「…………ふむ」
パスタを食べるべきか、それともカエルの唐揚げといったジャンクなものを食べるべきか。
大衆食堂において、味に保証があるのは唐揚げの方であろう。パスタは店により当たり外れが激しいが、唐揚げは誰がどう作っても大概の場合不味くはならない。上限が低いにせよ、下限が高いことに対する安心感がある。
とはいえ。わざわざギルドではなく外の店を選んだのだから、新たに開拓を行うというのもまた一興。ある程度有名な店である以上、メニューの中にハズレが紛れ込んでいる可能性もまた低い。ならば、パスタを食べるのが正解なのだろうか。
「あっあっあっ」
「……?」
「あのっ!! ここのお店、パスタが美味しいので、迷ってるならそれを頼んでみたらいいと思います!」
いつの間に後ろにいたんだ。至近距離にいるのだからそんな大声を出さなくても聞こえている。色々言いたいことはあるが、ともかく、七海が彼女に対ししなければならない質問は一つ。
「……どなたでしょうか?」
「あっ、えーっと、えーっと……」
少女は目をぐるぐるさせて暫く悩み、やがて決意したかのように七海の方へ向き直る。
どこか既視感を。主に自らのパーティに所属する爆裂狂に覚えた七海は、なんとなく少女の素性を察する。そう、例の一族である。
「我が名はゆんゆん!! 上級魔法を操るアークウィザードにして、やがて紅魔族の長となる者!!」
「そうですか。私は七海建人と申します」
「えっ!? 紅魔族式の自己紹介でドン引きしないんですか!?」
「……パーティに1人、紅魔族が居ますので」
「も、もしかして……めぐみん?」
「はい」
ゆんゆん曰く。めぐみんとは学園時代からの友人であり、尚且つ幾度となく勝負を繰り返す終生のライバルであるとのこと。
アクセルに来るまでの道中、自身の力不足を痛感し、修行の旅に出たゆんゆんは、上級魔法を習得し満を辞してこの街を訪れたのだ。
「話を戻しますが。この店のパスタが美味しい、と」
「はい! この前読んだ雑誌にそう書いてありました!」
「成る程……」
地球にあるサービス、雑誌もそうだが、とにかくあの手のオススメはお金絡みで宣伝されている事が多い。果たしてゆんゆんが読んだという雑誌を鵜呑みにして良いものか。
今だ迷いを少し持ちながらも、とりあえずは店に入ろうとし、扉を開く。
「いらっしゃいませー! ただいまお席混み合っておりまして、相席であれば今すぐご案内できるのですが、いかがなさいますか?」
「……私は構いません。ゆんゆんさんはどうなさいますか?」
「ッ!! 私と一緒にご飯を食べてくれるんですか!?!?」
「え、ええ。そのつもりでしたが……」
あまりに必死な形相で詰めかけるゆんゆんに、思わず半身引く七海。店員はどうでもいいから早くしてくれないかな〜と、面倒くさそうな様子を醸し出していた。
普段は感情の機微に聡いゆんゆんだが、現在他人とご飯が食べられるという事実に舞い上がっている真っ最中。新たなお友達ができた今日という日は、彼女の中で永遠に刻まれることであろう。
「ふ、不束者ですが、よろしくお願いします!!!!」
「…………」
一見、カズマ達と比べ常識的に思えたのだが。ゆんゆんはゆんゆんで、また別ベクトルの問題を抱えている。
早まったか、と。七海は、頭を抱えた。ゆんゆんは物凄くいい笑顔を浮かべていた。
☆♪☆♪
「あ、あーっと……」
「…………」
「ひ、久しぶりだな、ナナミ。元気そうで何よりだ……なんて……はは……」
「…………」
(え、なにこの空気)
案内された席に座っていたのは、一時的にパーティを離脱しているダクネス。七海を避けるように屋敷を出た彼女との突然の邂逅に、地獄のような空気が形成される。
1番の被害者はゆんゆんである。友人とご飯を食べるという人生における一大イベントを迎えようとしたら、知らない人との修羅場に巻き込まれたのだ。ライト・オブ・セイバーぐらいは打っても許される。
「……はあ。ゆんゆんさん、此方はダクネスさん。私のパーティメンバーで……………………まぁ、悪い人ではないはずです。恐らくは」
「なんですかその溜め込み方!?」
「ダクネスだ、よろしく頼む」
「ひいッ!?」
明らかにヤバい人を見る視線を向けて怯えるゆんゆん。ダクネスは七海に抗議の意味を込めて視線を送るが、どこ吹く風でメニュー表を眺めている。
実際、ダクネスはデュラハンに剣でボコボコにされることを望んでいたり、スライムで窒息することを望んでいたりと、色々まずい人間。いろいろと語弊が生じているとはいえ、さもありなんと言ったところか。
「無事だったのですね」
「ああ。……すまないな、ナナミ」
「いえ。ゆんゆんさん、頼むものは決まりましたか?」
「あ、はい! パスタにします!」
「わかりました」
七海が店員を呼び、パスタを二つオーダーする。ゆんゆんは自分の分まで友人が注文をしてくれる、という降って湧いたイベントに歓喜していた。その喜び方は、かのダクネスをも少しばかり慄かせた。恐るべし紅魔族。恐るべしゆんゆん。
「あ、美味しい」
「成る程、これは確かに」
「そうだろう? ここは、うちの家で育った料理人が独立して建てた店なんだ。味に関しては保証しよう」
「……料理人? 髪の色もそうだけど、もしかして、ダクネスさんってお金持ちの娘だったりするんですか?」
「んん!! ま、まぁ、それなりに裕福な生まれであることは否定しないが……」
ダスティネス家の令嬢であることがバレると、ゆんゆんが更に面倒なことになる。それを悟った二人は、即座に話題を別の方向に逸らした。
そも、ゆんゆんにとっては人と仲良く話しているこの状況が奇跡に思えているのだ。サボテンと違い、話を振れば返してくれる。それがなんと心地よいことか。
「……さて。私はこの後やらねばならないことがあるので、家に戻るのだが……二人は?」
「わ、私は特にやることもないので、宿に帰ろうかなーと」
「私も帰宅する予定ですが……ダクネスさん」
「信じてくれ、とは言えない。しかし、大丈夫だ。時期に屋敷にも帰ることができるだろう。その時は、面倒ごとを持ち込んでしまうかもしれないのだが……」
「今更です」
「ふっ、そうか」
数々の方面に謝罪し、性癖の発散に巻き込まれ、目を離すとすぐ死にそうになる少年を必死に守り抜き。挙げ句の果てに国家転覆罪の裁判に巻き込まれた。
これ以上の面倒が何処にあろうか。相変わらずの仏頂面でそう述べる七海に、ダクネスは苦笑した。
会計は済ませておく、と、先に席を立ったダクネス。その後残されたゆんゆんは、この後取るべき行動に頭を悩ませていた。
果たして、この縁をここで終わらせて良いものか。なんとかして繋ぎ止めるべきではないのか。
「ゆんゆんさん」
「は、はい!」
「私は……と言うより、私たちのパーティは、郊外の屋敷を拠点にしています」
「あ、あのおっきいところですか? 最近悪霊騒ぎがあったって噂の」
「……はい。貴女さえ良ければ、是非いつでも遊びに来てください。常に誰かいる保証はできませんが、めぐみんさんも喜ぶでしょう」
「───ッ!!!!」
年頃の美少女が、友達ができたという事実に喜んでガッツポーズをする。字面だけ見ればなんとも微笑ましい光景であるし、通常、周囲も生暖かい、孫を見守るような視線を彼女に送ることであろう。
しかし。それも度が過ぎれば、ドン引きの対象となる。1分、2分、3分。いつまで経っても狂喜が冷めないゆんゆんに、店員や周囲の客はものすごい物を見る視線を送っていた。
明日明後日も投稿します、多分。