この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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紅魔の里編完結です


第51話

「……それで」

「……あ、あの、ナナミ。…………怒ってる?」

「怒り、というより、困惑でしょうか」

 

 隣にしおらしく座る、幾分か以前と比べ身長が縮んだ様子の美女──魔王軍幹部、シルビア。以前まで彼女の姿を見れば何の容赦もなしに上級魔法を打ち込んでいた紅魔族の面々であるのだが、なぜか今はニコニコして我々のことを見守っているではないか。

 それはそれで気持ち悪いというか、常にニヤニヤしていた例のクソ白髪を思い出すというか、七海としても非常に不快な気持ちにはなるのだが。

 それはさておき、事情を聞かねば何も始まらない。正直、これ以上とんでもない情報を流し込まれるぐらいなら無知である選択を取りたいぐらいだったが、大人としての責任感がそれを許さなかった。

 

「……まさかとは思いますが、彼女もアクセルに?」

「……そのまさかよ」

「……………………」

 

 七海は天を仰いだ。今は亡き親友がとても良い笑顔でサムズアップをしていた。これは以前で言うなら女性の姿を模った知性ある呪霊が自身に好意を抱いて来たのと同じ状況。世界的に言えば戦力が一つ寝返ったのだから喜ばしいと言えば喜ばしいのだろうが、七海からすれば胃痛の原因でしかない。

 アクア曰く。諸々の過程でシルビアの戦闘能力の多く──特にグロウキメラの性質に由来するものは失われており、カズマパーティとミツルギを抜いたアクセルの冒険者でも束になれば普通に勝てるぐらいの戦力である、とのこと。

 

「……普通に不味くないですか、それ」

「いやまぁ、もうこの人──いや、人じゃないんだけど。シルビアさんは戦う気がないから大丈夫よ!」

「それで良いのですか紅魔族の皆さんは」

「うん、まあ。展開されていた部隊はシルビアが皆殺しにしたし、私たちとしても特段口を出すことはない。それに──」

 

 ニヤニヤと笑いながら、何やら興奮した様子で目をキラキラと輝かせる紅魔族。ちなみにここの輝くと言うのは比喩でもなんでもなく、物理的に目が七色に光っている。いわばゲーミング眼球。

 

「敵の女の子が恋をして仲間になる展開はとても熱い!!!」

「そうですか」

 

 七海は思考を放棄した。貴方は果たして、五条悟を前にして正常な言語での会話を試みるだろうか。大多数の人間がしないであろう。つまり、それが答えである。

 まあ、なんというか。七海は基本的にこの手のことに興味はないが、それとて朴念仁というわけでもない。自身に向けられる感情に聡いとまでは行かなくとも、ここまで強く示されれば気付きもする。

 

「……では。シルビアさん。私と縛りを結んでください。それが、アクセルに居住する条件です」

「縛り?」

「要するに、強制力のある約束事。破れば破った側にそれ相応のペナルティが降り注ぐ。それが縛りです」

「……何だその恐ろしい約束は」

 

 ここで登場するのが便利道具、神器くんである。クリスとの探索で偶々見つけ、その効果から彼女に頼み込んだ結果、特例で一時使用を許可したこの神器の能力は、擬似的に縛りを再現するもの。明確に言えば少し異なる点──代価が全て対象者の生命になる──こそあるものの、まあ、概ね同じものと言って差し支えないだろう。ハンスの時もこれを利用して縛りを結んでいる。

 なぜ使用許可をクリスが出すのか。多分彼女はただの冒険者ではなく何かしら面倒な事情持ちだというところまでは七海と察しているが、わざわざ進んで面倒ごとに関わることをしないのがこの男である。

 

「……シルビアさんには、自身に対し敵対心を持たない人間に対し、一切武力行使、精神支配等、その者の害になる行動を行わないこと。これを約束していただきます」

「問題ないわ!! それを守るだけで貴方の側にいられるならお安い御用よ!」

「……私の方からは、貴方が人類に対する敵対行動を取らない限り、貴方を討伐しないことを誓います」

「……そう言えば、人間の間では番いを作る際に誓いをするそうね。……これも言い方によっては一種の」

「違います。──それでは、この器具に触れてください」

 

 七海とシルビアが片手ずつ器具に触れ──さりげなく手を被せようとしたシルビアから、七海は器用に逃げて見せた──神器が強い光を発し、やがて収まる。

 

「……これにて、縛りは成立しました」

「……つまり、これで私はアクセルに住むことができるのね?」

「はい」

「っっっっっっっっ」

 

 何度も何度も、拳を握りしめて渾身のガッツポーズを披露するシルビア。そんな彼女を微笑ましそうに見守る紅魔族と、カズマパーティの面々。

 ちなみに受け入れ先は毎度お馴染みのウィズ魔道具店である。現役魔王軍幹部と元魔王軍幹部が三人在籍するあの店はもはやある種の魔王城と言っても過言ではない。

 

「……あの」

「なーに?」

「先ほどからサトウくんとめぐみんさんの姿が見えませんが、二人はどこに?」

「あー……そういえば、ナナミさんはあの時いなかったものね」

 

 一応、七海は王都でもそれなりに名の知れた冒険者。ミツルギやその他転生者がいるとは言えども高難易度依頼全てを捌き切れるかというとそういうわけでもなく、たまに彼の元に指名依頼という名目でギルドから指令が飛んでくる。

 故に、テレポートで王都、紅魔の里間を行き来することが何回か。昨日までは2日ほど里を空けており、その間何があったのかは当然知らない。

 

 まあ、なんと言うか。あの二人は前々から、もしかすると、と思わせるような雰囲気はあった。無論、恋が実るとかそう言う話でなく、お互いがその気持ちを抱いているかすら定かでない状態であったのだが──もしや、この里に来たことをきっかけに一気に距離が縮まったのか、と。そんなことを思っていると。

 

「二人ともめぐみんが勧めた雑草を食べてお腹壊しちゃって、ダウン中よ」

「…………」

 

 シルビアのこともあり、色ボケ方向に思考が流れすぎていた。ここはカズマパーティ、人間の常識が通用しない超魔境。

 そのことを改めて認識し直し、七海の紅魔の里での生活。別名、ジェネリック五条増殖という悪夢は終わりを告げた。




ちなみに、原作であった上級魔法云々のやり取りは布団の上で行われています。かなしいね。
前書きで紅魔の里編完結とは書いたんですが、事前に温めてたネタ(シルビア戦闘ルート)のセリフがあるので、場面切り取ってそこだけ投稿します。なので後1話、番外編が上がります。
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