この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

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書き上がったので投稿します


第64話

「……ねえカズマさん、やっぱり帰らない? 果てしなく嫌な予感がするんですけど」

「今更引けるかよ。このままだらけてたらマジでそのうちナナミ取られるぞ」

「……………………それは嫌、だけど…………あーもう!! 仕方ないわね!!!」

 

 ドラゴンスレイヤーの称号をやたら欲しがるめぐみんに対し、ゼル帝はそんな物騒な称号を持つ人間を背に乗せたがらない、と言ってみたり。カズマに今見たく、嫌な予感がすると言ってみたり。

 出てからもなんとか帰れないものかと試行していたアクアだが、カズマにこう言われて覚悟を決めたのか、両手で武器を強く握り、一歩前に踏み出した。

 

 従来、クローンズヒュドラに対して取られた対策は、騎士団で囲んで暴れさせ、疲れさせたところで眠りにつかせる、というもの。故に今回も王都から騎士団が派遣される予定であった。

 しかしそれでは根本的な解決に至らず、加えて、騎士団の到着を待つ前にヒュドラが目覚める可能性が高いときた。ならばこそ、爆裂魔法という絶大な火力を有するカズマパーティの出番である。

 

 ちなみに最適解は魔窟・ウィズ魔道具店からハンスを引っ張ってくることである。彼は現在バニルと共に魔道具やらポーションやらを仕入れに街を出ているため、今回はこの案は見送らざるを得なかった。知らず知らずのうちに魔王軍幹部が二人入り込んでいる街の住民は泣いていい。

 居残っていたウィズが助けを求めるような目で私も討伐に同行すると言い出したのだが、店を空けるわけにはいかないだろう、と、七海が気を利かせて断った。今頃彼女は死んだ目で作業をしながら、ゼル帝の卵を温めているのであろう。

 

「良い!? めぐみんの魔法が効かなかったらすぐに逃げ帰るわよ!?」

 

 ブルータルアリゲーターのような水棲のモンスターは、自らが入る水を浄化されることに関して強い嫌悪感を覚える傾向がある。

 これはクローンズヒュドラも例外ではなく、自身が棲む周囲の水を浄化されることに拒否反応を示し、目覚めて表層に浮上する。

 そして、そこをカズマパーティの最大火力、めぐみんの爆裂魔法を以て叩く。もしも仕留めきれなかったら七海の最大火力で追撃し、それでもダメならカズマがめぐみんを抱えて大人しく撤退する、という作戦。

 杜撰なように見えて、これがカズマパーティが取り得る最適解である。真正面から殴り合っても勝てないのだから仕方ない。

 

「──ダクネスさん、アクアさん、めぐみんさん!! サトウくんの遺体を持って撤退してください!!」

 

 爆裂魔法を喰らわせるまでは、作戦通り上手く行ったのだ。首を複数本消し飛ばされたクローンズヒュドラは即座に再生を開始、七海の追撃が届くよりも先に復活を遂げた。

 その後、間も無くしてヒュドラの攻撃を正面から受けたカズマが即死。幸いにして丸呑みにされるなど遺体が損壊することはなかったが、それでも大ピンチであることには違いない。

 

 アクアから蘇生魔法の件を聞いていた七海は自らが殿となり、カズマの遺体を持った三人を安全に撤退させた。

 

「──」

 

 思うところがないわけではない。自らを慕う──おそらく慕ってくれているであろう少年を殺した目の前のモンスターが憎いかと問われれば、もちろん憎い。

 だが、この激情のままに戦闘を続けては、そう低くない確率で七海まで死に至る。加えて、アクアが撤退した以上この場での死は取り返しのつかないものになる。

 湧き上がる感情を無理やり抑え込み、七海は自身が持てる全力を以て、何とかその場を離脱した。

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

 

「……な、ナナミ?」

「私も行きます。クローンズヒュドラの討伐でしょう?」

 

 早朝。鎧を着込んだダクネスを玄関で待ち受けていたのは、冒険者としての格好を整えた七海であった。

 クルセイダーの責務、アクセルを守るダスティネス家としての立場。元来の性癖とはまた別の部分が、ダクネスを無謀なヒュドラ単独討伐へと駆り立てていた。

 

「いや、これは私の問題なんだ。ナナミたちを巻き込むわけには……」

「今更でしょう、貴方の我儘にパーティが巻き込まれるのは」

「うぐッ……。それでも、今回の問題は命が関わるものになるんだ。今までのソレとは──」

「変わらないでしょう」

 

 機動要塞デストロイヤー討伐に際し、逃げることなくアクセルを守ろうとしたダクネスにカズマたちが付き合った時も。アルダープに冤罪をかけられたカズマをダクネスが助けようとした時も。

 良くも悪くも大ごとに遭遇しやすいこのパーティにおいて、互いのエゴが故にパーティ全体が命を張らざるを得ない事態になったことも少なくない。

 

「貴女の命は、貴女一人のものではない」

「…………」

「サトウくんも、めぐみんさんも、アクアさんも。貴女が死ねば、間違いなく悲しむだけではすまないでしょう」

「……そう、か」

 

 クリスと偶に組むことこそあるものの、基本的にソロで活動していた時期ならいざ知らず。

 今のダクネスには、彼女の身を案じる仲間がいる。

 普段こそああではあるが、それ今の今まで、仲間を喪うという経験をしていないが故。いざその経験をした時に、死生観がどうなっているのか不明なアクアはさておき、年幼いめぐみん、現代日本で育ったカズマがどうなるかは定かでない。

 

「……すまない、ナナミ。手伝ってくれ」

「分かりました。……皆さんも、それで問題ありませんね?」

「皆さん……?」

 

 七海が扉を開けると、そこに居るのはカズマパーティの面々のみならず、アクセルの冒険者の多くが武装して、今か今かと出陣の時を待っていた。

 

「行きますよ、ダクネスさん」

 

 七海の背を追うダクネスの瞳には、少しばかりの光るものがあった──これで終われば、良い話だったのだろうが。

 ララティーナララティーナと彼女を弄り倒す冒険者たちに対してブチ切れた彼女がひたすらに追いかけ回し、結果多くの者がヒュドラ戦を前にして体力の限界を迎えてしまった。締まりがないといえば、それはそうなのだが。まあ、これもアクセルらしいといえばアクセルらしい光景なのだろう。




依然忙しいので投稿ペースは死にますが、失踪する気はさらさら無いのでそこはご安心ください。意地でも完結させます。
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