この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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「この素晴らしい社畜に異世界を!!」
第1話


「春日部蒼太さん。残念ながら、貴方は、死んでしまいました」

「………………いろいろと、聞きたいことはありますが。まず一つ、私の名前は七海建人です」

「……え、マジ?」

「マジです」

 

 呪いを残し、真人の手によって永遠の眠りにつくはずであった七海建人。

 そんな彼が何故か目覚めた矢先、かけられた言葉は先の通り、訳のわからない頓珍漢なもの。

 目の前の青髪の女が慌てふためく様子を他所に、思考を整理する。

 

「…………死後の世界、とでも言うべきでしょうか」

「そうよー。ここは死後の世界。ラノベとかでよくあるアレよ」

「まぁ、なんとなくは理解しました。そして、自分が何か、不慮の事故で此方に送られてきたことも」

 

 女の発言からして、恐らくこの場に送られるはずだったのは別の人物───春日部蒼太なる人間であったはず。

 単に地獄行き、天国行きかの違いか、それとも管轄する世界の違いか。

 並行世界が無数に存在する、などという話は妄言の類として聞き流していたが、その節もどうやら信憑性を帯びてきた、と。

 七海はなんとも言い難い顔をして、目の前の女が下す沙汰を待つ。

 

「私の独断で決めたんだけど、貴方、今から異世界転生決定ね」

「……いいんですか、それで」

 

 生前、術師として、自らの手を汚すようなことは何度もあった。

 そんな己が地獄に行かずして、誰が地獄に行くというのか。そもそも転生などと言う大事そうな儀を、独断で決めてしまっても構わないのか。春日部蒼太なる人間は今どうなっているのか。

 色々と、本当にいろいろと聞きたいことはあるのだが。

 目の前の女が、己の先輩である最強の特級術師───五条悟の同種であると悟った七海は、そう返しながらも半ば諦めたような溜息を吐く。

 

「いーのいーの、私これでも結構偉い神様ですし。それじゃこれ、特典ね」

 

 そういって渡されたカタログを眺めてみれば、エクスカリバー、デュランダル、アイギスの盾等、神話や伝説上の武器がずらり。

 詳細に効果が記されているが、最初に記されていたエクスカリバーの紹介文───すごい強い。ビームも撃てる! と言う文言を見て、真面目にそれを読むことをやめた。

 

「……生前、私が使用していた鉈があります。可能であれば、それを」

「ん? それ、普通のやつよね? 鉈ならほら、ここに伝説のやつが───」

「結構です。恐らく、己の技量には過ぎたものでしょうから」

 

 神話に出てくる英雄などといえば、竜を討ち果たした、蛮族の軍を鎮圧してみせた、国を滅ぼしてみせた等、偉業を単独で成し得てしまう化け物の集まり。

 そのような人間が使用していた武器を使用したところで、その力に飲まれて勘違いし、サクッと死ぬのがオチだ───そう思考する七海を他所に、不思議そうな顔をした女は、記憶を辿り、諸々を再現した複製品を渡すことは可能だ、と七海に告げる。

 

「では、それでよろしくお願いします」

「はいはい。アンタもなかなか変な奴ねえ。異世界チートで無双するチャンスなのに」

 

 その後、自身が転生させられる世界について、女───女神アクアから、説明を受ける。

 魔王軍に侵略されて、このまま行くとワンチャン人類が滅びかねない。モンスターに殺された現地の人が転生を拒否するので、人数不足になってますますヤバい。人間同士で内ゲバを始めているところもあり、本当にやばい。

 以上が、アクアの説明から抜き取れる情報の全てである。つまり、異世界とやらはとてもやばいということだ。

 

「それじゃあ、ほどほどに頑張ってねー」

「……まぁ、最大限善処はします」

 

 魔法陣の上に立ち、視界が歪む中。

 アクアからかけられたてきとうな言葉に七海が返したのは、社会人時代に嫌と言うほど使った責任放棄の文言だった。

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「……成る程、異世界ですか」

 

 目の前に広がるのは、人気のない野原。少し遠くに、恐らく街であろう建物の群れが見える。

 恐らく、転生の際に現地人の目に入らない為このような処置をとっているのだろう、と。

 そんなどうでもいい思考を止め、街に向けて歩き出す。

 

「呪力、術式は使える。鉈も……問題なし」

 

 道すがら再び軽く現状の確認を行ったが、死に際にボロボロになっていたスーツは新品同然の状態にまで回復している。

 呪力、術式もそのままであり、鉈も己が扱っていた呪具で間違いない。

 これであれば相当メチャクチャな敵───それこそ特級レベルが現れなければ、まぁどうにかはなるだろう、と。

 そんなことを考えながら街に一歩踏み入れ、絶句する。

 

「…………確実に浮きますね、これは」

 

 そう、ここは異世界。決して大都会東京ではない。

 道行く人が着飾る服はまるで騎士のようなものであったり、やたら露出の多い魔女のようなものであったりと、まるで死した日の渋谷のような様相。

 仕方ない、と、奇異な物を見るような視線に耐えながら街を進み、冒険者協会と記された如何にもな建物に到着する。

 

 懐にはあの女神から渡されたのか、この世界のものであろう硬貨が少々。

 こういった世界の通例は知らないが、仮に冒険者になる際金銭を取られたとしても、まぁなんとかはなりそうだ。

 

「今日はどうなされましたか?」

「……冒険者、になりたいのですが」

「冒険者登録ですね! それでは、手数料の千エリスをお支払いください」

 

 目の前の受付嬢であろう女性が用意した小銭入れのような物に袋の中身をぶちまけてみたが、どうやら用意されたソレは千エリスを上回る物であったらしい。

 1/10ほど徴収され、残りはそっくりそのまま返還された。

 

 その際に怪訝な目を向けられたので、田舎の出で常識に疎い───などと説明してみたが、果たして騙されてくれたのかどうか。

 七海は、本日何度目かもわからない溜息を吐いた。

 

「……あの、ナナミさん」

「はい」

「失礼ですが、以前どこかの土地で───例えば王都等で冒険者活動をされていた、とか。そんなことはないですよね?」

「ないですね」

「ですよね。レベルもしっかり1ですし」

 

 うーんうーん、と唸る受付嬢を眺めていると、やがて、彼女は無理矢理気分を落ち着けるかのように、むん、と奇妙な掛け声を発した。

 七海に対して向き直り、説明を再開する。

 

「ナナミさんのステータスですと、初めから魔法系を除く上級職に就くことも可能になります。能力値の筋力や俊敏といったフィジカル系はかなりの高水準。幸運と魔力が平均と比べ少々低いですが、まぁ誤差レベルですね」

 

 ソードマスター、クルセイダーなど如何にも異世界チックな職業が並ぶ中、七海の興味を惹いたのは、前世で散々見聞きした漢字三文字。

 

「呪術師」

「呪術師になさいますか? 上級職ではあるのですが、いかんせん成り手がやたらと少なく……。尚且つ適正条件も判明していないところがあり、ギルドとしてあまりサポートができないのですが……」

 

 それはそうだろうな、と。七海は心中、納得する。

 此方の世界に来てから、大型の呪霊はおろか蝿頭一匹すら視界に入っていないのだ。呪力からの完全な脱却を成し遂げた世界なのか、それとも初めからそういった概念が存在しない世界なのかはわからないが、どちらにせよ、おそらくこの世界に術師は存在しない。

 

 七海が存在していたものとは異なる地球に呪霊が存在しているのかどうかはわからないが、恐らくその世界から送られてきた術師、ないし資質を持った人間が選択できる職業なのだろう。

 

「それでお願いします。戦っているうちに、勝手は理解できるでしょう」

「了解しました! ……はい、登録完了です! それでは、これから冒険者として頑張ってくださいね!」

 

 通過儀礼のような物なのだろうか。

 急にハイテンションになった受付嬢は、次の瞬間すぐにテンションを戻して、何やら一枚の紙を七海の前に置く。

 ジャイアントトード───直訳でデカい蛙なるこの生物は、素人冒険者御用達の獲物であるらしい。

 

 戦闘能力は高くなく、鉄製の武具を身につけていればまず負けることはない。

 加えて食用としての需要が非常に高いことから、クエストの報酬と肉の引き取りで手に入る金額も、安全性を考えれば中々の物。

 ゴブリンやコボルトと言った雑魚モンスターの討伐が安定するレベルになるまでは、このカエルを狩って生計を立てつつレベルを上げる、と言うのが基本となる。

 

「正直、ナナミさんのステータスなら初心者殺しでもボコボコにできるとは思いますが……。念には念を入れて、です」

「至極真っ当な判断かと。では、このクエストの受理をよろしくお願いします」

「えっと、今からですか? 武器は……ああ、鉈ですか。それなら問題ありませんね」

 

 鉈を携帯していることで多少腕に覚えがある人間とでも取ったのか、受付嬢はその場で書類をささっと完成させる。

 その後、キャンセル、リタイアの際には罰金が発生してしまうことや、必要以上に狩りを行うのは他の冒険者の依頼妨げとなる為避けて欲しいこと等、一通り注意事項を告げた。

 

「さて、これで手続きは完了となります。肉の回収に関してはギルドで行いますので、死体はそのまま放置していただいて構いません」

「承知しました。では」

「あ、そうだ! 私はルナと申します! よろしければまた、話しかけてくださいね」

「ええ、また」

 

 受付嬢───ルナの言葉をただのリップサービスとして処理した七海だが、その実彼女の言葉は九割本気であった。

 礼儀正しく、歳も恐らく2×歳付近と自身と近い。加えて高ステータスの上級職ともなれば将来有望、高収入間違いなし。

 こんな優良物件をみすみすと見逃せるほど、ルナの婚期に余裕は存在していないのだ。




このすば読んだのが数年前なので、設定ガバある時は指摘していただけると非常に助かります
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