フリーナ、お茶会しないか?   作:クソザコぎつね

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フォカロルス周りの設定は分かりにくいので最後に纏めます。


フリーナ、昔話をしないか?

 

 

「おや、誰かと思えば犯罪者じゃないか?」

 

「言ってくれるね。私もあそこでしくじると思わなかったんだよ」

 

多分苦笑いを浮かべているであろうジャネットを前に、フリーナ・ドゥ・フォンテーヌはニタニタ笑っていた。何を隠そうこの不審者、前回のお茶会終了時にメリュジーヌから一部始終を見られてしまったのだ。お陰でマレショーセ・ファントムが不法侵入の罪で血眼になって探している。ジャネットの事だしヌヴィレットが出てこない限り捕まりはしないだろう。数十年おきに宝盗団が無惨な姿で他者の痕跡なく発見されるが、それは大体彼女の仕業である。

 

「キミが追われる身になるなんて、あの日以来じゃないかい?」

 

「あの日……就任した時の事か」

 

それに頷き、400年前の夜を思い出す。

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「フォカロルス?」

 

ベッドでうとうとしていた時、その声は聞こえてきた。半分閉じた瞼から部屋を見ると黒い人影が立っている。

怖い。幽霊だろうか?それとも僕を狙いに来た暗殺者?今すぐにでも飛び起きてこの部屋から出なければと思うが、指1本動かせない。瞼を完全に閉じ、これが夢ではないかと考えるが荒い自分の呼吸音がそれを否定する。

 

「フォカロルス?」

 

ギャリギャリと足の音が近づいてくる。それに比例して自分の恐怖の度合いも段々上がってくる。毛布を握り、冷や汗で不快になってくる頃には、音の位置からして既にその影は枕元に立っていた。

布を擦るような音が聞こえ、人影がしゃがんだであろう事が分かる。もしかして僕の顔を覗き込んでいるんじゃないだろうか?溢れそうな涙を瞼の裏にしっかりと留め、時間を長く過ごす。

体感で10分経った頃だろうか、何かで頬を突っつかれる。反射で思わず目を開けてしまった。

 

「良かった、生きてる」

 

目の前にあったのは仮面だった。それに驚き、ベッドから飛び上がった後直ぐに距離を取る。手に持った毛布で精一杯のガードをするが、多分意味ないだろう。

 

「なぜ驚くんだ?」

 

ベッドに乗り上げ、四足の姿勢でこちらへと近づいて来る人影。月明かりに照らされたその姿は、華奢な人の形をしていながらも何処か猛々しい。

こちらを見定める視線を感じながらも、なんとか平静を保とうとこちらも睨み返す。熱いものが頬に流れていくが、拭おうとする手も動かない。

 

「……ん?」

 

鼻がつきそうな距離まで来ると、仮面に自分の顔が反射しているのが見えた。酷く怯え、震えている表情が伺える。そんなことお構い無しとばかりにその人影はこちらの瞳をジッと見つめてくる。

ああ、ダメだ。就任初日なのにこんな醜態を晒すなんて。やっぱり僕には神を演じるなんて無理だったんだろうか?目を逸らしたくなるが、動いていいのか分からずその場に留まってしまう。まるで蛇に睨まれたカエルだ。

 

(お願い……殺さないで)

 

人影が今度は僕の胸に顔をうずめてきた。謎の行動に脳が理解不能のエラーを連発する。さっきまでの恐怖も消え去り、不思議という気持ちで頭がいっぱいになる。耳をすましてみれば、その人影は匂いを嗅いでるみたいだった。

その行動はとても人間じゃない。犬や猫は安心する為に飼い主の匂いを嗅ぐときこちらへ顔を近づけたりするという。目の前の仮面をつけた人影にはそれが重なって写った。人影の格好を見るとさっきまでの猛々しさは無く……いや、あるにはある。最も、それはライオン等に近い。人間には無いものだ。

 

「ん……んふ」

 

明らかに甘えてるなこれ。

 

「そ……その……」

 

「まだ」

 

「うぅ……」

 

誰か助けてくれ、その仮面硬いからちょっと痛いんだよ。頭が動く度、跳ねた黒髪からふわっといい匂いがしてくる。振る舞いから野性的な匂いを予想したが、意外だ。

だがそれよりも違和感。この匂いは僕の常用のシャンプーと同じだ。それに加えて僕は今この人物?に嫌悪感を感じない。それどころか親しみを感じている、であるなら赤の他人

ではないのか。

 

「フォカロルス、泣かないで」

 

今度は顔に頬擦りをしてきた。慰めようとしているのか、さっきよりも優しい力で目元の辺りをグイグイと来る。思ったより痛くは無いがヒンヤリとした仮面がそっと頬の体温を奪っていく。

頭が冷やされてくると、その変な格好が目に入ってくる。少し短めのコートに、シャツとパンツ。そこまではありふれたものだが、何処を見ても露出が一切ない。手なんかがいい例だ。無骨なグローブをはめた手は僕の後頭部に回され、より一層距離を縮めてくる。

その手袋にはどこか既視感を感じた。

 

「大丈夫だから……一回離れてくれないかい?」

 

「分かった」

 

少し抑揚の無い声で返事すると、それは名残惜しそうにしながら僕を引き剥がしてくれた。ちょこんとベッドに座るその姿にまた既視感を感じる。

 

「で……誰だいキミは?」

 

「ジャネットだよ。忘れてしまったの?」

 

先程までとは打って変わって、今度は人間らしい口調で答えてきた。あの猫みたいな仕草はなんだったのだろうか、益々謎だ。

だがジャネットという名前には引っ掛かりがある。僕の曖昧な記憶の内にそんな名前の人物が含まれていた気がする。言われて初めてその存在に気づいた。

 

「……ぼんやりとだけど覚えてる気がする。まずキミは何故ここに来たんだ?」

 

恐らく目の前の人物は敵では無い筈だ。記憶は僕に警鐘を鳴らしてはいない。ということはつまり信頼がある程度置け、親しい仲にあるという事だろう。

だがある程度怪しむ必要がある、僕が人間であるとバレてはならないからだ。

 

「遊びに来る以外なにか他に有るかい?」

 

「遊びに?」

 

なんだその理由。一応ここパレ・メルモニアの最上階なんだけど。

 

「私達は友人なんだ、それくらい普通だろ?」

 

「友人……」

 

またひとつ靄が晴れ、目の前の彼女が鮮明に見えてくる。友人という言葉はどこかしっくりくる響きだ。

 

「じゃあ、これを見せれば思い出すかもしれないね」

 

彼女は自分のグローブに手をかけ、じっくりと外していく。手首の辺りからだろうか、白い色をした肌にグラデーションがかかっており、先になるにつれてワインのような深紅があらわになっていく。しかもただの手では無く、触れれば血が出そうな程鋭い爪に、淡い光で鈍く光る鱗、隙間から覗く爛れた肌。

明らかに人では無い。だがその異形を見たところで不思議と驚きはしなかった。

常人ならざる身体、覚えている限りたった1人の友人、ジャネットという名前。

 

「ああ……思い出した。久しぶりだねジャネット」

 

「!」

 

即座にグローブを嵌め直すと、一瞬で彼女は僕の身体を抱きしめてきた。

若干不器用ながらも割れ物を扱うような力の強さ。間違いない、彼女はジャネット本人だ。何故今まで忘れていたんだろうか?

 

「ごめんよ、友人はキミだけだというのに」

 

「構わないよ、フォカロルス。思い出してくれただけで充分だ」

 

先程までの失礼を笑って返してくれた事に深く感謝し、ゆっくりと彼女を引き剥がす。

 

「それと……今の僕はフリーナだ」

 

「フリーナか。それもいい名前だね」

 

別に魔神名でもいいけど、折角だから僕の名前で呼んで欲しかった。その方が自分でいられる気がする。

積もる話はいくつもあったが、そろそろ瞼が重くなってきた。時刻も深夜へと向かっている。

 

「来てもらって悪いんだけど、僕は疲れたから。寝させてくれるかい?」

 

ベッドに横になると、彼女もポスンと音を立てて添い寝の姿勢になった。

 

「なら一緒に寝よう。明日は空いてるだろ?」

 

「残念ながら無理だね。仕事があるから、強いて言うなら2日後かな。それと他の人に見られたら困るから一緒には寝られないし、遊びにも行けないよ」

 

答えると彼女は分かりやすく俯いてしまった。そんなに遊びたいのか。

 

「お茶会くらいなら大丈夫だよ」

 

少し微笑みながら言ってやると、露骨に元気を取り戻したらしく。こちらを見つめ、手を握ってきた。

その手はグローブ越しにでも暖かく、肌寒いこの夜には少しありがたかった。

 

「分かった。約束だぞ?」

 

「もちろん」

 

こっちから握り返した後、彼女は部屋から出ようとドアノブに手を掛け振り向いた。

 

「おやすみ、フリーナ」

 

「ああ……おやすみジャネット」

 

音を立てずに彼女が部屋から居なくなったのを確認し、毛布を頭から被り情報を整理する。

鏡の中の僕は誰にも知られてはいけないと言ったけどジャネットにも当てはまるんだろうか?違和感なく神として振る舞うにはどうしたら良いだろうか。彼女相手に今日民の前で言ったような言い回しは効かないと判明した為、必然的に素である自分が必要になるだろう。

色々考え込んでいると、廊下の方から物音と守衛達の声が聞こえてくる。なにかトラブルでもあったんだろうか?

その原因がジャネットによる不法侵入であると分かったのは、翌日の朝だった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「あの日に比べたらキミは随分と愉快な性格になったと感じるよ」

 

「んふふ、お褒めの言葉ありがとう」

 

大体50年位経つと、彼女の性格や口調は変化していった。思ったより意地悪な方向に行ってしまったがベースはそのままなのでそこは信頼している。永く生きる時の中で民の成長も数え切れない程見てきた筈だが、やはり感慨深いものがあるな。変化するというのは人間の素晴らしい部分の一つだ。まさに可能性そのものと言ってもいい。それを見届けて来れたのは、今の生活になってからの数少ない喜びだった。……でも別れはいつも辛いよ。

400年という時間に少しの感謝と哀しみを感じながら、フリーナは目の前の友人へ微笑みかけた。

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