この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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カズマの口調再現が1番難しい


第3話

「……あの」

「……」

「出来れば、助けていただけると。具体的には周りのカエルを片付けたのち、街まで運んでいただけると非常に助かるのですが……」

  

 今日も今日とてカエル狩り。

 それなりに働き、美味い飯を食い、風呂に入り、宿屋に帰って寝る。

 人間としての尊厳を保つ程度の生活水準を維持できる給料ではあるが、それでも向上は見込めない。

 

 が、今の七海にとって第一は安全。仮に少し欲を出し、その結果特級クラスの化け物と遭遇しようものなら目も当てられない。

 この世界の一般常識、冒険者としての常識を理解し切るまでは、現状維持が最善策───七海は、そう思考する。

 

「……歩けるようなら少し後ろに。そこでは、カエルの体液が付着する可能性があります」

 

 そう忠告だけし、カエルに向けて疾走して一閃。

 鉈がカエルの体を両断する。

 

「今回は私がたまたま通りかかったから良かった。が、子供一人で郊外に出るのは、あまり褒められたことではありませんね」

「ぐッ…‥ほ、本来であれば、我が爆裂魔法がそこの下賤なるカエル共を粉砕し、少し休んだ後街に凱旋する筈でした。まさか、伏兵が存在しているとは……」

 

 爆裂魔法なる存在を、当然七海は知り得ない。

 だが、少し休んで、と少女が述べていたことから、恐らく体力ないし魔力の消費が激しい、一撃特化の魔法であるのだろうと当たりをつけることはできた。 

 前世で考えるのなら、一発限りの虚式とでも言ったところだろうか。

 

 ギルドでは、自身が呪いを残すことになった少年───虎杖悠仁と同い年ぐらいの人間が酒を飲んでいる姿をたまに見ることができる。先日出会った茶髪の少年もそうだ。

 この世界の常識と、己が持ち合わせている常識は全くの別物である。

 薄々察していた事実を改めて認識させられたことに、少しばかりの頭痛が生じる。

 

「パーティメンバーは何処ですか。貴方のようなタイプですと、前衛職と組んで守ってもらうのがセオリーでしょう」

「……ません」

「? すみません、上手く聞き取れませんでした」

「いません!!! 悪いですか!!!」

 

 悪い。頭を抱えた七海は、心中そう呟いた。

 どこの世界に一撃特化かつ単独で戦闘する魔法使いが存在するのか。よしんば敵を倒せたとしても、その様子では街に歩いて帰ることすら厳しいのではないか。

 本人がやたら強気なのもそうだが、このままだと直にカエルに食われて消化エンドを迎えてしまう可能性がかなり高い。冒険者である以上命のやり取りは常であるのだろうが、それでも無駄に散らす必要はどこにもない。故に、七海が行うのは───。

 

「───ですから、少なくとも信頼できる前衛職と組めるまでは単独で討伐任務を受けるべきではありません」

「あっはい。ごめんなさい」

 

 七海は大人である。それも、ものすごく真っ当な部類の大人である。精神構造ドブカスが大手を振って通りを闊歩する呪術界の中で非常に稀有な、ある程度の常識を持ち合わせた人間である。

 元来、年下に対しては実力がどうあれ大人としての責任を果たそうとしていた七海。渋谷にて虎杖悠仁に呪いを残して逝ったこともあり、その気質は転生後さらに高まったと言っていい。

 

 現在、少女は七海に背負われている状態。物理的に逃げられない状態で七海からの説教を受けている。

 めぐみんは爆裂馬鹿ではあるが、知力という一点に絞ればこの世界でも有数の頭脳を持つ人材。この状況で誰に非があるのか、否が応でも理解をさせられる。

 

「受付の方が、パーティ探しが難航した場合一度声をかけるように仰っていました。困っている様なら一度……」

「行きましたよ、何回も。組む度組む度断られて、五回目の時にまたお前かって視線を向けられてから行かなくなりました」

 

 この時点で、七海はこの少女に何らかの欠陥があることを察した。

 ここアクセルは初心者の街、と。以前飯の席で話した紳士的なマッチョ、ポチョムキン4世から、七海はそう聞いていた。

 現段階であれだけの。それこそ特級に勝るとも劣らない威力の魔法を使えるのなら、将来細かい部分をフォローできる様になれば、それこそ大魔法使いと呼ばれる存在になることも不可能ではない、はず。

 

 で、あれば。なぜこの少女が欠陥品であるとして、煙たがられているのか。

 

「…………現段階で、貴女があの魔法しか使うことができないのはなんとなく察しが付きました」

「ええ、その通りです。貴方はなかなか賢いですね、褒めてあげましょう」

「将来的に、どんな魔法使いになりたいか。そういうビジョンはありますか?」

「無論!! 爆裂魔法を極め、史上最強のアークウィザードとして歴史に名を刻むことしか眼中にありませんとも!!」

「耳元で叫ばないでください」

「ごめんなさい」

 

 謝罪する少女を他所に、七海は心中何度目かもわからないため息を吐く。

 先の通り、爆裂魔法、というのがどんなものなのか。それを七海は知り得ない。が、先の少女の物言いからして、一発ドカンのクソ燃費魔法、言うなれば使い勝手をクソほど悪くした"茈"の様なもの、と解釈した。

 それはまぁ、確かに。いくら本人に素質があろうと、パーティ加入承諾には二の足を踏むだろう。

 

「…………貴女。どうしても、このまま討伐任務を受け続けるつもりですか」

「それは勿論です。我が爆裂道に諦めるなどと言う分岐点は存在しませんから」

「……………………」

 

 間違いなく。間違いなく、この少女は厄ネタと言っていい。

 常識が通用するのかしないのかよく分からない精神構造、悪い意味で界隈に名が轟いている程度の知名度、一発ドカンと使い勝手が悪く、尚且つ本人の気質のせいで火力以外の伸び代が存在しない。

 損得勘定で考えるのなら、少女と組むメリットはこれっぽっちも存在しない、が。

 

「……一時的に、ではありますが。貴女が討伐任務に出る際、私も同行しましょう」

「え? え???? 言いましたね? 今私聞きましたよ? 言質取りましたよ? 私とパーティ組んでくれるんですね!?」

「あくまで一時的に。貴女が所属先を見つけるまでの間の話です」

「私が所属先を早々に見つけられるとでも?」

「自分で言ってて悲しくならないんですか、それ」

 

 はしゃぐ少女に、普段と変わらず淡々と返す七海。

 

「それでは、改めて自己紹介を……あれ、そういえばまだしてませんでしたね、自己紹介」

「……それもそうですね。七海建人と申します。よろしくお願いします」

「ふっふっふ……。我が名はめぐみん!!紅魔族随一の使い手にして爆裂魔法を操りし者!!」

 

 高らかに自己紹介の文言を叫び上げるめぐみん。

 紅魔族特有のやたらハイテンションな厨二挨拶に対し、七海が返すのはたった一言。

 

「耳元で叫ばないでください」

「ごめんなさい」

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 

 

「ナナミナナミ!! 早くこっちに来てください!」

 

 後日。頭のおかしい爆裂娘が堅物有望新人とパーティを組んだ、という噂がアクセル中に周りきった程度の頃。

 早く席を立つよう急かされるのはいつものことではあるが、今回めぐみんの声が聞こえた方向にあるのはパーティメンバー募集の掲示板。

 数々のパーティから加入を断られた彼女にとってはある種因縁の地とも言える場所に自ら進んで居座るなど、あり得ないこと。

 何があったのか、と、珍しく少しの好奇心を持った七海は、注文していた茶の様なものを飲み干し、彼女の元へと早足で向かう。

 

「これ! 見てください!」

「求人……上級職限定ですか」

 

 強気だな、と。はじめに七海が持った感想はそれ。

 七海の知り合いで行くとクルセイダーのテイラーが居るように、アクセルにも少数ではあるが、上級職に就く冒険者は存在する。

 一部の人間がとある店を目当てとしてアクセルに定住するから、というのが主な理由であるらしいが、今のところ七海はその店がどんな店なのかを知らない。

 

 ともあれ。初心者の街に所属する冒険者のうち、ほとんどは中級職、若しくは最弱職と呼ばれる冒険者。仮に求人を出したパーティが上級職で固められた相当の実力を持っていようと、フリーの上級職募集となればなかなかに難航するはず、なのだが。

 

「私はアークウィザード、ナナミは呪術師! そう、二人とも上級職なのです!」

「それでは、私はこれにて失礼します。めぐみんさん、貴女の今後のご活躍を陰ながらお祈りしていますよ」

「ちょいちょいちょいちょい! どこに行こうと言うのですか貴方は!」

「以前に言いましたが、私が貴女とパーティを組むのはあくまで一時的な措置です。必要がなくなれば」

「あーあー、聞こえませーん! さ、行きますよナナミ! 魔王を討伐せし英雄の物語、その第一歩が今踏み出されるのです!」

 

 本気で振り解けば、間違いなく逃げることは可能。だが。めぐみんも頭がおかしい所を除けば見目の整った美少女であり、そんな少女に縋られるもそれを袖にし、そのまま振り返ることなく後にする、などと言った行動をとってしまえば。間違いなく、七海の社会的地位は終わる。

 

「…………はぁ」

 

 天秤にかけた上で、七海はめぐみんについて行くことを選択した、わけだが。

 実のところ、ここで七海がめぐみんを振り払おうと、別に社会的地位は終わらない。なんなら一部の冒険者は"お疲れ様"とばかりに七海にネロイドの一つでも奢ってくれたかもしれない。

 ちなみにネロイドとは、飲み物に入れるとシャワシャワする怪生物である。ニャーと鳴く。

 

「…………」

「何よその露骨な顰めっ面」

「…………いえ、何も」

 

 よりにもよって。よりにもよって、向かう先にいたのは暫定五条悟2号。

 露骨に顔を顰める七海に対し食ってかかるアクア。隣で少年に対して紅魔族式自己紹介をぶちかますめぐみん。

 ただでさえ大型ルーキーが二人に、頭のおかしな爆裂娘と、フレーバー程度の少年と、周りの注目を集めやすいメンツが揃っているのだ。無駄に目立つことを嫌う七海は、この茶番を終わらせるべく言葉を発する。

 

「私はあくまで付き添い。貴女方のパーティに加入申し込みをしたいのは、こちらの女性……先ほど名乗っていましたね。めぐみんさんです」

「まだ貴方はそんなことを言いますか。我らはすでに一蓮托生、たとえ火の中水の中、どこへ行こうとその運命を共にする正に共同体」

「それでは、後のことはお任せ致します」

「ちょ、待っ……力強ッ!?」

 

 引き留めるめぐみんを引き摺る勢いで歩き出す七海。高水準のステータスを持つと言われる七海を逃すのはそれなりに惜しいが、それでもアークウィザードが加入するのであれば、まぁいいか、と。シュワシュワなる飲み物をぐびっと飲み干すアクア。

 

 しかし、そこで待ったをかけるのはこの少年、サトウカズマ。

 アクアの頭がおかしいのは今まで生活で把握済み。めぐみんなる少女は厨二病であり、アクアと比べてどうかはさておき、こちらも多少頭がやられていることは間違いない。

 で、あれば。"比較的"常識人であるカズマが、話が通じそうな大人である七海を逃してやる理由はどこにもない。

 

「まあまあ、えーっと……ナナミさん、でしたっけ?」

「何処で……ああ、あの時ですか。はい、七海建人と申します」

「あ、俺はサトウカズマです。……で、やっぱりめぐみんも、いきなり俺ら二人と組むってなるとコミュニケーションとか、色々としんどいと思うんで。一回お試しで組んでみる、とかどうですかね?」

「…………」

 

 思考する。カズマの様子からして、心配というよりも何か別の目的があることは明らか。アクアという女神の性質、めぐみんの厨二病気質、悪評を考えるに、おそらくある程度話が通じる人間を自分のパーティに迎えたいのだろう、というところまでは容易に想像がつく。

 

 正直、断りたい。パーティの目処に関しては、個人で活動していた間、具体的にはめぐみんと組むまでの期間、七海はそれなりの数の勧誘を受けている。

 某チンピラの率いるパーティ、新人揃いの初々しいパーティ、ベテランとなり活動拠点を王都に移そうか、というレベルのパーティ。常識良し、実力良しの七海は正に引っ張りだこ。カズマの勧誘を蹴ったとて、当てはいくらでもある。

 

「……分かりました」

「おっしゃ!!!」

 

 もはや外聞を憚ることもなくガッツポーズを決めるカズマに対し、七海はどうも見捨てるという選択肢を取ることができない。

 死を経験して更に悪化したとも言える己の性分にため息をつき、彼に促されるまま、向かい合う形になる位置にある椅子へと腰をかけた。




お気に入り100件超えてました。今更このすばSSでここまで伸びると思ってなかったので嬉しいです。ありがとうございます。
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