「……む、無視!?!? いや、そこまで大袈裟な反応を期待していたわけではないが、無視!?!?」
何やら丈の短いメイド服を着て喚き散らすダクネスを他所に、家を出る七海。普段とは違い武器を携帯することはない。違いと言えば、普段着ているスーツ擬きとは違い、今日は比較的ラフな格好をしていることだろうか。
珍しいと言えば珍しいが、まあ、七海も人間。そう言う気分の日もあるのだろうな、と。ダクネスは自身を納得させる。反応を示すどころか一瞥すらくれなかったところには未だ多少の不満を感じてはいるのだが。
「気になるよな」
「気になりますね」
「気になるわね」
「……何がだ?」
曰く。普段スーツしか着ない七海が急にこのような服装をしたのだ、何かあるに違いない、と。
どうせ今日は特にやることもないし、追跡してみないか、とのカズマの提案。めぐみんは乗り気であり、面倒くさがっていたアクアはギルドでのシュワシュワ一杯奢りという餌に釣られた。
「……そうか。あまりナナミに迷惑はかけるなよ?」
「何他人事みたいに言ってるんだ?」
「……あ、ああ、なるほど。なら少し待っていてくれ。普段の服に着替えて……」
「いや、ダメだぞ?」
気乗りはしないが、まあ命令とあらば仕方ない。内心割と乗り気ではあるのだが、カズマから受けている命令を大義名分にして罪悪感を押し殺し、一旦着ているメイド服を脱いで私服に着替える為、屋敷の中に戻ろうとする。
はて、何故カズマは自身の提案を拒むのか。ああ、ナナミを見失うことを危惧しているのならば先に行ってもらい、後で追いつくぞ、と。最悪の可能性から逃げるようにそう告げると、カズマは意地悪な笑みと共に首を横に振る。
「勿論服はそのままな。よーし、いくぞー」
「ちょ、ちょっと待ってくれカズマ!! 流石にこのままというのはこう、私の体裁的に色々とまずい!!」
「いや、ダクネスに守るべき体裁なんてないだろ」
「!?」
☆
「……おい、あれ誰だ?」
「少なくとも、私は知りませんね」
飲食店内。以下同文、とでも言いたげな様子で頷くダクネスとアクア。どこで売っていたのか黒マスクにサングラスをかけて髪を結び、明らかな不審者として周りから注目を集めているダクネスはさておいて。
七海と同じ席に座っているのは、黒髪短髪の女性。ルナでもなく、セナでもなく、シルビアでもない。第四の女性が出現した。
「クソが、アイツ、ここぞとばかりにオレをこき使いやがって……」
「……私の方も色々と、面倒ごとが控えていますね」
「お互い大変だな……」
一人称からすわ男か、とも思ったが、まあ流石に声の高さ的に女性か。なかなか粗暴な喋り方をするというか、今までの女性とはまた違うタイプというか。
どうやら随分と苦労しているらしい。七海のいう面倒事とは何なのか、パーティメンバーであればその苦労は分かち合うべきであろう、と。自身が原因で生まれた面倒に対しご立派なリーダー論を掲げるカズマ。
「ん、美味えなこれ。初めて食った」
「……カエルの唐揚げはアクセルにおいてごく一般的な食べ物だと思うのですが」
「しゃーねえだろ? 今まで碌に飲み食いしてなかったんだからよ」
まさか。カズマたちの頭によぎったのは虐待の二文字、親から捨てられ碌な教育を受けることなく育ち、であるからこそこのような粗暴な口調になってしまったのでは。よく見ると、女の短髪も不揃いな、専門店で切ったとはとても思えない仕上がり。ゴミ箱で拾った鋏か何かで、定期的に自分で断髪していたのでは、と。
勝手にバックボーンがどんどん練り上げられる。
やがて、食事を終えた二人は代金を払って店を出る。追いかけようと席を立つアクアだが、めぐみんとダクネス、カズマはそうではないようで。要するに、今まで辛い思いをしてきたのだから、この瞬間ぐらい邪魔しないであげよう、と。まさか彼ら三人が人間の心を取り戻す時が来るとは、かの全能神を予測不可能であったことだろう。
だが、しかし。アクアは人間ではない。雑に掃除したとてそこが家の中で一番綺麗な場所となる権能を持つ、トイレの女神である。
ズカズカと突き進もうとするアクアの襟首をダクネスが掴んで押し留める隙に、カズマが短刀でぶん殴って気絶させる。普通であれば守衛を呼ばれて牢獄行きだが、生憎と殴られたのは我らがアクア様。どうせまた何かやらかしたのだろう、と思われ、特に何も行動を起こさない。
ちなみに。この場にてアクアが目立ってしまった為、カズマたちのそばにいる謎の不審者の正体がダクネスであることは、容易に特定された。翌日から、"ビューティフルメイド⭐︎ララティーナ"の名がアクセル中に轟いたことは、言うまでもないだろう。
ちょっと最近就活関連でゴタゴタしてるので投稿遅れます。ごめんね。
女の子の正体当て、ヒントは石鹸と洗剤。