この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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第28話

「……ナナミさん、やけに似合うわね」

「それはどうも」

 

 執事とは。基本的に、付き人として主人の世話や、雑用を行う存在である。七海の社畜気質から、お前には世話役がお似合いだ───とでも皮肉っているのなら、むしろアクアの評価は大幅に上がったことだろう。

 しかし悲しいかな、彼女にそこまでの頭脳はない。今のも、思考がそのまま口に流れ出て、何も考えず発されたものであることは明らか。

 

「つーか、ナナミって純日本人じゃないよな、多分」

「デンマークとのクォーターです」

「クォーター……かっけえなぁ。俺もハーフとして生まれてたら、今頃は高身長筋骨隆々───」

「いやー、カズマさんはどう生まれててもヒキニートまっしぐらでしょ」

「なんだとこらァ!!!!」

 

 取っ組み合いの喧嘩を始めるアクアとカズマ。何事かと外から入ってきたメイドが必死に二人を宥める。

 ダクネスの父親から頼まれたのは、彼女が粗相をしないように。つつがなくバルターとの見合い話が成立するように、なんとか力を貸してくれ、とのこと。

 高額の報酬という言葉に突き動かされたカズマは縁談を成立させる気満々である。

 親ダクネス派のめぐみんは、セナが言う謎のモンスターの調査に向かわせた。であるのならば、この場にいるのは何もしない七海と、アホのアクア。ダスティネス家の人間が見合い成立に積極的である以上、勝機はいくらでもある。

 

「……ふむ」

 

 ただし、肝心のダクネス自体が破談にする気満々である。華美なドレスに身を包み、プロによる化粧を施され。もともと整っていた容姿は、さらに一つ上の次元に引き上げられた。

 貴族といえど、ここまでの容姿にはそうお目にかかれない。

 しかし、中身がクソである。なんなら今すぐにでもドレスを引きちぎりそうな息女の勢いにビクビクしつつも、バルターを出迎える準備を整えた。

 

「お前が見合いを受けてくれて本当に嬉しいよ、ララティーナ。幸せになるんだぞ」

「嫌ですわ、お父様。ララティーナは見合いを前向きに考えると言っただけです。そして、考えた結果、嫁入りなどまだ早いと言う結論に達しました」

 

 豹変したダクネスに、イグニスは恐れ慄いた。見合いをぶち壊すと意気込み、魔王軍幹部にも負けず劣らずの高笑いを上げる。まさかこれが名家の娘であるとは、初見で誰も思わないだろう。

 しかし。この場には、イグニスの心強い味方が一人いる。

 

「はしたない行為はおやめください、お嬢様」

「か、カズマ!? 貴様私を裏切るつもりか!?」

「今の私はダスティネス家の臨時執事。お嬢様の幸せが私の望みです」

 

 勿論のことだが嘘である。カズマの優先順位は、報酬>>>>ダクネスの寿退社>>>>ダクネスの幸せ。一応幸せになって欲しいとの思いはあるが、とりあえず縁談が成立すればなんでもいい、と言うのが本音。

 バルターもなんかいい人そうだし、幸せになるだろ、多分!! 無責任なミニカズマが、心の中でサムズアップしていた。

 

 ダクネスがカズマの首根っこを引っ掴んだところで、屋敷の扉が重い音を立てて開く。

 バルターが、数人の使用人を引き連れてこの場に姿を現したのだ。

 

「よく来たな、貴様が私の見合い相手か! 私はダスティネス・フォード・ララティーナ、私のことはダクネスと───へぶっ!?」

「お足元にお気をつけくださいお嬢様ァ!」

 

 意気揚々とバルターに詰めかけるダクネスに対し、ドレスの裾をしれっと踏んづけ、転けさせるカズマ。これが、見合いをめぐる死闘が開戦した合図であった。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「ねえねえ、見てて、ナナミさん。ほら、花鳥風月〜!」

 

 扇子を両手に持ったアクアは、魚を扇動して見事なアーチを描く。その芸たるや並大抵の実力で成せるものではなく、仮にアクアが宴会芸の女神として紹介されたのであれば、誰もがそれを真実だと思い込むことであろう。

 

 そうしている傍らにも、ダクネスとカズマは死闘を繰り広げている。若干一名、主役であるはずのバルターが蚊帳の外である感じがあるが。まぁそれはそれ、彼も悪いようには思っていない故、セーフだろう。

 

「あの、少し宜しいですか?」

「バルター様?」

 

 ダクネスに断り、少し離れた位置にいる七海のところまで訪れたバルター。

 見合い相手を放って使用人と会話をするなど前代未聞もいいところ。いくらダクネスが非礼を重ねているとはいえ、善意が服を着て歩いているようなこの男がそんな真似をするのかどうか。

 

「その、少し聞きたい事がありまして。彼方の執事さんは、どちらかと言うと、ララティーナさんと友達というか……そういった距離感だったので、貴方に」

「成る程。では、ご質問をどうぞ」

「はい。……貴方は、この見合いに対してどう思っていますか?」

 

 成る程、そう言うことか、と。七海は納得すると同時に、どこまでも見上げた目の前の少年の善性に感服した。それは、自分がついぞ得ることのできなかったことであるが故に。

 さておき、この質問にはどう答えるべきか。誤魔化すべきか、それとも本音をぶちまけるべきか。

 

「ダスティネス家執事の立場から言うのであれば、お嬢様が早々に身を固めることは喜ばしいと捉えるべきでしょう」

「……」

 

 バルターは無言を貫いた。思案している様子もないことから、七海個人の意見を待っているのだろう。

 思わずため息を吐く。こうなれば、もはや本音を話さない選択肢は存在しない。

 

「私個人の意見を述べるのならば。若人から青春を奪う権利など、誰にもありはしない。そう考えています」

「……青春を奪う権利」

「無論、貴方もです。貴族としての責があろうが、私からすればまだ子供。思うがままに生きることが許される年代だ」

 

 七海は、言葉を続ける。

 

「無論、これは執事という責任の薄い立場だからこそ言える戯言。適当に流していただいて構いません」

 

 そういって、一礼してその場を去る七海。

 残されたバルターは、暫しその場に立ち尽くして思考を巡らせる。

 アルダープの息子として、この縁談を成立させなくてはならないという使命感。ララティーナの内心。一人間としての自分。

 やがてその足が動き出す頃には、彼の目に決意のようなものが宿っていたという。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

 屋敷。カズマとめぐみんが爆裂散歩に出かけ、アクアがギルドに飲みに行き。この日屋敷にいるのは、ダクネスと七海、ついでにちょむすけの二人と一匹。

 ちょむすけは七海の頭の上に陣取っており、心地よさそうに眠りこけている。

 

「ふふっ、懐かれたな」

「……なぜ私に懐いたのでしょうか」

「優しいからじゃないか? 動物は、人間以上に心の善悪を察知するというからな」

「であるのなら……いえ、まぁ、そういうことにしておきましょう」

 

 実際、このちょむすけは色々と例外である。聖人レベルの善人よりか清濁合わせ飲む人間を好むし、神様ともなれば親の仇レベルで嫌悪している。しかも火を吹くし、たまに飛ぶ。

 

「……ナナミ、この間のことなんだが」

「この間?」

「若人から青春を奪う権利など、誰にも存在しない、というやつだ」

「…………聞いていたのですか」

 

 思わず、七海は頭を抱えた。五条からの受け売りであるこの台詞。つい場の熱に流されはしたが、いざ掘り返されれば中々に恥ずかしい。

 

「ありがとう、ナナミ」

「……お父上には、悪いことをしてしまいましたが」

「まあ、そうだな。父上からすれば、私に早いところ身を固めて貰いたいところだろう」

 

 早くに伴侶を亡くした身。加えてイグニス本人も先があまり長くないことから、自身の後を継ぐことになるであろう赤子の姿を。そして何よりも、娘が幸せになる姿を見たいのが、親という人間の性質。

 それを理解してなお、あの判断を取るのは、ダクネスがイグニスのことを信頼しているが故だろう。

 

「立派なお父上ですね」

「ああ、自慢の父親だ。アルダープも今頃は鼻息荒く憤っている頃だろうな」

 

 カズマの無罪放免、そしてダクネスがアクセルに無事帰還したと言う事実。

 事実上、悪徳領主アルダープを相手取って、勝ちを挙げたようなものである。そりゃあアクセルの街は盛り上がりもする。

 連日飲めや騒げやの大騒ぎ、その過程で色んな人の貯金が溶けたことにより、現在ギルド塩漬けクエストが片付き始めてホクホクなのだとか。

 

「貴女も揉みくちゃにされていましたよね……ララティーナさん」

「その呼び方はやめてくれ!!」

 

 我らがララティーナも、当然ながら冒険者に揉みくちゃにされた。カズマによる、ララティーナ呼びの辱めという罰ゲーム付きで。

 

「んん、そこはどうでもいいんだ。……ナナミ。お前は常々、私たちに、大人に頼れ、と言っているな」

「ええ」

「今回もそうだ。お前は、大人としての立場から私を。バルターを導いた」

「そのような大層なことをしたつもりはありませんが」

「では、大人であるナナミは誰に頼ればいいんだ?」

「自らの行動に伴う責任は、自らで引き受ける。それが大人の在り方です」

 

 七海から返された答えは、ダクネスの納得いくものではなかったようで。彼女は未だ顔を顰めたまま、咎めるような声色で口を開く。

 

「いいか、ナナミ。パーティメンバーとは、持ちつ持たれつであるべきなんだ。全ての責任がお前に行くことなど、あってはならない」

「…………」

「ナナミが思うほど、私たちは弱くはない。お前が揺らぎそうになったなら、その背を支えてやるぐらいはできる」

 

 だから、と。前置きを一つ挟み。

 

「私たちに、もっと頼ってくれ。ナナミと比べれば頼りないかもしれないが、やれることはやってやるさ」

 

 そう、笑った。普段の邪気に塗れた笑顔とは異なり、清々しく透き通ったソレに、七海も少しだけ、ほんの少しだけ見惚れてしまっている。

 しかし。いくら取り繕ったところで、目の前にいるのはダクネスなのだ。故に。

 

「……それならば、もう少し問題を起こす頻度を減らしていただけると非常に助かるのですが」

「……すまない」

 

 このような締まりのない終わり方をするのも、また必然と言ったところだろう。




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