この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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むずかしい


第38話

「さあどうぞどうぞ! 良い部分が焼けたので是非召し上がってください!」

 

 商隊のリーダーである初老の男性が、よく焼けた何かしらの肉をカズマに差し出した。七海は賑やかな雰囲気があまり得意でなかったのか、一人になる為早々に離れ。アクアは褒められ続けて有頂天になり、宴会芸を披露し大盛り上がり。ダクネスはアワアワしており、めぐみんは得意げに武勇伝を語り続けている。

 

 ダクネスがこの場に居なければ、走り鳶鷹が商隊に襲いかかることはなかった。言わば、そう。カズマパーティお得意のマッチポンプである。

 

 そして、このサトウカズマ。女のパンツを剥ぎ取ることには一切躊躇しないにも関わらず、マッチポンプには罪悪感を覚える感性の持ち主。居心地悪そうに貰った肉を頬張る。

 

「その、何度も言いますけど、護衛の報酬は結構ですので」

「いやいや、何を仰いますか。貴方方が居なければこの商隊は壊滅、我々が今この場で生きていることすら!」

 

 そもそも俺たちが居なければ危機に陥ることもなかったんです!!!! カズマは内心絶叫する。結局男性はカズマの心意気、もといマッチポンプへの罪悪感に感銘を受け、この旅路でパーティへの惜しみない支援を約束した。

 

 そして、深夜。馬車のバリケードに囲まれていること、護衛の冒険者がいることから、カズマパーティは心地よい眠りに浸っていた。  

 

「……サトウくん?」

「ナナミ? まだ起きてたのか」

「此方のセリフです。夜更かしはあまり褒められたものではありませんよ」

「今更だな……。ま、色々あって眠れなくてな」

「ああ……」

 

 褒めちぎられ、居心地悪そうにしていたカズマの様子を思い出す。心労がかかれば通常は疲弊し、眠りたくなるものだが、カズマはどうやら真逆。眠れなくなるタイプであるらしい。

 冒険者たちが飲み残したのか、地面に転がるシュワシュワの入った瓶を開け、コップに注ぐ。

 

「飲むか?」

「いただきます。……この時間帯に酒を飲むのもまた、久しぶりですね」

「俺は地球にいた頃、年齢的に酒飲めなかったからなぁ。そういや、ナナミは俺が酒飲んでることに対して何も言ってこないよな」

「……」

 

 大人である七海ならば、未成年が酒を飲むことに対し一言ぐらい何か言いそうなものだ。そう思ったカズマは七海に尋ねるが、彼が未成年飲酒に対し注意できるはずがない。

 未成年ながらヤニカスと酒カスを兼任していたヤブ医者先輩、好奇心からたまーに晩酌をしていた前髪が変な似非坊主先輩、一度飲んで酔っ払い、校舎を破壊し尽くしたクソ白髪先輩。彼らを見てきているのだから。

 苦虫を噛み潰したような顔をする七海に何かを察したのか、カズマは引き攣った笑みを浮かべるのみにとどまった。

 

「そうだ。話題は変わるんだが、俺が近接で戦えるようになりたいって言ったら、ナナミはどう思う?」

「……やめておいた方がいい、と言うでしょうね」

「だよなー。俺も筋トレとかしたくないし、真正面に出て死にたくないし。このまま後ろでセコセコやるのが性に合ってるわ」

 

 後に、女神とコンビを組んで王城に襲撃をかまし、再び魔剣の勇者と正面から激突することになるのだが。彼は当然、まだそのことを知らない。

 それはともかくとして。

 

「サトウ君ぐらいの年齢であれば、こう。正面から戦う役に憧れのようなものを抱いているとばかり思っていましたが」

「まあ、チート貰えてりゃ俺もそうなってたのかもな。ミツルギみたいに魔剣使ってドラゴンでも倒してハーレム作って……あークソ、イライラしてきた。次に会った時股間蹴ってやる」

「聞かなかったことにします」

 

 仮に、何かチート能力をもらえていたとしても。ミツルギのようにはならず、なんやかんやでこのメンバーを集め、馬鹿騒ぎの日常を送っていたのだろう───と。そう思ってしまうのは、七海がこの可能性のカズマしか知らないからであろうか。

 ともかく。彼が典型的なチーレム主人公として振る舞う様は、どうにも想像ができない。

 

「つーかよ。ナナミはいい加減、俺のこと名前で呼んでも良いんじゃないか? こだわりとかあんの?」

「いえ、特には。私の性分です」

「まだ好感度が足らない、ってやつか。言うなればこれは好感度イベントの第一弾ってな」

「気持ち悪いことを言わないでください」

 

 どこの世界に筋骨隆々三十路金髪大男の攻略対象ヒロインが存在するのか。突然奇妙なことを言い始めたカズマに少し距離を取った七海。

 冗談だよ、と。カズマはグラスに入ったシュワシュワを飲み干し、欠伸をする。

 

「そろそろ寝るか───あ?」

 

 突如。カズマの所持スキル、敵感知に反応が。

 

「ナナミ、この辺のモンスターって」

「夜は主にアンデットです」

「……アンデット?」

 

 思い起こされるは、今は懐かしきキールのダンジョン。道中多数のアンデットに襲われ、アクアがいなければ或いは───と思い感謝したは良い物の、帰りにアクアがアンデットを引き寄せる体質だ、と言う事実が判明。

 要するに。これは、先のダクネスと同じパターンではないか。

 

「起きろアクアああああああああ!!!!」

 

 カズマの大声により叩き起こされたアクアは、見事な腕前で大量のアンデットを浄化して見せる。

 それをみた冒険者たちは口々にアクアを讃え、商隊のリーダーは感動したような目でカズマたちの方を見つめている。再びのマッチポンプ発生に、カズマは頭を抱えた。




やる気はあるんですよね
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