この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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お久しぶりです


第37話

 一応は冒険者であるカズマパーティ。護衛依頼として馬車に乗り込むことも可能ではあったのだが、今回は金を払って乗客として乗ることに。

 七海がいるとはいえ、下手をすればジャイアントトード相手にすらパーティ壊滅の危機に陥りかねないのだ。この辺に出てくる、人が多くいる馬車を襲うモンスターの相手などしてたまるか、とのカズマ談である。

 

 バニル討伐の報奨金に加え元々の貯金、知的財産権かそれとも継続的な収入か、どちらにせよまとまった金額が入ってくることが確定しているカズマパーティ。

 今回ばかりは誰も異論を唱えることはなく、この提案は採択された。

 

「あ、あの〜……これ、本当に私も同行して良かったのでしょうか」

「むしろウィズが居ないと始まらないからな。せっかく温泉に行くのに、男二人にロリ娘、変態と駄女神だろ? ヒロイン枠が居ないじゃねえか」

 

 物語における温泉旅行。混浴であれこれだったり、風呂上がりにあれこれだったり、就寝時に同室であれこれだったり……シチュエーションは多種多様だが、ともかく、ヒロインと主人公の距離が近付く重要イベント。

 しかし、肝心のヒロイン枠が居ないのではお話にもならない。

 

 顔よし、身体よし、性格よし。アンデットで魔王軍幹部という欠点こそあれど、それも一つのスパイスとして受け入れられないことはない。

 パーティ内恋愛ではなく、外部との恋愛というのも、また斬新で悪くない。

 

「聞き捨てなりませんね、我々がヒロイン足り得ないと?」

「当たり前だろ。普段の行いを見直してみろよ」

 

 アクア。顔と身体はいい。ただし性格は悪い。悪すぎる。

 放っておけばどこかしらで借金を作ってくるし、見張っていても何かしらの問題を起こす。酒を飲めばゲロを吐くし、飯を食っては腹を壊す。取り柄は無駄に高いステータスと、宴会芸。大道芸人になれば大成間違いなしである。

 

 めぐみん。顔はいい、身体は発展途上ということにしておこう。性格はそれなりである。

 ただし、爆裂魔。昼間に撃たねば住環境がどうたらで罰金を取られるため、午後からの稼働は期待できない。よって、家事はそれまでに済ませてもらうか、自ら行う必要がある。喧嘩っ早い為トラブルを起こすこともある。

 

 ダクネス。顔はいい、身体もいい。性格も平時に限れば悪くない。

 実家がバカみたいに太い為金銭的援助も期待できる。ついでに人並み程度になら家事もできるし、攻撃が当たらないだけで基礎スペックは高いので、諸々の用事にも困らない。

 性癖にさえ耐えられれば、実は一番ヒロイン適性が高いのはダクネスなのかもしれない。残念なことに、その性癖が致命的な弱点であるのだが。

 

「いいとこネタ三銃士だな」

「それを言うなら、カズマさんはそこら辺のモブAね!」

「モブAのパーティに入るお前は差し詰めモブBってとこか? ああいや、"アクア"だからイニシャル的にモブAか! それならお前にこの座はやるよ!」

 

 暫し笑いあった後、キャットファイトを始めた二人。ちなみにめぐみんは窓から見える景色を楽しんでいる為ガンスルー、ダクネスは性癖に従い悶えている。ウィズは寝ている。

 

「……ん? なんだありゃ」

 

 千里眼スキルを持つカズマは、片手でアクアを押さえながらも、遠くでやたら派手に舞う土煙を視認した。

 御者曰く、この時期に土煙を上げるモンスターといえば、リザードランナーか走り鷹鳶の二択。リザードランナーは最近姫様ランナーが討伐された為可能性としては低く、恐らく後者であろう、とのこと。

 

 走り鷹鳶はその習性上固いものに突っ込んでいく傾向がある為、その辺の石や木にでも突撃するので、心配はいらないだろう、と。御者は呑気に笑いながらそう言ったのだが。

 

「……あれ、こっちに向かってきてないか?」

「サトウくん。私たちには、ダクネスさんがいます」

 

 ダクネス。アダマンタイトよりも硬いかもしれない女。それに加えて、彼女の鎧には本家本元のアダマンタイトが使用されているという。

 硬さだけなら人類随一。そこら辺の岩や木など比べることすら烏滸がましく、当然、走り鷹鳶からすれば、絶好のターゲットでもある。

 

「……ナナミ」

「ええ」

 

 自身たちのパーティーが原因となって引き寄せたモンスター。流石に何もしないままでは寝覚が悪い。

 各々が武器を持って戦闘体制を整える中、馬車の御者はそれを宥めるように声をかける。

 

「お客様方は乗客なのですから、どうぞその場で安心してお待ちください」

 

 直後、御者は走り鷹鳶を指差し、多少大袈裟な身振りで声を上げる。

 

「冒険者の先生方、よろしくお願いします!」

 

 カズマたちが座る客席の下にあるスペース。そこから、武器を持った護衛任務を請け負う冒険者たちが飛び出してきた!

 

 

 

 

☆♪☆♪

 

 

 

「……心が痛い」

 

 乗客という立場にも関わらず、勇猛果敢に飛び出てその身を危険に晒すクルセイダー。自らを顧みず、立場に縛られず、あくまで冒険者としてその役割を果たそうとする姿は正しく騎士の鏡。マッチポンプであり、本人は歓び続けているのだが、その事実を冒険者たちが知ることはないし、知らない方が幸せだろう。

 冒険者たちはその姿に感嘆し、ダクネスの背後から攻撃を打ち込み続ける。とはいえ、相手は走り鳶鷹の大群。範囲攻撃無くしては全滅させることは難しく、気が昂っていることから退却してくれそうにもない。

 

「つまり、私の出番ということですね!」

「…………そうですね」

「何故そんな苦虫を噛み潰したような顔を……。アクセル以外で私の爆裂魔法を拝める機会なんて、一億エリス支払ったとて得られませんよ?」

 

 戯言は置いておくとして。ウィズの魔法であれば或いは、と言ったところであろうが、確実に仕留められるかと言われればなんとも言えない。前衛のダクネスが決壊することはまずあり得ないため時間はいくらでもあるが、いつまでもダラダラと足止めを喰らうわけにもいかない。

 カズマには、使命があるのだ。温泉、混浴にて正ヒロインとも言えるウィズとバッタリ出会し、お互いに恥ずかしがりながらもタオル一枚のみの状態で風呂に入り、仲を深める───そんな、重大な使命が。

 

「「…………」」

 

 味方であるはずの盗賊のスキルを自ら受けに行き、縛られたダクネス。それですら好意的に解釈する冒険者たちに対し、どこか申し訳ない感情が生まれる七海とカズマ。

 走り鳶鷹はチキンレースを行う生き物である。チキンレースで対象の物体にぶつかっていてはそれはもはやただの事故であり、当然、ダクネスも寸前で幅跳びなり、バク宙なりで回避されている。

 焦らされて不満げかと思いきや、それですらも興奮に変えられるのがこの女。人類よりモンスターに近いかもしれないともっぱらの評判、ダクネスである。

 

「おっちゃん、この辺りに崖とかはないのか!?」

「ありませんよ! せいぜい雨が降った時の休憩に使う洞窟ぐらいしか……」

「クッソ、そんな上手い話は……いや、行けるぞ! アクア、めぐみん! 馬車に乗れ! ナナミ、ダクネスの回収頼む!」

 

 何やら策を思いついたのか、得意げな顔でカズマが指示を飛ばす。鎧を着たダクネスの重量は想像に難く無く、レベルが上がった今でもせいぜいがそこらの成人男性に毛が生えた程度の筋力しかないカズマでは抱えられない。

 指示通り縛られるダクネスの元に向かった七海。盗賊が使う拘束スキルに縄の結び目は存在せず、効果時間切れの前に脱出するには刃物で縄を一本一本切るしかない。

 以前にそんな話を聞いていた七海は、少々強引ながらダクネスの身体を持ち上げる。

 

「……ッ……」

「な、ナナミ? 何故少し辛そうな顔をしているんだ?」

「い、いえ。なんでもありません」

「い、いや! 訂正をさせて欲しい! 重いのは私自身で無く、着ている鎧で……!」

「分かりましたから、少し口を閉じていてください。舌を噛む……いや、貴方の場合噛んでも無事かも知れませんが……」

 

 その重量に少し顔を顰めた七海だが、持ち上げることに支障はない。そのまま馬車に飛び乗り、カズマの指示で再び動き出す。

 

「……なあ、ナナミ」

「聞きたくありません」

「ふと、思ったんだが。仮にカズマが助けに来ていた場合、私を持ち上げることが出来ないはずだ。そうなれば、ロープか何かで私を馬車の後ろに縛り付け、そのまま」

「聞きたくないと言ったでしょう……!」

 

 変態の相手を押し付けられた七海に心の中で合掌しながらも、助けに行くことはしない。彼も彼とて逸る爆裂狂と馬車酔いして吐きかけているゲロ女神の世話で手一杯なのである。

 追いつかれそうになった所をウィズの上級魔法でなんとか凌ぎ、馬車は洞窟へと無事に到達する。

 

「おっちゃん! 馬車を洞窟の脇に止めてくれ! アクア、俺に支援魔法を……いや、ナナミ!! ダクネスを洞窟の入り口前へぶん投げろ!!」

 

 カズマの命を受けた七海は、彼のやらんとすることを理解した。本来であれば、仲間である、女であるダクネスを。いくら頑丈とはいえ、容赦なく石の地面へ向けてぶん投げることなど、絶対にしない。しない、はずなのだが。

 

「了解しました」

「……え」

 

 恐らく、断ると考えていたダクネスは、その返事に喜色半分、困惑半分の声を上げる。

 七海は大人であるが、それと同時に一人の人間である。それも、寝ても覚めてもブラック労働に勤しむタイプの。合法的にキチゲを発散できるともなれば、その機会を活かさない手はない。

 ダクネスを縛るロープを手繰り寄せると、ハンマー投げの要領でぐるぐる回して射出。そのまま見事な放物線を描いて飛んでいき、ちょうど洞窟の前に着地した。

 

「めぐみんッ!! やれ!!」

「ふっふっふ。名乗りを上げる暇が無さそうなのは業腹ですが、シチュエーションは理想そのもの! 我が叡智を以て、この危機から脱してみせましょう!!」

 

 杖を構えためぐみんはその瞳を紅く煌めかせ、短く一言。

 

「『エクスプロージョン』!!!!!」

 

 凄まじい爆音と共に、破壊のエネルギーが走り鳶鷹たちを。ついでに、洞窟を消し飛ばした。

 

 

 




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