二回目はよくないと思いながらも、騎士團の管理区域内に置いてきてしまった金剛杭を取りに行くために。三回目は、二回目の時に祓った
そして放課後。授業はもう始まるのに霧隠先生が来ないと思ったら、どうやら日本支部の
「えー、それでは、支部長メフィスト・フェレス卿から報告事項があります。フェレス卿! よろしくお願いします!」
中庭に、舞台のように一段高くなっているところがあるようです。そこに煙と破裂音とともにフェレス卿が現れたのが見えます。
「グーテンモルゲン! 呼ばれて飛び出たメフィスト・フェレスですっ。さっそく本題ですが――ここ二か月程前から世界規模で悪魔の活動が活発化していることは既知の事実でしょう。なにせ学園内ですら
「年明け早々!? あと一月半しかないじゃない!」
集会がざわつき、神木さんも遠いのをいいことに叫びました。今が11月中旬ですし、そういう計算になります。うわあ、これは私も
「そんなに人手不足なのか?」
「悪魔が活発化してるのって……、もしかしてイルミナティが関係してるのかな?」
なにせ、
「俺はノータッチやで!?」
向こうからの信頼もあやしい二重スパイですしね……。下では色々質問があったりするようですが、あまり色良い答えはなさそうです。遠くて質問の方は聞こえませんが、マイクを握ったフェレス卿の回答だけ聞こえます。
「それは最もな意見です。しかしご安心ください。実はヴァチカン本部より塾講師として強力な助っ人が来て下さっています。紹介しましょう! ルーイン……」
フェレス卿の声が途切れました。人混みがざわついて、何やら騒ぎが起こっているようです。
「アララ。――でも丁度よかった。軽く自己紹介してあげて下さいよ」
「!? 何だどーした?」
「
「え!? あれ……ライトニング!?」
なんだかよくわかりませんが、
「
「
日本では霊獣とされる、滅多に見られない悪魔でもあります。私も当然見たことありません。瑞兆とされるくらいですし。
「
絵で見たとおりの光る獣が現れ、ライトニングの「ドッカーン!」という気の抜けるような掛け声とともに、
「えー……、改めてご紹介します!
「彼から学ぶことは多いはず。塾生はよーーく学ぶように……!」
言われなくても学びますよ。塾講師として来てくれるなら、私は
「凄い」
「ほんまに凄いですね……。この後魔印の授業ですし、きっと早速聞けますよ!」
集会が終わったら、私たちは教室に戻りました。しかし教室は教室の違う塾生やもう資格を持った
「じゃあ早速授業を始めよう! これなーんだ!」
ライトニングはホワイトボードに、丸や三角など、ごくごく簡単な図形を書きました。
「はーい、じゃあ
「やめろよ!」
指名の仕方が仕方なので奥村くんは恥ずかしがっていますが、地位があるのに威張り散らさず、気さくで面白い授業かもしれません。ノートに図形を写します。
「えーーっと……プレスタのコントローラーのボタン?」
「惜しい! 答えはぼくが普段悪魔召喚などに使っている印章です」
「!? 全然惜しくねぇ」
奥村くんが答えたのはテレビゲームでした。話の流れ的にそれは流石にないんじゃないかな、と思いましたがやっぱりありませんでした。ノートに“簡略化した印章”と書き込みます。本当に簡単な図形ですが、
「
おお、それは確かに聞きたいです。
「まずは、悪魔と仲良くなろう! もしくは悪魔の権力者との
……。とりあえず、色ペンでノートに書き込みました。
誰かが、静かに後ろのドアを開けるのが判りました。そしてそこから、どんどん人が出ていって、なんだか熱気のあった教室の風通しが良くなっていきます。……悪魔と仲良くなろうったって、喚べん
「あれれ、あっという間に生徒が減っちゃった。冗談だったのに~。残念! あっ、授業も終わっちゃった」
「アイツまともに教える気あんのか!?」
「“まずは”の後が以下省略……」
……見た目が悪い事自体は別に、悪いことではありません。私だって肌の調子が悪い時はお化粧ドクターストップですし、そういう事情だってあります。この先生も小汚いですが、石鹸の類にアレルギーとかあるのかもしれません。
……いやないやろ! これは単に風呂とか問題なく入れるけどめんどくさい、見た目からわかるタイプの社会不適合者やろ! 憤った奥村くんが、今度は声を低くして言います。
「それに『
「それをお前が言うか」
「でもライトニングの言うことは真理よ。実際に
「上級
そうらしいのです。今の私は騎士團内でのキャリアにも興味ありますけど、お家の縁の悪魔は皆結界を張るとかの魔力行使はしてくれても使役はさせてくれません。体表をこれだけ覆う火傷をしておいて今元気なあたり、そっちに加護を使い果たして見放されてるんでしょうか。知りませんけど。
「いい悪魔もいるものね……。燐もニーちゃんもやさしいし!」
「いや、俺ハーフだからな! ニーちゃんとならべんなよ」
そして
「志摩さん、ひょっとしてなんやけど、皆、もうライトニングに会ったことある……?」
「あー、そうなんよ。俺が騎士團にとって信頼できるか見るために、ヴァチカンから人が来たってフェレス卿から聞いたやろ? その時来たのがあの人で、塾生みんないっぺん会っとる」
「あー、やっぱり。なんか妙やと思ったんよ。何や皆知っとる人みたいな話し方するなあて」
「せやで。……俺あの人に拷問とかチラつかせていじめられたし、あの人やばいで。鶯花さんも気ぃつけてな」
「それ志摩さん自業自得ちゃうん……」
色々社会不適合の臭いはしますが、実力は本物です。敬うところは敬わないと。
……って、思ってたんですけどね!!
「ええーー!! 坊が土下座で弟子入り!? ライトニングに!?」
「はぁ!?」
「まじで……」
翌日、奥村先生の悪魔薬学終了後、奥村くんが言い出したのはそんなことでした。た、確かに実力はすごい人ですが、その他の面がちょっと坊を預けたくないなーっていうか……。
「そーなんだよ、しかもあんな信用できねー奴に……!」
「――で、どう答えたん? ライトニングは」
「どうって、やだの一言だったよ。それでも勝呂が頼んだら、今度は俺の剣よこせば弟子にするとか言い出しやがって、勝呂の頼みなのに俺のもん寄越せとかもう意味わかんねーし、降魔剣にいろいろ試したいとかニヤついてたからありゃ完全に変態だったな……。片付け途中だったけど勝呂引きずって帰ってきた……ってワケで、この話はもう終わりだ! 皆もあいつには気をつけろ」
ひえ……マジのヤバイ人やないですか。そない人にうっとこの坊預けられへん……奥村くんありがとう……。しかし坊は。
「俺はまだ諦めてへん!」
「え!?」
「いやお前の剣には頼らん! ……でも俺は、どーしてもあの人に教わりたいんや……!」
ほんの少し顔を赤くする坊に、子猫さんが聞きます。
「坊……どーしてそこまで……」
「あの人……ライトニングは、能力も精神面でも今の俺に足らんもんを持っとる。……その、つまり、惚れたんや……!!」
「!!」
……。
宇宙が見える……。
地球を飛び越え、広大な太陽系、無辺な銀河系、あれに見えるはアンドロメダ銀河……。ビッグバンから生まれたこの宇宙はかくも複雑になりましたが大丈夫、生命宇宙そして万物に対しての究極の疑問の答えそれは42……。
「理屈ではうまく説明出来ひんけど……」
いや、わかってるんですよ。わかってるんですよ? これが恋愛とかじゃなくて、うまく説明できない強く求める気持ちを指す言葉だって。わかってますとも。でも、坊が誰かにそんな土下座で頼み込むなんて……。
「……そんな、坊が誰かに惚れはるやなんて、なんかショックや……! 坊はずっと僕らの親分みたいなもんやったのに……!」
「はぁ!?」
「し、しかもよりによってあんな不潔で変態のおっさん……。なんであてらの坊が土下座までして……」
「おま……」
「そ……、そーですよ。坊は生粋のボス猿気質でしょ? 下っ端なんて絶対ムリですって~!」
「!? お前らが俺をこうしたんやぞ!」
ちょっとしたパニックでした。子猫さんは目を見開いたまま何もない机上を見つめていますし、志摩さんは茶化した笑顔を作ろうとした努力だけは見える動揺した顔をしています。私ですか? 鼻水出てきました。
「いや、俺は小さい頃から上に祭り上げられて育った。正直、それ以外の事何も知らん。俺なりに人の下について頑張ってみたいんや……!」
言った坊の顔は決意が固く、また明るく未来を見据えた男前の顔でした。坊がこう言わはるなら、反対はできません。
「坊……本気なんですね……」
「そんなん俺達のボス猿やない!」
「泣くなよお前ら――勝呂はやっぱセージツな男だぜ……! 俺は応援するよ!」
「あ、あても応援しますから、無理は、ふぇ、無理はせんでください……ぐすん」
「あ゛ーー、おまえらちょっと黙っててくれへんか?」
泣き出した私と子猫さんを奥村くんが頭をなでて慰め、志摩さんは駄々をこねだし、奥村くんは目を輝かせています。なんだか引き続き酷い有様です。
私も本当はわかっています。騎士團でやっていく以上、坊がお寺以外の新たな目的を見つけたならそれはとても嬉しいです。……でも、なぜ、よりによってあの社会不適合感満々のライトニングに……。
その後まあ落ち着いて、帰ろうとしていたら、廊下でライトニングに呼び止められました。まだ部屋を片付けて欲しいと言うので坊が立候補し、私と奥村くんも坊を手伝うと言って、三人でライトニングの部屋に向かいます。引っ越し準備が片付かないのでしょうか。あんな風に儀式を簡略化できるなら、持ち物も少なさそうなのに、と思っていましたが。
「うわ汚な! 掃き溜めやん……」
「これでもきれいにしたんだぜ……」
引越荷物が片付かないなら、ダンボールがたくさんあると思うのですが、そもそもダンボールにすら荷物が入りきっていません。標本類や書籍が多そうですが、それでもよくわからない、かつ直感がこれは必要ないと囁く物もあります。それに、おそらくもらった部屋はきれいだったろうに既に土とかこぼれて汚れている部分まであります。……一つずつ片付けるしかないでしょう。坊が書籍類を整理し、私が標本などを整理し、奥村くんが空いたダンボールを畳んだり片付けた床を水拭きしたりします。ライトニングは発掘されたクッションを使って机の上に座って、何かタブレットPCをいじっています。正直片付けの戦力にはならないでしょうし、
「ライトニング、とりあえず本は全部入れました」
しばらくの後、坊が言いました。私も開けたダンボールの中身は片付けました。大方片付いて、最低限文化的な床面積は確保できていると思います。でもまだいくつかダンボールは残っていますし、本や標本の箱に入っていた扱いに困るものなんかは奥村くんとの相談の上床に放置してしまっています。
「いやー、すごい。ちゃんと用途分類別に並んでるし、ぼくの本棚とは思えないや。そんじゃ残りもテキトーに棚に突っ込んでよ」
「テキトーにて……。物が多すぎて収納足りませんよ」
「そうですよ。そもそも、何でこんな荷物あるんです? ヴァチカンに置いて来ればよかったんちゃいます? どうせ一月半しかおらんのですし、今からでもヴァチカンに送り返せんのですか? ていうか送り返しましょ? 残すのは二泊三日分くらいでええんやないですか、そのくらいが限界やろうしィ」
「だめだぞ鶯花、応援するって言ったじゃねーか」
口を挟むと、奥村くんに小声で咎められました。せやけどぉ……。……セヤケドもなにもないんですけどぉ……。坊は扱いに困るシリーズその一、銃器の山を指して言います。
「まあ送り返すのも手ではあるなあ。こないに仰山の武器どうしはるんです?」
「どうもしないけど。いいじゃん誰にも迷惑かけてないし」
今坊に迷惑かけとるやん……。
「なんかこーゆーのテレビのワイドショーで観たことある」
ゴミ屋敷つくるやつですね! ……なんか、私、この前だめな男に振り回される話に坊を重ねたような記憶あるんですけど、あれ、ひょっとして何かのお告げだったんでしょうか。あてが、あてが守りますからね……! そんな決意を固める私を横に奥村くんは危ない人の私物をひょいと持ち上げます。
「つーか奇妙なもんばっかあるな。なんだコレ」
すると、奥村くんが触っていた箱がひとりでに開き奥村くんを飲み込んでしまいました。え、えーー!?
「わーー!?」
そして箱は持っていた人がいなくなって落下し、坊の延髄あたりにクリティカルヒットしました。ア゛ーー! 坊の持っていた荷物も衝撃で取り落とされて散らばります。
「うわーっ! 閉じ込められたうわーーっっ!」
奥村くん入りの箱がぴょんぴょん跳ねます。どう収まってるかわかりませんがどうやら奥村くんは無事なようです。……というかこれ、
「あっ、それ懐かしいな、悪魔
「悪魔カルタ?」
「あれ、知らない?」
私も知りません。でも、床に散らばったそれは確かにカルタの絵札にも見えます。……絵の代わりに、魔法円のたぐいが書いてあるように見えますが。詠み札と書かれた箱もありました。
「魔法円や印章の描かれた“絵札”と、“絵札”と対になる召喚節が書かれた“詠み札”があって。まずは“絵札”をランダムに並べて、詠み手が詠み札を詠唱する。詠唱される召喚節と対になる魔法円“絵札”をなるべく早く正確に
「出してくれー」
「お手付きや詠唱が最後まで完了してしまうと悪魔が召喚されちゃうからね。
「そーなんですか」
「聞いてる!?」
「聞いてるけど出し方がわからへん……ごめんな、そこの保護責任者がなんとかしてくれる思うんやけど」
ライトニングの説明の合間に騒ぐ奥村くんに返事しましたが、何せ得体のしれないものですので持ち主に聞かないと少し怖いです。しかし、ライトニングは奥村くんの声も私の視線も無視です。
「勉強がてら遊んでみる?」
「……いえ、結構です。片付けに来たんで」
「その責任者が信用出来ねえよ……」
奥村くんの言うとおりです。ライトニングは動く素振りがなく、タブレットPCに向かったまま坊に言います。
「……片付けマジメにやっても、ぼかぁキミを弟子にはしないよ~?」
坊は黙ってしまいました。この人はしないといった以上しないでしょう。私としてはそれはそれで安心なのですが、でも坊がせっかく見つけた“何か”が無下にされるのも嫌なので、複雑です。
「でもホラ、そんなやり方より、てっとり早くいい方法があるじゃない?」
「!?」
「降魔剣。今なら取り放題」
「ほらやっぱり! まだ諦めてねーのか!」
奥村くんが箱の中から憤りました。ほんまこの先生根性ひんまがっとるな! 実力者が人格者というわけではない。確かに世界の真理ではあるのでしょうが。
「――あの剣は奥村の命みたいなモンです。冗談のネタにしていいモンやない」
「勝呂……」
「つまんないな~、ぼくがもし本気で弟子になりたかったらやるけどね」
「ふざけんな!」
ははは見ましたかライトニング。これが我らがボス猿の坊ですよ。誠実高潔くそ真面目の男前ですよ、どうです眩しいでしょう。ええ男でしょう。やらんで。
「……片付けます」
私も色々安全策取りながら奥村くん救出した方がいいでしょうか。しかし、坊が詠み札のケースを持ち上げた時、留め金が馬鹿になっていたのか、下になっていた蓋が開いて札が出てきてしまいました。あらら。そして坊が拾う間もなく、一枚の札がふわりと浮き上がります。
「!?」
「あーあ、“詠み札”のフタ開けちゃったのか。その悪魔
「え!?」
「昔々、強力な
「な……」
何でそんなもん後生大事に日本に輸入してるんですか!? 塾生と楽しく遊ぶつもりだったんですか!? せやったらぴかぴかの新品持ってきて下さいよ! とんだお化け屋敷やないのこの部屋!
「天よ地よ聞け、私の言葉は露のように降りしたたり……」
「一度解き放たれた“詠み札”はゲームが終わるまで詠唱し続ける。ほらほら、そうこうしてるうちに一枚目の詠唱が終わっちゃうよ」
「……ッ、くそ!」
これは申命記の32章ですから……と私が目で探したときにはもう坊は足で該当の札を叩いていました。流石です。
「おお~当たり。さっすが~!」
「感心しとらんでどうにかして下さい!」
「
「ノウマク・サンマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン……」
「……くッ」
今度は真言です。これならすぐわかります。
「
「奥村くん、剣とりあえずこっちで預かっとくな」
「お、サンキューな。あいつコエーしよ」
「まあこの剣、元はうちの本尊やけどね」
「ウッ! そーだった!」
「それにあてもどうやってこの剣に
「鶯花? な、何もしねえよな?」
「何もせんよ、友達の体やもん」
「
「……? そういえばこれ、何語? 英語か?」
「ラテン語だね」
「そんなんムリだろ!」
奥村くんの疑問にライトニングが答えました。そして、坊はしっかり足でカルタをとります。
「!? えっ、す……すげーーッ! やっぱし超カッケー勝呂!」
「ほんまにね!」
「へぇ~、第一言語以外も暗記してるのか」
私は学校の英語のほか、軽くですが仏典の渡ってきた中国語と、あとルーマニア語をほんのりやっていますが、坊は最近もっとたくさんの言語を、というより、たくさんの聖典やグリモアの類を原語で学んでいます。そうですカッケーのです。
「
ドイツ語でしょうか。一言目で弾きます。
「おおー! 今度はたった一言めで」
「確かに凄いね。床に散らばった絵札の配置もすでに記憶しちゃってるってことか。目も耳もいい子だな」
「坊は記憶力もええんですよ。二回も聞いたら覚えてまう」
PCを畳んで身を乗り出してきたライトニングに言いました。なんだかテンション上がって興味持ってるみたいですけど、やらんで。
「そういえば君って、冬隣鶯花さん? エリクサーの?」
「……そぉですけど」
やっぱり私、それで認識されてるんですね。あまり良い気分ではありません。愛想悪く答えます。
「そっかあ、君が。昨日は来てくれなかったよね。今日はどうして?」
「……変な先生に興味持った坊が心配でしたから」
ところで、ロシア語っぽい言葉とかも聞こえてくるのに坊は善戦しています。流石坊ですが、このカルタかなり上級者向けじゃないでしょうか。
「
今度は何語でしょうか。ついに坊の動きが止まりました。しかし動き出したかと思うと、銃器の山の方に向かいます。
「勝呂?」
「
わからないから
「う!? この懐かしい臭いは……!」
「こいつぁやばい。
ただでさえ汚いところに更に汚いものが召喚されてしまいました……。胞子が膨らんでいくその様は確かに不浄王を思い出します。不浄王と似ているなら、知能がないのがまだ幸いでしょうか。手出しするなと言われていたので、持っていた
「くらえ……!」
坊は銃を撃ちましたが、その銃口からは……機関銃の勢いでたくさんのひよこちゃんが飛び出してきました。う、うそぉ……。
「ぶわーっ、くっせ! 瘴気だ! おいライトニング……! いい加減どうにかしろよ!」
ライトニングは何か考えるようにあごに手をやっています。坊が慌てて持ち直した拳銃からはなんだか重い発射音とともにハートのふわふわが浮いていました。まだ、かかりそうです。私は今度は円にそれぞれ言葉を書き込み、しかし一番外のだけ完成させません。
「ライトニング……? ってうわ、誰か今持ち上げてる?」
「うん、あてが」
ライトニングは無視して、奥村くん入りの
「
少しの間の後、二重目と三重目の間に書いた名前につられて、
「結界か?」
「まあ、そんな感じ?」
ルーマニアで井上博士に借りた本で学んだやり方でした。
「いーれーて」
「すみません、定員ですわ」
「ここぼくの部屋……。それから」
「うわっ、濡れる!」
ライトニングは何をするかと思ったら、さっき奥村くんが変えていたばかりのバケツの水を、
「
言うとライトニングも円に入ってきて、狭いので
「ところで……せっかく安全圏つくったけど、出てみなくていいの? ぼかぁ気になるなあ。
「っ!」
私は、確かめもせずにここに座っていました。なぜなら、わざわざ出る必要がないから。……それは、もう危ない夜中に実験してしまったから。
「はあ!? お前何言ってんだよ! 別にわざわざ危ないことして確かめなくてもふつーは駄目だし、もし大丈夫ならそりゃラッキーってだけじゃん。おい鶯花大丈夫か? 追い出されてないか?」
「追い出されとらんよ奥村くん」
……まずいです。別に、確かめないということは奥村くんが言ったとおり別にそれはそれで不自然ではありません。しかし、私はさっき明らかに、“ボロが出た”という顔をしました。奥村くんは
「そっかぁ、まあ、そういう考え方もあるよね。さて、と」
ライトニングが立ち上がって、円から出ました。坊が今度握った小銃からは高笑いが出てきて、坊はついに「おいーーッ!」と突っ込んでいます。ライトニングは焦るわけでもなく
「召喚されている悪魔を消す場合は――魔法円を破壊すればいい。基本中の基本だよね」
坊はしまったという顔をしていますが、坊はこれを試験と思っていた以上そんな試験用紙を破くような真似は眼中になかったでしょう。それに――。
「そもそも“詠み札”に憑依した
ライトニングはさっきも使っていたライターで詠み札に火を着けました。詠み札は悲鳴とともに燃えていきます。――そもそも、片付けを頼まれていた坊には、先生の私物であるカルタの破壊はまず考えられません。カルタの破壊は持ち主であるライトニングだからこそとれる行動。それで坊を責められるのはちょっと、腹が立ちます。坊は崩れ落ちて両膝ついて、銃も取り落としました。目を瞑って、あれはこれじゃあ弟子になれないって顔です。
「……すみませんでした……」
「――よし。キミを弟子にしよう」
「は……」
こ、この展開で……?
「なっ、……ど、どうして……!」
「君はなかなかクソ几帳面で実直な男だし使えそうかな~と思って」
カルタを破壊しなかったのが坊の能力ではなく真面目さ由来と、思ってくれてるようで安心しました。……いえ、安心できません。この人が坊を使うんですか? 奥村くんを未だ
「ただし、塾や学校の時間以外はぼくの付き人をやってもらう。それと、教えるのは苦手だ。知りたいことはぼくから勝手に盗め。いいね?」
「は、はい!」
塾や学校以外って、坊の勉強とか諸々に費やしてる時間はどうなるんですかぁ……。学生の本分は勉強ですよ……。言いながらライトニングは
「じゃあ、まずは片付けの続きをやってもらおうか。さっきの瘴気で菌床になりそうなぼくの洗濯物の山洗濯して」
「はい!」
「菌床になりそういうかもうキノコ生えとるやないですか! 捨てましょ! 焼き払いましょ!?」
「鶯花落ちつけ」
奥村くんになだめられていると、坊は几帳面に洗濯物を分類しようとしはじめました。流石に素手では危ない領域になっているので、預かっていた剣を奥村くんに返してから、さっきの使い捨て手袋を渡し、むしったキノコを隔離するビニール袋も用意します。坊が仕分け後の洗濯物をダンボールに詰めて洗濯機を借りに行ったところで、おとなしく魔法円を掃除しにかかります。ライトニングが一番外の名前を足で消していたので、
「いたっ」
「えっ、怪我したの? 見せて見せて……
「!?」
「おお、ほんとに消えてる」
「お、奥村くんこの様子写真撮って……。ロリコンの罪で捕まえられるかも……」
「これじゃまだ無理じゃねえかなあ……」
そのうち坊が洗濯機から帰ってきて、するとライトニングは坊にハンバーガーを買いに行かせました。こ、こんなおっさんのパシリ……。そして、バーガーショップから帰ってきた坊の持った袋を受け取る前からライトニングは言います。
「ねえ塾の授業計画立てなきゃいけないのやってくれる?」
「……は……」
「そこは自分でやれや! 何で受ける授業の計画生徒が立てんねん!」
私が騒いでも坊も奥村くんももう止めません。坊はとりあえずハンバーガーをライトニングに渡します。すると、ライトニングが思い出したように言いました。
「ヒゲ剃って」
「!?」
「ついでにぼくも洗濯して」
たぶん、皆やろうとしたことは同じでした。でも、奥村くんが誰より早くライトニングを殴り飛ばしました。いや、その、追撃はよくない。追撃はよくないです。
「悪ィ……お前の師匠殴っちまったわ」
「いや助かったわ……弟子になって早々に俺がやるとこやった」
「このやろー! 坊に変なことさせたらただでおかんからな!!」
そして、落ち着いてから奥村くんと一緒に教務室を出ます。坊は少なくとも、洗濯物をどうにかしないと帰れないようです。不安ではありますが、坊も子供じゃありませんし、悪魔に恋愛してるみたいな言い草のライトニングは坊を振り回しても坊に積極的に危害を加えることもないでしょう。坊と奥村くんは上腕同士をぶつけて言いました。
「よかったな、勝呂。頑張れ!」
「おう!」
「あてからも。ほんっま相手については言いたいこと山のようにありますけど、坊がお寺以外の目標見つけはって、よかった」
そう笑って言うと、坊は私の肩に片手を置いて言いました。
「おおきに。……ライトニングの弟子にはなるけど、俺がお前の面倒みるんには変わりないからな」
「はい」
頷きました。そういえば、散々ライトニングにはやらないとか思っていましたが、そこを疑ったことはありませんでした。が。
「フタマタオトコ……」
「ウワキダンナ……」
「な、な!?」
隣の奥村くんと、いつの間にか坊の後ろにいたライトニングが言いました。坊が顔を赤くして二人を見ます。ひっどい言い草ですね。
「いやだって、今のカンペキそーゆーのの言い方だったじゃん。ほら鶯花、言ってやれよ
「奥村くん、坊困ってはるからこの辺で……」
「出来たお嫁さんだねぇ」
フォローに回りますがライトニングがかぶせてきます。だったら。
「……あてが嫁さんやったら子猫さんも嫁さんやな。志摩さんはお妾さん。奥村くん何がええ?」
「友達」
「茶化すのやめえ! いや、真面目な話、お前のためやったらいくらでも時間作るから、何やあったら言うんやで。お前最近、顔色悪いし……」
「いいえ、大丈夫ですよ。そりゃ、とっても元気ってわけにはいきませんけど」
「息抜きにどっか行きたいとか、何か食いたいでもええぞ」
「はぁい。でも、坊が楽しそうなのがあてには一番ですから」
そして、また明日と別れます。でもその前に、何かライトニングにも挨拶しなくちゃいけないでしょう。目上の人ですし、坊の師匠ですし。でも口が裂けても坊を頼みます、とは言えなくて。何か言わなくては、ええとええと、ちょうどいい言葉。
「つ」
「つ?」
「月夜の晩ばかりと思うなよーーッ!」
7月時点で半年後だったり、10月あたり?で3ヶ月後である以上元から祓魔師試験は1月のはずなんですよね。
究極の答えが42とか言ってるのはダグラス・アダムスの『銀河ヒッチハイク・ガイド』ネタです。
ヒンディー語については一部怪しいものの、単行本の表記をGoogle翻訳のデーヴァナーガリー(ヒンディー語の文字)用ソフトキーボードで頑張りました。単行本のヒンディー語はどうやら一部ルビと合わないのですが、原典が見つけられなかったので原作そのままです。