この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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今回の話を読む前に、呪術廻戦全く知らない人は灰原雄と七海建人について少し調べたほうが楽しめると思います。


第17話

「やあ、七海! 久しぶり!」

「……ッ」

 

 落ちた先。そこで待ち受けていたのが真人や漏瑚ならば、むしろまだ良かったのだろう。

 なにせ、彼らは七海にとって倒すべき敵に他ならない。勝てるかどうかは問題でない。どうせ、やらなければやられるのはこちらだ。であるのならば、武器を手に取って最期のその刻まで力を振い続けるのみ。

 

 しかし。そこに待ち受けていたのは、よりにもよって。

 

「灰原……ッ!」

「……まぁ、信じられないよね。僕も信じられないし!」

「偽物……というわけでは、ない?」

「……うーん、まぁ、そうなるのかな? 七海の死に際の記憶までを共有しているって点で言うと、本来の僕ではあり得ない事象なんだけど……」

 

 色々ややこしいものの、とにかく、目の前にいる男は"今の所“灰原雄本人である。リスク管理のみを考えるのであれば即座に切り捨ててしまえば、モンスターによる幻覚であっても対処可能となるのだろうが。

 七海建人にそれを求めるのは、酷というものであろう。

 

「この世界は、まぁ、簡単にいうと。七海の記憶を元に再現された、精神世界とでもいうのかな。あんまり難しいことはわかんないけど、とにかくそういう感じ!」

「精神世界?」

 

 朗らかに笑う灰原を前にしても、七海は思考を止めない。

 精神世界。七海の術式にそう言った類の効果はなく、且つ、モンスターが扱う術にしてはこちらに対する害意が感じられない。

 それこそ、夢境に人を閉じ込め、生命エネルギーを吸う、とでもなければ、本当に何のメリットもない術となる。

 

「ああ、現実の七海の身体は、"マホウ"? で保護されてるよ! 呪術とはまた違うらしいんだけど、これもよくわかんないや」

「……ここから出るには?」

「ああ、簡単だよ! 北に進めばいいんだ!」

 

 灰原は北の方角を指で指し、ニカっと笑顔を浮かべて見せる。

 

「代わりに南へ行けば、昔の自分。要するに、高専時代に戻ることができる。その選択権は、七海にある」

「……………………」

 

 高専時代。歌姫冥冥五条夏油家入と言った、一部除いてカス同然の先輩に、やかましい同級生の灰原。面倒のかかる後輩の伊地知、すぐに手の出る、しかし教育者としては間違いなく優れた人間である夜蛾に囲まれた、懐かしき時代。

 決して、楽ではなかった。任務は辛いし、日々の訓練のしんどい。しかし。間違いなく、七海が地球で過ごした時間の中で、"楽しい"と自信をもって言える時間でもあった。

 

 灰原は死んだし、己も死んだ。あの青春は、二度と帰ってこない。過ぎた時間が巻き戻ることなど、あり得ない。それが、世の摂理。しかし。簡単に捨てられる過去でないことも、また事実。

 

「……これは、僕の戯言として聞いて欲しいんだけどさ」

 

 いつになく真面目な表情。真面目なトーンで、灰原は声を出す。

 

「仮にここで七海が南を選んだところで、責める人はどこにもいない。僕だって責めないし、五条先輩たちも勿論、君が面倒を見ていた虎杖くんだって、その選択を否定することはない。君は生前、それだけのことはやってきたんだ」

「…………」

 

 まぁ、実際そうなのだろう。事前においては、真人の存在を明らかにし、五条が持ち帰った漏瑚の情報、交流会を襲撃した花御の情報と整合して、徒党を組む特級呪霊の存在を露見させる。

 渋谷においては特級呪霊の討伐に助力し、且つ、低級の呪霊を多数祓う活躍。呪詛師重面を止めとまではいかなくとも重大なダメージを与えるなど、その活躍ぶりは誰もが疑う余地はない。

 

「…………仮に。私があの呪霊にやられ、死んだ直後であれば、南を迷わず選択していたでしょうね」

「……七海」

「一度引き受けたのであれば。どれほど面倒でも最期まで責任を持って取り組むのが、大人としての責務です」

 

 座っていた椅子から立ち上がり、北を向く。存外、自分は彼らのことを気に入っていた。''彼"と同一視することはなくとも、今さら捨て置くことのできない存在である、と。知らず知らずのうちに認識していたのだろう。

 自身の気質か、それとも社会人時代に染みついた根性か。自嘲するように一度笑い、そして、歩き出す。

 

「……そっか。進んだんだね、七海は」

 

 あの日、あの時。灰原の時計は止まり、そして、再度動き出すことはない。それを理解しているが故、灰原もまた、珍しく自嘲するような笑いを一瞬浮かべた。

 

「……ま、いっか! 七海だって虎杖くんに凄いのを残したわけだし!」

 

 そして。何かを決心した灰原は。いつもの笑みを浮かべ、叫ぶ。

 

「七海!!!」

 

 託す、だなんて、綺麗な言い方はしない。今から残すのは、特大の呪い。場合によっては、七海の生き方を縛りかねないもの。しかし。

 

「君は、僕の分まで生きてくれ!!! またいつか、本当に再会できた時、お互いにさいっこうの笑顔でいられるように!!!!」

 

 七海が歩みを止めることはない。灰原の叫びが聞こえていたのかもわからない。

 そうして歩き続けるうちに、世界は歪み、捻れ、曲がり。そうして───。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「ナナミさん、無事!?」

「……一応は」

 

 石の壁に囲まれた中、後頭部に感じるのは柔らかい感触。

 目を開くと直通でクリスの顔が見えており、今、彼女が自分に膝を貸している状態であることを理解する。

 

「すみません、今起き上がります」

「いやぁ、私の方こそほんっとうにごめん!! お宝はちょっとあげられないけど、他のことで済むのならなんでも……! あ、えっちなことはダメだからね!?」

 

 謝っているのか、それとも馬鹿にしているのか。よくわからない物言いに対し、普段ならば、七海はツッコミを入れるか、無視して出口を探し出すかするのだろう。

 しかし、この瞬間においては。

 

「生きてくれ、か」

 

 案外早く見つかった出口。クリスを先に行かせ、誰もいなくなった冷たい部屋を後にする際、七海はぽつりと言葉を発す。

 

「……また、いつか」

 

 ゴーグルの縁に付着した、一滴の水。それを部屋の床に流し、七海は歩を進める。くだらなくもあり、面倒でもあり、ほんの少しだけ素晴らしくもある。そんな、新しい日常へ向けて。

 




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何で突然精神世界?→神器ぱわー
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