「そんじゃあ、一回試しでクエスト受けときます?」
「そうですね。互いの相性を見るには、それが最適かと」
「……えーっと、ナナミさん?」
「はい」
「敬語、やめてもらって大丈夫ですよ?」
カズマから見た七海建人は、クソ怖い大人像そのもの。がっしりとした体格、つけている意図がよくわからないサングラス擬き、なぜかいまだに着用している白スーツ。初見時は、どこからどう見てもヤのつく人にしか思えなかった。
が、七海本人の気質は至って善良、ではないにせよ、大概まともではある。カズマもそれを見抜いているのか今更恐れ慄くことはないが、それでも敬語を使われるのは違和感がもの凄い。
「ああ……。これは私の性分のようなものですので、お気遣いなく。むしろ、貴方も敬語は使わなくとも問題ありませんよ」
「お、マジで?」
年下に対する敬語が性分、という言葉から七海をかなりの堅物であると推測していたカズマだが、その直後のこれに思わず声が出る。
何を隠そう佐藤カズマ、最後に敬語を使ったのは小学生の時のクラブ活動、パソコン部の先輩に対するもの。幼馴染の少女を先輩に寝取られた───否。BSSされた際に、誰であろうと二度と年上に敬語など使うものかと決意した。が、その決意などすでに忘却の彼方ではあるのだが。
ともあれ、カズマにとって敬語を使わなくていい、と言うのはそれなりの朗報。クソ怖い七海相手にタメ口を使うのはそれなりの勇気がいるが、そこは流石勇者候補。無駄なところで勇気を振り絞り、無事敬語を取りやめることに成功する。
「クエストを決める前に。可能であれば、お互いの戦力を把握しておくのが望ましいでしょうね」
「ああ、そりゃそうか。つってもナナミがめっちゃ強いってのと、そこの厨二病がやべえ奴ってことは知ってるから、俺らの方だな」
「誰が厨二病ですか。いいですかカズマ、私が発する言葉の一つ一つには深い意味があり、この眼帯には……」
「ええ。よろしくお願いします」
めぐみんの戯言をぶった斬り、無理やり話を進める。
アクアのステータスが馬鹿げているのは受付嬢の叫びで知り得たが、カズマに関しては未だ未知数。特典にアクアを選んだのであればチートとやらを持っているわけもないだろうし、一般的な男子高校生と考えればそこまで能力にも期待はできないだろう。
尤も、この世界はステータスに加えレベル、スキルという概念があり、前世と比べ比較的努力が結果に結びつきやすいことは間違いない。今後冒険を進める中で、それなりの成長は見込めるだろう。死ななければ。
「ふふん、私のステータスはこれよ! 恐れ慄きなさい!」
バン、と。アクアが机の上に置いたカードに表示されたステータスは、ともすれば上級冒険者のそれすら凌駕し得るもの。筋力値・俊敏値こそ七海に敵わないが、魔力に関しては比べることが烏滸がましいほどに離れている。めぐみんと比較しても、その差は歴然。
幸運が低いのはともかく、知力の低さはこれまでの会話からも十分に見て取れる。虎杖のように、戦闘IQに限り高い、というようなこともあるまい。その辺りはパーティメンバーがカバーする必要はあるが、総合的に見て超級の人材であることに違いはない。
「それで、あー…‥俺も見せなきゃダメか?」
「ダメですね」
「うん、まぁ、そうだよな」
諦めたような様子で、カードを机に置くカズマ。
先ほどのアクアとは対照的に、幸運が非常に高く、知力も高いとはいえないまでもそれなり。
ただし、身体能力や魔力といった戦闘に直結するであろう技能値が軒並み死んでいる。なんなら筋力値はめぐみんよりも低い。明らかに前衛職には向かず、尚且つ後衛職になるにも心細い魔力。七海は頭を抱えた。
「えーっと、ナナミ?」
「……ちなみに、この冒険者という職業はどのような?」
「縛りなく全てのスキルを獲得できる超優秀な職業」
「その代わり全てのスキルがデッドコピー、能力の低さも相まって本職を超えることはまぁ無理。簡単にいうと役立たず、オブラートに包んでいうと器用貧乏ね」
「先に本音出したらオブラートに包む意味ねえんだよ!!」
めぐみんと何やら意気投合してきたアクアの言葉に憤慨するカズマ。その横で頭を抱える七海。
色々とまずい。七海は以前、冒険者になりたてだと言う14歳女子のステータスを覗く機会があった。その子は後衛職であるウィザード、当然筋力はそれ相応に低く、間違っても前に立たせることがあってはならない程度の数値であった、のだが。
カズマの筋力は、それの更に下を行く。それもそのはず、彼は実質元ヒキニート。ヒキニートの体力は後期高齢者よりも低く、その筋力は戦隊ヒーローに憧れる男児にすら劣る。そんな悲しきモンスター。間違っても冒険者を志すようなことがあってはならない人種。
「……どうしても冒険者に拘る理由が、何かあるのですか?」
「あれ、おかしいな。クエスト行くための情報交換がいつの間にか冒険者を辞めさせる説得の場になってるぞ???」
「あ、カズマさんが魔王倒さないと私が天界に帰れないから、冒険者辞めるって選択肢はナシよ?」
「……天界?」
めぐみんが"天界"という厨二病御用達ワードに反応する。
その反応に、待ってましたと言わんばかりに両手を広げて椅子の上に立ち、声高々に叫ぶアクア。
「そう! 私こそが水の女神アクア、アクシズ教の御神体なのよ!」
「そう思い込んでるだけの可哀想な人なんだ。どうか見逃してやってくれ」
「……アクア、唐揚げを一つ分けてあげましょう」
「なぁんでよお!?!?」
そりゃ、まぁ。初対面の頭の悪い女が突然"私は神だ!"なんて言い出せば、そんな反応にもなる。
しかも、この世界においてアクシズ教は中々の悪評が轟いている。エリスを自称するのならまだしも、よりにもよってやべえ宗教団体の元締めを自称するのだ。頭がおかしくなっていると思われても仕方がない。
「ナナミからも何か言ってやってよ! アンタ私が神だって知ってるでしょ!?」
「…………」
「なんで無言で目を逸らすのよ!?」
「……一先ず。サトウ君のステータスでは、下手に高難度のクエストに挑むと簡単に死にかねません。ゴブリンやコボルトといった低級モンスター討伐のクエストを受注しましょう」
「無視するなぁ! ……力強ッ!?」
飛びかかるアクアを片手で抑え、話を進める七海。
基本は安全思考のカズマもその方針に同意し、群れ相手に爆裂魔法を打てるのなら、とめぐみんも納得。アクアの意見は無視された。
繋ぎなので短めです。
日刊入りありがとうございます。自分の拙い文章で良ければこれからもお付き合いいただけると幸いです。