この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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オリジナルという名のヒロイン擬き回収


第57話

「……嘘、でしょ」

 

 ルナは目撃してしまった。同盟内で怪しい店。どうにも男性の性欲を解決するタイプの、そっち系の店であると言う疑いを持たれている店舗に、七海が堂々と入店していったではないか。

 いやまあ、そりゃあ勿論七海も成人男性。そういった欲は溜まって然るべきだろうし、いざ自分が妻となった時求められないのも、それはそれで寂しい。見方を変えれば喜ばしいことではあるが、それでも。将来の旦那───一方通行にも程があるが───がこの手の店に入ることを許容できるほど、ルナの心は広くない。

 

「……セナさんたちには申し訳ありませんが」

 

 ある一側面で見ればライバルであるが、それでも同志として日々を過ごしてきたセナたちに対する裏切りとも言える行為に対し、思うことがないと言えば嘘になる。

 が、それは今ここで起こっていることを加味すれば些事も些事。一瞬で迷いを切り捨てたルナは、堂々と店内に入る。

 

「いッ!?」

「はい?」

「い、いえ! いらっしゃいませ! あちらのお席にどうぞ!」

「先ほど私の前に来た男性がいらっしゃると思うのですが、実は彼と相席の約束をしていまして……」

「え、でもさっきナナミさんは一人って……い、いえ、何でもないです! ではあちらのお席にどうぞ!」

 

 分かってるな、と。ルナから向けられる極寒の視線にあっという間に屈した新米サキュバスは、素直にルナと七海の相席を認めて裏に下がっていった。

 店内では何やら必死に男性客がアンケート用紙のようなものを隠しているが、そんなことはどうでも良い。

 

「ナナミさんは、なぜこのお店に?」

「アクセルでカスクートを食べられるのはここだけですから」

 

 カスクート。七海が地球にいた頃の好物である。当然、地球文明の中でも割とマイナーな方のそれがこちらの世界に持ち込まれることもなく、七海としては何とも物足りない食生活を送っていたわけだが。

 パフェ目当てでそれなりの頻度で通い、常連となったこの店で聞いてみれば、意外や意外、材料を集めてくれれば一度挑戦はしてみる、との返事。

 

 それを聞いた七海はパンとハム、チーズ、新鮮な野菜、田んぼから採れたてのサーモン等を材料として彼女らに渡したのだが、なんと調理が成功してしまった。

 それ以来七海専用のメニューと化したカスクート。それを食べたくなった時には食材をここに持ち込み、少し割高な料金を支払う代わりに調理を代行してもらっている、と言うわけだ。

 

「では、その……え、え、っちな目的だったりは……」

「…………」

「しなさそうですね、はい」

 

 まあ、何と言うか。ここが恐らく違法風俗店のようなものであろうことは、先の流れでルナにも察しがついている。

 それ故に大っぴらに否定することもできない七海の事情を察し、自己解決するルナ。彼女はできる妻なのだ。夫の考えぐらい読めて当然である。

 

「……ふうむ、なるほど」

 

 正直、潰すのは容易い。ここまで掴んでしまえばギルド内でいくらでも問題にできる。

 が、ルナとて当然、治安維持に関してこの店が果たす意義を理解している。基本荒くれ者で学がないものの多い冒険者に関し、一般市民への性被害の話をあまり聞かない───ダストやカズマという例外はいるが───のは、恐らくこの店ありきなのだろう。

 

「……ナナミさん、申し訳ありません。ご一緒したいのは山々なのですが、今日は先にお帰りいただいても?」

「……え、まあ、はい。問題ありませんが」

 

 もとより一人で食事を楽しんでいたところにいきなり相席して来て、詰めて来て、勝手に納得して、勝手に悩み出した女がルナ。そんな人間にいきなりこんなことを言われればそりゃあ困惑もする。

 カスクートを食べ終わった七海が代金を支払って店を出た後、近くにいた店員───受付を担当していた小柄な少女───を呼び寄せ、話を始める。

 

「私をここで働かせてください」

「え? え、え?」

「私が居れば、ギルドに対する言い訳がいくらでもできますよ?」

「え、その、え?」

「ああ、そういえばまた今度ゲリラで監査が行われるんでした。ここで私を雇う許諾が得られなければ、この店も───」

「わ、わかりました!! 雇います!! 雇いますから!!」

「はい、言質は取りました。違えないよう、よろしくお願いしますね?」

 

 ルナの手元には、何故持ち歩いていたのか一時的に発言を録音できる魔道具の姿。

 当然小柄な少女───新米ロリサキュバスにこの店に関する人事権があるわけもなく。とはいえ、この約束を反故にすれば間違いなくルナから監査という名の報復が飛んできて、碌でもない目に遭うのは目に見えており。

 どうしようどうしようと慌てふためいたロリサキュバス、彼女の人生において二度目。例の屋敷で感じた死の恐怖を思い出すような視線が厨房の奥から向けられた、そんな昼下がりであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日はご足労いただきありがとうございます、ナナミさん」

「いえ。これも仕事ですので」

 

 裁判───特に凶悪な刑事事件で行われるソレは時に強大な実力者。それこそ騎士を以てしても抑えきれない人間が対象となる場合もあり、勿論万が一がないよう準備はするが、それでも起こってしまった時のために護衛が配置されることがある。

 基本的にその護衛は王都の腕利き騎士が担当するのだが、今回呼ばれたのは冒険者の七海。如何に討伐実績が優れていようとこの任に冒険者が就くのは割と異例である。

 

 諸々の仕事を終えた七海を、給与の支払いという名目で休憩室に誘い、なんとか二人きりになる機会を得たセナ。そんな彼女が行なっているのは書類仕事。

 二人になったは良いが、事前にセットしたトークデッキが遥か彼方へ吹き飛んだがゆえである。弱すぎる、弱すぎるぞセナ。

 

「それにしても、騎士の派遣が出来ないとは。王都も中々、忙しいようで」

「え、ええ。魔王軍による攻勢が激しくなっているとも聞きますし、今後はこのような手段を取ることが増えるかもしれませんね」

 

 ではなぜ今回こんなことが実現したのか。一応王都が襲撃にあって腕利き騎士がそちらの対応に追われていたのも事実ではあるが、どちらかといえばセナの意向が加わったことが強い。要するに職権濫用である。軽率に司法の職権濫用を許しているが、大丈夫かこの国は。

 これでも魔王軍が宰相を務める他所の国よりはマシなのかもしれないのが悲しいところである。

 

「それにしても、本当に書類仕事を手伝わなくとも大丈夫なのですか?」

「はい、その辺はお気遣いなく。普段やってる量とそこまで変わりませんし、慣れてますから」

 

 本音を言えば割ときつい、そろそろ腕が痛い、手伝って欲しいというものになるのだが。好きな男の前で出来る女アピールをする絶好のチャンスをみすみす逃すわけにも行くまい。

 無理やり笑みを貼り付けて、書類を書く手を早めていく。明日の筋肉痛を覚悟しながらも、恋する乙女は止れない。

 

「……守秘義務等、私に見せられない書類ですか?」

「い、いえ。そういうものであればそも、この場で作業しませんので……」

「私にも出来そうな簡素なものがあれば、渡してください。多少なりとも事務には慣れていますので」

 

 見ているだけなのは申し訳ない、と。自ら申し出た七海。

 私の旦那はこんなにも出来た人間なのだ、と今すぐにでも大声で喧伝したい気分に駆られたセナであったが、流石にそこは自制して。折角の厚意を断るのも忍びなく、手元にある書類のうち、比較的簡素なものを七海に数枚手渡してみる。

 冒険者にしては随分と所作が社会に慣れているソレであったので経験があるのはなんとなく察せていたが、それにしても事務処理能力が自身の想定の倍は高い。

 

「…………」

「…………ナナミさん、こちらを」

「ありがとうございます」

 

 椅子で横並びになり、まるで長年の相棒かのようなアイコンタクト混じりに作業を進めている二人の姿は、どこか熟年の夫婦のようにも見えたのだが。生憎とセナにそんなことを言い出す度胸があるわけなく、何か行動を起こすでもなく。

 少し空いた扉越し、必死に諸々を引き延ばしてこの時間を作り出した功労者たちこと裁判官以下部下数名は、拳を握りながらも非常にヤキモキした気分を味わっていたのだった。




何書いてもこのすばで純愛できる気がしない 基本的に推敲しないので誤字報告本当に助けられてます。いつもありがとうございます。
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