この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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今回から数話オリジナルです。


第56話

「いやあ、ナナミの旦那が付いてくれりゃあ今日のクエストは楽勝だな!」

「気をつけろよダスト、この付近では初心者殺しの出現も報告されている」

「んなもんナナミ様にかかりゃあ一瞬よ! 脳天からナタぶちかませば一撃でお陀仏に決まってらあ!」

「なんか、いつもに増してダストの小物っぷりが……」

 

 こちらもこちらで問題児揃いとはいえども、一応それなりの良識を持ち合わせるキース、常識人のリーン&テイラーがいるだけ比較的、と言うか物凄くマシ。

 普段のパーティでは強化版ダストみたいな連中の世話をさせられているのだ。今回ばかりは多少羽を伸ばしても誰も七海のことを責めるまい。

 

「ゴブリンの討伐、ですか」

「お、旦那はゴブリン初めてか?」

「ええ。普段は高難易度のものを優先して受けていますので」

「あー、それこの前受付嬢の子が言ってたな。ナナミさんが凄え勢いで塩漬けクエスト片付けてるって」

 

 ギルドの塩漬けクエスト解消要員となっている七海。一応たまに自称弟子のミツルギもいるが、彼は王都との兼任。アクセルに常駐している冒険者で安定してその手のモンスターを狩ることができるのが彼だけになる以上、必然的にそうならざるを得ない。

 

「まあ、ナナミさんなら大丈夫でしょ。私たちでも苦戦しないんだから」

「とか言って、この前カズマと組んだ時みたいになったりしてな」

「やめてよ縁起でもない……」

「ま、あれはあれで楽しかったけどな」

 

 パーティ交換、と言う名目でナナミ不在の中行われたダストパーティwithカズマの冒険。単なる低難易度のゴブリン討伐のはずが諸々の障害に見舞われ最終的には一時命の危機にまで陥ったと言うのだから、この世界は恐ろしい。

 アクアのリザレクションとかいうチートがあるため忘れがちではあるが、基本的に命は一人一個。バカみたいな理由で木から落ちて首の骨を折ってしまえば、そこで人生は終わるのだ。

 

「いやいや、ナナミの旦那が居りゃあ何が来ても問題なしってもんよ! なあ、旦那!」

「肩を組まないでください、歩きにくいです」

 

 雑談も程々に。ゴブリンの生息域に入った面々は各々の武器を構え、準備する。さすが、この辺りはカズマパーティとは異なる歴の深さがあると言うべきだろうか。

 

「ダスト! 俺たちで前衛を務めるぞ! ナナミさんは好きに暴れてください!」

「おお!」

「了解しました」

 

 テイラーが前に出てゴブリンの攻勢を押し留め、その隙にダストが一匹ずつ確実に息の根を止めていく。

 ダストが撃ち漏らしたゴブリンはどうするかといえば、キースとリーンの出番。中級魔法と、スキルによって命中補正のかかった正確な狙撃により、ゴブリンの数は次々と減っていく。

 

「旦那の援護は……いらねえなこれ」

「何でこの人アクセルにいるんだろ」

 

 思わずリーンがそう呟いてしまうほど、ナナミの暴れっぷりは異常であった。まるで日頃のストレスを発散するかの如くゴブリンを千切っては投げ、千切っては投げ。ひたすらボコボコにし続ける。

 途中何やらゴブリンのボスっぽい個体が姿を現すハプニングはあったが、鬼神と化した七海によってナレ死した。可哀想。

 

 

 

 

 

 

 

 

「野宿は初めてですね」

「意外だな。ナナミさんなら、遠出のクエストで既に経験していると思っていたが……」

 

 ゴブリンの生息地が比較的遠方であった為、一日で歩いて帰るのは難しい───正確にいえば前衛職のダストとテイラー、七海ならば帰れないこともないが、後衛職の二人の体力が持たない為ナシ。

 焚き火を焚き、肉を焼き、食べ、雑魚寝する。随分と冒険者らしい体験に、ここは本当に異世界であるのだ、と。凡そ地球では想像もつかないシチュエーションに、改めてそう実感させられる。

 

「……ダストさんを放っておいても良かったので?」

「ええ、まあ。いつものことですし、またリーンにぶっ飛ばされて戻ってくると思いますよ」

「そう言うこったな。ったくよお、ダストも気になる女に対する行動がこれって、ウブなクソガキじゃねえんだから」

「お前も恋愛経験ゼロ男だろうがキース」

「い、いや、俺はアレだ。例の店で百戦錬磨の───」

「それを言ったらアクセルの男は全員恋愛マスターだな」

 

 水汲み中のリーンに何やらちょっかいを出し、杖で局部をぶん殴られ、死にかけたような表情をしながら戻ってくるダスト。野営時のこのパーティの定番イベントである。リーン本人が"制裁は私に任せて"と随分力強い言葉で話しているからこそ放置しているわけだが、二人はこれを何とかせねば本当に近いうち取り返しのつかないことになるのでは、と危惧していたりする。

 件のダストは現在森の中。野営地から少し離れた川で身体を洗うリーンを盗み見るべく、歩みを進める最中。

 

「全く、旦那もキースも分かってねえなぁ。野営中の楽しみをよお」

 

 そんなことをぶつぶつ呟くダストの方に添えられた一つの手。

 ははーん、と。いろいろ理屈を付けつつも結局ナナミの旦那も男、目の前の欲には抗えるまい。聞くところによればサキュバスの例の店で目撃された事例もあると言う。それはそう、成人男性である以上そういった欲はどうしても溜まる。果たして誰がそれを責められようか。

 

「っし、一緒に行こうぜナナミの旦那! 俺たちのロマンが詰まった場所、に……」

 

 振り返れば。やたらふさふさした大きな毛の生えた手が添えられていた。

 肉球ぷにぷにでかわいいなー、と。一瞬現実逃避気味の思考を抱いたダストだが、直後反転。

 リーンがいるであろう川とは真反対の方向、ナナミたちが野営をしている場所に向けて一直線。

 

「助けてくれえええええええええ!!!!!!」

 

 ダストと初心者殺しによる命懸けの鬼ごっこが、始まった。




個人的にダストパーティ大好きなのでもっと出したかったのですが、いかんせん絡む機会が中々…
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