フリーナ、お茶会しないか?   作:クソザコぎつね

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[フリーナ、サーフィンするのか?]

 

 

「なんだいその板は?まな板にしちゃ大きすぎるぞ」

 

「違うよ、サーフィン用のボードさ!」

 

「サーフィン?」

 

「まぁ見た方が早いだろうね。丁度いいからキミも来るといい」

 

彼女を連れて歩いていくと波が立つ広めの砂浜に着いた。

 

「どうやら僕には素質があるらしくてね、この前声をかけられちゃったよ」

 

「ふ〜ん」

 

「ちょっとは興味を持ちなよ」

 

あっという間にジャネットが指の第一関節位になる程まで遠くに泳いだ。一際大きな波が来るとそれに便乗してボード抱えて泳ぎ、ついには二本足でその上に立つ。

 

「〜♪」

 

思わず歌でも歌いたくなるようないい気分に包まれながらバランスと速度を保つ。なにも失敗らしい事は何も無く、無事に帰ってこれた。

 

「どうだい?これが中々奥が深くてね、最近はずっと入り浸ってるよ」

 

「成程……私にも出来そうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダメだった。開始数秒でジャネットは波に呑み込まれてしまった。

 

「こんな物より泳いだ方が速い。よし、競争しようか」

 

「無理に決まってるだろ!」

 

波の後ろから巨体が口を開けて迫ってきたが何とか浜に戻って来れた。

こんな事の為にわざわざ元の姿に戻らなくて良いだろ!

 

「はあ…はあ…。また一つ民の間で噂が出来るだろうね」

 

新聞の見出しに[怪奇!巨大海獣出現!?]等と書かれるに違いない。

 

「よし、じゃあ今度は僕がやってみるとしようか」

 

「嘘だろ!?」

 

待ってましたとばかりに声を上げたのは入れ替わったフォカロルスだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソっ!体は同じなのになんで……?」

 

「多分センスの差だと思うよジャネット……関係あるかは分からないけど、元水神でもあるし」

 

「おいフォカロルス!私の脳内で笑うな!二度と身体貸してやらんからな!」

 

フォカロルスは最強になった(サーフィン)

 

 

 

 

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 

 

 

[フリーナ、写真を取らないか?]

 

 

「見ろフリーナ!こんな物貰ったぞ!」

 

珍しくジャネットが上機嫌に天へと掲げたのは写真機だった。尻尾があれば……いやあるにはあるか。ブンブン振っているだろう。

 

「貰った?誰にだい」

 

「旅人からさ、使い方も教えてもらった。こういうのが欲しいと思ってたんだよ」

 

市場に出回るものと少し違う装飾がなされているが、たった一つある部分を除けば普通の写真機だった。

 

「見た感じレンズが特殊だけど、何か聞いているかい?」

 

「いや?撮ってからのお楽しみとしか言われてないけどね」

 

ふむ、現像した時に何かあるのか。それともシャッターを切った時か。そう危険な物では無いはずだけど。

 

「折角だし、ヌヴィレット達も呼んで写真を撮ろうか」

 

その提案に頷くと善は急げとばかりにジャネットはフォンテーヌ中を奔走し、呆気なくあの日のメンバーが全員集まってしまった。

 

「ジャネット殿、このような機会を設けて頂き誠に感謝する」

 

「んふふ、それはどうも」

 

シャッターを切るのを誰にするかで一悶着あったが、結局は手馴れているシャルロットがやる事になった。

 

「それじゃ皆さんいきますよ?笑ってー!」

 

慌てて身だしなみを整え、観客に見せるものとは違う本当の笑顔で迎える。人生でも中々な緊張具合だ。

なんせ、これは後世に永く残るだろうからね。

 

パシャリと空間を射止めると、どっと疲れが吹き出る。それからは色々あってパーティーを始めた。あの頃に言いたかった事、聞きたかったことを赤裸々に語り合い、酒を飲み、楽しい時を過ごした。

きっと昔の僕では想像出来なかったであろう、愛しい日々が目の前にある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、そういう意味か」

 

思わず口元から笑みが零れる。後日郵便で送られた写真には、1人メンバーが増えていた。いや増えていたと言うより見える様になった、というのが正しいだろう。

 

不器用に肩を組む僕とジャネットの間から、もう1人の主演が笑顔で顔を出していた。

 

 

──────

 

 

 

「うわあ、コイツは酷いな……」

 

魔物の吐瀉物を見事全身に食らった親友を見ながら、フリーナ・ドゥ・フォンテーヌは水元素の力を行使した。

ちょっとピクニックに来たつもりだったのだが、予定地に先客がいるとは。

 

「おおありがと。便利だね、それ」

 

彼女が指さしたのは僕の神の目だった。喉が乾けば飲み水を作り出せるし、今のようにシャワーを浴びせる事も可能だ。

 

「そうだろう?キミにもあればいいのにね。旅の途中で水や火なんかよく使うだろ?」

 

「火は吹けるから要らないよ。それに、そっちも旅に連れてくから」

 

「あれ、言ったっけ?」

 

「一昨日自分で言っただろ」

 

呆れたようにため息を吐くと、彼女は死体を剥ぎ取ってバッグに詰め始めた。

曰く食べるつもりらしい。頼むから料理として僕の前に出さないでくれよ。

 

「うぅ……酔ってたから覚えて無い……」

 

「なんで間違えちゃうかねぇ」

 

「透明だから水だと思ったんだよ!」

 

「それよりヌヴィレットには言ったのか?」

 

「そ、それはその……」

 

途端に思考が曖昧になってしまう。気まずいというのが一番だ。というか何も言わなくていいんじゃないのか?特に向こうも僕に会いたいなんて思ってないだろうし。

 

「はぁ……らしいぞフォカロルス。やっぱり君の見立ては当たってたな」

 

「何の話だい?」

 

「いや、こっちの話だ。というかこれ洗っても臭い落ちないぞ」

 

「嘘だろ?」

 

「いや本当だって」

 

近づいて少し嗅いでみると、鼻を酸味のある刺激が突いてくる。

 

「確かにね。替えの服は持ってきてるかい?」

 

「いや、生憎これっきりしか持ってないな」

 

「……そのバッグは何の為にあるんだよ」

 

「なんでも入る訳じゃないぞ。……ところで風呂借りても構わないか?」

 

「えぇっ!?どうして!」

 

「生憎財布がダイエット中でね……面目ない」

 

「はぁ……」

 

それから自宅に移動し、折角だからと二人で入ることにした。洗濯はクラバレッタさんに一任する。ハサミで切らないといいけど。

 

「……」

 

「なんだよそんなジロジロ見て。昔はよく一緒に入ったじゃないか?だろ、フォカロルス」

 

虚空へ語りかけるとキツイ目付きが変わり、体の主導権が交代した。

 

「その通りさ。覚えているかいフリーナ?彼女を初めて家に招き入れた時の事を……僕達は確か」

 

「ストップストップ!それ以上言うなよ!……まったくもう」

 

禁句を言おうとする彼女の口を手のひらでギリギリ抑えることに成功する。ここにいる三人とも知っている事ではあるがやはり口にして欲しくは無い。

 

「フフ……次があれば僕の番だからね?せっかく肉体を得られたんだし」

 

それだけ告げるとフォカロルスは引っ込んでいった。僕と入るのにそんな価値があるのか?

ともかく、別に恥ずかしいわけじゃないけど誰かと一緒に入るのは久しぶりだな。500年振りだ。久しぶりの感覚に胸が少しキュッと締まる。

改めてジャネットの身体を見やると、火傷の跡らしき物がほぼ全身に広がっていた。おもわず手を止めていると、彼女は首を傾げた。

 

「ああごめん。その、思っていたより痛々しい体だね……」

 

「気にする事じゃないさ。もう昔のことだ」

 

ジャネットは微笑みながらもその奥底には深い哀しみが顔を覗かせる。

 

「早くしないと、冷えてしまうよ?」

 

「そうだね」

 

湯船に入る前に先にシャワーで汚れを洗い落としておく。自分の番は難なく終わったけど、ジャネットは手の爪が鋭い為必然的に僕がやる羽目になった。

所々に有る鱗の面白い感触に興味を移しながらも、粗方終えた。

だが最後に一つ、致命的な箇所がある。

 

「これ……どうやって洗うんだい?」

 

フォンテーヌに連なる山脈のように刺々しい小さな水晶の背びれを目にする。曰く折り畳んで服に収まっているらしいが、動きづらかったりしないのか?

恐らく彼女の体で最も洗いにくい部分だろう。

 

「んふふ、背鰭の感覚は無いに等しいから好きにやってくれ」

 

「言われてもなあ……」

 

スポンジで試しに擦ってみると黒い汚れがいくつか流れ出てきた。

 

「こんな感じ?」

 

「そうそう上手上手。自分でやるより100倍はいいね」

 

「それはどうも」

 

小さい頃にもこうやって背鰭や身体を洗ってたっけ。

 

「君がいない時には海で魚に洗ってもらったこともあるよ」

 

「魚が?どうやって」

 

魚がスポンジと石鹸を片手にゴシゴシしているイメージが湧く。というか魚には手が無いだろう、何を考えてるんだ僕は。

 

「汚れを食べちゃうのさ」

 

「へぇ〜。そんな魚もいるんだね」

 

「もし気になるなら今度行こうか?」

 

「面白そうだね、行こう行こう!」

 

無事に流し終え、前より空きが増えたスケジュール帳に予定が増えたことを喜びながら二人一緒に湯船に浸かるが、広さが足りず手足がどうしてもくっついてしまう。あくまで一人暮らし用だからか。

対面に姿勢を移行することで何とかくつろげそうだ。

 

「昔キミと入った時はもっと広く感じたんだけどね」

 

「前の家もこの位だった筈だぞ」

 

「そうだっけ?」

 

肩まで浸かると、じんわりとした暖かさが染み込んでくる。前は泡風呂なんて贅沢も出来たけど、なんだかシンプルな湯の方が落ち着ける。

 

「……随分と大きくなったね。フリーナ」

 

「当たり前だろう?まだまだ伸び代もあるんだからな」

 

「んふふ、数年後が楽しみだ」

 

もう残った寿命は神に比べれば少ない。一般的な人間と同じだ。

 

「久しぶりだろ?同じ顔が目の前にいる感覚は」

 

天井を仰ぎ、畳んだ小さなタオルを目に被せながら彼女は言う。

 

「……きっと君は私達を置いていってしまうだろうね。やがて背が伸び、新たな家族を迎え入れ、更にはヌヴィレットみたいに杖をつくかもしれない。日々を刻む君の顔とは対照的に、私は変わることが無い……」

 

ちびっ子の吹くハーモニカみたいな、不安定な音色で呟かれた。

 

「怖いよ……私は……」

 

その後に何か言おうとしたのか、喉につかえながら言えないままである。柄にもなくしおらしい姿は、どこか自嘲的だった。

タオルをひったくり、勢いよく彼女の顔を自分の所まで引き寄せる。

 

「なら僕の顔を覚えておいてくれ。フォンテーヌの大スターであり、キミの親友であるこの顔をね」

 

彼女の琥珀色の瞳は滲んでいた。赤が浮き立つ目元へ手を伸ばし、優しく撫でてやる。

 

「僕達は親友なんだ、置いてかないさ……ジャネット。例え姿が消えたとしても傍で見守ってあげるよ。……その代わりに、とびっきりの面白い話をしてくれ」

 

「……やっぱり君は変わらないね」

 

迷子が見つかったみたいな安堵した表情を見届けると、フリーナは熱に浮かされたまま少し懐かしい感触を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

伝説任務 紫苑の章より

 

 

 

かつてフォンテーヌができる前、そこにはレムリア王朝と呼ばれる国が存在していた。

 

神の統治を受け、日夜様々な研究が行われている、文明の発達した国だ。

 

『最も、その遺産は海の底がほとんどだが』

 

だが彼らは思い上がり、増長し、傲慢になり、他者を顧みなかった。

 

そんな中研究所は海淵にて大きな実験を行い、失敗。一体の龍が巻き込まれた。

 

巻き込まれた龍の肉体は赤く焼け爛れ、多大な負荷を受けながらも適応した後、身体情報に不具合が生じてしまう。住処と元の体を奪われると、そのモノの瞳は慈愛を含む茈ではなく燃える琥珀へと変貌した。やがて憎しみと怒りを覚え始めた他の生物達と徒党を組み、彼らと蹶起を開始する事になる。

 

『そう、同志スキュラと共にね』

 

緑は黒く染まり、透明は赤に着色された。灰は灰として全ては塵に帰す。

龍は自らの手で、足で、尻尾で、彼等に審判を下したのさ。吐息の続く限り。

 

心を満たした龍は水中に帰り、深い眠りにつく。

 

それから水神が降臨し、長い時が経った頃。大きな使命を背負った幼い水の少女が龍の住処を訪れた。

 

眠りを起こされた龍は手をかけようとするが、少女はそれを気にもとめず微笑みながら習ったばかりの拙い踊りを始めた。

 

荒削りながらも素質を感じさせる少女の踊りを見ると心を動かされ、甚くその子を気に入った。

 

水の少女を友人とすると、龍は外に出たいと思うようになった。

 

「さぁ僕の手を取って。もう君は海の上に馴染める筈だ」

 

『それはならない。私はお前の様な美しい手足も、紺碧の瞳も、儚き心さえも備えてはいないのだから。在るのはただ一つ、名を棄てた死に損ないさ』

 

それを知った少女は髪の毛を1本目の前で引き抜き、食べさせた。

 

すると奇跡が起き、龍はヒトの体へと擬態が可能になると、少女と共に歩むことを選択したのだ。

 

俗世に姿を現すにあたって少女は幾つかの贈り物を与える。名前や服……常識や作法と、最後にもう1つ。

 

「約束だよ。■■■■■■■■■■■■■?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かつての少女に星の名を持つ贈り物を捧げ、彼の者は他愛も無い話を語る。

彼女を世界が忘れてしまわないように、懐かしい思い出にさせない為に。

 

そして何よりも親友として、彼女は語り続けるだろう……愉快で心優しく、人間らしい強さと弱さを持った少女の話を。

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