この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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3巻分終了


第31話

 ダンジョンから出てきたダクネスに取り憑いた奇妙な仮面、その正体は魔王軍幹部の大悪魔、バニル。胡散臭げなその声に、アクアは浄化魔法を容赦なく放った。

 凡そ取り憑かれている仲間に取る対応ではないが、それはそれ。どうせ浄化魔法がダクネスに命中したところで何も効果はないので、気にする必要はない。

 

「本気か貴様!? いくら我輩が取り憑いているとはいえ、普通多少なりとも躊躇するだろう!?」

「悪魔滅ぶべし悪魔殺すべしよ! ちょこまか逃げ回らないでさっさと浄化されなさい!」

「チッ、面倒な! 汝、悪魔より悪魔らしい駄女神の保護者よ! こいつを止めるよう説得するがいい!」

「お断りします」

「だろうな!!」

 

 ダクネスの身体を巧みに操り、大剣でアクアを攻撃しようとするバニル。自慢の身体能力を以て一撃目を躱すが、二撃目は体勢的に躱しきれないであろうことから、七海が割り込むことで事なきを得た。

 

「重い……!」

「この小娘、技術はないが、身体能力だけは一級品"な、ナナミ! 確かに私は筋肉が人より多少ついているが、それでも体重は平均の"ええいうるさい! 真面目な戦闘をしている最中に口を挟むでないわ!!」

 

 単純な膂力で言えば、ダクネスはチート持ち近接系転生者の少し下をいく程度。それ即ち、七海とて競り合いに持ち込まれれば押し切ることは容易でない、ということ。

 とはいえ、浄化魔法がある以上、足を止められるのはバニルとしても避けたいところ。鉈に蹴りを入れ七海の体勢を崩し、空中で身を翻して距離を取る。

 

「……ヤケに強いな貴様。その髪色といい、まさか貴族か?」

「敵に話すことはありません」

「ふははははは!! それもそうか! そうら、次は我輩から行くぞ!!」

 

 七海の斬り上げを紙一重で躱したダクネス入りバニルは、受けた体勢から無理に大剣を振り抜いた。

 かなりの剣速ではあるが、流石に七海には届かない。バックステップで回避された分の距離を潰す為、一歩踏み出そうとしたその時。

 

「フリーズ!!」

「見えておるわ! その手には乗らんぞ変態鬼畜ロリコンホモとアクセル随一の性癖を持つパンツハンターよ!! そも、体を乗っ取っている状態の我輩に浄化魔法は効かんがな!」

「誰がその噂流してんだよ!?」

 

 事前にクリエイトウォーターで水を撒いておき、フリーズでバニルの動きを一瞬止める。その隙にアクアが浄化魔法を打ち込む、というのが、カズマの作戦であったのだが。

 生憎と、相手が悪い。バニルでなければ或いは、この作戦がハマっていたのかも知れないが。

 

 強い踏み込みで氷ごと地面を砕く。その勢いで七海に斬りかかるが、踏み込みで時間を食った分、一手遅かった。

 

 大剣を流した七海は、そのままの勢いで鉈を振り下ろす。

 が、バニルもなんとか防御が間に合った。大剣を身体の前に割り込ませ、受け止めてみせる。

 

「鍔迫り合いか? いいだろう、この娘の怪力を前にどこまで持つか"怪力!? 言うに事欠いて乙女に怪力だと!?''だから黙っておれと言っておるだろう!!」

「この体勢に持ち込めただけで十分です。サトウ君!!」

 

 大剣を外せば、七海の鉈が命中する。要するに、鍔迫り合いが続く限り、バニルは他の冒険者からの攻撃を防ぐことができない。

 術式を使えば。或いは、ダクネスの持つ大剣を破壊することを、バニル毎彼女を両断することも可能であったかも知れない。

 呪術師として働いていた頃ならいざ知らず。今の七海は、図らずともカズマパーティの保護者的立ち位置にいる。

 故に、確実性が低くとも、カズマの策に乗った。

 

「お得意のスティールか? 事前に教えておいてやろう、この娘のパンツは黒の際どい"うわあああああああ!? 黙れ悪魔め!!"黒の際どいレースのついた"補足するな!!!!!"」

「締まんねえな……けどまぁ、行くぜ!"ティンダー"!!」

 

 バニルをダクネスに繋ぎ止めていた、封印の札。ティンダーの炎は微弱な物ではあるが、なんの耐性も施されていない紙一枚を焼き払うのには十分な火力がある。

 時間があればどうにでもなるのだろうが、バニルは即効性のある方法でこの火を消すことができない。

 

「よし、今だダクネス!!」

 

 仮面に手をかけ、引き剥がしにかかるダクネス。が、バニルもここは抵抗を見せ、ギリギリのところで拮抗している。しかし身動きは取れない様子。こうなれば、役に立つのは我らが爆裂魔。

 

「めぐみん!!」

「い、いくらダクネスとは言え、我が爆裂魔法に耐え切れるとは……!」

「そ、その通りだ頭のおかしい爆裂娘よ! いくらこの娘が"お構いなく"」

 

 ダクネスの言葉に、カズマたち冒険者は勿論、セナ、終いにはバニルまで凍りついた。

 いくらダクネスの性癖がアレとはいえ、まさか自ら進んで爆裂魔法を受ける選択をするとは。

 

「"というか、そうするしかあるまい。バニルを引き剥がせるのであれば、或いは別の選択を取れるのかもしれないが。" 我輩は悪魔である。故に、神の手によって浄化されるぐらいであれば、爆裂魔法による滅びを選ぼう "とのことだ"」

 

 ダクネスの言葉に、カズマは重々しげに首を縦に振った。

 めぐみんは少し躊躇いながらも杖を構え、最終確認をする。

 

「う、撃ちますよ! 本当に撃ちますよ!? いいんですね!?」

「"ああ、とびっきり強烈なのを頼む!!" 何故ここで喜色の感情を……つくづく思うが、この小娘、人間というより我輩たち寄りなのではないだろうか」

 

 アンデットであるベルディアに化け物認定され、悪魔であるバニルに人間より悪魔に近いと言われるエリス教徒、ダクネス。そろそろ身の振り方を見直したほうがいい。

 尤も、本人は今から、爆裂魔法という人類が出せる最大火力をその身に受けることから、身体が昂っているのだが。

 

「わかりました。ダクネスの覚悟を尊重しましょう! 行きますよ!」

 

 詠唱が始まり、魔法陣が展開される。パーティの面々はもはや慣れっこであるが、初めて見るセナは異常なまでの魔力の奔流に怯えていた。怯えるふりをしていた。

 どさくさに紛れて七海の隣を陣取り、片腕にしがみつくことに成功。この場で最も幸福なのがダクネスならば、二番目に幸福なのはこの女であろう。

 

「───エクスプロージョン!!!」

 

 魔王軍幹部バニル。人間の悪感情を欲し、数々の凄腕冒険者ですら討伐が叶わなかった、地獄の大悪魔。その存在は、確かに今、めぐみんの手によって討たれた。

 ダクネスは気絶こそしたものの、目立った外傷はなし。精々痕が残らない火傷をした程度。カズマは、七海は、アクアは、そしてめぐみんは。本当に彼女が人間なのかどうかについて、日夜熱い議論を交わしたという。

 




4巻分のストック作るので、次回投稿は来週末になります
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