惑星ピオーネ…約五万kmの壮大な土地がある惑星。エタン、メタンなどの化合物が液体として存在し蒸発、惑星内で油の雨として日々潤いを与えている。
そんな雨が降る中で作業する者達がいた。大型タンクを作業用パワーアーマーで動かし満タンにしたら貨物船に乗せ、また次のタンクを満タンにする単純作業を繰り返していた。
「タルスター!早く予備タンクを準備しろ」
『待てって、フィールド張りながら作業するのも大変なんだよ』
ピオーネの原住民は、肌は茶色で酸素を必要としない特殊な気管を備えている。開拓時代に伴い、他惑星からの使者を切っ掛けにいくらでもある液体を輸出する貿易が盛んに行われていた。
彼らの特殊な体質から他惑星人からの需要があり、多くの出稼ぎ労働者が進出している。その結果、働き場所を奪われた者達からの反対運動が時々発生して社会問題になったケースがある。
「多少汚れてもいいから、早く終わらせろよ。俺はクッキー欲しんだよ、クッキィィ!」
『無茶言うなよ…苦情が来たら面倒だろ』
クッキーとは、植物が豊富にある惑星ガンジャの名産品として販売しているお菓子である。その美味さから多くの宇宙民に愛されているお菓子だが、高度に発展した惑星では規制されていたりする。
「戦争だろ、多少雑でも言ってこねえよ。それよりちゃんと金払えるのかの方が重要だ」
『ミントのとこが介入する動きがあるみたいだ』
「お客様追加か、長引いてくれたら万歳だな」
惑星間での交流、貿易が盛んになるにつれ技術格差が浮き彫りになってくる。始まりは様々だが、自分たちの利益の為に動くのは宇宙共通の考えだった。
ピオーネに関しては特殊であり、ここでは争わない盟約が交わされている。下手に争えば他惑星からの介入理由を許す事になる為だ。ピオーネまでの燃料費を考慮してもつり合いが取れ、特に資源不足な星にとっては救世主な立ち位置を獲得している。
「うっし!粗方入れ終わったぞ。早く行こうぜ」
『おう、清掃室を開ける』
貨物船のハッチが開き、その中にパワーアーマーごと入る。中に入ると特殊な液体を散布され、ベトベトな雨水が流されていく。
「何度味わっても、嫌な香水だぜ。」
『俺達と感性も違うんだ仕方ないさ。俺達にとってはいい匂いでも、他の連中には嫌な臭いなんだとよ』
「なんだ?また友人を増やしたのか、営業が上手いな、ええ?」
『そういうなよ。友人が増えると良いこともあるぜ?』
モニター越しにクッキーを見せられる。
「そ、それは!クロコダイルクッキーじゃねえか、そんな高級品どうやって。いや待て、食べるなよ!俺が食うから!!」
そんなやり取りをしながら貨物船は発進した。操縦席の隣でハイテンションな相棒を尻目に飽きれた様子で目的地、惑星アンデスまで向かうのだった。
彼らが発進して数刻後…惑星ピオーネに謎の突起物型の何かが飛来する。その突起物は誰知らず間に地面にめり込む様に惑星の中心まで掘り進んでいった。
惑星アンデスまでワープを繰り返して二日…彼らの取引先がやっと見えて来たのを安助の気持ちで受け止める。
写し出される光り輝く戦場は、彼らにとって遊芸と変わらない日常のように感じられた。
「どうやら、レッド軍の方が優勢みたいだな」
「キャロル軍の方も負けてないぞ」
「俺達の取引相手同士が健在だったなら幸いだ。いつも通り、レッドからだろ」
惑星アンデスからレッド軍。惑星アメーラからキャロル軍。両軍の攻防は彼らが幼い頃から続く一つの習慣染みた戦いであった。
アンデスは元々貧乏国家として有名で、惑星地球からの指導を受けるまで目立つ物は無かった。地球人からの指導を受け入れ、地球の半植民地化を数十年過ごしたのちに反乱。軍事国家兼、惑星として返り咲いた過去がある。
アメーラはアンデスより、三惑星ほど離れた位置に存在する。アメーラは地球が介入する前からアンデスの植民地化を進めていたが、地球人の暴力的侵攻に耐えられず撤退した過去がある。現在は逆にアンデスから侵略行為を受けている為、ある意味因果応報のような戦いに発展している。
「…難民船だな」
「お前の関わり合う気持ちは否定しないが…」
「わかってるよ」
戦場を離れるように先行している群船。民間の物から、企業が使う物まで数多くの種類が密集して飛んでいる。
「あいつらも無茶するよな…この宇宙で難民を受け入れる場所なんて奴隷市場ぐらいだってのに。俺なら死ぬまで故郷を捨てないぜ」
「家族がいる奴らとかは…安全を求めてるんだろ」
「安全な場所なんてあるわけねえだろ。ほら行こうぜ、見てると気分が悪くなる」
…思う気持ちを抑えながら、取引相手に信号を送る。数分待っていると、戦場から少し離れた位置の戦艦に着艦許可が下りる。
流れ弾に気を付けながら戦艦までたどり着くと、ガイドビーコンが作動し彼らの船を歓迎した。
「相変わらず小奇麗な艦だ。見ろよゴミ一つねえ」
「地球に関わってる惑星は比較的綺麗好きになるな」
「ヤダヤダ、小汚い方が生きやすいのにな」
同感だ…心で思いながらも口にしない。交渉事は相方の仕事ではないからだ。着艦を確認した後、交渉は自分の役目と割り切っている。
「運び出しは任せる」
「任せろ」
いつも通りのやり取りだ。相棒の性格から交渉事に向かない。自然とやる分野が決まっているが、互いにわかっているので今更だ。
貨物船から降り、待っているであろう取引相手と相対する。この時が一番、下手な惑星の重力より重圧に感じているのは話していない。『だったら止めろ』と言ってくれるのを知っているから。
「予定より遅れていたようだが、どうかしたかね?」
「これは失礼、何分オンボロでして」
「買い替えなら、我らの艦からでも受け付けているよ」
「ははは、金が溜まれば考えます」
汚いものを見るような瞳を受けながらも笑顔で流す。慣れているが、嫌な気分になる。
地球に関わった連中は時間に厳しい傾向だ。アンデスの連中は植民地化が長かったせいか、特に地球人染みた思考をしている。
肌は黄土色、所々に黒い斑点模様が特徴な種族であり、何より繁殖に対する考え…相対するアメーラも対外だが性欲旺盛なのは有名だ。
「あの件は考えてくれてるかね」
…交渉の時、大抵の相手側から来るのは決まっている。レートを割り増しするから定期的売りに来い、所謂契約購入をしたい相談だ。
「前にもお伝えしましたが、我々は宇宙を旅するのも目的の一つ…一つの場所だけに囚われる気はございません」
「そうかね。考えが変わってくれるとありがたいよ」
互いに冗談を交えながらの交渉はスムーズに終わった。レート基準に取引をしている為スムーズなのだ。他の売りに来る連中だと、勝手にレート以上の値段まで引き上げる奴もいるらしい…敗戦末期なら考える手だが、通常の戦で行っていたら信用が無くなると考えないのだろうか?
「こっちも終わったぜ。食料も入れた」
「よし…行くか」
終わったら休みではない。アウトローの者、それに近い者ほど働く時間が長くなりがちだった。特に戦場が職場となる者達にとって今が営業時、休む時間すら惜しいのだ。
帰りに二日、ワープを繰り返し母星である惑星ピオーネの座標まで戻ってきた二人。だが待っていたのは…石の欠片など、母星の欠片も無い光景だった。
「ワープ座標がずれたんじゃないのか?」
「いやそんなはず…見ろよ『ナンバー794』だろ?」
「でもねえじゃねえかよ!故障じゃねえのか」
「…いや、でも…」
この事件はすぐ知れ渡ることになる。惑星が突如として消える摩訶不思議な事件…多くの憶測が飛び交う中、宇宙に放り出された二人は惑星ガンジャで職を得る為に動いたという。
宇宙に放り出された者達で生き方を知らない者は耐えられないだろう。
「お父さん…」
「大丈夫、大丈夫だ」
家族と共に逃げ出した者達を待ち受けていたのは…迫害であった。
『我々は難民を受け入れていない』
『出ていけ!汚らしいアホが』
宇宙難民となった者達に永住する惑星は無い。一時的着陸することはあっても、取引してくれるだけでいい方だ。どの星の住民も他惑星の者達を受け入れない…助け合いなんてない。
職を探そうにも、難民というだけで給料を半減…更に減らされることもある。宇宙海賊も稀に遭遇する為、奴隷として販売される者達も後を絶たない。だからこそ密集、難民同士互いに協力するように生きるしか道はなかった。
どうすればいいのか…絶望的状況でありながら、家族の為に思考を止めず考える…
…ピコーン…
…これは…だが、ここは…
そんな難民家族の元に、一つのガイドメッセージが届く。惑星などに着陸する際に送られる物が突然送られて来た…その座標がナンバー00を指していた。