この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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ほんの少しの原作要素


第55話

「……その、ナナミさん。ほんっっっとうに申し訳ありません……」

「いえ、別に構いませんが……」

 

 会食中。調子に乗ってペラペラ喋るカズマに、今か今かと爆裂魔法について語る機会を探るめぐみん、胃を痛めるダクネス、出されたご飯に大人しくなって素直に食事を楽しむアクア。

 アイリスの通訳に務めるクレア、カズマの冒険譚を楽しむアイリス。

 要するに、七海とレインは完全に空気であったのだ。

 

 そんな二人の様子を見て、普段仲良くされていることだし、別室で楽しんで来てはどうか、と。いくつかの料理を持たされ追い出されたわけであるが。

 レインはどうやらクレアの意図を掴んでいる様子であり、七海は特に意図が理解できていない。聞きたい気持ちがないわけではないが、おそらく藪蛇。こういう時は黙っておくのが吉と、七海は今までの人生で痛いほど学ばされてきた。人間、知らなくていいことと言うのは世の中に溢れているものだ。

 

「……あ、これ美味しい」

「ええ。これは王都の?」

「え、あ、はい! 王都のお高めのレストランで……ああ、あの時は怖かった……」

「……お疲れ様です」

 

 レインは貴族であるが、あくまで下級貴族。貴族御用達の高級店とはとても縁遠いし、王女が会食で利用するようなスーパー高級店を利用した経験などない。なんだあの値段は、人間を馬鹿にしているのか。私の杖より高いハンバーグとは一体何を材料にしているんだ。心中ツッコミが収まらなかった。

 少し顔を青くしたレインに憐れみながらも、七海はパンを手に取り、口に入れる。

 やはり美味しい。金が余っていたことから地球で各県の高級店を訪れた経験は一応あるが、そこで食べたソレに劣るどころか、優っているとすら思える味。

 

「……あの、ナナミさん。これも美味しいですよ」

「ふむ……成る程」

 

 レインから手渡された皿に乗っていた料理を口に入れ、咀嚼する。やはり、美味しい。魔法による調理時間の短縮や瞬間冷凍ができる分、調理時間の削減という点で見れば地球と比べ明らかにこちらの方が優れた環境にあるのだろう。

 尤も、下処理を誤れば野菜に惨殺される可能性が出てくるのだが。料理とは常に自らの命の危機を伴うもの。料理人にとって包丁は命だと言うが、この世界では本当に命綱となり得るのだ。

 

(……大型犬みたい)

 

 普段凛々しい大型犬が、ご飯を食べているときだけ幸せそうに頬を緩めている様子を思い浮かべてしまう。いや、目の前にいる男は大型犬というには大きすぎるし、戦闘力が高すぎるのだが。魔王軍幹部と真正面から打ち合って撃破してしまう生命体を形容できる動物はこの世に存在しない。

 

(…………会話のネタがないッ!!!)

 

 哀れレイン、20代半ばに差し掛かるまで恋愛経験はおろか同年代の男性との社交場以外での会話すら碌に無く、会話のネタが全くと言って良いほど思い浮かばない。

 七海はこう言った沈黙を気まずく思わないタイプであるため、彼から話題が提供されることもない。

 とはいえ、彼も美味しそうにご飯を食べていることだし。少なからず、会話は出来たわけだし。とりあえず、今日のところはこれぐらいで良いんじゃないかな、と。そんな思考が一瞬頭をよぎる。

 

(……いいえ! それじゃあダメ!)

 

 女を見せろレイン、親と会うたびに恋人の有無を聞かれ、心に深い傷を負う生活はもうお終いにしよう。

 ここで適切な話題を選択出来てこそ、これから先の光り輝く道が少しは見えてくるというもの。仮に恋人になったとてこのような沈黙が発生する場面はいくらでも想定できる、その時にこの体たらくでは関係が長続きするはずもない。

 

「……あの、ナナミさん───」

 

 勇気を出して、口を開いた直後。別室のドアが開かれ、煌びやかなドレスに身を包んだ少女たち───役1名年齢不詳の人外が居るが───が少し不満げな表情で入室してくる。

 話を聞いてみると。どうやら、王女様がカズマのことを気に入ってしまい、テレポートのスクロールに巻き込んで王城まで連れて帰ってしまったのだとか。

 正直カズマがいなくても特段何か問題が起こるわけではないが、それでもこれまで色々な問題を共にしてきたパーティメンバーを攫われては面白くない。

 

「ちょっとアンタ、カズマさんはちゃんと帰ってくるんでしょうね?」

「ええっと……流石にずっと王城に滞在させるわけにもいかないでしょうし、一月経たないうちに帰ってくるとは思いますが……」

 

 レインの言葉を受けて、ひとまずは安心したカズマパーティの面々。良くも悪くも、何をやらかしたとて切り替えが早いのが彼女らの特徴である。

 

「なら大丈夫ね! ナナミ、ダクネス、帰って飲みましょ! 美味しいシュワシュワがまだ余ってるの!」

「ちょっと待ってくださいアクア、なぜ自然と私を省いているのですか」

「めぐみんはまだ子供だし、ジュースでしょ?」

「何を!? 紅魔の里ではあの男とあーんなことや、こーんなことをした私は既に人生経験で言えば貴方たちよりも格上! 故に! シュワシュワを飲む資格が与えられて然るべきと言うこと!」

 

 ギャーギャー騒ぐメンツを前に、レインはふと思う。カズマを連れてアイリスとクレアが王城に帰った。なぜテレポートのスクロールを所持していたのかは気になるが、つまり、彼女らは、既にこの場を後にしているということ。

 それが指し示すこととは。

 

「───え、私、忘れられた?」

 

 その後。テレポートを唱えて王城へと帰還するレインの顔にはアクアが一瞬浄化魔法を唱えるか悩むほどの影が差し、その背中からは一時期の七海すら上回るほどの哀愁が醸し出されていたと言う。




また次回からオリジナルです。王城に七海放り込むわけにもいかんからしかたないね。
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