「……久しぶりに一人になった気がする」
気がする、というか、事実七海が完全に一人となるのは割と久しぶり。最近はアクアやめぐみんに付き纏われたり、鼻息荒く罵倒するように迫ってくるダクネスから逃げ回ったりしていた。唯一のオアシスはカズマである。ここは地獄か。
肝心の面々はパーティ交換なる謎イベントで各々クエストに出かけているらしく、この日の七海は完全フリー。討伐任務を受けようかとも思ったが、ルナ曰く目立ったものは特にない、とのこと。
「あれ、ナナミさん?」
「……貴女は」
トテトテ、と擬音がつきそうな可愛らしい走り方で向かってくるのは、アクセルが誇る貧乏店主ウィズ。全男子が目線を釘付けにされるソレも、七海からすれば容易に視界から外すことが可能。
尤も、鈍いウィズは周囲の男性からどんな視線を向けられているか、など気付くはずもないのだが。
「お久しぶりです! 墓場の時以来ですね!」
「そう……なりますかね」
「あ、そういえば、ベルディアさんを討伐されたようで、おめでとうございます!」
「……貴女は……いや、これは往来でする話でもない、か」
「ん? ……あ、なるほど。それでは、私の店に来ませんか? お茶ぐらいなら出しますよ!」
お金がないので粗茶ですけど、と。ぽわぽわ笑うウィズに毒気を抜かれた七海は、提案を了承。そのまま並んでウィズの店へ向かう流れとなる。
本来であれば、己を殺し得る実力を持ち、尚且つ敵味方がはっきりしない輩と二人きりになるなど、何があっても避けねばならないことなのだろうが。どうにも、自分はこの世界に染まり始めているらしい。
一つ嘆息した七海は、此方に向けて手を振るウィズの後に続き早足で歩き出した。
☆♪☆♪
「簡単に言いますと、私とベルディアさんは別に仲がいいわけではないんです」
出されたお茶を啜りながら、ウィズの話を聞く七海。どこで鍛えたのか、意外とお茶を淹れるのが上手いウィズに感心しながらも、その話の内容は決して聞き逃せないものであった。
「一枚岩ではない、と?」
「ああいえ、別にそう言うわけでは。イレギュラーな私が言うのもアレですが、基本的に皆さん上の命令に従って動いていますよ」
「上、というのは、魔王のことであっていますか」
「そうなりますね。とはいえ、諸々指揮系統が細分化されていたり、細かいところはいくつかあるのですが……私はそこまで詳しくないんです、ごめんなさい」
聞けば。ウィズはあくまで魔王城の結界を維持するために属しているだけに過ぎず、むしろ無関係な人間に積極的に危害を加えるようならその際は人類の側に立つ、と告げてある、とのこと。
それを踏まえてなお魔王がウィズの存在を黙認できるのは、城の結界維持という事象がそれほどまでに重要なのか、それとも敵対した際はいつでも殺せる、と言う自信の表れか。なんにせよ、考察するには材料が足りない。
ウィズも真面目な話を終えてまたもポヤポヤした雰囲気に戻っていることだし、今日はこれまでだろう。七海は思考を打ち切り、ふと周囲を見渡した。
「……爆発するポーション?」
「あぁ、これは衝撃を与えたら爆発するポーションなんですよ」
「そちらは?」
「蓋を開けたら爆発するポーションですね」
「これは」
「振ったら爆発するポーションです」
「……」
「刺激を与えたら爆発するポーションです!」
「……」
「購入されますか?」
「…………いえ、遠慮しておきます。私では使い熟せそうにない」
七海は、ウィズの商才の無さを悟った。なんだこの爆発群は。なんで爆発するポーションの取り揃えが無駄にいいんだ。棚に溢れんばかりに積まれたそれを見るに、おそらく売れていないのだろう。
値段が高くアクセルの冒険者には手が出しにくい、と言うこともあるのだろう。これ一つ買ってクエストをクリアしたところで、儲けは少ないどころかヘタをすると赤字になる。
「このトイレをする時に音を出す魔道具も、何故か売れないんですよね……」
男女混合パーティも珍しくないこの世界。風呂やらトイレやらの問題は常であるが、それを解消できる素晴らしい魔道具である。
繰り返し使用ができ、多少値は張るが、それでも十分買う価値がある品と言えるだろう。カタログスペックだけを見れば。
「ちなみに、欠点は?」
「音が大きすぎて、鳴らしている途中に周りからモンスターが寄ってくる程度、でしょうか」
「…………」
アホか。排泄物を垂れ流しながら戦え、とでも言うのか。よしんば仲間にトイレ中周りを固めてもらうとしても、そうなれば本末転倒でしかない。誰が買うんだこんなガラクタ。
罵倒もほどほどに七海は心中一つの疑問が浮かぶ。
「……恐らく、この店にはあまりお金がないと見えます」
「うッ……は、はい。その通りです……」
「仕入れの際は、どこからお金を調達しているのですか?」
「なけなしの売り上げを使うか、それでも足りないときは冒険者時代の蓄えを切り崩してます……」
「冒険者時代?」
「はい。私、これでもリッチーになる前は"凄腕''なんて言われる冒険者だったんですよ?」
氷の魔女、などと呼ばれ、凄腕パーティの一員として活動していたのも今や遠い昔。懐かしいなぁ、と過去を回顧するウィズに、七海は一つの疑問を持った。否。持ってしまった。
「ふと、気になったのですが。ウィズさんのご年齢は───」
「20歳ですよ?」
「……20?」
「はい! リッチーには年齢という概念が存在しませんので、必然的に私の年齢はリッチーになった時から止まっていることになりますから!」
「ちなみに、正確な年齢の方は」
「20歳です!」
「いえ、その」
「20歳です!」
「申し訳ありませんでした……」
少しづつ圧を強めるウィズに、七海は屈服した。女性経験の少なさが故か、呪術師ならではの感覚バグからかは定かでないが、この件に関しては流石に七海がノンデリカシーな為、さもありなんといったところだろう。
七海がいるとパーティ交換楽勝になるからね、仕方ないね