第12話
「金が欲しい」
冬。ジャイアントトード筆頭に雑魚モンスターが冬眠を始め、活動しているのはグリフォンなどの強敵のみ。
故に冒険者たちもここは休止期間、基本的に夏場に貯めた蓄えをちびちび使うことで日々の生活を送ることになる。
カズマパーティの懐は先のベルディア討伐で得た報奨金で潤っている。冬中最高級の宿に泊まったとしても余裕で余る額であり、取り急いで金銭が必要になることはない、はずであるのだが。
ことこのパーティに関しては、事情が少し違った。
「何よ、突然。別に働かなくても、こうして昼間から酒呑んで酔っ払っても何も問題はないんだから───」
「ツケ払い」
「うッ」
アクアは、カズマの一言で固まった。ベルディア討伐の大部分は七海が担ったとはいえ、トドメを刺す要因となったアクアにもかなりの額の報奨金が支払われている。
それによりいい気になったアクアは、連日高い酒を開け、高い飯を食らい、ぐーたら寝ると言う貴族のような生活をしていた。そして生活資金が尽きた。
結局ギルドにツケで酒を呑んでいたわけだが、それも長くは続かない。偶々七海と同席していた際に職員からツケ払いの催促を受け、結果ツケは七海が支払ったものの、アクアは冷たい石畳の上で説教を受けることになった。しかも大衆の面前で。
「ふふん。私はアクアと違ってそのような無様は晒しませんよ。カズマたちと違って報奨金もしっかり───」
「財布貸してみろ」
「あ、何をするんですか!? とうとうパンツで強請るのではなく、直接財布に手を出すようになったのですか!? 見損ないましたよカズマ、いえ、カスマ!! かくなる上は貴方を私の手で捕まえ、幾ばくかの金銭を……」
「お前も十分カスじゃねえかよ!! いいから貸してみろって……力強ッ!?」
めぐみんはアークウィザード。後衛職であり、レベルを上げようと筋力値もあまり伸びず、多少レベルで上回っていたとて"基本"前衛職に筋力値で敵うことはない。そう、"基本"は。
ここに座すお方は佐藤カズマ。魔王軍幹部ベルディアを討伐せしパーティの主。アークウィザードのロリ娘にすら劣る筋力、ないに等しい魔力、小学生レベルの敏捷。それに微妙に高い知力とクソ高い幸運を併せ持つ新進気鋭の冒険者である。
「良いから離しなさい! 私が筋力でカズマに負けるわけ……あ、待ってください!! 眼帯は卑怯ですよ!? 渡します、渡しますから……途中で離したせいで中途半端に痛いッ!?」
叫ぶほどではないが、悶絶するレベルの痛みは襲ってきたのかその場で眼帯を押さえ机に突っ伏すめぐみん。
それを他所に、カズマはめぐみんから平和的な交渉で受け取った財布を広げ、中身を放り出すように入り口を机に向けて振る。
「……何にも出てこないわね」
「めぐみん、これは一体どう言うことなんだ?」
「……黙秘権を」
「眼帯」
「ごめんなさい」
めぐみん曰く。ベルディア討伐の報奨金で、以前新調した杖を更に良いものにアップグレードした、と。これにより爆裂魔法の威力が向上。燃費その他利便性は一切向上していないものの、確殺範囲を広げることのできる素晴らしく意義のある強化。財布の中身がすっからかんになったがこれは必要経費である、と。
案の定ブチ切れたカズマに眼帯の刑を食らい、再び悶絶する。
「ダクネスは何もないにしろ、お前ら二人が金を使い込んだせいで割と財政状況がまずい。七海に借りるのも……なんというか、後が怖い」
「……何となくわかります。事情を話したら貸してくれそうではありますが、説教がついてきそうで……」
「うーん……」
「どうしたんだアクア、珍しく難しい顔をしているが」
「珍しくは余計よ。あのね、確かに私たち二人はお金に困ってるけど、カズマさんがそれを気にするのはなんでなんだろうなーって」
普段のカズマであれば、二人が財政危機に陥ろうが、バイトでもして自分で稼げ、と切り捨てるはず。
なんならその二人の前で悠々としゅわしゅわを飲む様を見せつける鬼畜である。
そんな彼に人の心があるのだろうか。いや、ない。
知力が終わっているアクアはその理由に思い当たっていないようだが、もう一人の残念娘、めぐみんはステータス上の知力は七海をも上回る値。理由にすぐさま思い当たり、カズマを問い詰める。
「……カズマ」
「な、何だよめぐみん。いいから、早く掲示板に行ってクエストを……」
「貴方は確か、我々の中で貰った報奨金が二番目に少なかったはずですよね」
「…………」
「もしや、日々の飲み食いで既に使い切っているのでは?」
カズマパーティの中で、放置プレイダクネスは報奨金ほぼゼロ。次いでアンデット撃破の指揮を取ったとはいえ、全体を通しての活躍度は控えめなカズマの報奨金はかなり少なく、そこらの高難易度クエストでもらえる報酬に少し色がついた程度。
とても贅沢な飲み食いを続けて持つような額ではなく、最近のギルドでの豪遊ぶりを考えると、既に使い切っている可能性は十分にある。
「アクア、ダクネス」
「ちょ、オイ、何してんだお前ら!! 離せ、最近は女がやったとしてもセクハラが成立するんだぞ!! 司法の力舐めんなよ!!」
「多分正論なんでしょうけど、パンツハンターカズマさんが言っても何の説得力もないのが悲しいわよね」
「……なんというか、アクアが理解していることを私が理解できない、と言う事実にとてつもない屈辱を感じている。これはこれで気持ちいいが、悔しさの方が先行すると言うか……」
「ぬぁぁぁぁんですってえええ!!!???」
遠回しな"貴方は私よりもバカです"との宣言を受け、アクアはブチ切れた。器用にカズマを片手で押さえながら、ダクネスに向かって必殺のゴッドブローを放つ。
無論、鎧を着ていればアダマンタイトにすら勝る硬度を誇るダクネスにその拳が通用することはなく、ダメージを受けるのはアクアの方であったのだが。
「何勝手に自爆してるんですかアクア……。まあ、それはさておき。カーズーマー? この財布の中身は何ですか??」
チャリン、と。カズマの財布の中から、百エリス分の硬貨が落ちたのみ。それ以外には何もない。
勝ち誇るめぐみんとアクアだが、この戦いに勝者など存在しない。無一文であることを晒される人間が二人から三人に増えるかどうか。要するに、とんでもなく醜い足の引っ張り合いである。
「サトウくん」
「な、ナナミ? どうしたんだ、こんな時間にギルドにいるなんて珍しいじゃないか」
「貴方は。貴方だけは、まだまともだと。そこの三人と比べ、良識がある方だと、信じていました」
「うッ」
他者からの期待なんぞクソ喰らえ。私立校に入れてもらいながら不登校になった時点でその手の感情、他者に軽蔑、ないし期待されなくなることへの負の感情は捨て去った、はずであった。
異世界で出会った、ただ一人のまともな大人。アクの強い人物たちに混ざった清涼剤。
カズマとしても内心かなり尊敬していた七海からそのような言葉を吐かれるのは、流石にメンタルにそれなりのダメージを負う。
「………………」
「………………」
「………………」
結果。一文無しの死体が三つに、放置プレイ再び、と興奮する変態が一匹。呆れ返って頭を抱える七海と、彼を慰めに行くべきかタイミングを窺うルナという、凄まじい絵面の光景が完成した。
二巻分の始まりです。依然として亀投稿ですが、お付き合いのほどよろしくお願いします。
つづき、そのうちでるよ