「それではこれより、被告人サトウカズマの裁判を開始する!!」
ガベルの音が鳴り響き、裁判の幕開けが告げられる。
カズマ側には弁護としてアクア、めぐみんの戦力外二人組と、権力だけは最強のダクネス、それなりに頭の回る七海。検察側にはセナと、有事の際に護衛である騎士が2名。
裁判長は歳の割にフサフサな、恐らくキャリアを積んだであろう厳粛な人間であるが、果たしてその威厳はカズマパーティ相手に通用するのかどうか。
ギャラリーは主に冒険者の面々。ダスト始めカズマとある程度関わりがある、仲の良い人間から、特に関わりはないものの、かのクズマがとうとう捕えられたのか、と好奇心で野次馬をしにきた人間まで様々。
セナにより読み上げられたカズマの罪状は、領主アルダープの屋敷にデストロイヤーの動力源たるコロナタイトをテレポートさせたことによる国家転覆の疑い。一先ずはこのまま定例儀式が粛々と進む、誰もがそう考えていたのだが。
「異議あり!!!」
ここで異議を唱えるは我らがめぐみん。紅魔族として高い知能を誇り、実際、瞬間の理解力、単純な知能指数では七海をも遥かに上回る。
裁判の参加が初めてであるが故、ルールを逸脱した異議は認められ、裁判長により正式に発言権が与えられた。
カズマは、少しの期待をした。してしまった。ここで異議を唱えるのだ、多少なりとも理知的な発言をしてくれるのではないか、と。
「いえ、なんでもありません。裁判において異議を唱えるのは花形、故に発言したのみです」
「以後、弁護人は弁護の際にのみ発言をするように!!!」
裁判官がブチ切れた。そろそろ血圧が気になるお年頃、なるべく感情を抑えたいところではあるが、神聖な裁判を舐めたような真似をされれば、そりゃあブチ切れざるを得ない。
馬に念仏、猫に小判、めぐみんに説教。基本的に厨二病という存在は独特の世界観、自分ルールを構築している。いうだけ無駄である。
その後、被告人尋問。カズマは如何に自身がアクセルに貢献したのか、国益に貢献したのかを多少オーバーながらも話し続ける。
数十年討伐し得なかった魔王軍幹部・ベルディアを少数戦力で撃破、さらに人的被害、物的被害はほぼゼロ。
かつて数多の国を滅ぼした機動要塞デストロイヤー。人類、さらには魔王軍の頭を悩ませる災厄を、これまた外れ値がいるとはいえ、初心者の街の冒険者を率いて討伐。
問題はこれらの実績が主にアクアと七海、めぐみんの活躍によってもたらされたところであろうか。デストロイヤー戦の指揮こそあったものの、総じた活躍度は前三人に劣る。ダクネスは置いておく。
ともかく、カズマパーティの貢献度はすでに王都の一流パーティを上回る。素行は最悪とはいえ、その実績は裁判長、および検察側としても認めざるを得ない。
「えーっと……」
続いて、検察側の証拠提出が行われる。1人目の証人としてダストが証言台に立つが、これに関してはなんも意味もなさずに終わる。セナとしてはカズマの友人付き合いの悪さを指摘したかったようだが、カズマの"知り合いでしかない"という証言に魔道具が反応しなかった為立証とはならなかった。
次にクリス。パンツを盗られ、挙句振り回される。それの背景には諸々の事情があったわけだが、たまたまそれを目撃していたウィザードの証言により事実ということが認定。その他事情を説明する暇もなく、証言台を追われる。
ミツルギの魔剣強奪、仲間2人の下着剥ぎ宣言などもあり、場の雰囲気は一気にカズマ不利に傾いた。
鬼畜のカズマ、カスマ、クズマ、ホモマ。諸々の悪名、パーティの悪行。加えてカズマの"魔王軍幹部との交流がある"との嫌疑。もはや有罪は覆せないものと、誰もがそう感じていたのだが。
「もういいだろう、そこの男は魔王軍の手先だ。さっさと死刑にしろ」
「ッ、俺は、魔王軍の仲間でも手先でもなあああああああいッ!!!!」
領主であるアルダープの発言を好機と見たカズマは、ここぞとばかりにそう宣言する。実際ウィズと交流を持つだけのカズマは魔王軍の手先でもなんでもなく、魔道具が反応しないのは自明の理。
「こうなれば、検察側の証拠を認めるわけにはいきませんな」
何も、裁判長とてカズマを無理に有罪にしたいわけではない。多少恣意的な判断をしたくなる要素はあるにせよ、そこで流されるほど彼は子供ではないのだ。
被告人、サトウカズマを無罪とする、と。そう告げようとした次の瞬間、アルダープが口を開く。
「いいや、ダメだ」
「ッ……被告人、サトウカズマを死刑に」
「なッ!? 法権力が恣意的な思考に流されることがあってはならない、それは法の番人である誰もがわかっているはずでは、裁判長!?」
「彼の言う通りです! 検察としては遺憾ですが、証拠が出揃わない以上死刑は余りにも不当です!」
突然の転換。当然、七海は納得できず、声を荒げる。ついでにセナも荒げた。彼女がここで声を荒げることができたのは。正確に物事を認識できたのは、単に愛の力とでも言うのか。仮称夫にいいところを見せたいという想いが、彼女を突き動かした。意味がわからない。
しかし。まるで何か、"認識が覆された"かのように。裁判長は思考を一変させ、カズマに対する有罪判決を下した。
呪力の類ではない。魔力の巡りも感じ取れない。故に、呪言や洗脳の類ではない。というか、七海としても、アルダープに対象の思考を操る類のそれを、恐らく対策が施されているであろうこの場で行えるほどの技量があるとは思えない。
であれば、彼の背後。強力なウィザードを召し抱えているのか。それとも、人ならざるモノか。
七海の思考が進み始めた頃、隣にいた、功績がカニの持ち込みのみという女が声を上げる。
「待って欲しい」
直後、ダクネスが胸元から紋章が刻まれたペンダントを取り出した。ダスティネス家の一員であるそれを見て何の反応もしないほど裁判長は無知でなく、驚いた様子でそれを凝視する。
「貴女は───!?」
「この裁判、私に預らせてはもらえないだろうか。時間を与えられれば、必ずこの男が悪でないことを証明してみせる。無論、破壊してしまった屋敷の修繕費も弁償しよう」
ダスティネス家の人間相手ともなれば、軽率に言葉を返すこともできない。裁判長が俯いたところで、ダクネスは次にアルダープへと視線を向ける。
「アルダープ、私に猶予を与えてはもらえないだろうか? 対価として、私にできることがあればなんでもしよう」
それを聞いたアルダープは、お手本のような下卑た笑みを浮かべる。身体だけは一級品のダクネスを好きにできるともなれば、そりゃあそのような笑みを浮かべてしまうのも仕方がない。
本番を迎えた際彼女の性癖にアルダープが何を思うのかはともかく、この提案は彼にとって、カズマを死刑にしたいという私怨を上回るメリットを孕んでいる。であれば。
「いいでしょう。他ならぬ貴女の頼みともあれば、仕方ありません」
貴族として培ってきた作り笑顔を前面に浮かべ、アルダープは、そう告げた。
1章11話で構成するように頑張ってるんですが、多分この章は話数少なくなる。