この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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最近割と頑張ってると思うんですよ


第19話

 七海は呪術師である。呪霊と悪霊は厳密に分けると異なるが、そのどちらもが人に対する害意を持ち、排除すべき存在であるのは変わらない。

 呪霊を祓うという行為と、除霊という行為。七海ができるのは除霊(物理)であるため、物理攻撃が通用しない相手であるのならば、アクアに頼るしかないのが歯痒いところ。

 

「なるほど」

 

 伝家の宝刀グーパンが、迫り来る人形に炸裂する。凄まじい勢いで壁に激突したのち、自立して動いていた痕跡すら残さず、人形は力無く床に落下した。

 要するに、この世界の悪霊は、人形などの媒体を介して、人間に対し害を与えるらしく。乗り移る先がこの世のものであるのならば、物理攻撃が通用しない道理はどこにもない。

 

 かと言って部屋の中で鉈を振り回せば除霊前に屋敷が倒壊するため、拳で戦う他なく、効率自体は魔法を扱うアクアに劣るのが実情なのだが。

 

「あ、ナナミ。凄い音してたけど大丈夫なの?」

「問題ありません。……少々、力加減が難しく」

「……前々から思ってたけど、ナナミの世界って皆あなたみたいなゴリラなの? 怖いんですけど」

「私のように……いえ、私以上の怪力が跋扈する世界でしたね」

「嘘でしょ怖すぎるんですけど……」

 

 まぁ、嘘ではない。七海も大概ゴリラの部類ではあるが、特級連中を始めとして素のフィジカルで七海を上回る術師はそれなりの数存在した。

 日頃のアクアに対する鬱憤を晴らすため、多少七海が恣意的な言い方をしたのは事実にしろ、ゴリラが跋扈していたのもまた事実。特に渋谷壊滅後は。

 

「ま、まぁ、それはともかく! ナナミさん、ここに来るまで女の子の幽霊って見た?」

「いいえ、人形以外には」

「その子、ちょーっと訳ありというか、もし見つけても祓わないでくれると嬉しいんだけど……」

「……まぁ、構いませんよ、それぐらいであれば」

 

 アクアは、基本的に悪人ではない。酒は飲むし借金は作るしアホみたいなこともするが、それでも他者を思いやる心、というものは持ち合わせている。

 それに加え、アクアは基本的にアンデット絶対殺すマンである。そんな彼女があえて見逃すよう頼むのであれば、まぁ、何かあるのだろう、と。そのような思考に至るまで、時間はそう要さなかった。

 

「それにしても、随分多いわねえ。こんな量の悪霊が急に湧くなんて、誰か悪戯でもしたのかしら」

「……悪霊とは、悪戯で湧くものなのですか?」

「悪戯だけじゃないわよ? 自然発生的に死体が動くのがアンデットなら、何かしらの悪意によって生まれるのが悪霊、って捉え方でいいと思うわ。まぁ例外はいくらでもあるんだけどね」

 

 例えばウィズのようなリッチーは、自発的に人間がアンデットとなった存在である。

 一般的な悪霊やアンデットは人間的な知能を持たないのに対し、デュラハンやリッチーなど高位のアンデットはそう言った知能を持つなど、種族により特徴も様々。一概に語るには苦しいところがある。

 

「あ、そうだ、ナナミさんナナミさん」

「なんですか」

「最近、いいシュワシュワが手に入ったのよ。王都の貴族御用達の特注品よ! この後、一緒に飲まない?」

 

 おかしい。いいものがあれば独り占めしたがるアクアの思考からして、わざわざ己を誘う理由はどこにもない。

 日頃のお礼、などと殊勝な態度をとるようなタマでないことは、今までの生活が証明している。

 むしろこの状況、今回のクエスト達成において、アクアが一番役に立っているのは明らか。現物で何か寄越すようにいうか、そろそろ調子に乗り出すかしてくる頃でもある。

 

「……何をお望みで?」

「えーっと……そのー……そのシュワシュワを買う時に有り金を全部使い果たしちゃって、明日のご飯を食べられるか怪しいから、お金貸してくれないかなーなんて……あはは……」

 

 もはや、七海は頭を抱えることをしない。むしろ他人に迷惑をかけず、身内で完結している分、アクアが起こすトラブルの中ではマシな部類だと言えるだろう。

 今回のクエストの成功報酬はこの屋敷。ギルドからいくばくか報酬は入るだろうが、それも正直、大した額になることは見込めない。

 

「それぐらいであれば、構いません。また後日返済するようにお願いします」

「あ、ありがとうございますありがとうございます!!!」

「……これに懲りて、金遣いについてもう少し考えてみて欲しいものですが」

 

 まぁ、無理でしょうね、と。ブンブン頭を下げて元気よく悪霊退治に駆け出して行ったアクアの背を尻目に、七海はため息を吐いた。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「───サトウくん」

「ああ」

「つまり、それは。所謂マッチポンプというやつですか」

「そうなるな」

「…………」

 

 財布がすっからかんなだけならまだ平和だった。なんとこのアクアという駄女神、本当に横着をしていたのだ。

 冷たい石畳の上に正座させられ涙目になる彼女を他所に、カズマと七海は会話を進める。

 

「とりあえず、ギルドからの報酬は受け取らないことにするつもりだ。流石に後味が悪すぎる」

「同感です。むしろ、迷惑料やらを支払うべき案件でしょう」

「ちょっと、カズマさんナナミさん? 私今お金ないんですけど───」

「アクアは少し静かにしてましょうねー」

「ひぃやあああああ!?」

 

 正座して痺れた足をめぐみんに突かれ、なんとも言えない悲鳴を上げるアクア。その様子を、顔を赤らめて羨ましいそうに見守るダクネス。

 カズマがいなければ爆裂魔法で悪霊諸共屋敷を吹き飛ばしていためぐみんが、アクアにとやかくいう資格があるのかは微妙なところなのだが。まぁそれはそれ。

 

「まぁそれはそれとして、ありがたく屋敷は貰うんだけどな。流石に個人のスペースが欲しい」

「今まで私たちにバレないように、深夜ガサゴソやってたものね」

「ああ、アクアたちにバレないように───待て、お前今なんて言った??」

「え、だから、カズマさんが夜にオ──にぎゃあああああああ!?!?」

 

 アクアの足を連打して突くカズマ。絶叫するアクア。側から見れば事後にでも間違えられそうな様子のアクアを傍目に、カズマは頭を抱えていた。

 めぐみんは汚物を見るような視線をカズマにぶつけ、七海はどちらかといえば同情したかのような視線をぶつける。

 

 カズマとて年齢上は思春期の男なのだ。そりゃあ色物とはいえ女に囲まれて生活していれば色々と溜まるし、当然発散したくもなる。ただ、年頃のめぐみんにそれを許容しろ、というのもなかなか難しい話だろう。

 

「か、カズマ。そこまで溜まっているのならば、私の身体に思いっきりぶつけてもらうことも吝かでは───」

「チェンジで」

「…………」

 

 ダクネスはビクンと跳ねたのち、動かなくなった。ぞんざいに扱われた喜びと、女としての悲しみが同居した結果、元々そう容量の多くない脳がキャパシティオーバーを起こし、そのままバタンとぶっ倒れてしまったのだ。

 これにより、カズマは人類で初めて、ダクネスを一撃でノックアウトしたことになる。おめでたい。

 

「……サトウくん」

「ナナミ……」

「早く、屋敷に向かいましょう。まずは部屋割りを決めなければなりません」

「ナナミ……!!」

 

 救世主かのように七海を見るカズマ。そのあまりの痛々しさに、七海は思わず身を逸らしてしまった。

 未だ冷たい視線のめぐみん、縋るカズマを連れて、七海は屋敷への道を歩き出した。ダクネスとアクアはナチュラルに置いて行かれた。




そろそろ2巻分も終わりが見えてきた
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