この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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無理だった


第49話

 当然、紅魔族がアークウィザードの集団であることを。ふざけた存在であるにも関わらずその武力は小国のそれを遥かに凌駕することを、魔王軍はよく理解している。

 故に、襲撃の総大将に据えられるのは、そこらの木端兵士ではない。知性体であったとて、並大抵のモンスターでは何もできずに討ち取られるのが関の山。

 魔王軍幹部、シルビア。紅魔の里を攻め落とすにおいて、総大将に任命されたモンスターの名前である。

 

「な、なんだコイツ!? 攻撃は当たんねえのにやたら硬え!!!」

「なんか顔赤いし攻撃を食らって興奮してる!?!?モンスターかよ!?!?」

「わ、私の目が黒いうちはここを通さん!!! かかってこい、卑劣な魔王軍どもめ!!!」

 

 そんな総大将率いる魔王軍を足止めするのは、アクセルどころか人類でも随一の耐久力を誇るダクネス。敵の攻撃を一切恐れぬその不屈の精神、いくら打たれようとも傷ひとつつかない鍛え上げられたその肉体。

 かの爆裂魔法に耐え、大悪魔の精神支配に抗い、デュラハン相手に真正面から数分粘ってみせたクルセイダー。何も嘘は言っていない。

 

 無駄にしぶとい彼女を相手に幹部要する魔王軍も攻めあぐね、存在しない反撃の手段に怯えるモンスターまで現れ始めた頃。

 合流したのは、地球よりこの世界を救うために舞い降りた勇者の一角。その知謀を以て魔王軍幹部を複数討伐して見せ、さらには正史において、格上たる魔剣の勇者をも正面から撃ち倒して見せ、上級職の面々が集うパーティのリーダーの座に君臨する男、サトウカズマ。何も嘘は言っていない。

 

「……へえ。攻撃が当たらないと思わせて、増援が来るまでの時間を稼いでいたわけね。貴方、名前は?」

「……ミツルギキョツヤだ!!!」

「へえ、ミツルギ。あの魔剣の勇者と噂の……なるほどね。紅魔族に加え、貴方がいるとなれば分が悪い。ここは見逃してもらえないかしら?」

 

 ミツルギキョツヤ。名を馳せた今でもゴブリンなど安価の討伐任務を厭うことはなく、ドラゴンや悪魔といった強敵にも勇猛果敢に立ち向かい。数多の討伐実績を持つ、新進気鋭の英雄候補。最近ちょっとホモ疑惑が出てきている。これも嘘ではない。

 

 さて。無論、シルビアとて、簡単に見逃してもらえるとは思っていない。最悪の場合は大暴れして、少しでも周りに被害を出してから死ぬべく、戦闘準備を整えてはいた。

 ただし、仮称ミツルギキョツヤから帰ってきた答えは意外にも意外。何やら理由はあってのことらしいが、見逃してくれる、とのこと。

 そのことに礼を告げ、仮称ミツルギキョツヤの言うことなどお構いなしに魔法を使う準備を整えている紅魔族を尻目に、なんとか名乗りぐらいは上げながら。部下を連れて、全力でその場から逃げ出した。

 

「……追撃は、しないほうが無難でしょうね」

「まあ、あれを見ると巻き込まれそうではあるが……」

「行かないでくださいね。──いや、本当に。ここに来てからというもの、五条さんを同時に複数人相手しているような気持ちに陥って──」

「……す、すまない?」

 

 ゴジョウとは誰なのか、という疑問はさておき。随分と疲れた様子を見せる七海に、本気で心配するダクネス。心配はしなくていいから面倒ごとを減らしてくれ、とは七海の言葉である。

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰るぞ」

 

 カズマ曰く。どうせ紅魔族が負けることなんてないんだから、俺たちがわざわざ危険を冒す必要はない。

 元々帰る予定だったし、紅魔族の皆さんが後ろに勢揃いしていたから啖呵を切っただけ。

 美人な幹部だったから後ろ髪を引かれる思いではあるが、さっさと帰って悠々自適なニート生活を再開したい、とのことである。

 

 罵詈雑言──というには随分と語彙が拙いが、とにかくカズマに対して不平不満を吐き散らす面々を他所に、外に出る七海。

 

「……とのことです」

「……わ、私は、少しここに残ります。みんなが負けるとは思えないけど、一応、戦力にはなると思いますし……」

「そうですか。では、私も宿を探しておきます」

「……え?」

「一応、今はゆんゆんさんとパーティを組んでいる身ですので。微力ながら、お手伝いはさせていただきますよ」

 

 と、いうことは建前で。本音は、ゆんゆんを一人残すと何かとんでもない、下手をすると取り返しのつかない事態になりかねないのでは、と。

 知らない紅魔族がどうなろうが、言い方は悪いが己の知ったことではない。命を奪い奪われは自然の摂理、闘争の最中起こるそれに己が一々感傷を覚えるなど傲慢というもの。

 

 しかし。ゆんゆんは既に、七海にとって、守るべき子供という位置にいる。こうなった以上、魔王軍幹部という何があるかわからない存在を相手に、彼女を放っておくわけにもいくまい。

 

「……まあ、あの人たちは少しの間私が離れようがどうとでもなるでしょう」

 

 紅魔族は力の強く、尚且つ賢いバカということで五条悟と非常に似つかわしい存在ではあるが。一応常識的な話はできるし、セクハラや地形破壊、攻撃を外しまくり敵の攻撃を受け続けて興奮するといったことはしない。

 かたや例の連中は力は弱いが、バカである。バリエーション豊かな問題を起こし、たまに言葉も通じない。

 どっちがマシなのか。どっちも嫌だ。

 

 "一時的"という部分を省き、パーティを組んでいる、という一部分を切り取って感涙に咽び泣くゆんゆんにドン引きしながら、ナナミは考える。果たして、この世界に真の意味でまともな人類は存在するのだろうか。なんなら今まで出会って来た生物は、人間よりも魔物の方が理性的ではなかったか、と。




当初の予定ではシルビアはファーストコンタクトで真っ二つになって死ぬ予定だった
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