この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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こんにちは


第20話

「……そろそろ、ですかね」

「よーし、オープン!!!」

 

 鍋の蓋が開かれ、見事なまでに立派な蟹が姿を現した。

 ダクネスの実家から送られてきたという、高級な蟹。ベルディア討伐時の報奨金的に、カズマ以外であれば普通に買えるレベルの値段ではあるが、七海以外皆金があればすぐに使う気質な為、このようなご馳走にありつけるのはまたとない機会。

 アクアも秘蔵のシュワシュワを珍しく大盤振る舞いし、皆のグラスにはなみなみとしたソレが注がれていた。めぐみん以外は。

 

「なんで私はジュースなんですか!?」

「早いうちから酒を飲むと身体の成長が止まるぞ、めぐみん」

「一生ロリっ娘のままよ?」

「今の私の身体について言いたいことがあるのならば聞こうじゃないか!!」

 

 ガー、とめぐみんが両手を挙げて威嚇するが、全く怖くはない。万が一蟹を落とそうものならとんでもないヘイトが自身に向かうことを全員が理解しているため、直接行動に移されることはないからだ。

 なおダクネスは一瞬ひっくり返した時の妄想はしたが、流石に自重した。外道に堕ちては変態の風上にも置けない。変態として超えては行けない最後の一線を、彼女は熟知しているのだ。

 

「これは……」

「どうだ、ナナミ。日頃お前には助けられているからな。気に入ってもらえるといいんだが……」

「美味い。とにかく濃厚だ」

「それはよかった! 沢山あるからな、是非食べてくれ」

「ええ、ありがたく」

 

 美食家、とまではいかないにしろ、七海は食に対するこだわりをそれなりに持っている方の人間である。その七海から見ても、この蟹は確かに高級に足るだけの味を秘めていた。

 これは酒が進むことも頷ける。注がれたシュワシュワも値が張るものだけあり、ギルドで飲むそれとは喉越しと味わいが大いに異なってくる。

 基本、このパーティは金欠に苛まれている。が、偶にはこのような贅沢も悪くはないだろう、と。日頃の気苦労を忘れ、ただ飯を食らう七海。

 

「ナナミさんナナミさん、甲羅に酒を注いで……カズマさん、火をお願い。あ、ありがと。……こんな感じで飲んでみて?」

「……アクアさん」

「なあに?」

「今度、ギルドでご飯を食べる時は呼んでください。一度奢ります」

「ほんと!? ありがとナナミ!!」

 

 宴席は進む。食欲がないと言い張るカズマが自室に戻ったが、それ以外の面々はまだまだ飯も食えるし、酒も飲める。

 アクアはともかくとして、めぐみんは幼少の頃より妹であるこめっこの世話をしていた為、料理スキルはパーティで一番高い。ダクネスも最低限は料理ができ気遣いもできる。七海もそれなりにできる為、このパーティは宴会においてかなりハイスペックと言えるだろう。

 

「ナナミ、少しいいだろうか?」

「……構いませんが、珍しいですね」

 

 酔いが少し回ったぐらいの頃。夜風に当たる為バルコニーへでた七海に、ダクネスが声をかける。

 

「もう食べなくとも良いのですか?」

「ああ、かなりの量を食べたからな。ナナミこそいいのか?」

「まだアクアさんとめぐみんさんが食べている頃でしょう。余った分をいただきます」

「あの様子だと、残るかは怪しいがな」

「まぁ、それなら違う物を食べるだけです」

 

 苦笑するダクネスに、七海はそう返す。

 取り止めのない雑談が少し続いたのち、七海から本題に入るようダクネスに促すと、彼女は少し目元を下げて俯いた。その後、決心したかのように顔を上げ、向き合う。

 

「ナナミには、私の実家について話しておこうと思ってな」

「……貴族、ですか?」

「察せられていたか。私の本名はダスティネス・フォード・ララティーナ。ダスティネス家の人間なんだ」

「ダスティネス……同姓、というわけでは」

「ないな、残念ながら」

 

 ダスティネス家。実質的にアクセルの領主とも言える、大貴族の名前である。

 その息女が、まさか冒険者のような荒家業をやっているとは、とてもでないが思わない。

  

 この世界における貴族は、潤沢な資金力を生かしキャベツのような強化食材を大量に買い込み、摂取することでそこらの冒険者より強い人間もザラにいる。

 が、そう言った人間は大体、王都の騎士団に所属する。間違っても、こんな初心者の街で冒険者をやるようなこともなければ、デュラハンに嬉々として着いて行こうとすることもない。実力はさておき、大体の場合、冒険者になると言っても家側が許可を出さないのも理由ではあるのだが。

 

「敬語でも使いましょうか」

「まさか、その逆だ。これまで通り、雑に扱ってくれると助かる」

「…………」

「せ、性癖の話ではなく!! 冒険者として、というか、仲間として、というか……」

「……いえ、申し訳ありません」

 

 突然何を言い出すのかと思えば、存外真面目な話であった為、七海が謝罪した。普段は大体ダクネス側に非があるため、非常に珍しい光景である。

 

「それで、話は終わりですか?」

「お、思ったよりあっさり流すんだな……」

「ええ。身分がどうあれ、貴女がダクネスとして在り続けることを望むのであれば、私はそうするのみです」

「そうか……。何というか、アレだ。大人だな、ナナミは」

「事実、大人ですから」

「……ありがとう」

 

 ポツリと、絞り出すようなお礼の言葉。七海はあえてそれに返すようなことはせず、夜風に吹かれ、景色を見続けるのみ。

 酒に酔い若干顔が赤くなったダクネスと、ゴーグルを外せばかなり顔面の良い七海。かなりいい雰囲気のように思えるが、ダクネス側はともかく、七海側からすれば積み重ねられた大量の負債のせいで微塵もそんな意識はない。

 

「さて、私はそろそろ中に戻りますが」

「それなら私も戻ろう。もう少し酒を飲みたい気分なんだ、付き合ってくれるか?」

「……まぁ、構いませんが───」

 

 そこまで言ったところで、バルコニーの扉が凄まじい勢いで開かれる。開いたのは我らが駄女神、アクア。階段を急いで駆け上がったのか息が若干荒い。

 

「どうしたんだアクア、そんなに焦って」

「侵入者よ侵入者! この屋敷に下賎な悪魔が入り込んだの!!」

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

七海の知り合いに、ダストという男がいる。諸々はさておき、現状の彼は名が体を表している状況。当然、アクセル内におけるあれやこれやを熟知している。

 七海とて男である。当然、彼らぐらいの年齢であればそう言った欲は溜まるし、発散する必要があるのも理解している。

 そう言った店がなければ性犯罪率が増加するのは必然、七海がわざわざ告発する理由もない。

 

 思い当たる節がある。パーティ交換の際、結局はダストと仲直りし、キースやテイラーなど、ダストパーティの面々と親交を持ったカズマ。テイラーはともかくとして、残り二人は確かあの店の常連だったはず。

 であれば。カズマがあの二人から店の存在を知ったとしても何らおかしくなく、彼であれば、即座に利用しないはずもない。今までに積み重ねられた信頼値が、七海の思考を決定づけていた。

 

「私が先に行きます。アクアさんとダクネスさんはここで待機を」

「なんで? 悪魔なら私が行ったほうが───」

「アクアさんは、この街における、対悪魔用決戦兵器とも呼べる存在。先に向かわせ、下手に消耗させるわけにはいきません」

「そ、そこまでやばい奴が来てるとも思わないんだけど……ま、まぁ! そこまで言ってくれるならいいわ! 私の結界に引っかかって動けなくなってるはずだから大丈夫だと思うけど、気をつけてね!」

「ナナミ、先の約束、違えてくれるなよ」

 

 二人の言葉を背に受け、七海は屋敷の廊下を進む。向かう先が決戦ではなく、引っかかったサキュバスの救助であるのが悲しいところではあるのだが。

 

「ひいいいい!? ……って、あれ? 貴方は、この前お店で……」

「……ああ、あの時の」

「パフェだけ食べて帰った人! 珍しいから覚えてましたよ!」

「あのパフェは美味でした。また後日、伺わせていただきます」

「あ、はい。お待ちしてます……じゃなくて! た、助けてくださいー!!」

「はい、どうぞ」

 

 この世界の結界術も、仕組みで言えば帳のそれと大差ない。任務時は補助監督に任せるとは言え、一応は呪術の基礎として、七海も帳を張ることぐらいは出来る。

 その応用だ。呪詛師が張った帳を壊した経験も数知れず、女神が張ったものとはいえ、基礎的なそれであれば七海でも破ることができた。

 

「あ、ありがとうございます!」

「いえ。今日は、サトウくんに用事が?」

「えーっと……はい、そうですね。サトウカズマさんが当店をご利用なさって……って顧客情報漏らしたらダメなんだった!?」

「今更ですか。……まぁ、本日は帰ることをお勧めします。直に、この結界を張った本人が駆けつけるはずですから」

「……サトウさんのことはどうしましょう?」

 

 サキュバス店は基本的に前払い制である。金だけ払わせて仕事をしませんでした、では信頼関係にヒビが入る。

 万が一店の存在を告発されよう物ならサキュバスが諸共死滅する。そうなれば、色々とまずい。主に男どもの欲が。

 

「後で私から説明しておきます。後日また、代替をすれば良いかと」

「は、はい! 店には私から説明しておきます! 本日は申し訳ありませんでした!!」

「お気をつけてお帰りください」

 

 そう言い残して、サキュバスは翼をはためかせ、何とか結界をすり抜け店へと帰っていった。

 残る任務はカズマに今起こったことを伝えるのみ。アクアとダクネス、何故かいためぐみんに報告を済ませたのち部屋を訪れたものの、どこかに出ているのかベッドにはいなかった。

 

「……風呂に灯りが付いている?」

 

 まさかとは思うが、風呂で寝落ちでもしたのだろうか、と。風呂での寝落ちは最悪の場合命を落としかねない危険なものであり、であるのなら、カズマを起こした方が良いだろう、と。

 至極真っ当な判断を以て、七海は風呂の扉を開いたのだが。いかんせん、状況が悪かった。

 

「サトウくん、寝るのならば部屋で───」

「ひいやあああああああああ!?!?!? お、襲われるううううう!!!!!」

 

 カズマは絶叫した。この事に関する噂は周りに周り、最終的にカズマはカスマ、クズマに続く新たな渾名としてホモマを獲得した。さもありなん。




普段と比べてちょっとだけ長い
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