「───それはまた、なんとも」
曰く、ウィズの店に転がり込んできた、悪霊退治の依頼。男が所有する屋敷に突然多数の悪霊が棲みつき始め、悪評が絶えず困っている、とのこと。
凄腕の大魔導士として通るウィズに対し依頼の解決を持ち掛けてきたわけだが、肝心のウィズはアクアの浄化魔法により半透明になるまで弱っており、とてもではないがすぐに依頼を遂行できる状態ではない。
せめてもの罪滅ぼしに、と。カズマがその依頼を受けたわけだが。なんと、屋敷の悪評が完全になくなるまでは、カズマパーティにその所有権を一時的に譲渡する、と太っ腹な報酬を提示された、とのこと。
ホテル暮らしの七海はともかくとして、馬小屋暮らしのカズマたちにとって、一時的とはいえ家が手に入るまたとない機会であるのだ。血眼になるのも無理はない。
「ほんっっっっとうに馬小屋暮らしは辛いんだ! うるさいし、臭いし、狭いし、後臭いし!! 馬糞の匂いに包まれて目覚めるなんざ、考え得る限り最悪の目覚め方だぞ!?」
アクセルの冒険者は、基本的に金がない。飯に酒、たまーにアチラ系の店に投資をするなど、あればあるだけ金を使う民族なのだ。
無論、そんな民族がホテル暮らしなんて贅沢なことをできるわけもなく、基本的には無料で貸し出されている馬小屋の一角を宿として利用することになる。
が。当然、馬小屋というだけあり、獣臭はするし馬糞の匂いもあるし、他の冒険者との間に碌な防音の仕切りもないため音が直通で届き、うるさい。なんならたまに喧嘩も起こる。
「そうですよ! 私としても、いつカズマにセクハラをされるかわかったものじゃありません!!!」
「わ、私としては飢えた男冒険者に襲われる可能性を孕む場所を簡単に切り捨てるのは勿体無いと言うか……」
「ダクネスは黙ってなさい!! 悪霊退治なんてこのアクア様にかかればあっという間よ! 女神パワーを見せてあげるわ!」
「……アクア、まだ自分のことを女神だと誤認しているのですか?」
「ストレスを溜め込んでいるのなら、抱え込まずいつでも相談するんだぞ? 私たちはパーティなのだからな」
「なぁあああんでよおおおお!?!?」
アクアのお家芸が炸裂する横で、カズマと七海は詳細を詰める。
実際、アクアはあれでも歴とした女神。リッチーであるウィズやデュラハンのベルディアを浄化できるぐらいなのだから、並大抵の悪霊であれば抵抗を許すことすらなく浄化させられるだろう。
どこを見渡しても、受けない理由がない。一応、リスクヘッジに関してはカズマにそこそこの信を置いている七海。特に何かを疑うこともなく、依頼の受注に賛同した。
「あー、それで、そのー。ナナミは、どうする?」
「どうする、と言いますと」
「俺たちと一緒に住んでくれるのかなーって……」
「ああ」
なるほど、と。確かに、成人している七海が15そこらのめぐみん、20にはなっていないであろうダクネス、推定年齢不詳のババアであるアクアと一つ屋根の下住むのは、些か問題があると言わざるを得ない。
それはそれとして、年頃の青年であるカズマが彼女らと宿を同じくするのも、普通であれば問題であるのだろうが。
カズマ自身が相当なヘタレであること、彼自身女性陣のことをどこかナマモノのように認識している節があることから、そこは特段心配していない。
「……そうですね。私はこのままホテル暮らしを継続しましょう。ああ、依頼の遂行にはご協力しますので、その点はご心配なく」
「いやいやいやいやいやいやいや、むしろナナミが一緒に住んでくれないと不安でしかないんだよ!!! 俺一人にこの問題児どもを押し付けるつもりか!?!? 鬼か!?!?」
変態一匹、厨二病一匹、駄女神一匹。皆見目だけは優れるところが唯一の利点。ただし、ドMを日夜いなし続け、酔っ払いのゲロを処理し続け、厨二病の爆裂散歩に毎日付き合い、以上三人が起こすトラブルを解決することに対するメリットとして釣り合うかと言われれば、まぁ、お察しである。
「全く、一体誰を捕まえて問題児などと……」
「ところ構わず爆裂して衛兵のお世話になってるお前だよ!!」
「女性のパンツをスティールして牢屋に入れられる貴方より数倍マシです!! むしろ、私の爆裂によって地形を変えられるのであれば、土地の持ち主も本望でしょう!」
「なわけあるか!! だいたいお前は───」
破壊魔VS猥褻罪常習犯。文字に列記するとこの世の終わりのような争いを尻目に、アクアとダクネスもまた、七海に共に住んでもらうよう説得をしていた。
「実際カズマさんがどうとかは置いといて、ナナミが居てくれると色々助かるのよねー。家事とか家事とか、後家事とか」
「それに、私たちはパーティメンバーだろう? 宿を同じくしなくてどうするんだ」
「私は男性です。女性の貴方方と住むのは───」
「いや大丈夫でしょ、ナナミさんがそんなことするわけないですし」
「ああ、ナナミだからな。問題ないだろう」
何故、と聞かれても、理由を具体的に説明することは難しい。"ナナミだから"という根拠のない、しかしこれ以上に説得力のあるものは見当たらない理由を振りかざすダクネスとアクア。
こうなっては、七海としても断る理由を見つけるのが難しい。というか、別に断る理由も特にない。
「……であれば、お言葉に甘えて」
「うんうん、これでやーっと私たちもパーティ!! って感じになったわね!」
「今までは、ナナミだけ別行動する機会が多かったからな。実力差を考えると致し方ないところではあるが……」
「そんな目をしても連れて行きませんよ」
一撃グマであろうと、グリフィンであろうと、なんならエンシェントドラゴンであろうと。恐らくダクネスをワンパンで殺し切れる生物などこの世には存在しない。
とはいえ、自分で攻撃をいなす、ないし回避できる七海にとって、盾をわざわざ連れて行く理由もない。
正直なところを言えば、ダクネスと二人でクエストに行くことの抵抗感が凄まじい、というのが事実であるのだが。わざわざそれを口に出す必要もない。明らかに藪蛇である。
「……そういえば、サトウくん」
「ん?」
「悪霊の発生源はどこか、明らかになっているのですか? そこを潰さない限り、イタチごっこになる可能性がありますから」
「あー……共同墓地とか? いや、あそこはアクアが定期的に除霊に行ってるんだったか」
「……まさかとは思いますが、横着した結果、なにか不都合が生じたなどということは」
「いやぁないだろ流石に。……ないよな?」
「…………否定し切れないのが悲しいところですね」
一日複数話投稿する人ってどんな執筆スピードしてるんやろか