フリーナ、お茶会しないか?   作:クソザコぎつね

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フリーナ、傍に居させてくれないか?

 

 

「フリーナ?」

 

「ジャネット……」

 

滲んだ視界に黒い人影がポツンと立っている中、フリーナ・ドゥ・フォンテーヌはベッドで一人すすり泣いていた。

 

「すまないが1人にしてくれ……」

 

「断る」

 

切り捨てる様に言うと彼女はこちらへ近づいて来た。目を逸らし、少しでもいいから僕の表情が見えないようにする。

 

「今の君には誰かが必要だ」

 

「要らないよ、僕は1人で充分だ」

 

枕に顔を埋めて彼女の言葉を否定するが、自分の発言に納得が出来ない。

 

「嘘なんかつかないでくれ」

 

「本当だから、もう、いいんだ」

 

ベッドに腰をかけると、彼女はこちらを見つめてくる。仮面越しでもその視線は鋭く、心を覗き見ようとしているみたいだ。

 

「フリーナ……」

 

こちらに手を伸ばそうとしてきたので反射的に払ってしまった。その事に対する嫌悪感で益々重くなっていく。

多分今彼女に触れられたら壊れてしまうだろう。

数分経つと、彼女はごそごそと物音を出し枕元のサイドテーブルに何かを置いた。視線をやると、白いマグカップが手を伸ばせば届きそうな位置に置かれていた。そのカップは茶色の液体で満たされている。

 

「もう少し近くに寄っても?」

 

深くゆっくりと俯くと、彼女は僕の真横に来た。先ほどまでとは違い、僕の方は見ていない。

まだ了承していない、でも拒否しようとも思えなかった。

 

「ありがとう」

 

彼女の何気ない感謝が粉砂糖みたいに降りかかる。

 

「前言っただろ?予言の事には一切興味が無いって。でもね、君が食い止めようと毎日奔走していた事だけは知ってるよ。わざわざ科学院に通っちゃってまあ」

 

そんな事一言も言わなかったのに、どこで知ったんだよ。

 

「私はこの国が好きでもないし、ましてや人は苦手だ。でもね、君がそうやって頑張っているのを見たら私もなにか手伝いたくなってきたのさ」

 

「無理だよ……」

 

自然に口から漏れてしまう。

 

「……でも君のお陰で変わった事はいくつもあるよ。私もその内のひとつだ」

 

知らない。何も変わってない。500年前からちっとも予言のことも何もかも前に進めていないよ。

ただ演技に耐えるだけの毎日に辟易とする。

 

「お陰で私はこの500年に喜びを見いだせたよ。ただのお茶会が、私の希望になったんだ」

 

「そう……僕も土産が楽しみだったな。いつも美味しいのを買ってきてくれるから」

 

まとまりのない声で吐くように答える。辛い500年の中、あのお茶会の日だけが心を幾つか明かせた。

 

「んふふ、この前はスメールに行ってきてね。美味しいココアを貰ってきたよ、飲むといい」

 

「ん……」

 

ココアだったのか、これ。手に取ったマグカップはほのかに暖かくカカオの香りがふんわりと香ってきた。

 

「フーフーしてやろうか?」

 

「いらないよ」

 

自分でやるに決まってるだろ。若干不貞腐れたように口を尖らせ、息を吹きかける。3、4回やったところでちょびっとだけ啜る。

 

熱っ。

 

雨に濡れて冷えきった心を内側から温めてくれる。生クリームの柔らかい甘さがブルーな僕の気持ちに暖色を色づけてくれる。

 

「ゆっくり飲むといいさ」

 

時間をかけて口に含み、飲み込む動作を続けると、いつの間にか中身はからっぽになっていた。

少し舌がヒリヒリする。

飲み終わってから彼女は何も語りかけなかった。わざと目線を合わせず、ただ傍に居るだけ。

 

「なんで……来たんだい」

 

震える声を必死に押さえながら問う。

 

「友達だろ?他に理由は無い」

 

「でも……僕はこれ以上キミと友達をやっていけないよ……。多分駄目だったんだ、秘密を抱えたままじゃキミにそんな役は任せられない」

 

「秘密なんか幾らでもあっていいよ。それで壊れる程やわな縁じゃないし、私は役者じゃない」

 

「僕は……臆病で、泣き虫で、何も成せない……。失望しただろう?これが今の僕なんだ」

 

見ないでくれ、惨めな姿を。

 

「私をみくびるな」

 

いつもより強い語気で放たれたそれは若干の怒気を孕んでいた。

 

「君は強く、賢い。なによりも君は、自分を犠牲にしてまで誰かを救える奴だ」

 

「嘘だよ……僕はキミが言う程じゃない」

 

「自分の価値を下げるな。君は君自身が思っているよりも諦めが悪い奴だ」

 

「……事はもう起こってしまった。これ以上僕に何が出来るって言うんだ。資料を穴が開くほど読んでも実験を何度繰り返してもいくら時が経っても、何も出来なかった……」

 

普段の民衆の前では見せない弱さ。もうジャネットに隠すのも面倒だ。

水風船を針で刺すように、僕の心の全てを解放する。

 

「強いって事は誰にも頼らない訳じゃないよ、フリーナ。神も人もひとりのままではただ消え去り、忘れられてゆくだけだ」

 

「……僕は1人だよ、今までもこれからも」

 

手に冷たい雫がひとつ落ちる。

 

「私がいるだろ」

 

くぐもった声じゃなく、透明な声で彼女は否定した。

 

「一瞬だけ目、閉じて」

 

されるがままに視界が真っ暗になる。すると、暖かく硬くも柔らかいなにかが覆いかぶさってくる。

 

「私はここにいるよフリーナ。君が暗闇にいるなら照らすし、寒いなら温める。自分を見失いそうな時は印に。寂しいなら手を握って、そばにいてやれる」

 

皮の感触に目元を擦られ、目を開ける。慣れない手つきではあるが、グローブにじんわりと染みが出来ていく。

少し押し倒されながらも彼女は僕の前に座っていた。

滲んだ視界でも彼女だけはハッキリと見える。

 

「もし泣きたいなら思いっきり最後の1粒まで泣いてくれ」

 

対面の状態から腕に引き寄せられ、少し硬い胸に頭を埋める。

嗚咽から始まり、ひとつ、またひとつと隠していた感情を吐く。1度吐けば元には戻れず、いつもの仮面の表情は引き攣り感情をそのままに写す。

溢れる熱さが頬を伝わり、胸に届く。僕の耳に心臓の鼓動が聞こえる内にありったけを。燃える焚き火に孤独と痛みをくべながらも、魂に繋がれた秘密は手放さない。

鏡の中の僕はどう思うだろうか?僕が人であると話さずとも、もしかしたら彼女にバレてしまうかもしれない。背徳感と罪悪感も顔を出し、さらに追い討ちをかけてくる。

しばらく経てばもうここには他に何も残らない。あるのはひとつの願いのみ。

 

「お願い……ジャネット……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「手、握ってもいいかい?」

 

「勿論。朝までここにいるよ。だから心配しないでくれ」

 

「ハハッ、キミなら安心だ。……おやすみジャネット」

 

「おやすみ、フリーナ」

 

視界の隅でネジが巻かれると、どこか懐かしく暖かいメロディーが誘い、親しいものに繋がれながらフリーナは長く優しい夢に吸い込まれていった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「感謝するよ、草神。お陰で約束を果たせそうだ」

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