この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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もしかしたら明日も投稿できる可能性がある


第48話

「こちらはこめっこ。私の妹です」

「我が名はこめっこ。紅魔族随一の魔性の妹! 魔王軍幹部より強き者!!」

「そうですか」

「ああ、ナナミが疲れてる……」

 

 昨日、そして今日。七海が接種した紅魔族式挨拶はすでに許容量を大幅にオーバーしており、すでにこの挨拶に対する反応は"そうですか"の一点張り、botと化している。

 どどんことふにふらにめぐみんとカップル扱いされたり、あるえの発育に目を惹きつけられたりしたカズマにもその気持ちはよく理解できる。なんというか。なんだこいつら、とか、そういう気持ちも徐々に湧かなくなってくる。あーはいはい、で流せるようになってしまうのだ。

 

「ところで、あるえが凄く、こう、狂気を孕んだような笑顔で歩いていたのですが。ナナミは何か知っていますか?」

「知りません」

「……ま、いいでしょう。悪いことではなさそうですし。ところで、二人は昼食はまだ食べていませんよね?」

 

 七海はねりまきが居る居酒屋に向かっていた最中、カズマは飯屋を探してぶらついていたところを七海に拾われ、そのまま二人で、という流れであったのだが。

 めぐみん曰く、居酒屋よりもより良い食事場所が紅魔の里には存在する、と。そして、こめっこもその意見を補強するかのようにウンウンと頷いていたので、半信半疑ながらもめぐみんについていくことに。

 

 居酒屋の食事を考えても、紅魔の里における食事水準は外におけるそれと大差ない。そして、めぐみんの味覚も一般の人間と相違ない。よって、どんな店に入ろうが大外れのとんでもないものが出てくることはないだろう、と。

 そうたかを括っていたのが運の尽き、めぐみんが常識的な食事場所を紹介してくると考えたのが二人の誤算。

 

 目の前に現れたのは、比較的水質が良さそうな池。肉眼で魚が泳いでいる様子を確認できる程度には澄んでおり、裾を上げて足をつける分には何の抵抗もない。

 

「ここです」

「……まさか」

「あ、一匹みつけた!!」

 

 とてとてと駆け出し、水の中に手を突っ込んで、何かモゾモゾと動くものを鷲掴みにする。水面から引き上げてみれば、彼女の手に握られているのは生態系の破壊者として名高い害悪生物、ザリガニではないか。

 その時、カズマは思い出した。めぐみんの実家は相当な貧乏であったことを。アクセルで屋敷を所有していると聞いた瞬間目の色を変えて己とめぐみんを引っ付けようとしてきた彼女の両親の存在を。

 

 まさか、娘二人にまともな飯も食わせてやれない程だとは思わなかった。じゃあ二人目産むなよ、とそんなことを思いながらも、カズマは痛ましげにめぐみんに視線を送る。

 

「な、何ですかその視線は。いっておきますが、ザリガニも調理方法をきちんとすれば立派な高級食材に──」

「めぐみんさん」

 

 感情の読めないその瞳を、めぐみんに向けながら。ニコニコとザリガニをこちらに向けるこめっこの方を一度ちらっと見て、一言。

 

「カフェか居酒屋」

「……カフェでお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は"紅に染まる夕空"と、"蒼に染まる瞳"を」

「……コーヒーが欲しいのですが」

「ああ、コーヒーなら''人生"ですね」

「なあめぐみん、この''注がれた一滴の雫"ってのは……」

「水です」

「舐めてんのかこの店」

 

 紆余曲折あれど。めぐみんによる解説を得てなんとか目当ての品を注文し終えた面々。カズマと七海はコーヒーに加え軽食、めぐみんは七海に奢ってもらえると聞き、貧乏根性を発揮してここぞとばかりに大量注文。こめっこもそれに倣い多くの料理を注文し始めた。

 食べ切れる分だけ注文しろ、という七海のお説教を右から左に聞き流し。まぁ、いざとなれば自分やカズマが食べればいいだろう、と。そんなことを七海に思わせるのは、こめっこが幼子であるが故なのだろうか。

 

「みてみてナナミおじさん、ザリガニー」

「捨ててきなさい」

「えー、美味しいよ?」

 

 モゾモゾと懐を漁ってザリガニを取り出したこめっこ。なぜ今の今までザリガニを懐に隠し持っていたのかはわからないが、ともかく。七海からのお叱りを受け、窓を開けて適当にポイっとザリガニを放り投げる。

 同時刻、その辺を徘徊していた靴屋の息子兼ニートの股間にザリガニのハサミが接触して地獄を見た、という事件が発生したらしい。実質こめっこの手により股間が痛めつけられたということになれば、彼にとっても半ばご褒美のようなものだろう。多分。

 

「奢ってもらい申し訳ありません、ナナミ」

「貴女の地形破壊に対する賠償金よりかは安いので問題ありません」

「うぐッ……我が爆裂道を歩む上での必要経費は決して安くない──というわけですか」

「違います。もう少し撃つ場所に気をつけてください」

「あ、はい。ごめんなさい」

「ぷぷぷ、めぐみん、お前妹の前で怒られてやがんの」

「サトウくん。貴方もです」

「え、俺? 俺は別に……」

「セクハラ被害の相談が多数私の元に」

「申し訳ありませんでした」

 

 女性が冒険者をやる上で、ある程度のセクハラ被害はつきものと言って良い。環境的にそれが許されているのはどうなんだ、という話はあれど、いまさら是正のしようがないから仕方ない。

 ルナ含めた行き遅れ連中は何故セクハラをするのに本番をしない? できないのか? したくもないのか? する度胸もないのか? と日夜フラストレーションを溜めているわけだが、それはそれ。

 

「ねえねえ、ナナミおじさん」

「どうしました」

「デザート、頼んで良い?」

「頼んだものを食べ切ってからにしなさい」

「はーい!」

「……あの、カズマ」

「おう」

「こめっこって、ナナミの娘でしたっけ」

「違う──違うよな?」

 

 七海の絶妙な既婚者感、子育てに苦労していそうな父親感。他人の言いつけを基本守らないこめっこが七海に言われたことにはやけに素直に従うこともあり、父と子のように映るこの二人。

 めぐみんは自身の立場喪失に少し危機感を抱いていた。多分手遅れである。




紅魔の里まで辿り着いてるSSって割と希少じゃねと思う今日この頃
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