リザードランナーの討伐クエストを終えたその後、再びカズマはヒキニートへと舞い戻った。
レベルを上げようと意気込んでクエストに行った結果、死にかけたのだ。万が一死んでもアクアが使えると言うリザレクションの保険があるとはいえ、流石に再び死ぬのはゴメン被る。
ダクネスにレベルが負けているのは業腹だが、どうせバニルのような雑魚を大量召喚してくる類のモンスターなどそうは居ない。
のんびりカエルでも倒して、そのうち追い抜けばいいや、と。そのような考えに至っていた。
「フハハハハハハハハ!!!!! 大悪魔バニルが参ったぞ!!! 最近ホモマ疑惑で一部の女子を沸かせた男よ、当店に卸す予定の商品を見せてもらおうか!!」
「あー!? アンタ、どうやってここに入ってきたのよ!!」
屋敷の周りには、アクアお手製の結界が張り巡らされている。ゴブリンやコボルトといった通常モンスターには効果がないものの、アンデットや悪魔には効果絶大。
低級であれば、触れただけで即浄化。上級であっても突破には間違いなく手間取るであろう、なかなかの逸品であるのだが。
「なんと、あれは結界であったのか。随分と弱々しく、超強い我輩が通っただけで即座に壊れてしまったぞ。何処ぞの駆け出しプリーストの失敗作と思っていたのだが……いや、失敬失敬」
「あらー、そんなことを言いながら身体にヒビが入って今にも崩れそうになっちゃってるじゃない?」
「所詮この身体は仮初のもの、ただの土塊である。故に、それすら破壊できない杜撰な結界がまさか、自称女神たるアークプリーストの物であったとは……すまぬな。我輩の配慮が足りなんだ」
にこやかに皮肉をぶつけ合うこと十数秒。アクアは元々気が長い方ではなく、バニルは対女神限定で導火線が数ミリ程度にまで短くなる。そんな二人のことだから、すぐに喧嘩に発展するのは想像に難くない。
流石に屋敷の中で暴れられるのは色々と困る。魔道冷蔵庫もそこそこ高いし、こたつも壊されると再び作るのが中々の手間だ。
「それよりカズマ、こいつと商談するって本当? 人類の悪感情がなければ生きていけない寄生虫と? 商談? 言語を理解できているかどうかも怪しいのに? 全く、冗談も程々にしときなさいよね、ぷーくすくす!」
「フハハハハハハハハ! 我々悪魔は契約にうるさい生き物だ。貴様ら神の……なんだったか。『神を信じれば、全て救われる』、もしくは『神はいつでもあなたを見守っている』であったか? おっと、我輩は先日街中でご婦人を陰から魔道具で撮影しようとしてしょっ引かれた男や、生暖かい視線で女風呂を見守っていた男を見たことがあるが……なんと!! 彼らは神であったか!!」
数秒後。
「セイクリッド・エクソシズム!!」
「華麗に脱皮!!」
アクアの浄化魔法がバニルの身体を捉えるが、バニルは仮面を事前に身体から外し、浄化魔法の範囲から逃れる。
土塊の身体が崩壊するが、直ぐに屋敷の床から身体を生成し、仮面を取り付ける。すぐさまバニル式殺人光線の体勢に入り───。
「今後は別の魔道具店で買い物をすることに」
「フハハハハハハハハ! 人類皆友達、無論、我々悪魔と神も例外ではないだろう!! ……故に、お得意様よ。本当に考え直していただけないだろうか」
「なによ急に───」
「今後はツケ払いを代わりに支払うことを無くす」
「ねえバニル、私、悪魔と神でもきっと手を取り合えると思うの!!」
「違いあるまい!!!」
フハハハハハハハハ!! アハハハハハハハハ!! 喧しい二人の人外の笑い声が、少しの間部屋中に響き渡っていた。
☆♪☆♪
「ふむ……成る程。小僧、元々の契約では、月々の売り上げにつき10%を貴様に支払うことになっていたが。どうだ、これら全ての知的財産権を3億エリスで売却する気はないか?」
「さ、3億!?」
3億エリス。魔王軍幹部・ベルディアの討伐金と同額である。
浪費しなければ、七海による増額分を加味してパーティ全員を養っていくことも可能であろう。まぁこのパーティにおいて、浪費しない前提の計算など意味がないのだが。3億なんぞこのパーティが本気を出せば一月で消える。
「月々の場合は、そうだな。生産ルートを確立できれば、大体100万エリスとでも思ってもらえればいい」
「100万か……」
これまた随分な大金であるが、このパーティのことを考えれば、果たして月に100万円で持つかどうか。アクアの酒代、めぐみんが爆裂した土地の修繕費、各々がやらかしたことへの慰謝料。羅列すれば凄まじい浪費の数々である。
「んー……ナナミはどう思う?」
「……継続的な売り上げを見込めるかどうか。この世界のニーズがよく分からないので、なんとも言い難いですが」
「だよなぁ……なあバニル、もう少し待ってもらうことはできないか?」
「構わんぞ。どうせ商品の販売にはまだ時間がかかる故な」
「すまん、助かるよ」
にこやかに進む商談。それに少し苛々したのか、アクアは難癖をつける姑かの如く、バニルにケチをつける。
「でもカズマさん、コイツ、魔王軍の幹部よ?」
「この額に光り輝くⅡの文字が見えんのか。あの日爆裂魔法で残機を失った際、我輩は魔王軍の幹部を辞しておるわ」
「うぐぐ……」
「では、そろそろ我輩は店に帰るとしよう。あの貧乏店主が何をやらかすのか心配なのでな」
完全勝利に高笑いをしながら、バニルはカズマの屋敷を後にした。
残されたアクアが完全に拗ねてしまったが、誰からも相手にされず密かに涙を流していたことをここに記しておく。
ちょっと頑張りたい