金剛深山は明るく見えました。夜空を赤く照らすのはドラム缶の火。周りに
なぜ、居所がバレたか。ずっと隠れ家に居た
それから
普通の
危惧していたのは封印係でした。私は今も孔雀明王など仏教系悪魔の魔力行使メインで結界を張っていますが、悪魔憑きがそれをするのは、辻褄が怪しくなります。詠唱の方はベールの下であればベールに誤魔化してもらえると聞いているのですが、結界を破れる、つまり調べられる人間に結界を見られればバレます。
不安ではありますが時間ももったいないですし、とりあえず自分の体を調べようとしたときでした。影に引っ張られて、グンと体が反ります。さっきまで頭のあったところに見えるのは、夜闇の中でなお光る黒い炎。ああもう、いないはずなかった!
上体をひっくり返るくらい反らして、そのまま気配を消すのが得意なスパイの腰を両手で掴むと、逆立ちするみたいに足を振り上げます。私は逆立ちできませんが、影が体を持ち上げて、膝を志摩さんの肩に当てて体重をかけて倒します。唐突でありえない動きにそのまま仰向けに倒れた志摩さんの手を踏んづけて錫杖を奪うと、錫杖の先の黒い炎は消えました。周囲に視線を走らせながら空けた利き手では杭を持って。
別に感覚はオマケしてもらってません。だけどここでは、見つけないと命取りになる。第一目標は奥村くんで、その性格と作戦上の役割からして。
「その心には悪がある――」
聞こえ始めた詠唱の後ろ、護衛と奇襲の立ち位置!
力一杯杭を投げました。日頃なら届くはずありませんが、影で今なら腕力がある。着弾を観測する余裕はありません。そのまま信じて悪魔の動きを封じる真言を唱えます。
「燐!」
そこで気づいて下を見ました。ベール越しなら言葉は誤魔化される。でも私今志摩さんの上に居て、きっと志摩さんはベールの下に居る!
しかしいつの間にか、私は肩から振袖を掛けていました。きっと落としたと思ってたのに、いつの間にか戻ってくるのは
奥村くんの方を向いたそのまま、袖からふるい落として出した金剛杭でまずは坊の喉元に狙いをつけます。
「マ!
いつかの
喉を押さえて屈んだ坊の次、一緒に悪魔を落とすための詠唱していた子猫さんを狙おうとしたら、腕がぐん、とブレました。かすめてく銃弾、耳に遅れて飛び込む銃声。そして襲いかかってくる
慌てないで、慌てないで!
「マ!」
ブレなかった腕の集中で子猫さんの喉を狙えました。坊の後ろだとか、とにかくどこかに隠れられたら困りましたが、子猫さんはそうしません。
即席の結界が二発目の弾で割れたのをいいことに、志摩さんの体を縛る
――ころしちゃいかねません。
一瞬よぎった思考の、まるで、悪い風邪の時に飲んだシロップ薬みたいな、どろっと物騒な味に、固まることのできる余裕はありませんでした。なんで追われたのか調べないと。肩で息をしたくなるのを堪えます。こんなにたくさん結界を張って、無理をしすぎです。頭がぐらぐらします。握ったままの錫杖を杖代わりにして、やっと余裕みたいな姿勢ができる。
ええと、制服にはさっき杭を仕込んだから調べたようなものです。振袖に何かあれば振袖がわかるはずです。だから調べるのは、ベールの花飾り。
「ピギッ」
花に手を突っ込んだら、追われるように、鉛筆ほどの太さの蛇が地面に落ちました。
「迷子蛇……!」
「蝮ねえさま、やろなぁ……。気づかんかった。流石やあねさま」
私も気を遣っていましたし、振袖だって気づいていなかったようですし。何が牙が抜けた、や。普通に現役やんあの人。
この
足が勝手に跳ねました。再びの銃声。
奥村先生としえみちゃんの結界が崩れていました。しえみちゃんのニーちゃんの体から木が生えて、それが結界を破ったようでした。なぜ、って、ああ、あれは
「なんていうんやっけ、こういうの」
独り言のように言います。ええと、頼りになる、じゃなくて。
「ああ、小賢しい!」
奥村先生の銃撃は私の足元ばかりを狙って、私はまるで童話の悪い女みたいに飛び跳ねつづける羽目になっています。私が足元に逃げ込むことや攻撃を避けることが既に向こうもわかっていて、その対策でしょう。
逃げるためには奥村先生を無力化する必要があって、その為には結界を張り直さなくちゃならなくて、それにはしえみちゃんの
「せんせい、ひょっとして、今のわたし、強いんと違いますか。よろしいですね。思い通りに出来るって、とってもよろしい。全部、どうにかできます」
奥村先生はなんにも言ったりしませんでした。むしろ銃撃が激化した気すらします。二丁拳銃でリロードすら早いのは流石天才
「待って!!」
しえみちゃんが大声を上げました。手元で魔法円の描かれた紙が破かれて、ニーちゃんはしえみちゃんの方を不思議そうに見ながら消えます。それですぐに結界を破る手段はなくなって、でもこれ以上ここにいられません。しえみちゃんは叫びます。
「鶯花ちゃんは、こんなことがしたいんじゃないよね! こんな、こんなふうに、みんなを傷つけたいんじゃないよね!!」
しえみちゃんの言葉に集中していなかったのは、それこそ窒息死させる恐怖からだったでしょう。後ろの奥村先生が銃撃をやめて何か呟いてて。あれは、何?
あたりに印章が光り出しました。影に逃げ込みます。見上げた頭上に水の塊が見えて、私はそれより、しえみちゃんの言葉に答えなくていいことに安堵しました。
例によってだいたい捏造です。オリ主側の作戦というか優先順位は、炎で結界を破れそうな奥村兄・志摩→詠唱が(効かないとバレると)まずい勝呂・三輪→靈に強い(はずなのに効かないのがバレるとまずい)神木って感じでした。故に奥村弟・杜山を後回しにしたわけですが、塾生側もそれはわかっていた感じです。特に神木がわざわざ前に出てきたのは杜山が結界を破るのから夢主の注意をそらすためです。トドメは雨も降っていることですし奥村先生の水精の水牢ですが、このあたりの作戦はややしえみちゃんとの間で食い違いがあった感があります。……なかったら負けた!少女地獄編完ッ!でした。夢主の煽りが若干効いたと言うか、この頃の奥村先生と言うか。