花に嵐   作:上枝あかり

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可愛い娘 5

 制服に着替え、ウエストポーチを腰に巻き、ブーツの紐をきつく締めました。

 夜道を御饌津(ミケツ)さんの指示で走り、ゆめタウン前の草陰に忍びます。暗がりに照らされたゆめタウンには一般人の人影はありませんが、緑地に赤の差し色が入った軍服風の服を着た人達がたくさん警備しています。これじゃ観光施設には見えません。

「イルミナティの制服だ。間違いないな」

 あれ、イルミナティの制服なんですか。白いズボンといい派手です。反社会秘密結社のくせに洒落とるな。

「見張りうじゃうじゃいるじゃん、どーするよ」

「入り口らしい入り口はあの正面からと……宮殿の上のヘリポートしかないぞ」

 上のヘリポートはまず無理でしょう。登る手段がありません。……ないですよね? クロも流石に無理ですよね? 無理と仮定して、やはり正面突破になるのでしょうか。まるで砦です。裏口一つないなんて完全に普通の建物ではありません。奥村先生が電話します。

「フェレス卿、イルミナティの地下研究所の入り口とおぼしき建物を発見しました。位置情報の詳細はメールしています。応援はどうなっています? ……神木さんはイルミナティの実験材料として拉致された可能性があります。こちらも一刻を争う状況です。……!?  ……!!」

 フェレス卿の声までは聞こえませんが、なんだか、不穏なような。

「大丈夫ですか……?」

 電話も切れてしまったようですし、嫌な予感しかしません。具体的には、応援を待たず突入しろ的な。

「出雲が危ない」

「え!?」

「……呼ばれている……。手助けもここ迄だ。急げ!」

 御饌津(ミケツ)さんが突然言いました。そして120万の人形が壊れます。危ないって、それこそ九尾を憑依させられようとしているとかでしょうか。しかしお狐さんを喚べるということは、一方的な状況ではないはずです。

「ミ……ミケさんどうしちゃったの……!」

「落ちつけ、人形(うつわ)から出ていっただけだ。神木出雲に召喚されたんだろう」

「召喚って……つまり今神木さんが戦うよな状態にあるゆーことですか?」

「でも逆に、戦える状況ではあるんですよね」

 既に拉致から20時間以上経過しています。それに出雲さんは妹さんを人質に取られているはず。戦える状態にあるというのは逆に喜ばしいかもしれません。しかし、狐神二体とともに居るといえ敵陣に一人。時間稼ぎにしかならないとも考えられるので、早く突入して手助けしないとまずいことには変わりありません。奥村先生が言います。

「……皆さん。応援が来ることを信じて正面入口から突入します。覚悟はいいですか?」

 怖くないと言えば嘘でしょう。だって私達まだ候補生(エクスワイア)で、対するは極悪非道の秘密結社の根城です。でも、行くしかないじゃないですか。中に、出雲さんがいるんですから。そもそもあの時、私が失敗していなかったら出雲さんは攫われていないのです。今度こそ、今度こそ守るとかいえませんけど、でも傷つけさせません。一緒に帰って、それで仲直りするんですから。廉造さんの元気な顔を一度見ないと、まともに眠れなさそうですし、行くしかありません。だから、覚悟はできています。

 まず、奥村くんとクロが見張りさんの前に出ていきました。続いて奥村先生と坊と宝くんも。武装した学生たちの姿に驚いた見張りさんを、奥村くんのサタンスラッシュや、クロのふみつぶし、奥村先生のたぶん非殺傷性の弾丸や坊のバズーカの砲身での殴打で片付けます。

「楽勝!」

「……つかひとつええか。サタンスラッシュ」

 坊は吹き出しました。うん、サタンスラッシュ。見た感じ剣を振って炎を飛ばす技のようでしたけど、サタンスラッシュ。詳細なコメントは控えますが、奥村くんサタンについて開き直りましたよね。

「ウルセーー! 今まで適当にやってた技に名前をつけたんだよシュラが! 型にハメた方が(ちから)使う時想像(イメージ)し易いだろってシュラが!!」

 そうなんですねー霧隠先生が戦犯なんですねー、うんうん。

「まぁ確かにお前でも覚えられそうやしな」

「あ? バカにしてる?」

「いやあ……、ほんま頼もしわぁ」

 自動ドアをくぐってゆめタウン内に入ると、そこは吹き抜けの広い空間。中にはお店がたくさんありますが、来てしまった人どころか店員さんすら居ません。なのに照明は煌々と輝き、何かテーマソングのようなものまでかかっています。

「ショッピングモール……!?」

「……さっきバスに乗ってた人達もほんまにここに居るんか? 敵どころか人っ子ひとりおらへん……」

「でも明るいし、曲までかかって……、まるで」

 言うのをやめました。しかし、坊が聞いてきます。

「何や」

「……まるで、歓迎でもされてるみたいや……って」

「そうかもしれねえ」

 奥村くんが、目の焦点をどこにも合わせずに言いました。

「なんか居る。油断すんな」

「何か感じるの?」

「ゾワゾワする」

 不気味さなら私も感じます。単に、人を迎える状態なのに人が居ないことに対してですが。奥村くんが感じる以上、やっぱり居るのは悪魔でしょうか。歓迎するんなら出雲さんと廉造さん出せや。……いや、廉造さんの顔見て、私、その後どうする気なんでしょう。

「全部飾り(フェイク)なんかもしれませんね」

「皆さん、冷静に。正面切って入った以上、敵は必ず現れます。なるべく離ればなれにならないように地下への入り口を探しましょう」

 お互いがすぐ見える程度に離れて探索します。やはり隠されていると考えていいでしょうから、バックヤードや物陰も調べないと。すぐに、奥村くんの声が上がりました。

「人だ!」

「え!?」

 奥村くんの元に行きます。その背中は見えますが、奥村くんの見ているものは見えません。しかし。

(グール)!」

 奥村先生の声。そして銃声。やっとそこで駆けつけると、そこには倒れた(グール)

「どうしたんです!? ……(グール)……!?」

「いえ。言葉を発したので、屍人(ゾンビ)の可能性が高い」

 ……それなら、ここのろくでもなさに、更に拍車がかかりますね。奥村くんは分かってないようで言います。

「? 屍人(ゾンビ)(グール)どう違うんだよ?」

「授業で習ったはずやぞ」

(グール)屍人(ゾンビ)は倒し方が少し違うんよ。稀に喋る個体がおるんが屍人(ゾンビ)の特徴で、ほんま簡単に説明すると、(グール)は比較的倒しやすくて、屍人(ゾンビ)は倒すんも扱うんも難しい」

 死体に近づいて、手を合わせて小さく念仏を唱えました。生前の宗教はわかりませんが、日本人なら葬式は仏式が多いはずです。こんな有様ではきっと身元特定や葬儀も遅れてしまうでしょう。成仏してくれますよう。子猫さんの説明を奥村先生が継ぎます。

「そもそも発生条件が違う。(グール)は人間の死体に憑依する()()なのに対して、屍人(ゾンビ)は悪魔に寄生されて肉体が壊死してしまった()()なんだ」

「人間……。じゃ、じゃあ、その寄生した悪魔を祓えば、助けられたんじゃないのか!?」

「ここまで肉体が壊死して人間性を取り戻せた例はない。即死させることがせめてもの救済だ」

 そのあたりは、安楽死とも重なって祓魔倫理でもよく争われているようです。しかし、この場合悪魔が本当に憑いているか怪しいものです。だって、この屍人(ゾンビ)はExperiment bodyの名札をしています。出雲さんはおそらく九尾を憑依させる為に攫われたのです。出雲さん、つまり神木の血筋以外でも憑依させられたら、向こうとしては助かるに決まってます。それに失敗して肉体が壊死してしまったなら、祓うべき悪魔もおらず、残されるのは人を襲う成れの果てです。死体を私と反対側から観察する子猫さんが言います。

「“Experiment body(実験体)”No.6411。一体何の実験体なんでしょう……」

「そりゃ、九尾の憑依じっけわあああ!?」

 死体が、動きました。動いて子猫さんを襲いました。すんでのところで奥村先生が銃撃で沈黙させます。いや、……え?

「……!? おかしい、脳幹は貫通していたはずなのに……」

「子猫丸大丈夫か?」

「あ、は、はい」

 カタカタ震える子猫さん。しかし、考える間も支える間もなくしえみちゃんの張った声が響きます。

「みんな!」

 振り返れば迫ってくるのは大量の屍人(ゾンビ)。体型は様々ですが、同じような有様です。

「い……いつの間にこんなに……!」

「お……奥村先生……!」

 今度は子猫さんの声。背後では奥村先生が今度こそ完全に仕留めた死体が、起き上がろうとしていました。そんな、そんな、だって、それは人間のはずなのに。人間が、脳幹を壊されて、動くはずは。

「どうなってる……!?」

 屍人(ゾンビ)が、にくとか言いながら襲い掛かってきました。喋る以上、これは屍人(ゾンビ)、つまり元人間です。しかし、生きた人間を見て肉と呼ぶのは既に、屍人(ゾンビ)です。でも、動くなんて。奥村先生が向かってきた屍人(ゾンビ)を撃ちます。

「囲まれる前に地下への入り口を見つけないと……急いで!」

 とりあえず走り出しました。そう、人間が、脳幹を破壊されて動くはずありません。つまりあれが再び動くのは、何か、別の悪魔の作用ではないでしょうか。すぐに(グール)が憑くとか、死体を操る悪魔とか。……いえ、あれは、再生しているように、見えました。そんな、不死鳥(フェニックス)じゃあるまいに。

 狭いところでは囲まれるので、入ってすぐの広場に向かいます。しかし見れば吹き抜けの上、二階にすら屍人(ゾンビ)の影。これ、ねえこれ全部、人だったんですよね。

「アカンもうどこも囲まれとる! 凄い数や……!」

「こっちもダメだ!」

「オン・キリキリ・バザラバジリ・ホラマンダマンダ・ウンハッタ!」

 広いところに出ても、囲まれる位の数でした。階段などに結界を張って屍人(ゾンビ)をブロックしますが、囲まれすぎてもはや私達を結界で守ったほうが速そうなくらいです。しかしそれでは地下に入れません。

「道を切り開くしかない」

「俺のバズーカで一発ブチかましたらどうやろか?」

「中途半端な火力攻撃は止めた方がええと思いますよ! 即死させられへんと逆に火達磨に襲われることになる。――奥村くんの(ちから)やったら即灰に出来るかもしれへんけど」

「俺は……」

「もう覚悟を決めて戦うしかない! 躊躇すれば()()()死ぬんだ!」

 複数の結界を張っていたので、集中していたはずですが、その音は聞こえました。何か巨大な機械の起動音。フッと足場が、消えました。

「!?」

 足元を見れば、床が開いて蟻地獄のようになっていて、私たちは落ちていきます。集中力が切れて遠くの結界一つが破られました。

「うわあああ!?」

 ゴンと後頭部を打って、そのまま四半回転して横っ面をこすって頭から落ちていきます。痛い痛い痛い!

「あた!」

「ぐわあっ」

「どうなっとるんやコレ!?」

 顔をあげると、蟻地獄の底には穴が。その先には真っ暗なパイプが。悲鳴をあげながらも手で体を止めようとしても手が擦り切れるだけで、私たちはそのパイプに飲み込まれました。




 反省どおり主人公が結界を自分たちを囲うのに使ったとしても、志摩くんと宝くんは退けられてもその後のイルミナティの人達、特に総帥には絶対勝てませんから、主人公がしっかりしていれば攫われなかったということはありません。しかし光の王のことを話でしか聞いていない彼女にはそのあたりを肌で感じることがなかったため失念しているようです。
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