「……あいも変わらず閑古鳥が鳴いていますね……」
魔道具店ウィズ。アクセルに位置するその店では、冒険者たちの生活をサポートするための魔道具が多数販売されている。
一部ちょっとした欠点があったり、機能が良くても値段が駆け出しには高すぎたりするのだが、まぁそれはご愛嬌。
ウィズの見た目が故か、たまーに客が入ることはあるのだが、そのほとんどは冷やかし。最後に売れたのは、紅魔族の少女がパラライズのスクロールを買って行った時だったか。
カウンターに設置された椅子に座りながら、ウィズは項垂れる。歴戦のアークウィザードとして、自身の鑑定眼を疑ったことはない。が、こうともなれば、やはり一度考え方を見直してみるべきなのだろうか。
節約の為に砂糖水を一杯啜り、ため息を吐いた。
「……あ、いらっしゃいませ!!」
入店したのは、色物カズマパーティの当社比常識枠、七海。この人もこの人で色々とおかしくはあるのだが、相対的に見てまともな方であるが故、常識枠として扱われている。
マジックスクロールやポーションはじめ、七海は数少ないお得意様である。当然、ウィズの対応もそれなりのものになる。
「本日は何をお求めですか?」
「爆発ポーションを三つ。一撃グマ複数を相手にするとなれば、遠距離攻撃の手段が欲しいので」
七海は形式上カズマパーティに属してはいるが、危険任務に赴く際は単独である事が多い。稀に発育がいい方の紅魔族の少女と組むこともあるようだが、それはそれ。
上級魔法による援護が見込めるのであれば、爆発ポーションは不要であるのだが。一撃グマ相手に近距離一辺倒で戦うのは危険が過ぎる。
一時は誰が使うんだ、などと貶していたポーションを自分が必要とすることになるとは。七海は、心中少しばかり自嘲していた。
「いつもの物でよろしいですか?」
「ええ。それでお願いします」
物理保護をかけて、爆発ポーションを包む。
こうでもしないと、道中で躓きでもした際にボカンである。ぶん投げて地面に叩きつければ流石に割れるので、そこは問題ない。
これは、せめてものサービスといったところだろうか。ただでさえ固定客がほとんど居ないのだ、アフターケアを頑張らねばそのうち数少ない常連すら失いかねない。
「お会計、7万5千エリスになるんですが……ナナミさんにはいつもご購入いただいているので、ここは少しおまけして」
「いえ、結構です。少なくとも、貴女よりかは私の方が金銭的余裕があるでしょう」
「あ、あはは……すみません……」
片や砂糖水で1日を過ごす貧乏店主、片やアクアの酒代やめぐみんの爆裂修繕代にそれなりの額が消えているとはいえ、こなす任務の関係でそれなりの貯蓄がある七海。
どちらが裕福かは、もはや言うまでもないだろう。
「それでは、私はこれで」
「……あの!」
☆♪☆♪
冒険者は、常に死と隣り合わせ。魔王軍幹部の討伐を目的としたパーティで活動していた以上、それは私も重々承知していることではある。
リッチーとなり、アクセルにこの店を構えてからもそう。マナタイトを売ったウィザードが初心者殺しに食べられたと聞いたこともあれば、魔道具を売った戦士がマンティコアに毒殺されたこともある。
その際、私が現場にいれば、なんて。マンティコアや初心者殺しから、彼ら彼女らを守ってあげられたなら、なんて。そう考えるのはきっと、傲慢なのだろう。
殺し殺されは自然の摂理。人間の都合でモンスターの命を狙うのだ。モンスター側に、逆に命を奪われる覚悟もあって然るべきだろう。
自然の摂理に反する私が、摂理のことを語るのもまた、おかしなことであるのだろう。しかし、一応、心は未だに人間のつもりであるのだ。こうして心中で語ることぐらいは、きっと
女神エリスでも許してくれることだろう。……いや、エリス様はアンデット・悪魔絶対許さないマンとの噂もあるので、仮にそれが事実なら即浄化なのだろうか。アクア様を見ていると、あながち否定できないのが怖い。
「……何か?」
「い、いえ、そのお……」
ナナミさんは強い。それは間違いない。
冒険者時代の私では比較にならず、リッチーとなった今でさえ、果たして確実に勝てると言い切れるかどうか。
距離を取って上級魔法で殴り続ければ勝てるかもしれないが、ナナミさんのことだ。遠距離への対策手段も、きっと持っているのだろう。
だが。結局の所、この世界で戦う以上、いつ死ぬかは定かではない。ナナミさんは人間なのだ。一撃グマに爪で抉られれば死ぬし、デュラハンに剣で身体を貫かれれば死ぬ。
私たちアンデットとは違う、有限の存在。それが人間。冒険者。
「……よし」
ここは、魔道具店ウィズ。アクセルの街中から外れたところにある、少し……うん、多分、少し寂れたお店。
それ故に、日頃の喧騒から離れて、ゆっくりとした時間を送るにはピッタリなはず。
「気をつけて、行ってらっしゃい!」
ここが、貴方にとっての安息の地であるように。貴方と再び、この店でどうだっていい会話をする事ができるように。
願わくば、そこにサトウさんが居て、アクア様が居て、めぐみんさんが居て、ダクネスさんが居て。そんな賑やかな日々を、少しでも長い間、送る事ができるように。それが、永い時間を生きる私の、細やかな望みである。
「……? ええ。ウィズさんこそ、野垂れ死ぬことのないように。金銭面がどうにもならなければ、早めに相談してください」
…………そろそろ真面目に、店の金策を考え始めたほうがいいのかもしれない。これでは、色々とまずい。主に体裁面が。
後1話ぐらい出せそう