますが、もう一本、仕留めきれていません。神木さんのもとに伸びるそれを咄嗟に踏みつけます。

 踏みつけた途端、髪の毛は私の足の甲から足首、すね、太ももと巻き付きながら這い上がり、私を釣り上げました。

「ふぎゃあ!」

「鶯花ちゃん!」

「ええからそっち続けて! いっそ都合がええから!」

 こうなったら縛るしかありません。(じょう)をつけた金剛杭を一本悪霊(イビルゴースト)の足元に落とします。ああくそ、ストッキング履いとるけどパンツ透ける!

「オン・マユラギランデっ」

 真言を唱えかけた所で、口に髪の毛をつっこまれました。口内を埋める細く気持ちの悪い繊維。悪臭すらする気がする髪がそのままぐるぐると私の頭の周りをめぐり、首に降りて首を絞めます。気道が閉まって、真言どころか悲鳴すら上げられなくなりました。どくどくと頭蓋骨が酸欠で拍動します。首のあたりから声が、声が聞こえます。

「そのはだでおひめさまきどりかよ。かわいそうだからちやほやされてるだけなのに、ちょうしのっちゃって」

 うるさい!! ちやほやされる方も苦労するんやって!! 声のするあたりに金剛杭を突き立てるとその声は消えましたが、私の首にまで杭で傷がついて自傷行為のような結果になりました。見下ろせば下では無事に生やした稲を刈り取ってお狐さんに供えられたようです。

「あまやしてくれるひとがいなくなったらきっとのたれじぬね。そうだねしぬね。しぬね。しぬね。しね。きゅるきゅるる」

 新手の声が足の方から聞こえます。流石に手が届かない、というか、体に力が入らなくなってきました。まずい。でも髪の毛がしえみちゃんに伸びるのが見えます。金剛杭でなにか、種字とか書けないでしょうか。腕を動かそうとしたら首を絞める勢いが強くなりました。あかんそっち気道じゃなくて頸動脈……。……。

「まじ、ないわ。しんだほうがましきゅるきゅる」

 ……。

 

 

 痛い!

 タイルの床に体を強かに打ちつけました。息ができます。頭にちゃんと血が回ってます。ぼやけた視界に光るお狐さんが見えました。きっと働いて、助けてくれたのでしょう。トイレのものとは言え酸素が美味しい。気道が通ってるってすばらしい。過呼吸癖で乱れそうな呼吸を数を数えながら整えて、酸欠で悲鳴を上げる体に酸素を回します。

 結局髪の毛に捕まってしまったらしいしえみちゃんが隣に倒れていて、私より先に回復して体勢を起こし、神木さんに言いました。

「神木さんありがとう」

 ぼやけた視界では、その時の神木さんが、ひょっとしたら泣きそうな顔をしたように見えました。そして、小さな声で、でもはっきりと言います。

「……二度と言わないからよく聞いて。あたしこそありがとう」

「……うん!」

「で、アンタは!」

「ひぇっ」

 しえみちゃんが返事をして、間髪入れずに神木さんが私に言います。

「あたしのこと庇ったでしょ、何で!?」

 視界がまともになってきました。何で、と言われたら。

「やって、神木さんのこと、大事やし……」

「ハァ!? あたしがアンタに何してやったっていうわけ!?」

「火傷見ても、避けんでくれた……」

「……ッ、……アンタ本当、……救いようのない馬鹿ね!!」

「……褒め言葉として、受け取っとくわ」

 目を閉じて言いました。そんなようなことはうすうす、恐怖として感じていたのです。大事な人のためになら、なんでもしたい。でも、その大事な人が増えていったら、どうなるか。お寺にいた頃はあまり実感がありませんでした。でも、東京に出てきて世界が広がって、大事な人だって増えて。あるのは、私が足りなくなっていく感覚。

「しえみ! 鶯花、出雲!」

 拍手と一緒に、声が聞こえました。男子諸君です。……角度的に大丈夫だとは思うんですけど、私のパンツ見えてたでしょうか。

「すげーよ、感動した!」

「三人ともよく頑張りましたね。まだ未熟とはいえ素晴らしいチームワークでした!」

 言う奥村兄弟。褒められているはずですが、褒め言葉が頭に入ってきません。男子全員、()()()()()()()()()

 女子三人仲良く吹き出します。何か考える前に手がポケットからケータイを出しました。そしてカメラモードを起動しとりあえず全員収めます。全員女子制服に身を包み、胸を入れ少しお化粧までしている念の入れようです。

 爆笑する二人を横に努めて冷静に今度は一人ずつ撮っていきます。奥村先生は黒髪ロングのウィッグに、祓魔師のコートまで日頃と違うハーフコート。足はタイツでスカーフはネクタイ結びと、日頃のメガネも含めおとなしめの印象に仕上がっています。坊と同じくらいある長身を覗けば、一番ガチっぽいとも言います。

 奥村くんは短髪なのにウィッグを被っていませんでした。しかもおまけかギャグのようにサイドテールの位置でボンボン付きのヘアゴムでくくっています。このあたりが奥村先生と対極に、いかにも女装してます! という隙を作り、スカーフのネクタイ結びや尻尾や背負った刀袋からも日常を感じて一番無難かもしれません。しかしソックスは黒のニーハイで、ゴツさをカモフラージュする隠し包丁のような技術が光ります。

 志摩さんはウィッグじゃなくてつけ毛なのか、おなじみになったピンク頭が短めのツインテールになっています。ベストやリボンに結んだスカーフ、そして何より仕草が女の子! 感を醸し出し何となく弓ちゃんを思い出させますが、そこまでやっているので逆に拭いきれない男感が漂っています。奥村くんに次ぐなんとなく形になっているので逆に面白い女装って感じです。あと白のニーハイ似合ってるのなんなんですか。

 坊はだめです、どう贔屓目に見ても男の女装です。でもそこが逆に可愛く見えてくるのでこれはあまり見ていると危険かもしれません。何や危ない扉開けそう。カチューシャやネックレスの小物は見覚えありますが、癖っ毛がなるべく真っ直ぐになるよう撫で付けられているのが新鮮です。とりあえずスカーフは恥ずかしがらずにリボンに結んだほうが首のゴツさ紛れて可愛かったと思いますえ! 白ニーハイもたぶん奥村先生と同じでタイツにしたほうが良かったと思います。それにカチューシャはまだしもネックレス男もんやし、いや女物の方が逆に首の太さが目立つでしょうか。ユニセックスなデザインは坊持ってはったやろか……てあかんホンマに危ない扉開けてまう。

 子猫さんは体格もあってかわいらしく仕上がっています。やっぱりスカーフはリボンに結んだほうがかわいいですって。奥村先生と同じくメガネですが、シャツをスカートに入れてベルトを見せているせいか、奥村先生の余裕の表情に対して困ったような表情のせいか、真面目だけど幼めな印象です。そして生まれたときから一緒ですけど、髪伸ばした子猫さんは初めて見た気がします。やっぱ子猫さんてかわええなあ。

「って鶯花お前何やっとるんやぁ!!」

 坊に写真を取っているのがバレました。うまいこと騒ぎに便乗してたんですけど。宝くんの撮影は諦め個室に飛び込み鍵を閉めます。

「柔造兄さん……」

 捜査撹乱のためそう呟いた途端、ばたばた足音がして個室のドアがバンバン叩かれます。

「!? 待って鶯花さん待って!? 俺確かにかわええけど柔兄はやめたって!? 絶対家の中、いや明陀で回覧板にされるやん! 金兄、てかお父、お父にバレたらやばいて!! なあ!」

「廉ちゃんかぁええねぇ」

「おんおおきにぃ、て(ちゃ)う!」

「あかんて鶯花さん流石にそれはなしや!! こんなん見られたら僕京都に帰れんくなってまう!!」

 流石に柔造兄さんに送るほど無体な真似はしませんとも。その代わり少し工作します。子猫さんも加わってバンバン扉が叩かれる音の後ろで、坊の地を這うほど低い声がしました。

「鶯花。やめえ」

「はい」

 おとなしく個室を出ました。もう工作は終わって、ケータイの画面は今は柔造兄さんあてのメールにおひさしぶりです、と打った所になっています。

「ケータイ貸せ」

「はい」

 渋々渡すと、まずは坊は打ちかけのメールを破棄し、送信フォルダも確認してから写真フォルダの写真もすべて削除しました。そして、SDのフォルダも開きます。

「あーっ、あかん! そっちはあきませんて!」

 腕を伸ばしますが、腕を上げられたら身長差で届きません。写真フォルダの女装写真をすべて削除されてから、ケータイが帰ってきます。

「坊ひどい……」

「どっちがや!」

「えろうかいらしいのに……」

「お前の目は節穴なんか? え? コラ」

 落ち込むふりをしてみせましたが、ふふ、結局勝ちました。

 実際の写真は全部自分宛てにメールで送信し、受信フォルダに生き残っているのです。送信フォルダからはちゃんと削除しました。

 ちなみに兄から受け取った私が坊をファイアーマンズキャリーしている写真なんかはSDの中でも『ミュージック』フォルダの『AD1858』フォルダに入っています。本来は写真の実際の避難場所もそちらにしたかったのですが、ダミーの方をケータイからSDへコピーした時に予想以上に処理時間がかかったため急遽メールに避難させたのです。

 嫌がる坊らには悪いですが、誰にも見せませんし許して欲しいところです。これで私、もっと山田くんの相手、頑張れそうですから。

「それよか坊、あての下着見えました?」

「……」

「ねえ坊」

「……間仕切り越しやったから全員は見てへんし、すぐに悪霊(イビルゴースト)の影になったからまじまじ見た奴もおらん」

「……」

 いや、嫁にはいかんので、もうお嫁にいけへん! とは言わないんですけど。でも。でも。はは、今日どんなパンツ履いとったっけ。見られてもええようなやつやったっけ。見せパンなん持っとらんのやけど。子猫さんが言います。

「……鶯花さん、放課後ぽんちゃん行く?」

「行かんでええから一緒に写真撮って……」

「……く!」




 すでに何度か出している結界の真言です。結界は名前の通り界を結ぶものなので、壁としての使用は被甲護身の方がいい、ということにしているのですが、今回は両手が塞がらないこっち、という感じです。マは孔雀明王の種子字で、夢主の家の本尊の設定です。唱えかけて阻まれていたのも孔雀明王の真言ですが、こっちは封印的な縛る感じの呪いのはずでした。
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