この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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第14話

「…………」

 

 冬将軍に言葉を発することはできない。これだけの力を持つとなれば形態を変化させ声帯を持つことも不可能ではないのかもしれないが、少なくとも、今の将軍にそうするつもりはない。

 

「なるほど、これは確かに、私では敵いそうにない」

 

 直接戦闘をしたのならば、七海とて無事では済まないだろう。勝てるかどうか、と言うことは戦闘の勝利条件ではない。戦闘が終わったのちに命があるのかどうか。そこを勝利条件としたとて、果たして1割あるかどうか、と言ったところ。

 そもそもリーチが違いすぎる。七海が鉈を振りかぶり、距離を詰め、振り下ろす。その一連の動作を終えるよりも、冬将軍が七海の首を断ち切る方が何倍も早い。

 

「で、あるのならば……」

 

 両膝を折り、武器を手から離す。冬将軍は刀を手にかけ、警戒を強める。

  

「誠に、申し訳ございませんでした!!」

 

 土下座。そう、土下座。謝罪の究極形態とと言われるそれの完成度は、人によって大きく上下する。

 大学生がお遊び程度にするソレなど、もはや土下座と呼ぶことすら烏滸がましい。もしそれを土下座と呼称しているのならば、それはその概念自体を侮辱していることに他ならない。

 

 謝罪の際に弁明を行ってはならない。謝意だけを持ち続け、ただ自分の非を詫び続ける。社会人時代に培われた技術にやって行われるそれは、まさしくして至高の領域。

 仮にこの場に観客が入っていたのならば、スタンディングオベーションが巻き起こっていることは間違い無いし、ネットで配信が流されていれば同時接続1000万人が皆一様に賛美の声を送る。それほど美しいフォルムである。

 

「…………!!」

 

 そうして、それは、冬将軍の心を動かした。なんと美しい土下座であるのか、と。己ですら、この領域に達することは───。

 強く脳に衝撃を受けた際、人間は時に、存在しない記憶を想起する時がある。それは、精霊でも例外ではないようだ。

 突如冬将軍の脳内に、存在しない記憶が溢れ出す───!!!!!

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「七海よ、何故貴殿はそこまで軽々しく自分の頭を下げられる?」

 

 とある日の冬。雪降り積もる冷たい大地に頭を擦り付けた家臣に顔を上げるよう言った後、主人はそう尋ねた。

 元より、処断するつもりなどない。仮に七海が頭を下げていようといなかろうと、処分としては精々が減給程度の甘いもので終わっていただろう。

 

「お言葉ですが、お館様」

 

 前置きの後、七海は理由を告げる。

 

「この世の中、命よりも大切なものはどこにもありません」

「ほう。武家の習わしとは異なり、生き汚かろうとその命を繋ぐことが大切、と申すのか」

「はい。幸いにして、我々は食うに困らない身分にある。兎角、命さえ繋げばどうにかなります」

「……理解できぬな」

「それが正常かと。お館様は生粋の武人なれば、私の考えなど切って捨てるべき思考、としか思えないはずだ」

 

 生き恥を晒すぐらいならば、潔くその腹を切れ。そう教えられて育ったし、その思考を疑う余地は今までなかった。そうであるが故、余計に七海の異質な思考には興味が湧く。

 

「何故、そう考えるようになった」

「知謀策謀に優れる軍師も、並外れた武勇を誇る武人も、桁外れの知識を持つ知識人も。死してしまえば皆、物言わぬ骸に他なりません。そこに、違いは表れない」

「…………」

「私が頭を下げるのみで、優れた武人になる可能性を秘めた部下の命が救われる。それならば、安いものです」

「……なるほど」

 

 七海の思考には納得せざるを得ない点があった。

 実際、自分が死んだ後のことなど死んでみなければわからない。坊主の言う通り浄土に向かうのか、それとも幽霊のようにこの世を彷徨うのか、綺麗さっぱり消え去ってしまうのか。

 だが、どちらにせよ。現世への干渉が難しくなる、と言うのは、過去多数の事例を考えても明らか。

 

「七海」

「はっ」

「今この時より、お前を俺の側仕えに任命する。この国の主人として、お前の思考には見習う点がある故な。学ばせてくれ」

「…………ちなみに、今の職は……」

「兼任だ。なあに、細かい世話などは他にやらせる故、お前は偶に、俺に考えを語って聞かせてくれるのみで良い」

「で、あるのならば。承知致しました」

 

 なあ、友よ。俺は果たして、お前の主人として相応しい存在で在れただろうか、と。掠れゆく意識の中、走馬灯として思い浮かんだ過去の情景。己が変わった、最初のきっかけ。

 走馬灯にいた、既に戦場にてこの世を去った亡き親友に語りかけるかのように、男は最期に小さく、呟いた。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「……というわけで、何故か見逃されました」

「えーっと……まぁ、とにかく、冬将軍に出会って命があっただけ十分凄いですよ、ナナミさん!!」

「それもそうですね。あれは、まさしく規格外だ」

 

 冬将軍に出会った後、一連の出来事をギルドに報告した七海。内容が内容故ルナも多小言葉に気を遣うところはあったが、それでもそれは本心から述べられたもの。

 ギルドとしても冬将軍から逃げ延びた事例が情報として手に入るのは万々歳であるし、ルナ個人としても想い人の命が繋がったとなれば万々歳である。

 

「では、こちらは貴重な事例として上にあげさせて貰いますね。恐らく、ナナミさんには後日、報奨金が支払われると思います。ベルディア討伐後の報奨金でギルドにも貯蔵がないため、少しお待ちいただく形にはなりますが……」

「構いませんよ。貴女方にも都合があるのは理解しています」

「ありがとうございます!」

 

 うわもう私の旦那マジで優しい!! ルナは内心狂喜乱舞していた。当然彼女の心中、七海はルナの旦那ではないと突っ込む人間はどこにもいない。

 

「あ、そうだ、ナナミさん。最近、街中に美味しいカフェができたのはご存知ですか? よければ一緒に───」

 

 そうして、職務を終えたルナが私人モードに入り、ナナミと約束を取り付けようと格闘する傍ら。受付ブースでは、一人の男が冒険者登録を行おうとしていた。

 

「……はい、確かに1000エリス、お受け取りしました。それにしても、珍しいですね。年に二回も、登録料を他人から借りる方がいるとは……」

 

 転がされた金髪のチンピラから約束通りキッチリとエリスを徴収した男。カズマ然り、基本的にこのようなことは滅多にないため、受付嬢が思わず口に出す。

 

「あ、申し訳ございません!!」

「はっはっは、構わんさ。俺のような人間が珍しいのもよく理解できる」

「あ、ありがとうございます。お優しいんですね」

「これも、友からの教えだ。上に立つものであるからこそ、人を許す寛大さを持ち合わせよ、とな」

「な、なるほど。……では、次に、お名前をお教えいただけますか?」

 

 長話の気配を察知して話を切った受付嬢は、定例通り名前を尋ねる。

 そうして、次の瞬間、彼女は悲鳴にも似た声をあげることになる。そして、再びルナから理不尽なパワハラを喰らう未来が待ち受けているのだが、当然この瞬間の彼女がそれを知り得るわけはない。

 

「そうだな。呼び名はいくつかあるが、此方ではこう名乗るのが適切であろう───冬将軍、とな」

 




これだけは絶対にやりたかった。ノリで擬人化したけど今後出てくるかは不明です。
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