この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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期末でクソほど忙しい


第33話

「あー、あったけー……」

 

 自作したこたつに引きこもるカズマと、ついでにアクア。

 バニル討伐において、これまたかなりの報奨金を受け取ったカズマたちは、見事なまでに堕落。

 こたつを再現できる技術力があるのならば仕事はいくらでもありそうだが、わざわざ金を持っている状態で働く意味もない。

 

「おー、おかえりナナミ。それ野菜か?」

「ええ。クエスト先の村の方々から頂きまして」

「そしたら今日は鍋だな。めぐみん、なんか良さげな肉見繕ってきてくれ。ダクネス、調理は任せた」

 

 寝転んだまま指示を出すカズマ。その手にはエリス硬貨が握られており、これをやるから働け、とでも言っているのだろう。

 先述二人とは異なり、めぐみん、ダクネスは割と真っ当な冒険者。なんでもいいからとにかく爆裂魔法を撃ちたい、敵からの攻撃を受けたいと言うクソみたいな動機の元ではあるが、クエストに行くモチベーションは高い。

 

「ッ、いい加減にそろそろこたつから出てきたらどうですか!? 気持ちがいいのはわかりますが、時期的にもそろそろ冒険者活動を再開するべきです!」

「めぐみんの言う通りだぞ、カズマ。あまり身体が鈍ってしまっては、いざとなった時に動けなくなってしまう。金があったとて、適当なクエストを受けて実戦から離れないようにすることは大切だ」

「いやだ」

 

 ダクネスとめぐみんがブチ切れた。全力でカズマの身体を掴んでこたつから引っ張り出そうと腕を引く。顔を蹴らないのは、まだ二人に多少なりとも良心が残されているからだろうか。

 ダクネスは愚か、めぐみんにすら筋力ステータスで劣るカズマ。通常であれば、すぐにこたつから引き出されるのだろうが。

 

「"ドレインタッチ"。ついでに"フリーズ"」

「「ひああああああああ!?!?」」

 

 そう、この男、サトウカズマ。嫌がらせに関してはアクセルでも随一。ドレインタッチに初級魔法、ついでにバインドやスティールといった盗賊スキル。

 これらにカズマ特有の思考力が加わり、全てが独特の武器になる。少なくとも、この世界で初級魔法を攻撃に転用しているのはカズマのみであろう。

 大抵の場合は素直に中級魔法を使ったほうが強いから、と言うのが理由ではあるのだが、まぁそれは置いておくことにしよう。

 

「……ダクネス、この男、こたつに敷かれたマットレスごと外へ放り出してしまいましょう」

「名案だな」

「え、ちょ、お前ら嘘だろ? な、ナナミ!? あ、アクア!? 助けてくれ!!」

「…………」

 

 二人揃って目を逸らした。七海はどちらかと言えば自身がめぐみんたち側の思考をしていた為、アクアは流れ弾が飛んでくることを恐れてである。

 

「は、薄情もの!!!!!」

「「せーの」」

 

 その日、何か殻のようなものから頭を出した男性が宙を舞う姿が一瞬目撃されたと言う。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「リザードランナー、ですか」

「ん? なんかあるのか?」

「いえ。君のことですから、カエルの討伐クエストでお茶を濁すと思っていたのですが」

「……俺のことをなんだと思ってるんだ、ナナミ」

「……良いのですか?」

「いややっぱやめてくれ。メンタルが死ぬ気しかしない」

 

 カズマがリザードランナーの討伐というそこそこ面倒、且つリスクを伴うクエストを選んだ理由。

 それは、自身のレベルが周りを圧倒的に下回っていたから。

 

 七海はいい。難しい討伐クエストを多数熟しているから、そりゃあレベルも上がる。

 めぐみんもまだいい。爆裂魔法に巻き込んで大量の敵を倒しているのだから、レベルが高いのも頷ける。

 大量のアンデットを浄化しているアクアもまた、レベルが高いのはおかしくない。彼女の場合元々のステータスでほぼ完成されており、特に知力の伸び幅がゼロなのが悲しいところであるが、それはそれ。

 

 問題はダクネスである。盾以外の役割を持たない彼女のことだから、当然レベルはカズマを下回ると、そう考えていたのだが。

 バニルの人形が地味に多くの経験値を持っていたらしく、それをガンガン討伐していた彼女のレベルはなんと20。カズマの13を7も上回っている。

 

 これは非常にまずい。異世界に来てからチート無双などという夢は捨てさせられたが、それでもパーティ内で一番レベルが低い事実は受け入れ難い。これは、男としてのちっぽけなプライドなのだ。

 

「……キャリーとかできねえのかな、これ」

「キャリー?」

「ナナミがモンスターを死ぬ寸前まで傷つけて、トドメだけを俺が刺す、とか」

「理屈的には可能でしょうね」

「ま、やらないけどよ。流石の俺でもそれは色んなものを失う気がする」

「…………」

 

 正直、割とありだと考えてしまった七海。カズマが勝手に自己完結している以上口にはしないが、いざという時は候補に入れようと、頭の片隅に残しておいた。

 初心者冒険者の育成としては非常に合理的であろう。複数人で一人を囲んで守れば、事故が起きる可能性も低くなる。

 

「カズマー、こっちは準備できたわよー!」

 

 リザードランナーの生態を利用して、王様ランナーと姫様ランナーをカズマが狙って撃ち抜く。仮に狙撃に失敗した場合は、ダクネスが耐えている間にもう一度カズマが狙撃。

 それすら失敗した場合は、めぐみんの爆裂魔法で全体を爆撃。残党をカズマが狙撃で各個撃破。

 アクアは全体の援護、七海は遊撃として、狙撃の邪魔になる個体のみを集中して排除。以上が作戦の概要である。

 

 基本行き当たりばったりなカズマパーティにしては、珍しく失敗まで想定しての作戦。

 しかし。カズマが想定できている失敗は、あくまで"普通の"知能を持つ冒険者がパーティを組んだ場合に起こり得るもの。

 

 カズマが王様ランナーの特定に手間取っている間に、アクアは何やら妙なことを喋り出す。

 

「神聖魔法の一つに、敵を引き寄せる魔法があるの! 王様は一番速いやつなんだから、ここに一番早くついたやつがそれよ!」

「お、おい待てアクア! もう王様ランナーの目星はつけた、頼むから余計なことは!」

「“フォルスファイア"!!!」

 

 アクアが放ったフォルスファイア。それは、使用者の元に周囲一帯のモンスターを引き寄せる神聖魔法。

 ある種デコイのような役割を果たす魔法である。アークプリーストは支援職でありながら単独で戦うこともできる職であるが、対アンデットを除き、基本的に火力不足。習得ポイントが高いこともあり、あまり優先して採用されない魔法でもある。

 

「「「速っ!?」」」

 

 しかし、その効果は絶大。アクアの元に大量のリザードランナーが殺到する。

 問題は、そのスピードが想像よりも圧倒的に速かったことだろうか。

 

「ンソゲキッ」

 

 狙撃スキルの命中率は、本人の幸運に依存する。無論実力があればその限りではないが、弓など握ったこともないカズマに関しては完全に運依存。

 しかし、持ち前の幸運を以てその矢は確かに王様ランナーの頭を射抜いた。

 

 王様ランナーを射抜かれたリザードランナーたちは狼狽えるかと思いきや、益々いきりたつ。

 リザードランナーにとって、王様はまさに目の上のたんこぶ。速さが及ばなかったが故従っていたが、それが死んだとなれば、新たな王様となるべく争いを始めるのは自明の理。

 

「め、めぐみん!! 爆裂魔法の使用を許可する!! 距離は十分だ、まとめてぶっ飛ばせ!!」

「わかりました!! 事態が事態故口上を述べられないのが些か不満ではありますが……あれ?」

「ど、どうしたんだめぐみん!?」

「ま、ま、魔力が足りません!!!!」

 

 そもそも、めぐみんの魔力総量と、爆裂魔法の使用魔力量はほぼ同じ。そして彼女は、ここに来るまでの過程でカズマにドレインタッチを使われ、一定量の魔力を吸われていた。

 それが表すのは即ち、ガス欠。

 

「うあああああああ!? やっぱりこうなるの!?!?」

「か、カズマ! 早く姫様ランナーを……いや、やっぱりもうちょっとゆっくりでも……」

「待ってください。本気で死に……あ、ナナミ。回収ありがとうございます」

 

 アクアがリザードランナーに揉みくちゃにされ、ダクネスがゲシゲシと蹴り付けられ。唯一死にかねないめぐみんが七海に回収された頃。カズマもまた、姫様ランナーと対峙していた。

 怪鳥のような奇声を上げる姫様ランナーを前に、弓を引き絞り、そして、放つ。

 

「ンソゲキッ!」

「グエエエエエ!?」

 

 眉間に矢が突き刺さり、姫様ランナーは飛び蹴りを放った姿勢のまま、その生命活動を終了させた。

 しかし、その勢いまでもが完全に失われることはない。姫様ランナーの身体がそのまま木の幹に勢いよく激突し、足場が揺れる。

 

「あ」

 

 ボキッ、と。嫌な音が鳴り響くと同時にカズマの首の骨が見事なまでに折れる。

 地球で一度、そして、異世界で一度。カズマは確かにこの瞬間、死を迎える。それが、正史であるのだが。

 

「……ナナミ」

「全く、世話が焼ける」

「か、かっけえ……!!!」

 

 めぐみんを置いた七海が、カズマの身体をギリギリのところで回収。

 憧れか、それとも命の危機を助けられたが故の昂りか。カズマの顔が若干紅潮したことにより、ホモマ疑惑がより高まったこと以外は、特に被害なくクエストが終了した。




多分投稿頻度落ちます。夏休み入るまで暫しお待ちを〜
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