この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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6巻突入です。あまりに難産。


「この貴族令嬢に少し遅い青春を!」
第53話


「……なあ、ナナミ」

「ええ」

「「これはマズイ」」

 

 紅魔の里から帰還した七海たちの元に届いた一つの書面。それは、ベルセルグの王女たるアイリスがカズマパーティの冒険譚に興味を持ったため、後日会食という形でその話を聞かせてもらえないだろうか、という内容のもの。

 アイリスだけでも厄ネタなのだが、なんと当日は付き人としてシンフォニア家の令嬢であるクレアまで同席するとのことではないか。

 

 リーダーであるセクハラ常習犯ギルドブラックリスト一歩手前のカズマは勿論のこと、自称女神のアクアと一族総出で常識をブラックホールに投げ捨てた紅魔族のめぐみんも何をしでかすかわかったものではない。

 

「……まあ、お二方ともそこまで横柄な方ではない。流石に即処罰がどうこう、ということにはならないと思うのだが」

「いいえ。彼らはいつだって私の想定を超えてくる。それは、これまでの冒険で幾度となく痛感させられています」

 

 一見師匠が弟子の主人公を認める台詞のようだが、これが悪い方向に百パーセント振り切った発言なのがカズマパーティクオリティ。

 口調が尊大なところはあれども基本的に良識を持つクレアと、箱入りながら貴族特有の傲慢さを持つことなく、温厚に育ったアイリス。彼女らに限り失礼を働いたから即処刑、なんてことにはならないだろうが、それでも怖いものは怖い。

 

「……ちなみに、ですが。私は、貴女が何かしでかさないかどうかも心配しています」

「な、何故だ!? これでもダスティネス家の令嬢として幾度となく社交場を……」

「断頭台に向かう己の身を包むのは、見窄らしい最低限の衣類のみ。そんな衣類ではとても身体を十全に覆い隠すことはできず、見物する男たちからは下卑た視線が───はい、アウトです」

 

 ダクネスは顔を赤くして身をブルリと震わせた。アウトどころの話ではない。これでは下手をすると自ら断頭台に向かうべく自爆する可能性がある。

 というか、以前のお見合い騒動時から七海はダクネスの、貴族としての危うさを心配してはいた。冒険者というこれ以上ないほど自由な職に就いているが故だろうが、流石に見合い相手、曲りにも大貴族の息子であるバルターに対しあの対応は流石にまずいだろう。

 

「……とにかく、申し訳ないが、この会食は断る方向に持っていく。ナナミもそれで構わないな?」

「はい、構いませんが……」

 

 七海の心配通り、当然カズマたちが素直にそれを受け入れるわけもなく。

 後日、義妹がどうとか密かに王族入りを狙うカズマに、王女に対し爆裂魔法の素晴らしさを説こうとするめぐみん。なんか楽しそうにしているアクア。これはまずい、碌なことにならないぞ、と。ダクネスは必死に説得を試みる。

 

「なあ、カズマ。やはり断らないか? 会食とは言っても堅苦しいものだろうし、お前が望むような展開には───」

「なあ、ダクネス。お前さ、俺たちが王女様に対し何か失礼なことをやらかすだろ、とか思ってんだろ?」

「あ、あー……そんなことはない、ですよ?」

 

 そんなことを言うダクネスに対し、カズマたちは非難の嵐。もっと信頼しろ、私たちが礼儀作法を知らないように見えるのか、と。

 ここまで共に過ごす中でカズマたちを深く理解してきたからこそ余計に心配が強くなっているのだが、そんなダクネスの気持ちは他所に話は進む。

 ちなみに、七海はすでにいない。ダクネスたちが起き出す前、早朝に書き置きを残して出かけて行った。ダクネスは七海のことをちょっと恨んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……うーん、私から断言はできませんが、大丈夫だとは思いますよ?」

 

 コールスロー・スカイレイン。アイリスの付き人である彼女は当然会食当日にも同席する予定である。

 七海が早朝に屋敷を抜け出していたのはこの為、面識を持つ彼女に対し、本当にカズマ達が会食で何かをやらかしても処罰が下されないかどうかを尋ねる目的である。

 

「クレア様は、まあ、怒るかもしれませんが……。その場における最終決定権はアイリス様にありますので、おそらくは問題ないかと」

「……まあ、最悪セクハラをしそうになれば私が気絶させればいい話ではありますが」

 

 この話を聞いて唯一怖いのが我らがサトウカズマ。数多のセクハラ実績を持つ彼は、たとえ魔物であろうが王女であろうが物怖じすることなく突っ込んでいく。

 多少失礼な言動をしようが、無礼な行動を取ろうが処罰されることはまずない、というレインではあるが、流石に言葉だけでなく行動でセクハラをしてしまうと非常にマズイことになるのは間違いない。

 

 幸い、カズマは正面からだと弱い。何かやらかそうとしたら、その前に気絶させるのが最善策。

 一応ダクネスが会食を断るよう説得しているらしいが、まあ、無理だろう、と。七海は次善策の用意を進めている。

 

「クレア様が突発的に剣を抜かないかどうかが心配ではありますが……」

「そうなれば私が止めます」

「……まあ、ナナミさんなら大丈夫ですよね。魔王軍の幹部倒してますし」

 

 アイリスへの愛が深い、そう、とても深いクレア故にカズマたちの失礼な言動に対し突発的に剣を抜かないか。会食にして国の重鎮たるシンフォニア家の令嬢が抜刀したともなれば体裁的に色々と良くないが、その際は七海が止める、と。

 一応この話を聞いてレイン側からもクレアに打診はしてみるつもりだが、まあ多分キャンセルさせるのは無理なので、彼女ら側のリスクも管理する必要がある。

 尤も、クレアがカズマを切った所で問題が明るみになることはないのだが。

 

「では、私はアクセルに戻ります」

「あ、な、ナナミさん!! この後、お食事とか一緒にどうかなぁ……と……」

「申し訳ありません。昼からギルドに呼び出しを受けていまして、恐らくは指名クエストかと思うので時間が……」

「そ、それでは仕方ありませんね。クエスト、頑張ってください」

「はい、ありがとうございます。では」

 

 少女レイン、貧乏貴族が故に政略結婚の駒としての価値がなく自由恋愛を許されている身ではあるが、アイリスのお付きとして成り上がってしまったが為下級貴族の婚約相手としては格式が高く見られ、畏れ多いと断られ。かと言って、上級貴族からすれば家柄の問題から、これまた相手にされることはなく。

 地味に怪しいのだ。一応まだ適齢期的には余裕があるが、下手をすれば独身街道まっしぐらである。

 

 項垂れる彼女を待ち構えているのは、今日も今日とてアイリスの素晴らしさを延々語るクレアと、付き人としての大量の仕事のみ。ああ、幼い頃思い描いていた暖かい円満な家庭はどこへ。私の恋人は書類とペン、インクだと言うのか。

 王城へ戻る彼女の背中は年頃の令嬢のものとは思えない程に弱々しく、その足取りはとても重いものであったという。




恐らくオリジナル多めになります。投稿頻度はお察しください。
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