「朝よ、みんな起きて!! さあ、早く早く!!」
日頃の疲れを癒すとの名目で、水の都と呼ばれるアルカンレティアに旅行することになったカズマパーティ。
やたら元気なアクアと、ついでに何故か元気なカズマに朝早く叩き起こされた面々は、未だ眠気の残る中目を擦り、簡易的な朝食を口に放り込む。
冒険者になってからは比較的時間に縛られない生活を送っていた七海。眠気の残る中食べる朝食から社会人時代のことを思い出し、密かにナーバスになる七海である。
朝食を食べ終えた後、カズマと、ついでに七海はウィズ魔道具店を訪れた。
「何故私まで……」
「次に店に来る時、七海を連れてくるようバニルに言われたんだよ、なんでかは分からんけど」
「……嫌な予感しかしませんね」
ドアを開けると、待ち構えていたのは黒焦げになったウィズと、せっせと魔道具を箱詰めしているエプロンをつけたカラススレイヤーバニル。
曰く、ウィズが勝手に大量購入してきた魔道具を先方に送り返すべく、返品作業をしている最中なのだとか。
「全く、当店のポンコツ店主は何故こうも、使えない魔道具を仕入れてくることに限っては類い稀なる才能を有しているのか……」
「一応ウィズはお前の雇い主だろ? あんな風にしていいのかよ」
プスプスと黒煙をあげて倒れ伏すウィズ。バニル式殺人光線を喰らってあの程度で済むだけ、彼女も大概である。
名前こそふざけているが、実態は本当に殺人光線。人間が当たれば直ぐに死ぬ。例外は例のバカ目隠しであろうか。奴の場合はそもそも攻撃が身体にまで届かない。
「あれを放っておいては、我輩が1000年働いたところでこの店は赤字のままであるわ。して、小僧よ。朝早くにこの店を訪れた理由は……」
「ああ、俺たち、今から温泉旅行に行くんだけどさ。この前言ってた商売の話、帰ってくるまで待ってもらえないか?」
「ふむ、別に構わんぞ。どうせ生産ラインも未だ調っていない故な」
ダクネスから紹介されたルートとは円満に交渉が進んでいるとはいえ、諸々の利権込みでそう簡単に話は纏まらない。
簡単に答えた後、バニルは少々の思考を挟み、カズマたちに提言をする。
「ところで小僧、今、温泉旅行に行くと言ったな?」
「ああ、そうだけど……」
「どうせなら、そこの貧乏店主も連れて行ってはくれんか。我輩は最近、所用で店を開けることが多いのでな。……どうせならば、お得意様に引き取ってもらえると尚助かるのだが」
今回の魔道具に関しては、偶々返品がきくものであったから良かったが。仮に返品不可な品の場合、何千万エリス単位で損害を出しかねない。
仮にカズマの商品が売れて月に1000万エリスの利益が出たとて、焼け石に水でしかない。なぜウィズ魔道具店がここまで潰れずに存続できているのか。バニルは帳簿と何時間も睨めっこしたが、ついぞ理由を解明することはできなかった。
「このバカ店主、リッチーとしての力だけは無駄に強いのだ。地上に出ている我輩とは実力が拮抗している為、見通すことができん。ちなみに、お得意様も同様の理由で中々見通すことが難しい。小僧は一瞬だな」
「いらんわその補足!! ……んで、連れて行くのは別にいいんだけどよ。こっちのアクアがアンデットを毛嫌いしてるから、どんな反応をするのか……」
「ふむ。小僧よ、この貧乏店主は脱げばすごいタイプであり、尚且つ風呂好きだ。聞くところによれば、アルカンレティアには混浴があるらしいな。……見通す悪魔である我輩が断言しよう。小僧、貴様はこの旅において、間違いなく貧乏店主を連れて行くべきであろう」
バニルの発言を聞いたカズマは、当然の如くサムズアップをして快諾。バニルに呼び止められた七海を置いて、喜色満面の様子、ウキウキで仲間の元へと向かっていった。
自身のパーティに所属する色物軍団ではない、真の意味でのヒロインと温泉旅行に行けるのだ。カズマがこうなるのも致し方ない。
「それで、話とは?」
「ああ。小僧を見通してわかったことなのだがな。お得意様は恐らく、この旅においてハンスと相対することになる」
「……例のスライムですか」
「そうであるな」
ハンス。七海に声がとても似ていると評判のデッドリーポイズンスライムである。
「お得意様はそこらの英雄様とは違い、不利な相手になりふり構わず突っ込んでいくタイプではない故、まぁ大丈夫だとは思うが。触れたら即死する故、死なないように気をつけてくれ」
「…………」
「ふむ、なぜ我輩がそこまでお得意様の心配をしているのか、とでも聞きたげな様子であるな」
得意げな表情を浮かべたバニルは一転、仮面越しでもわかる程度にはその顔を曇らせる。箱詰めにされた大量の魔道具を眺めながら。ついでに、店内に所狭しと並べられたハズレ魔道具を眺める。そして、重々しく口を開く。
「……お得意様に死なれると、店が大量の不良在庫を抱えることになるのだ」
「……お疲れ様です」
社会人時代。上司から無理難題を押し付けられ、絶望の表情を浮かべている同僚の姿を幻視した七海は、珍しく、バニルに心からの同情の言葉を送った。
平日投稿したいなぁ