この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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久しぶりだな、君たちよ


第34話

「あ、ナナミさん!」

「すみません、お待たせしました」

「いえいえ、私も先程着いたばかりですので……」

 

 嘘である。この女、セナは、凡そ3時間前から待ち合わせ場所に着いていた。

 周りの人間からいくら奇異なものを見る視線を浴びせられようと、子連れの親に"見てはいけない人"扱いをされようと。めげる事なく、待ち続けたその精神性。それは、幾度捕まろうとセクハラを止めないダストに通ずるものがある。

 

「此方の店ですか」

「はい。近頃出来たと噂のカフェなのですが、いかんせん、一人では入りにくい雰囲気だった為……」

 

 オシャレなカフェというのは、総じてキラキラした人間で溢れかえっているものである。

 カップルであったり、カースト上位の女子集団であったり、昼下がりのマダムであったり……ともかく、独身が一人で入るにはハードルが高すぎる。

 しかし、出来たからには一度訪れておきたいというのが乙女心。故に、七海に同伴を頼んだ───というのは、あくまで建前。

 

 実際は、あれこれ理由を付けてでしかデートに誘えないチキンハートであるが故である。

 とはいえ、聞けば、アクセルの行き遅れ受付嬢、最近では魔道具店の店主をやっている行き遅れ店主まで七海と仲が良い、という噂が聞こえてくるではないか。このままウカウカしていては、飢えた獣に掻っ攫われかねない。自身も飢えた獣であることからは目を逸らした。

 

「そ、それでは、入りましょうか」

「ええ」

 

 店内に入ると、そこは正しく別空間とでも言うべきか。

 少なくとも、冒険者のように機能性を最優先した服装をしている人間はいない。貴族のような華美なものではないにしろ、調和がとれたお洒落な服装は正しく今時の女子とでも言うべきか。

 

「いらっしゃいませ、ご注文をお伺いします」

「私はコーヒーと、苺のショートケーキを」

「わ、私はカフェオレと、モンブランをお願いします」

 

 セナはブラックコーヒーが飲めない。理由は単純、苦いからである。

 大人になっても苦いものは苦い。仕事中の目覚ましですら、あのような悍ましい液体を口に含むなど考えたくもない。

 セナが飲める限界の苦さがカフェオレである。実は辛いものも苦手でありかなりのお子様舌なのだが、努力の成果もあり、未だ職場の同僚、部下にはバレていない。

 

 数分待ち、頼んだ品が到着する。

 

「……美味しいですね」

「ええ。生クリームが重すぎず、苺の味も立っている。見た目重視のケーキかと思っていましたが……これは、評価を改めなければならないようだ」

 

 饒舌になった七海を、セナはニコニコ笑いながら見守っている。

 セナの気質は至って善良、自分の選んだ店で想い人が笑顔になっていることが、何よりも喜ばしいのだ。ついでに自分の評価が鰻登りになっていれば言うことなしである。

 

 さて。七海の食事ペースが思っているよりも早く、このままでは本日のメインイベントを遂行する暇なく、食事会が解散となってしまうそれは、それだけは、なんとしてでも避けねばならない。

 

「その、ナナミさん。此方のモンブランも美味しいですよ?」

「……追加注文を検討するべきか───」

「んんっ! 私もショートケーキを食べたいのですが、流石にケーキを二つとなると、カロリー的に厳しいところがあります」   

 

 突然語り始めたセナ。しばし思考を巡らせたのち、七海は彼女の言わんとしていることが理解できた。

 

「宜しければ、私のものを少し食べますか?」

「あ、ありがとうございます! それじゃあ、私のモンブランも……」

 

 カフェ。男女二人。導き出される答えは即ち、互いのフォークを利用した分け合いっこ。

 思春期の高校生バカップルですら、実際に経験した人間はほんの一握りであろう。 GLBLNL、ジャンルを問わずして古今東西の恋愛漫画で使い古されたこの手法。

 恋人同士でやるのが基本であるにしろ、互いの距離を縮める時にも使われることがある。そう、まさに今である。

 

 どうせ受付嬢や貧乏店主は処女なのだ。こんな大胆な手段を取ることは出来まい。

 ここでリードを広げ、自身の地位を確固たるものに───!!!!

 

「ど、どうぞ」

 

 皿を七海の方に寄せ、取るように促す。

 仮に自分のフォークにモンブランを突き刺し、差し出すことが出来るのであれば、この歳まで行き遅れていない。そう、セナもまた処女なのである。

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

 

「クエストの受付手続きが完了しました。後の流れは今まで通りとなりますので、説明は不要でしょう」

「……ルナさん? 何故そこまで不機嫌なのですか?」

「泥棒猫を目の前に、好意的な反応をするとでもお思いで?」

「ッ!?」

 

 そう。ルナもまた、七海を狙う行き遅れの一角。

 いくら同士であるとはいえ、颯爽と現れた行き遅れ界の新星、セナを前に好意的な反応をするわけがない。

 

 ルナ曰く。私は七海さんとデストロイヤーの残骸を前にロマンチックな話をした(妄想上で)、私は七海さんのタイプを完全に把握している、と。

 セナ曰く。私は七海さんとお洒落なカフェを訪れ、ケーキを分け合った(本当に分け合っただけ)、七海さんは嬉しそうに微笑んでいた(ケーキの美味しさに)、と。

 

「「グヌヌヌヌヌヌヌ……!!!」」

 

 セナ対ルナ、ついでに今は居ない人も含めて。行き遅れたちの仁義なき戦いは、幕を開けたばかりである。




書いたはいいけど出すタイミングがここしかなかった
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