雪精。基本的には無害な生き物であるが、一匹倒せば春が半日早く来る、と言われるモンスター。
その性質上討伐した際の報酬も中々の高額となっており、資金不足に陥るカズマパーティにとっては格好の任務であると言える。
が。当然、危険度が低く、討伐優先度が高いモンスター、と言うだけでここまでの高額報酬が用意されようはずもない。
「しかし、雪精となると……」
「雪精討伐ね!! そしたら準備してくるからちょっと待ってて!!」
雪精は、寒さ厳しい雪山に潜むモンスター。超生物ならともかくとして、一般的───若干一名の神を除き生物としての定義的には一般的な人間に位置する面々にとって、寒さ対策は必須。
謎の防寒性を兼ね備えるスーパースーツを着用する七海はともかくとして、暖房に慣れ切った現代っ子カズマが今の服装のまま山に入れば間違いなく凍死する。
「……前から思っていたのですが、サトウ君は本当に引きこもりだったのですか?」
「ゔ、そこを掘り返すかナナミ。ダクネスに影響されてドSに目覚めたか?」
「やめてください」
「す、すまん……」
雪山。ふわふわと浮く雪精に剣を当てられず悪戦苦闘するダクネスと、ゴッドブローを躱されいらつくアクアと、杖を振り回して今の所1番のキルスコアを誇るめぐみん。ほどほどに狩りながらそれを見守るカズマと七海、と言う構図になっていた。
今までの、鬱陶しそうな感じの言葉ではなく。心底その言葉を否定したい。撤回を求めたいとでも言わんばかりのガチトーン。
自らにも思い当たる節があったのか、流石のカズマも即座に謝罪する。
「それで、俺が引きこもりかどうか、だったか?」
「はい。コミュニケーション能力が不足するわけでもなく、出不精というわけでもなく。正直、行動内容が引きこもりのそれではない」
「あー、まあ、なんつか。あん時はネトゲにハマってて、それで満足してたからな」
「……成る程。ネットゲームで充足感を得られていたが故、態々辛い現実世界と向き合う必要がなかった、と」
「そういうことだな。同時期に色々メンタルに来ることもあったし、それで余計にって感じだ」
成る程、と。カズマの話を聞き、七海はもう一度頷いた。
「……余計に貴方から目を離すわけには行かなくなった」
「保護者かよ」
「事実、貴方の生活費を多少なりとも工面していると言う点ではそう言っても過言ではないでしょう」
「ごめんなさい」
まさしく、勢い余って金を使い切った息子のために、仕送りを増やして何とか支援する親の如く。
アルバイトを始めて金銭感覚が狂ってきた大学生が陥りがちな罠に異世界でハマったカズマは、口論に持ち込んだとて一方的にボコられて終わると悟り、素直に謝罪した。
「そ、そういう七海は何をやってたんだ? なんつーか、その、すっげえ強いし」
この"強い"とは、単なる身体能力面の話ではなく、戦闘技術を指すもの。
ミツルギのような神器ありきのチート転生者とはまた異なり、例え武具がどんなものであろうと、ある一定の強さを保つことができる。
七海の強さとは、確かな技術に裏打ちされたソレだと、素人同然のカズマでも先のベルディア戦で理解した。
「……アクアさん曰く。私は転生システムに何か異変が起こり、イレギュラーな形でこの世界に訪れることになった、とのことです」
「……もしかして、地球出身じゃなかったり?」
「いえ、私は歴とした地球生まれです。恐らく、"貴方と異なる"地球ではありますが」
「…………あー、並行世界的なアレか?」
「恐らくは」
カズマもそう入った作品を嗜むオタク。七海の発言から即座に言わんとすることを読み取ってみせた。
別なる地球、それこそ戦乱に満ち溢れたそれから来たのであれば、七海の戦闘技術にも頷ける。そうならなければ、生きていけなかったと言うことなのだろうから。
「いえ、そう言うわけでは」
「あれえ? ……て、なると、アレか。ニチアサ方式か」
「ニチアサ方式…‥とは、いったい」
「選ばれし数人の勇者ー、みたいな感じに、特定の誰かにだけ戦う能力が渡されてる的なアレ」
「……まぁ、間違ってはいませんね」
事実、呪術師として戦えるまでの呪力を与えられているのはほんの一握り。力を望んだか否か、と言う違いこそあれど、まぁ、根本的な部分で間違っているわけではない。
呪術師としての仕事、事情を赤裸々に語ることも憚られる。であるのならば、この勘違いは訂正せずそのまま放置するのが得策であろう。
「かっけえよなあ、七海の力。俺にもそんな感じのやつがあったらいいんだけど」
「……まぁ、ないことはない、のかもしれませんが」
「マジで!?」
「そうですね、佐藤くん。では、貴方の思う"1番強い人物の技"を思いっきり再現するつもりで、力を入れてみてください」
「うーん、一番強い技…………ドラゴン波ァァァァァァァァ!!!!!」
凄まじい気合いと共に、カズマの咆哮が放たれる。その咆哮に恐れ慄いた雪精はふわふわと宙を漂い、アクアはカズマを指差し大笑いして、めぐみんは目を輝かせ、ダクネスはカズマが受ける羞恥心を想像しその身を悶えさせる。つまり。カズマに、術式は備わっていなかった。
「……佐藤くん。すみませんでした」
「チックショオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」
カズマはその場を走り去っていった。その行先がちょうど下山道に繋がっているのは、彼の幸運故だろう。
残る三人も既に十分な量の雪精を狩ったからかホクホク顔でその場を後にした。
「ナナミー、早く来ないと置いてくわよー!?」
「私はもう少し残ります。貴女方は先に下山を」
「あー、確かに、カズマさんに付き合ってて一匹も狩ってないものね。わかったわ、それじゃあ先に降りてるわね」
「はい、そうしてください」
そうして、アクアたちの姿が見えなくなった頃であろうか。地上を覆い尽くすほどの大きな影が、姿を現した。
「特別指定モンスター、"冬将軍"。……なまじ伝承が呪霊化する例を見ている以上、馬鹿げた、と一蹴することもできませんね」
武器を抜くことすらせず、ただ悠々とその場に佇む冬将軍。まともに戦えば命はない、と。それこそ火山呪霊にも匹敵しかねないほどの威圧感を前に七海は息を飲む。
ここまで待ってくれたのは、仲間を守らんとする七海の心意気を買ってのことか。どこまでも"将軍"らしい。
で、あるのなら。突破口はある。
七海は嘆息し、思考を巡らせた。
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