この素晴らしい社畜に安寧を!   作:どこはかとなくやばい人

65 / 71
第65話

「……あの、カズマさん」

「どうしたんだゆんゆん。告白の言葉なら後で頼む」

「いえ、それは絶対にないんですけど……その、私たち、本当に必要でした?」

 

 カズマたちが建てた作戦は分かり易い。人数の暴力で火力を増強し、爆裂魔法と合わせて、一度でヒュドラの首を全て削り倒す、というもの。 

 準備していたウィザード、その中にいた紅魔族のゆんゆんは、一人で獅子奮迅の活躍、再生された分も合わせて既に一人で二桁を超える数の首を狩っている七海を前に、その目を腐らせていた。

 

「やけに張り切ってんなぁナナミ」

「昨日ブチ切れてたものね。声には出してなかったけど、オーラが凄かったわよオーラが」

 

 七海、というか呪術師にとって、確かに仲間が死ぬということは日常茶飯事。昨日隣でご飯食べた術師が翌日無残な死体と化すこともあれば、同級生が自身を逃すためにその場に残り、死することもある。そんな世界で生きてきた。

 だが。流石に彼とて、自らの目が届く範囲で、よりにもよって守るべき年下の少年を死なせてしまったとなれば、思うところがある。仇討ちの機会が転がり込んできたとなれば、余計に。

 

「愛されてるねえ、助手くん」

「…………うるせえやい」

「ん。じゃ、私もそろそろ働きますか!」

 

 集められた盗賊職が一斉にバインドを発動し、暴れ回るヒュドラの首を一つに束ねる。七海がひたすらに切り落とし続けたこともあり、再生の魔力は既に枯れかけていた。

 とはいえ、流石に七海一人の攻撃速度では再生速度には追いつかない。そこで、集めたウィザードたちの出番である。

 

「喜べゆんゆん、出番だぞ!!」

「はい!! 『ライトオブ・セイバー』!!」

 

 ゆんゆんの上級魔法を皮切りに、ヒュドラに四方八方から攻撃魔法が襲いかかる。一つ一つは大それた威力でもないが、こうも集まればヒュドラの首を破壊し得る火力になる。

 

 七海が狩った分と、ウィザード部隊が削った数本。そこまで来れば、あとは簡単。アクセルが誇る最強の矛を以て、残る残骸を吹き飛ばすのみ。

 

「いったれめぐみん、一世一代の晴れ舞台だぞ!!!」

「湖を汚す悪しき龍よ、眠るが良い!! 『エクスプロージョン』ッ!!!」

 

 長年にわたって人類を苦しめ続けた龍は、断末魔の悲鳴を上げる暇すら与えられず、この世から肉片一つ残さず綺麗さっぱり消え去った。

 

 

 

 

 

☆☆

 

 

 

 

「師匠!! 聞きました、クローンズヒュドラを討伐されたんですね!!!」

「煩いですミツルギくん、近くで大声を出さないでください」

「ガルルルルルルルル…………」

「フシャーッ………………」

 

 それはもう目をキラッキラ輝かせて七海に詰め寄るミツルギ、その後ろで態度を隠そうともせず思い切り威嚇する少女二人。

 ミツルギはその顔の良さ、実力、人間性も相まってそれはもうモテる。王都にいると女性からひっきりなしに声がかかるし、貴族の家から婿入りの話が来たことも少なくない。

 

 ただ、彼は冒険者稼業に集中するため、その全てを断ってきた。故に、彼にアタックするチャンスを与えられたのは、冒険者としての仲間である自分たちのみ。

 どっちが勝っても恨みっこなし、結婚式では思いきりの笑顔で祝福してあげること。そんな誓いをしたいつかの夕べ、まさかこんな状況になるなんて誰が考えていたか。

 

「…………ミツルギくん」

「はい?」

「私が言えた義理ではありませんが、貴方はもう少し感情の機微に聡くなるべきだ」

「そう、なんですかね?」

「はい。貴方には向き合うべき人が、感情がある。そうでしょう?」

「…………」

 

 七海がさり気なく後ろに視線をやりつつそう話すと、フィオとクレメアの態度も軟化した。

 ああ、自分たちは何を勘違いしていたのだろうか。この人はなんて素晴らしい、尊敬できる大人なんだ。

 考え込むミツルギの姿を見て、やはりすぐに答えは出ないのではないか。これまで育んできた感情に決着をつけるのは、何も今でなくていいだろう。

 彼にそう伝えようと、アイコンタクトを取って、口を開こうとした。次の瞬間。

 

「分かりました!!! 師匠、僕とパーティを組んでください!!!!!」

「「「…………は?」」」

「師匠、貴方の言うとおりです。僕は、貴方に迷惑をかけたくなくて、この感情を抑え込んでいた。しかし、貴方から。他でも無い師匠からそう言っていただけるのであれば、僕もこの感情に向き合います!!!」

 

 ぶしゃー、っと。何人かの女性冒険者の鼻から赤い液体が吹き出て来た。

 ミツルギと七海のやり取り──一方通行なものも多いが──はアクセル冒険者ギルドの名物と化しており、そんな彼らの関係から良からぬ妄想をする輩。いわゆるBでLな連中が一部蔓延っている。奴らは同性愛を許さない弾圧派、ルナからの制裁を度々受けつつもしぶとく草の根活動を続けているのだ。

 

 それはさておいて。

 

「フィオさん、クレメアさん。少しよろしいでしょうか」

「……受付の人?」

「ルナと申します。少々、お二人とお話ししたいことがありまして」

「それって今じゃなきゃダメ? 私たち、他にしないといけないことが──」

「まさに、そのことで。私たちは互いに協力し合えると思うんです」

 

 少し離れた場所で、ルナ曰く。自分は七海を狙っている、二人はミツルギを狙っている。要するに、三人とも彼等が近づき、時間を取られるのがあまり好ましくない、という点で一致している。

 そんな彼女らが何を結ぶのか。そう、同盟である、?

 

「私たちは、キョウヤがナナミさんと話すのをなるべく阻止する」

「私は、ナナミさんがミツルギさんと話すのをなるべく阻止する」

 

 七海の活動圏は主にアクセル周辺。たまに指名依頼で王都に出向くが、頻度は高くない。故に、アクセルに戻らせないように任務のローテーションを組めば、物理的に七海から引き剥がすことが可能。

 ルナは、ギルド受付嬢の中でもそれなりに高い地位にいる。流石にマッチアップの依頼そのものを断ることはできないが、その相手をミツルギから他の誰かに変えることを依頼することぐらいは可能。

 ルナからしても、王都周辺を拠点とするミツルギのパーティに七海が加入するのは好ましくない。ここに、三人の利害が一致し。『七海とミツルギを引き離す同盟』が成立した。




とりあえず最低限月1ペースぐらいは保ちたいところ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。