この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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やあ


第63話

「……ナナミってさ」

 

 バニルから入った臨時収入により再び小金持ちと化したカズマパーティ一行、というよりカズマとアクアがだらけ始めた。

 それにより単独では攻撃が当たらないから何もできないダクネスと、一発打てば即ガス欠のめぐみんも実質的に任務受注禁止状態にあった。

 一応爆裂散歩はできているめぐみん、なので彼女自体そこまでフラストレーションはかかえていなかった。

 パーティの中で唯一積極的にカズマを引っ張り出そうとしていたダクネスが何やら呼び出しを受けてアルダープ邸に向かった為、彼らの天下が始まった。

 ちなみに七海は特に何もアプローチはしていない。別に彼らが居なくとも任務遂行に何ら支障がない為である。

 

「やたらちょむすけに懐かれてるよな」

「……何故でしょうか」

「餌あげてるからとか?」

「餌担当はめぐみんさんでしょう」

「まあなんか、イメージ的に懐かれてそうな感じはあるけどな」

 

 公園で座って本を読んでいる七海の上に、あくびをした野良猫が座り込んで寝始める。割と想像が容易な光景である。

 とはいえ、自分と同じく特に何もしていない七海が懐かれて、神聖な女神である自分が嫌われている事実に、どうにもアクアは納得がいっていない。

 現に、今もちょむすけの頭を優しく撫でようとしたアクアは爪を出した邪神にひっ掻かれた。

 

「痛ッ!? ちょっとナナミさんカズマさん、この猫爪出したわよ爪!! 飼い主の躾はどうなってるのかしら!?」

「はい飼い主です」

「アンタが邪悪なる飼い主だったのね!! 喰らいなさい、ゴッドブロー!!!」

 

 アクアが放った拳はカズマに簡単に回避され、勢いそのまま前に突っ込んで体勢を崩して綺麗にずっこけた。

 そんなアクアの目の前に舞い降りたのはちょむすけである。普段は彼女のことを嫌っているものの、なんだかんだ同居人としての情があるのだろうか。

 慰めに来てくれたのね、と。アクアが感涙に目を潤ませながら体勢を起こし、ちょむすけを抱き抱えようとすると。

 

「熱ッ!? え!? ちょっとカズマさん、何するの!?」

「いやどっからどう見ても俺じゃねえだろ!! この猫が火吹いたんだって!!」

「何言ってるの、猫が火を吹くわけないでしょう」

「それは!!! そうなんだが!!!」

 

 もしかしたら火を吹くかもしれないし、もしかしたら空を飛ぶかもしれないし、もしかしたら神聖な何かかもしれないことで有名なちょむすけ。

 とはいえやっぱり猫である。どう考えても火を吹くわけがない。

 キャベツは飛来して人間に危害を加えるし、サンマは畑から取れるし、タコは森で取れるが、猫は火を吹かないのだ。当たり前の話である。

 

「カズマ、賞金首モンスターを狩ろう!!!」

 

 そんな混沌としたリビングに駆け込んできたのは、朝帰りのプリティー令嬢ララティーナちゃん。

 案の定朝帰り云々をカズマたちにいじられた彼女であったが、どうやら手に持つクエストは割と重要なものであるらしく。強引に咳払いで流れを切って、話を始める。

 

「クーロンズヒュドラの討伐……ねえ」

 

 アクセル近郊の山に棲むこのモンスターは、一度眠りにつくと10年間周りの土地から魔力を吸い上げ、再び力を蓄えるのだとか。

 このモンスターが棲む周辺に雑草が生えたことが確認され、それはつまり、ヒュドラが力を蓄える必要がなくなったことを意味する。

 

 以前、ヒュドラが眠りについたことを確認したのは10年前。つまり、目覚めの時期が来たということ。

 RPGのラスボスみたいな見た目に違わず、ヒュドラはとにかく強い。初心者の街付近に生息していいモンスターではない。

 

「いやだよ普通に。なんでこんなバケモンと戦わなきゃならねーんだよ」

「しかし、カズマ。もはやこの街に残る冒険者でクーロンズヒュドラの脅威を打ち払える存在は、魔王軍幹部を数多く討伐せしめたお前を除いて他にいない!! さあ、立ち上がれ勇者よ!! 共に世界を救おう!!」

「いやだ」

 

 色々あってまともに討伐した魔王軍幹部はベルディアだけであるため、多くの、というかはさておいて。

 まあ、道理であろう。アクセルにおいてある程度例外的にやたらレベルの高い冒険者は存在するが、それでも初心者の街比であり、王都のそれと比べれば当然練度は劣る。

 カズマ単体の能力はさておいて、付属するパーツが強い。単発だけなら世界最強格のめぐみん、アダマンタイトよりも硬いかもしれない女ダクネス、真面目に能力だけなら世界最強のアークプリーストアクア、ゴリラの七海。頑張ればヒュドラの討伐も可能であろうメンツである。

 

「異世界に来て現実を知ったこのカズマ様が今更勇者がどうだーとかでやる気を出すと思うなよ? もっとこう、俺をやる気にする餌とかないのかよ。あ、金は無理だぞ。俺もう金持ってるし」

「……わ、分かった。討伐した暁には、私がお前の頬に、き、キスを……」

「キスぐらいで命かけるわけないだろ普通。子供かよ」

「なッ!?!?」

 

 ダクネスが必死の勇気を振り絞ってした提案を一蹴し、挙げ句の果てにちょむすけを使って揶揄い始めたカズマ。その果てにダクネスから出る言葉が"ぶっ殺してやる!!"なのも、淑女としてどうかとは思うが、まあそれはそれ。

 

「……では、私が行きましょう」

「ま、待ってくれナナミ。いくらお前でも一人では……」

「王都からミツルギくんとゆんゆんさんに助力を願うので問題ありません」

「───は? ミツルギ? ゆんゆん? なんでその名前が出てくるんだよ」

 

 聞けば。カズマたちが冒険者活動を休止している最中、七海は王都で高難度の任務をこなすことが何回かあったらしく。

 そこでミツルギと共闘する機会が何度かあったのだとか。敗北を知った彼は以前までの無鉄砲さがなくなり、冷静な判断を下せるようになった。

 元々の実力の高さもあいまり、共闘する仲間としては不足ない。

 ゆんゆんの友達作り計画の一環且つ近接だけでは不安が残るモンスター対策として彼女とミツルギパーティを並べて共闘することもあり、時間を同じくするうちに、ある程度までは気を使わずとも助力を願える仲になったのだとか。

 

「この間も、ミツルギくんの助力を受けて、ゆんゆんさんとアルカンレティア付近まで向かいましたから」

「……カズマ、アクア、ちょっといいですか」

 

 めぐみんがカズマとアクア奥まで呼び寄せて、何やらごちゃごちゃと話をしている様子。

 その間に武器の準備を進める七海であったが、どうやら彼が準備を終える前に、話し合いの方が終わったらしく。

 カズマは半ばヤケクソ気味にも見える様子で叫び声を上げる。

 

「よーし!! クーロンズヒュドラでもなんでもかかってこい!!!!」

「水の女神アクア様にかかれば、そんなよくわかんないトカゲもどきなんぞイチコロよイチコロ!! ゴットブローが火を吹くわ!!」

「と、いうわけです。私たちも行きますので、今回はその二人は呼ばなくても大丈夫ですよ、ナナミ」

 

 杖の準備をしてきます、と。リビングを出て自分の部屋に向かうめぐみん。続いてアクアが部屋を出て、最後にカズマ。彼はリビングから出る前、振り返り、七海を指さして一言。

 

「ナナミ、お前はカズマパーティ所属だからな!! 忘れんなよ!!!!」

 

 やってやらあ!! と普段の彼に似つかわしくない、勇ましい叫び声をあげているカズマ。当然七海は疑問符しか浮かばず停止しているが、どうやらダクネスには思い当たる節があるようで。仕方ないやつだ、と呟く割に、その顔には微笑みを浮かべている。

 

「存外、お前が他所に盗られると思ったのかもしれないぞ?」

「彼らに限りそれはあり得ないでしょう」

「さて、な。よし、では私も用意をしてこよう」

 

 鎧と大剣を取りに行こうとするダクネス。そんな彼女の背を呼び止めた七海。

 

「どうした?」

「一応。年頃の女性がそう易々と、キスの約束等はしないように。特に貴女の場合、それを口実にどこまで落ちるか分かったものではない」

「…………………ああ。気をつけよう」

 

 そう言い残し、退室するダクネス。ここまで言い淀むことに対し流石に違和感はあるが、それでも追及したとて何かを話してくれるとは到底思えない。

 これだから人間というのは面倒だ。事を起こす前に対処するには限度があり、結局のところ、対処療法的に事が起きるまで十全な解決を図ることは難しいのだから。加えて、その事が起きた時には既に手遅れになっていた、ということがままあるのだから、仕方ない。

 

「……気にかけておくことにはしましょうか」




この辺まで来ると原作知らん人がポツポツいそうなので、ちょっと描写を丁寧にするか悩み中
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