フリーナ、お茶会しないか?   作:クソザコぎつね

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フリーナ、またお茶会しないか?

 

 

「フリーナ!久しいね」

 

「……誰から聞いたんだい?」

 

飲もうとした紅茶のカップを置きながらフリーナ・ドゥ・フォンテーヌは突然の来訪者にまばたきした。

別に新居の位置を伝えようとしなかった訳じゃない。でもジャネットは神出鬼没だから連絡のしようがなかったのもあるし、手紙を書こうとしても筆は進まなかった。

 

「金髪の旅人に聞いたらすんなり教えてくれたよ。思ったよりいい性格してるね」

 

「あぁ……」

 

まあいいか。

 

「髪切ったのか。前の君と一緒だな」

 

「まあね、心機一転って訳さ」

 

「新生活の気分はどうだい?」

 

「中々楽しめてるよ、仕事も馴染んできたし」

 

僕が神の座から降りて1ヶ月。最初は断固拒否だった演劇もなんだか楽しさを覚え始めてきた。

 

「それは結構。……おや?見慣れない同居人だね」

 

彼女が指さしたのはサロンメンバー達だった。審判の日以降ジャネットに会っていなかった為、彼らの事を見せるのはこれが初めてのはずだ。

 

「気になるかい?よーく見ておくといい♪」

 

指を鳴らして3人を呼び寄せ、順番に紹介していく。

 

「左から、ジェントルマン・アッシャーにシュヴァルマラン婦人。そしてクラバレッタさん!どうだい?素晴らしい仲間達だろう!」

 

腰に手を当て、堂々と胸を張る。僕の生活が自堕落にならず過ごせてるのも彼らのお陰だ。ジェントルマンは説教好きで、婦人は支出管理を。クラバレッタさんは身の回りの世話をしてくれる。

 

「……それって君が昔読んでた本の登場人物の名前じゃないか?」

 

顔から熱が引き、脳内時間が少し止まるのが感じられた。

 

「嘘……なんで分かるのさ」

 

「だって小さい頃私によく読み聞かせてただろ?私の記憶力を舐めるなよ」

 

「そんな事あったっけ……?」

 

「あったあった」

 

言われればあったような気がしなくもないな。というか未だに謎が多いぞ、いつからの付き合いなんだコイツ。

 

「その様子だと、もしかして最初に会った時の事も忘れたのかい?はぁ……悲しいね……」

 

「い、いや……ハハ……」

 

全く覚えてないぞ。

 

「じゃあそれについては今からでも話すとしようか。そこの彼らには自己紹介からだね」

 

彼女は少しだらりとした姿勢を正し、メンバーの皆に向き合う。

 

「改めて、私の名はジェーン・ドゥ。ジャネットと呼んでくれ。今は冒険者の1人であり、フリーナの数ある友達の内の1人さ。以後お見知り置きを」

 

ゆったりとしながらも美しい姿勢でお辞儀をすると、メンバー達もお辞儀を返す。お辞儀できるほどの等身じゃないけどね。

 

「あまり自分の話をするのは得意じゃないんだけどね……。これも何かの縁だ」

 

そういうと彼女は仮面に両手を掛ける。待て待て待て、このタイミングで披露するのかい!?500年の謎がこうもあっさりと!

側面の突起を同時に押すと、口元が変形したと同時に一回り小さく小型化される。

カポッという音を立ててその素顔がついに顕になった。

 

「………」

 

「……そんな目で見るなよ」

 

素顔のまま目を細め、こちらを睨んでくる。またもや脳内時間が停止した。心臓も肺も生きていることを忘れたかのように一瞬止まる。理解出来ず深く目を閉じてもう一度見やるが、その顔は変わらない。

髪型も髪色も違うし、目つきはやや鋭くキツく尖っているが間違いない。そこにある顔は僕と瓜二つだった。オレンジ色が配された水晶を模したような瞳孔でこちらを見てくる。

 

「……?」

 

「ベースは君の顔と一緒だろうが、あいにく私に少し寄ったみたいでね」

 

「?????」

 

「まずはその間抜けなアホズラを治したまえ」

 

デコピンをくらい10秒ほど悶絶するが、直ぐに立ち直りまじまじと彼女の顔を覗き込む。どういう事だろうか?存在しない家族だとでも言うのか。

 

「フリーナ……軽い昔話をしよう」

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

「思い出したかい?私が何者か」

 

「うわぁ……。頭では納得出来るけどね、僕には君がそんな風には見えないよ。というか、それこそ童話じゃないか」

 

情報と失った記憶が洪水のように頭へ流れ込む。確かに彼女は幼少期からの付き合いだったのだ。

 

「事実は小説よりも奇なりと言うだろう?」

 

「それしたって、君がそこまでとは……」

 

「心の底から納得出来なくてもいいさ、今の私を信じてくれれば充分だよ」

 

あまりの事実に少し目眩がする。眉間を揉むと、改めてジャネットの特徴を整理する。恐らくマスクは苦手な光を隠す為で、人間に対して些か冷酷なのは過去の仕打ちの為。身体能力は元がアレだからと説明がつく。フィジカルがどれほどのものかはヌヴィレットが証明済みだ。

 

「……今でも人間は嫌いかい?」

 

「んふふ、この500年色んな人間を見たが結局の所結論はこうだ」

 

少し自信ありげな表情をすると、彼女は答えた。

 

「好きになる事にした」

 

「好きに……」

 

「フリーナ、私はね君の人間性に惹かれたんだよ」

 

その言葉に内心ドキッとする。プライベートであまり言われない言葉で視線がたじろいでしまう。

 

「君が強がる姿も、喜ぶ姿も、泣いてる姿も、猫を可愛がる姿もね。でも君は……私を前にして自分を顧みず私を助けてくれた」

 

彼女の声は柔らかく、そこには一切の憎悪は感じられない。心なしか声が若干震えている。

 

「だから私は君の事を、人間の事を知って、好きになってみたい。君が愛した人間を愛せるようにね」

 

きっとそれは難しい話だろう。顔には出ていないが、よく見れば彼女の首筋には鱗の他に多数の火傷跡が残っているのだから。

 

「ジャネット……」

 

「ま、気の遠くなるような話さ。今の時点では数少ない友人と、良識ある子供位しか好きになれそうにもないけどね」

 

「……そういうものだと思うよ」

 

それは心から出た言葉だった。

 

「ヌヴィレットもそうだね、少しづつだけど大分変わったよ彼は。やっぱり彼と私は似ている所がある」

 

顎に手を当て考えてみると、共通点は幾つか見当たる。

 

「……そうか、そういう事か!」

 

何かに気付いたようだ。声を高らかに、彼女は合点がいったようで深くうなづいた。

一体なんのことだろうか。

 

「フォカロルス……狡いな君は……」

 

背もたれに体重をかけ、天井を仰ぎながら呟いている。

 

「なんの事だい?」

 

「いや、ここはもう直接本人に語らせよう。私は気分じゃないんでね、話し疲れた」

 

僕に一瞬目配せすると、糸が取れた操り人形の様にジャネットの手足が垂れ下がる。同時に意識も飛び立ったようで声をかけても返事が無い。

 

「……ん」

 

数回肩を揺すったり、手を握った所で目を覚ましたようだ。

 

「!」

 

だがこちらに飛びかかると、彼女はめいっぱいのハグをしてきた。

その力はいつもとは違い、割れ物を扱うみたいな震えた様子もなく全力で優しいハグだ。

 

「ジャネット……?」

 

「フリーナ!」

 

その声に僕は目の前が真っ白になる。

 

「良かった……まさかこうして触れる事が出来るなんて……」

 

「なん……で……」

 

肩に手を置き彼女を引き剥がして、顔を見やるとその表情は別物になっていた。パーツは先程と一緒だが、決定的に違うのはその慈愛を含んだ目つきに、僕の人生で一番聞く声。

鏡の中の僕が、フォカロルスが、正しくそこに居た。

激情の波に耐えきれなくなり、決壊する。目元が熱くなるのをひしひしと感じた。

 

「……うぅ……ひぐっ……」

 

「大丈夫だよフリーナ、正真正銘帰ってきたんだ……。今までお疲れ様……よく頑張ったね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さ!早速エピクレシス歌劇場に行こうか」

 

「でも今日の公演は……ってそのチケットは!」

 

悪戯的な笑みを浮かべながら金色の薄い紙切れをこちらにヒラヒラかざしてくる。

 

「リネって子から貰ってね、他の友達も来るんだろう?」

 

「それはまあ……そうだけど」

 

「フフ……なら行こう!」

 

「ちょ、ちょっと!引っ張らないでよ……自分で歩くってば!」

 

人生でトップを争うであろうとんでもないサプライズを喰らい、フリーナは今日の事を心の奥底に深く刻む事にした…….。




本編は完結です。オマケを2つと設定を書いて本当に終わりになります。フォカロルスについてもそこで書きます。
多分1週間以内に投稿しますのでお待ちを。
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