翌日。ひろぽんにやたら同室を勧められながらも断り切って無事に一夜を乗り切った七海。
ゆんゆんはどうやら学園時代の友人に会いに行くようで、別行動。果たしてゆんゆんの言う友人とは、本当に友人なのか。もしや友達料と称して金をせびられたり、嫌がらせをされているだけではないのか。一瞬そう考えはしたが、流石にそこまでは己が口を挟むわけにもいかないだろう、と。自重し、適当に里をぶらついてみる。
「やあやあ、待っていたよナナミさん」
「……先日は中々良い悲鳴を上げていましたね」
「忘れてくれたまえ。……コホン、改めて、私はあるえ。小説家を目指している者だ」
「七海です」
「今日は、貴方に頼みがあってね。冒険譚を聞かせてもらいたいんだよ」
「サトウくんにでも頼んではいかがでしょうか」
「彼は、その、なんだ。どちらかというとこう、コメディのような色が強いだろう? 今私が書きたいのはどちらかといえば正統派の冒険譚、その点、貴方はうってつけというわけだ」
座ってくれ、と。そこらへんに置いてあったベンチに座り、隣をポンと叩く。
そこから一人分程度空けて座った七海を見て笑みを深めたあるえは、話を続ける。
「いいね。粗暴な人間が多い冒険者でありながら、女性の扱いを心得ている。面白い話が聞けそうで何よりだよ」
「……ちなみに、どういった話をお求めで」
「んー、そうだね。まずは無双物から行ってみようか」
「とある白髪のバカが暴れ回って校舎を破壊した話でもしましょうか」
リアルに生まれた無双系主人公、転生してないのにチート能力持ち、味方なのにラスボス感がすごい。
下手をすればかの物語の主人公はこの魔王より魔王らしいチート野郎に対して諦めることなく勝負を、嫌がらせをし続けた上層部の面々ではなかろうか。
出戻って一級昇格試験を受けた際、自身が苦戦して倒した呪霊をものの数秒でボコボコにする様子を思い浮かべて、あるえに話をする。
「……えーっと、振り返ってみようか。怪物級の火力、敵の攻撃を全て無効化するバリア、凄まじい機動力。これら全てを持ち合わせる人間、と」
「はい」
「魔王じゃないか」
「魔王より魔王ですよあの人は」
ボツ。流石にこんなチート野郎が出て来る作品なんて、書くことができるわけない。よしんば主人公を別の人間にしてコイツを師匠ポジション据えたとしても、もう全部この人で良くないですか状態になりかねない。
「次は、そうだ。君の女性経験の話を聞きたいな」
「女性、ですか」
さて。七海の女友達、ないし知り合いは。ヤニカス酒カスただのカスと三拍子揃った最強のカス、家入硝子。
三度の飯よりも金、男よりも金、金はこの世の全てに勝り得る。1級守銭奴、冥冥。
30代になってなお自らの可能性を諦めず、露出多めの服を着て渋谷を闊歩する巫女服系先輩、庵歌姫。
街中で行われているモデルのスカウトに自らを売り込んでいく度胸の持ち主、泣く子も黙る釘崎野薔薇。
元ヤン、新田明。
「……その、なんだ。見た目の割には随分と、その、濃い知り合いが多いんだな」
「そういう場所にいましたので」
「んんっ、次だ。……貴方が経験した、人生史上最大の戦いを」
「……」
思い起こされるは渋谷での争い。一級、呪術師の中でも上澄に属する己を腕一振りでチリのように吹き飛ばす化け物が闊歩する、この世の地獄にて。
数多の低級呪霊を祓い、祓い、祓い。海の化身とも言える呪霊と出会い、戦い。火山の呪霊にその肉体を焼かれ。そして。
意識が朦朧とする中、武器を振り回し、なんとか向かってくる呪霊を祓い続ける。そうして、最期は。後進に対し、特大の呪いを残して、怨敵の手によりこの世を去った。
かの、渋谷における闘争を。七海の記憶が残る限り、辿るように、鮮明に話していると。
「……う、うん。今日はこれぐらいにしておこう。ありがとう、ナナミさん」
「そうですか。では私は、これで」
そう言い残して立ち去る七海を背に、あるえは安堵の息を吐く。なんだあれは、ドラゴンとの勇ましい戦い、魔王軍幹部との死闘。そのような話が聞けるのかと思いきや、出てきたのはおどろおどろしい実感の詰まった戦闘経験。まるで、彼が実際に経験したかのような──。
「……いいや、気のせいだろう」
話の中で、その男は最終的に死を迎えていた。仮にその男が目の前の七海だとするのならば、転生でもしていなければ辻褄が合わない。
浮かんだ思考を振り捨てて、七海も意外とこういった妄想を他人に語るような人間なんだな、と、少し笑みを浮かべて。
得たネタから浮かんだ着想を文字にするべく、自宅への道を歩き出した。
やりたかったやつ 今んとこ書籍版に沿って進める予定です。映画まだ見れてないの、ゆるして