この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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こんちゃ


第2話

「これはまた、なんというか……」

 

 以前相対していた呪霊のような異形を想像していた七海だが、その実ジャイアントトードは、地球にも存在していたごく一般的なカエルをそのまま拡大したかのような見た目をしている。

 ゲコゲコと鳴くその様はまさに人畜無害な───否、田舎にて夜に行われる大合唱を除けば人畜無害な在り方そのものであるが、残念ながら彼らはギルドに指定された討伐対象。

 

 呪術師たる七海が討伐対象に対して躊躇をするわけもなく、容赦なくその脳天に鉈が振り下ろされる。

 

「動きは鈍重、刃の通りもいい。なるほど、確かにこれは素人向けだ」

 

 低級の呪霊すら下回るであろう装甲と移動速度、確かにこのカエル1匹すら満足に屠れないのであれば、その者は冒険者に。少なくとも前衛職には向いていないと言わざるを得ないだろう。

 

「……に、しても。気持ち悪いですね、これは」

 

 呪霊特有の感触とはまた違う、独特の嫌な匂いを放つ粘液。

 カエルに刃を通す際に付着したのであろうそれを振り払いながら、七海はサングラス越しにもわかる程度には嫌な表情をする。

 

 が、依頼は依頼。それなりの額が預けられていた口座も、異世界に来てしまえばもはや引き出す術はない。

 ぶっちゃけ、このカエルを狩らねば明日の生活すら怪しい。具体的に言うと、主に食費が。如何に七海が強くとも、人間が持つ食欲に抗うことは不可能なのだ。

 

 クエストで規定された数の蛙を数分で両断してみせた七海は、余計な時間外労働をすることもなく、そのままギルドに向けて歩みを進めた。

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「…‥なぁ、アンタ」

「何か御用でしょうか」

 

 七海がギルドに戻って真っ先に会話をしたのは、受付嬢ではなく、少し青みがかった髪型をした長髪の男。

 背中に弓を背負っていることからおそらくアーチャー、ないしそれに類する職業なのだろうと当たりをつけたが、それが話しかけられた理由に直結するとは考えづらい。

 

「さっき、カエル十匹の討伐クエスト受けてたよな?」

「ええ」

「…‥もしかして、もう終わったのか?」

「まぁ、はい」

 

 ああ、と。決して異世界転生チート鈍感系主人公ではない七海は、自身が話しかけられた理由に思い当たる。

 如何に高ステータスとはいえ、恐らく通常、新人冒険者は敵に対し刃を振るうことに躊躇を覚えるなどして、もう少し討伐に時間がかかる物なのだろう。

 

 当然七海にその常識が当てはまるはずもなく、ギルドに戻るまでおよそ一時間程度しか経過していないわけだが。

 話しかけてきた男───キースと名乗った───は、恐らく仲間なのであろう男一名、女一名となにやら小声で談合をしていた。

 途中ダストだのチンピラだのと声が聞こえたが、なんのことかはさっぱりである。

 

「では、私は報告があるのでこれにて失礼します」

「お、おお。呼び止めちまってすまんかったな」

 

 短く会話を終わらせ、受付嬢───たまたま空いていたルナの元へと向かう。

 

「あ、ナナミさん! お帰りなさい!」

「どうも。クエストを完了しましたので、その報告をしにきました」

 

 ギルドの受付嬢というのは、ここまで冒険者に対して親身になる物なのだろうか。

 少し疑問に思いはしたが、未だ常識すら知らない世界の、得体の知れない職業のこと。己の常識に当てはめるだけ無駄だろう、と、即座に思考を断ち切る。

 

 冒険者登録の際に発行してあったカードを提出することでクエストの報告が無事完了し、肉代と報奨金を受け取る。

 

「あ、そうだ。ナナミさんに一つ、アドバイスを……」

 

 そこでルナが言葉を切り、七海のいる方向とは異なる場所に視線を向ける。

 釣られて七海もそちらを見ると、そこには以前───具体的に言うならば数時間前に見た青髪の女神と、茶髪の日本人らしき少年の姿が。

 何やら登録料が足りないらしく、エリス教なる宗派の信徒から金を受け取っていたらしい。

 

「……えっと、アドバイス、なんですが「はっ!? はあああああっ!?何ですこの数値!」……」

 

 再び、ルナの言葉が騒音によって中断させられる。

 腐っても女神、アクアのステータスは常人のそれを遥かに凌駕するもの。フィジカル面では七海ら術師、チート持ちの転生者と同等若しくは少し劣る程度だが、魔力に関しては化け物もいいところである。

 受付を担当していたのが歴の浅い人物だった、と言うこともあり、ある種この反応は当然とも言える。当然とも言える、のだが。

 

「…………あの子は後で締める」

 

 物騒な呟きを聞き流し───社会人時代のことを思い出し少しだけ鬱な気分になりながら、ルナにアドバイスを続けるよう催促の言葉をかける。

 

「あ、すみません……。ナナミさんのステータスは確かに高水準ですし、恐らく戦闘技能もかなりのものであると推察します。ですが、ソロのままでいると、いずれ必ず、どこかで壁にぶつかるかと思います」

 

 聞けば。

 王都やアルカンレティア等、危険度の高いモンスターが住まう土地のギルドでは、固定パーティを組まないソロでの活動は基本的に推奨されていない。

 例外として一部の人間───主にコミュ障チート持ちが活動を許される場合もあるが、それは彼らの馬鹿げた討伐実績があってのこと。

 

 現状実績のない七海では、将来拠点を移したところで依頼を受けることすらできないだろう、と。

 先にパワハラ宣言を行っていた女がしたとは到底思えない、至極真っ当なアドバイスであった。

 

「……なるほど。では、パーティ───仲間を見つける必要がある、と」

「そうなります。とはいえ、ナナミさんのステータスであればそう難しいことではありませんので、そこまで気構える必要は「あー! あの時の変なサングラスの人!」……」

 

 二度あることは三度ある。

 次にルナの声を遮ったのは、登録を終えたばかりの女、アクア。

 "高水準なステータス"という単語を聞きつけた彼女は、最弱職たる転生者、佐藤和馬と二人では魔王を倒すのに戦力が不足している───自分が楽できない、サボれないと考え、勧誘のために声をかけたのだ。

 

「……確か、アクアさん、でしたか」

「そうよ! いやぁ、こっちに連れてこられてどうなることかと思ってたけど、なんか強そうな貴方がいれば安心ね!」

「すんませんほんっとすんません、このバカ今すぐ下がらせますんで、どうかご勘弁を……」

 

 茶髪の少年───恐らく虎杖と同年代程度であろう男がアクアの頭を引っ掴み、頭を無理やり下げさせると同時に己の頭も下げる。

 大方転生特典として、目の前の女神を選んだのだろう、と当たりをつける。

 既に信者が絶えた土着神すら、呪霊の区分にして一級相当の力を誇ることがあるのだ。未だ信者を持つ高名な神ともなれば、馬鹿げたステータスをしていても何もおかしいことはないだろう。

 

「……嵐のような人たちでしたね」

「ええ。……思い出したくもない人の顔を、思い出してしまいました」

 

 去っていったアクアとカズマに、自身の上司のような存在であったドブカス白髪男の顔を思い浮かべる七海。

 恐らく天然物の馬鹿であろうアクアと、考える頭があるくせに理性を蒸発させている五条悟、と言う違いはあるが、そのどちらもが七海にとって基本的に悪性寄りの存在であることには変わりない。

 呪霊と違い見目はどちらも優れている分、余計にタチが悪い。

 

「ああ、そうだ。仮にパーティ探しが難航した場合、此方で斡旋することも可能ですので、もしよろしければお声がけください」

「わかりました。ご丁寧にありがとうございます」

「いえいえ♪」

 

 パーフェクトコミュニケーション。ルナは、七海の好感度メーターがぐんぐん上昇していく様子を幻視した。

 それと同時に、同僚の受付嬢から彼女へ、抜け駆けは許さぬ、とでも言いたげな視線がいくつも寄せられるわけだが。

 今のルナは、もはや無敵の人と言っても過言ではない。フン、と鼻で笑った後、上機嫌で事務作業へと戻っていった。

 




東堂、色々な意味ですごかった……
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