色々不安はありましたが、塾をやめはった朴さん以外の同期みんなで
二回目の任務は遊園地での
まあ、そんなことは置いておいて。今日は備品庫の整理の任務です。杜山さんと、引率の下級
薬は私が飲んでいるものとは違いますが、今のところうまく効いてくれています。そして倉庫内で搬入されている備品が全てあるということをチェックした後、今度は台車で運ぶことになりました。ただこれが難題で、台車を転がすことから鍵が使えないというのです。この学園はフェレス卿によって結界や罠が張り巡らされていて、鍵を使わなくてはまともには行けない場所も多いとのことなので、ただでさえ広い学園内を面倒なルートから上下しなくてはいけないようです。空はおりしも夕立のきそうな湿気った空気。雨に振られないことだけ祈って台車を転がし学園内を右往左往します。いえ、迷っているわけではなく、本当に文字通り右往左往なのです。まっすぐの道をわざわざ柱の間をじぐざぐに通って行かないとたどり着けない部署、すぐそこに見えるのにその場で三回回ってワンと言わなければ行けない倉庫、備え付けの鏡に手持ちの鏡で合わせ鏡を作らなければ現れないドア。魔法みたいと感心する場面もあれば絶対悪ふざけやんとキレたくなるしかけまで。こんな面倒な手段でもたどり着けるのはまだいい方で、杜山さんのお家の祓魔屋さんは物理的には近づけないと
緊張した
「ちょっと待って下さいね!」
杜山さんが言いました。
「ニーちゃん、コロロさんを出せる?」
杜山さんの支給されたという高校の制服のポケットから、例の
「
「杜山さんの使い魔です。この子のおかげであてら
「うん!」
「それにしても面白いなあ。ニーちゃんって杜山さんのつけた愛称をちゃんとわかっとるんやねぇ」
「うん。本当は覚えなおそうとしてるんだけど、ニーちゃんはわかってくれるからつい甘えちゃって……」
杜山さんは軽く赤面しました。耳も赤くなっていますが、どうやら杜山さんは赤面症の気があるようです。
「そもそも、ニーちゃんは日本語わかっとるんやろか」
「え?」
「ニーちゃん、言葉話せんやん? それは下級悪魔やからや思とったんやけど、ほんまは日本語はわかってなくて、杜山さんの思考を読んどるだけなのかもせんなあって。そしたら、杜山さんがどんな名前で呼んでも何の植物を出したいのかはわかるやん」
「ああ、なるほど! 考えてもみなかったや……、悪魔学の先生に聞いたら、わかるかな? 私、よく考えたらニーちゃんのこと何にも知らないや。植物が出せるのだって、サンチョさんがいればって言ってたらニーちゃんが出してくれたから初めて知ったんだし。ニーちゃんのこと、もっと知りたいなあ」
「あの! ふたりとも、次の角右ね。目的地は左なんだけど、ここは右に曲がります! その後、ものすごぉく長いあいだ歩き続けるけど、ふたりとも大丈夫?」
「大丈夫です」
「はあ、でもええなあ、仲ええ使い魔て。お寺の姉さん方に
「ニーちゃんはいい悪魔だから……。あっ、神木さんのお稲荷さんももちろんいい悪魔だけど、プライドが高いから、仲良くって感じじゃないよね」
「おん、あての知っとる悪魔はどっちかゆうとああいう感じやから、なんや無い物ねだりやわ」
兄の召喚する悪魔もどちらかというとビジネスライクな感じで、なにもないときにも呼び出すというタイプではありませんでした。廉造さんは志摩家の本尊を継いでいますが、あれも何やら大変なようですし。
「知ってる悪魔? お寺には他の悪魔もいたの?」
「あー、あては
「どんな悪魔さんなの?」
「んーとな、さっき言うとった
兄ならそれなりにこなせる上に、宝生にあるうちの本尊を喚べる太刀も同じくまともに使われているので、坊のそばに居るという理由だけで渡されたそれは少しコンプレックスを刺激します。
「お家にはいろんな事情があるんだねえ……」
「あて杜山さんのお家も気になるえ? 祓魔用品店なんやろ? やっぱりいろんな道具に触れて育ってきたん?」
「ううん、商売道具だからそんなに触ってないよ……、あ、でも、薬草とか植物には囲まれてたかな。お店には出なかったから、名前は自分でつけちゃってたんだけど……」
「へえ、薬草に。祓魔屋さんにはもう干して生薬になったやつばっかあるんやないの?」
「うん、生薬が多いけど、うちのお庭で色々育ててたから。いっぱいあるんだよ。正十字の学園祭に卸してるお花はうちのだし!」
「すごいなあ、卸すくらいあるてもうそれお花屋さんやん。そっちは手伝ってはったん?」
「うん。おばあちゃんが色々教えてくれて。だからお庭とお花については私もちょっと自信あるんだ」
「ええなあ、杜山さん薬草の知識すごいし、実用的なのにかわええやん」
「そ、そんなことないよ……、あのね、ところで……」
「おん」
「さっきから、ずっと同じところを歩いてるよね……?」
「せやねぇ……」
そう。さっきから、同じ景色のところをずっと歩いています。両脇に洋風のおしゃれな街灯が並ぶ道を歩き続け、前を見ても地平線まで同じ街灯ばかりですが、後ろにはだいぶ前に曲がった角がすぐそこにあるのです。
「あのね、ここは空間を合わせ鏡みたいに繋いであるからどこまで行ってもこの街灯の道なの。でも、132本めの左の街灯の横を入ると、正しい道に行けるから大丈夫」
「そうなんですか。なんやほんまに物語みたいですねえ」
「今109本目だから、もうちょっと歩くよ」
「はい!」
杜山さんが元気なお返事をしてまた歩き出しました。雨はもう土砂降りで、杜山さんの傘がなければきっと戻ることを提案していたくらいでしょう。跳ね返りでタイツは随分濡れてしまいました。足元が冷えてきたせいか痛みが薬の下から這い出してきたように頭蓋を叩きます。私のお薬より坊のお薬のほうが大分強いはずですが、効果時間は変わらないのでしょうか。
「はい、132本め。ここです!」
ものすごい風が正面から襲ってきました。今まで経験したことのない、暴風警報よりも強いのではないかというくらいの風です。傘代わりの
「……え?」
「きゃああ、大変! ニーちゃん、コロロさんをもう一回出せる? そうだ、シ……ちがう、習ったよね、ええと、弟切草! ニーちゃん弟切草も出して!」
幸い、先頭の私だけで被害は収まったようなのですが、
「冬隣さん、腕見せて!」
「い、いや大丈夫やから、ちゃんと受け身とった」
「だめ! 打ち身も放っとくと、大変なんだよ!」
「ほんまになんともないって!」
嘘です。そこまで俊敏ではないので、本当は打って熱も持っています。ガツンという音もしていました。実際しびれたような腕を動かすと、変なところに響いて痛みがあります。しかし患部を見せるというのは火傷痕も見せるということです。夏服の時期にわざわざ制服の下に長袖を着込んでいる理由を、杜山さんは知りません。杜山さんは、私が腕を動かして痛がった顔を見て、私のシャツの袖口に手をかけました。
「肘を打ってたでしょ? 脱がなくていいから、ちょっと捲って!」
「杜山さん! ええって言っとるの!!」
杜山さんの手を、強く振り払ってしまいました。私の怒鳴り声が、無限に続く道に響きました。雨音は強かったのに、私の拒絶を隠してはくれませんでした。杜山さんは、傷ついたような、傷つけたような顔をして、うつむきます。
「冬隣さん、杜山さん、ごめんね。私の数え間違いだったみたい。今のはトラップだと思う。でもトラップがあるってことは、この近くのはずだから、わたしが確かめます。その、ふたりとも、ほんとうに、ごめんね……」
「冬隣さん、これ、弟切草。絞り汁を、患部につけてね」
「おん、ありがとぉ」
受け取って、ポケットの中に包みを入れます。雨はいっそ水の中に突き落としてくれたほうが楽なくらいに降りしきり、止む様子はありませんでした。寒くて、風邪を引きそうでした。
宝生の本尊=軍荼利明王は蛇召喚の真言からの推測です。志摩家が錫杖飛ばす時に唱えてるのが大威徳明王(=ヤマンタカくん)の真言だったので、その法則で言えば軍荼利明王の真言を使う彼女らのお家は軍荼利明王が本尊であろうと。元は夢主の家の本尊が軍荼利明王の予定でしたが、よくよく情報整理していたらそうなったのでこんな設定に。
弟切草の絞り汁は一応打ち身に効くそうです。