「娘はやらん!!!」
「パパ!?」
「いりません」
「いりません!?!?!?!?」
"いりません"。"いりません"とは。別にナナミに恋愛感情を抱いているわけではないにせよ、数少ない交友関係における、唯一と言っていい常識的な男性の知り合いである。
そんな彼が私になんと言ったのだろうか。"いりません"と。そう言ったのだ。行き遅れ、生涯独身、いざとなったらアルカンレティアで婚活を、セシリーさんと共同生活を、ゼスタさんに売り込みを──いや、これはダメだ。人間としての尊厳を放棄している。
「うむ、まぁ。娘が男を家に連れてきたら一度言ってみたかっただけだ」
「一応、お話しておきますが。私とゆんゆんさんは倍近く歳が離れている故、そういう関係となることは万に一つもありません」
「……そう、そうよね。私は結局ダストさんがお似合いなの。セシリーさんと一緒にエリス教の教会に石を投げ込みに行く毎日を送るのよ」
ジメジメとした空気を漂わせるゆんゆん。友人がいない彼女がこのような雰囲気を出すのはいつものことであるためゆんゆんの父親──ひろぽんと名乗った──はそれをスルーし、話を進める。
泊まる場所がないならここに泊まってもらうことは構わない。ゆんゆんとは寝室が同じでも別にいいが、そういった行為は同意の上で行うこと。
最後の一文を聞き終える前に家から出るべく戸をガラガラ引いた七海を、ひろぽんは割と必死の形相で引き留めた。
曰く。族長の娘として当然ゆんゆんには後継を作ってもらう必要があるが、果たしてこのままでは生涯のうちに伴侶ができるかどうか。彼女がまともに話すことができる異性すら貴重な存在なのだ。年の差婚には比較的理解がある方だぞ、と。
ゆんゆんのグーパンで沈む父親を他所に、二人は里をぶらついていた。
「……この辺りに食堂はあるのですか?」
「う、うう……。こっちです」
特に目的もなくふらふらと歩いていたわけだが、ゆんゆんのお腹がそれはもう可愛らしい声を上げたことから、目的地が食堂に設定される。
さて。紅魔の里が誇る食堂といえば当然ここ、『酒場サキュバス・ランジェリー』。名前だけ聞けばアクセルに存在する健全な共生カフェの二号店のような名前だが、この店の名前で機能しているのは"酒場''という部分のみ。他は無視していい。
「いらっしゃーい! お好きな席に……ゆんゆん!? 帰ってきてた……男おおおおおおおお!?!?!?!?」
制服を着た、おそらくはゆんゆんと同年代程度であろうか。まだ幼さが残る様子ではあるが、彼女も歴としたアークウィザード。カズマぐらいなら一瞬で消し炭にでき、ダクネス相手にかすり傷をつけられるかもしれない人類有数の強者である。
"あの''ゆんゆんが男を連れている。その事実に驚愕した彼女は店を中心で切り盛りする店長のような人物に一声かけ、ジョッキを持って二人のテーブルに座る。
「やー、さっきは大声出してごめんね?」
「え、えっと、大丈夫。ひ、久しぶりね、ねりまき」
「うん。ゆんゆんが里から出てった時以来? 中々帰ってこないと思ってたら外で男まで作ってさぁ……」
「な、ナナミさんとはそういう関係じゃないわよ」
「へーえ? ゆんゆんはこう言ってるけど、ナナミさんだっけ。君はどう?」
無論、答えはノーである。七海が首を横に振ると、ねりまきは不満げな声を上げながらもそれ以上の追求をやめた。
紅魔族には珍しく比較的一般人とのコミュニケーションに長けるねりまき。このまま言及を続けていればそう遠くない未来にゆんゆんからの攻撃を受けていた。これが発育だけはいい自称小説家と異なるところである。
「と、いうわけで、改めて。我が名はねりまき! 紅魔族随一の酒屋の娘、居酒屋の女将を目指す者!」
「七海と申します」
「よろしくねー。あ、そうだ、お酒飲む? 奢るよー」
「……いえ、この後も用事がありますので。この唐揚げを」
「真面目だねえ。ゆんゆんはどうする?」
「私は……えっと、ナナミさんと同じやつで」
「一緒でいいの? 別々の物を頼んで食べさせ合ったりとか……あ、あの、ゆんゆん? なんでそんな凹んで……」
先ほどまでのことを思い出し、凹むゆんゆん。だが、安心してほしい。アクセルを探せば先達はいくらでもいる。仮に彼女がそのような未来を掴んでしまったとしても、仲間に囲まれ、寂しいどころかにぎやかな毎日を送ることができるはずだろう。多分。
2月初旬まで大学関連で地獄見るので更新できるか微妙です。ごめんね。