この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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まさかここまで続くとは思ってなかった


「この哀れなぼっちに友人を!」
第43話


「ナナミさんッ!! 私、貴方の子供が欲しいっ!!」

「…………は?」

 

 ぼっちが祟ってとうとうぶっ壊れたか。子供ができたとて、その子と仲良くしたとてそれは友人関係とは言わないぞ、と。咄嗟にそんな言葉が出そうになり、思わず己の口を手で抑える。不思議そうにこちらを見つめてくるゆんゆん。不思議どころか度肝を抜かれているのはこちらだ、と。七海は内心そう愚痴る。

 普段であれば誰かしらが食ってかかるのだろうが、生憎人気受付嬢は唐突に流し込まれた情報に撃沈しており、冒険者たちは七海が年頃の少女を手籠にしている可能性についてヒソヒソと話し合っていた。

 

「……一応、聞いておきますが。その理由は?」

「あ、ご、ごめんなさい。……その。私の故郷から、手紙が来たんです」

 

 曰く。ゆんゆん達紅魔族が集う地である、紅魔の里は現在、魔王軍の襲撃に遭っている、と。この手紙を記した主は現在危機的状況にあり、手紙が届く頃には既にこの世を去っている可能性が高い、と。

 もしこれが真実であれば、それは間違いなく悲劇と言えるだろう。生まれ故郷が滅び、恐らくは故郷にいるであろう親族の生死も不明。そんな中で自身はアクセルでのうのうと冒険者としての生活を送っていたなど、悔やんでも悔やみきれまい。

 ちなみに、この時点で冒険者たちは噂をやめていた。これぞ人徳。比較的まともであるがゆえに得られた恩恵である。

 

「紅魔族の血を絶やさないように、って……」

「ゆんゆんさん」

「……ナナミさん。私は本気です。しょ、正直怖いけど、今頼れる男性は……」

「もう一枚、手紙が付属しています」

 

 七海から手紙を手渡され、それを読み進めるゆんゆん。

 紅魔族唯一の生き残りであるゆんゆん。そんな彼女の子供がついぞ魔王にその刃を突き立て、世界に平和を齎す──そのような占いが、紅魔族屈指の占い師から下された、と。

 

 さて。紅魔族唯一の生き残りというものの、この街にはもう一人の紅魔族、めぐみんがいる。この手紙の書き手がめぐみんを亡き者として扱っているのならばともかくとして、時には野草を、時には野生動物を刈って、時には邪神を復活させて飢えを凌ぐめぐみんの生命力は、紅魔族のよく知るところである。

 そして。その後ろに記された、確たる証拠。──著 あるえ

 

「あるえのばかあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」

 

 ゆんゆんは、走り去っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゆんゆんさん」

「は、はい! "ライトニング"!!」

 

 七海が鉈でモンスターを押し留めている隙に、ゆんゆんの杖から放たれた閃光がモンスターの額を撃ち抜いた。撃ち抜かれたモンスターは即死、力を失いそのまま地面に倒れ込む。

 あるえの小説にあったように滅亡の危機、とかそういうわけではないにしろ、どうやら紅魔の里が魔王軍に襲われているのは事実であるようで。一応心配になったゆんゆんは、里に帰ることにしたらしい。

 

 アークウィザード揃いの紅魔族が苦戦しているともなれば、もしや魔法の通りが悪いモンスターが相手なのではないか、と推測したゆんゆん。なので、戦力的な面で見れば近接ができる人間が欲しい。

 じゃあ、誰か。七海しかいない。知り合いのクルセイダーは攻撃が当たらないし、冒険者に関してはどう考えても火力不足である。例えるならピコピコハンマー一本で戦場に突撃しているようなものだ。

 

「商隊の護衛、手慣れていますね」

「は、はい。昔、紅魔の里からアクセルに来る時も、護衛任務を引き受けたりしてたので……」

 

 七海の戦闘方法は基本的にサーチアンドデストロイなので、こういう護衛任務にはあまり向いていない。勝てない敵とは戦わない、という基本方針がクレバーなだけで、実はカズマパーティで一番脳筋なのは彼。所謂、知能の高いバカである。

 

「そ、その……ナナミさんは、前にめぐみんたちとアルカンレティアに来てたんですよね?」

「ああ、はい。あまり観光はできませんでしたが」

「あはは……」

 

 アルカンレティアに到着して商隊のリーダーから報酬を受け取り、一晩休むべく宿を探して歩く。

 七海の言葉を聞いてまた爆裂バカが何かやらかしたか、と。ゆんゆんは曖昧に笑うに留めたが、彼女の顔がなによりも雄弁にソレを語っていた。

 まぁ、アルカンレティアなんぞ観光するものじゃない、と言われればそこまでなのだが。温泉に入って飯を食べてとっとと帰る、これがアルカンレティア観光の最適解。下手に長居しては知らぬ間に感染している恐れがある。

 

「……お気を悪くすれば申し訳ないのですが。ゆんゆんさんは、アクシズ教に何か嫌な思い出が?」

「え」

「なんというか、こう。勧誘を断る際に、普段とは異なる憎悪のようなものが見えたので」

 

 気の弱い人間が宗教勧誘に遭えばあわあわと慌てた上で下手をするとそのまま……ということにもなりかねず、七海も警戒していたわけだが。相変わらずの勧誘トラップ、その全てをゆんゆんは"結構です"という一言で切り捨てて見せた。

 ゆんゆん曰く。以前アルカンレティアを訪れた際、最高司祭ゼスタによりそれはもうすごい目に遭わされたのだとか。またゼスタか、と。七海の中で会ったこともない老人への印象がグングン下がっていく。

 

 仕方あるまい。今の所、ゼスタのイメージは変態ロリコン鬼畜アクシズ教徒である。アクシズ教徒であるところを除けば割とカズマと一致するのでは、と一瞬考えた七海だが、彼の名誉のためにもすぐにその思考を振り払った。変態であり鬼畜であることは疑いようがないが、流石にロリコンではないだろう。多分。恐らく。

 

 その後。カズマパーティで来た時よりも平穏に夜を終えられるかと思いきや。混浴の温泉を見て自身がやらかしたことを思い出しゆんゆんが瞬間沸騰、魔法を打ち出そうとしてそれを必死に七海が止める、という事件が発生し、結局気苦労が絶えない七海であった。




七海とゆんゆんが恋仲になることは万に一つもあり得ません。常識的な大人が未成年と付き合うわけない。
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