「そろそろ好感度イベント第二弾があっていい頃だと思うんだよ、俺は」
「何の話ですか」
奇妙な入りではあるが、どうやらカズマは七海と二人で話をしたいらしい。確かに七海はカズマと面と向かって二人で話したことは少ない。同じ地球出身の転生者同士、話せることもあるだろう。
地球の基礎知識ぐらいはアクアの頭にも入っているのだろうが、流石に文化やら日々の暮らしやら、その辺にまでは知識が行き届いていない。異世界ライフはこれはこれで楽しいが、時には懐古したくなるのが人間というもの。
「いんや、七海の生前のことを聞きたいんだよな。ニチアサっぽいことやってたのは前聞いたけど、内容はほとんど知らんし」
「そういう佐藤くんはどうなんですか。引きこもりというのは聞いていますが」
「俺はまあ、普通にヒキニートだよ」
「ヒキニートは普通ではないと思いますが……」
一応、カズマにも同情の余地はあるのかもしれない。そう思った七海が話を聞けば、幼馴染の女の子がちょいワル系の先輩と付き合っていたことを知り現実から逃避した彼は、ネトゲの世界で持ち前の豪運を活かして"レア運だけのカズマさん"として大活躍。そちらにのめり込んだこともあり、通っていた私立高校にもほとんど登校しなくなった、とのこと。
非常にまずい。擁護の余地がどこにもない。
いやまあ、確かに思春期男子にとってBSSが辛いものであることは間違いない。そこに関しては同情に値する。
が、その先が問題でしかない。典型的なネトゲ廃人の人生の壊し方である。私立に入れてくれてなお不登校を許容する両親の懐の広さが余計カズマのクズっぷりを際立たせている。
「ぐっ……俺のことはどうでもいいんだよ」
「……私も、別に人に誇れる人生ではありませんでしたよ」
偏屈な七海を慕ってくれた友を失った高専時代。呪術界から逃げ、社畜として働いていた社会人時代。結局そこからも逃げ、先輩に勧められるがままに戻ってきた呪術師時代。
流石に血生臭い部分は省いたが、七海はある程度のリアリティを混ぜながら、カズマに対し生前の話を聞かせた。
少なくとも信頼できない人間に対し七海はこのような対応をしないので、ある意味でこれはカズマが七海と積み上げてきた絆の結果。好感度イベントの一環と言えなくはないのかもしれない。
「……ニチアサじゃないだろこれ、深夜枠じゃねえか」
「まあ、日曜朝から放送して良い内容では無いでしょうね」
「…………その、悪い」
「何がですか」
「無理に聞き出しちまった。あんまり人に話したく無かっただろ」
「いえ、そこは別に。流石にもう、ある程度吹っ切れましたので」
死んですぐは少し引き摺っていたが、カズマたち問題児とパーティを組む最中、七海がノスタルジーに浸る暇はほとんどなかった。
完全に吹っ切れた要因は、件の灰原との会話である。神器によって作られたまやかしである可能性も否定はできないが、しかし、七海の魂が彼が本物の灰原雄であることを物語っていた。
「七海は、呪いを残してしまったって言ってたけどさ」
「?」
「俺は良かったと思うぜ。最後に七海と、イタドリだっけ? そいつが話せたことは」
話の最後にした、七海の死の間際。自身が虎杖に残した特大の呪い。
「何も残されず逝かれるっていうのは、多分、俺たちが想像している以上に辛いことだからな」
「…………」
思い出すのは、灰原が亡くなったあの任務。少なくとも、彼が亡くなるまでの時間で満足のいく会話が。遺言が託されていたとは言い難い。
ならばこそ、確かにカズマの言うことにも一理あるのだろう。ある意味で虎杖を縛りかねない呪いの言葉も、見方を変えれば彼を突き動かす原動力になり得る。
自身の半分も生きていないカズマにこのようなことを言われては、大人も形無しである。七海が心中反省する中で、カズマは言葉を続ける。
「俺は、何も伝えられなかったからさ」
「……何か、ご両親に伝えたいことが?」
「ああ。俺のパソコンは風呂に沈めて壊しておいてくれ、ってな」
「……?」
「ほら、死んだ後にエロ画像とか保存されてるデータを見られたら嫌だろ?」
「…………………」
☆☆
「ナナミさん、次はこっちです!」
友人とお出かけするシミュレーションがしたい。ある日、ゆんゆんは七海にそんな相談を持ちかけた。
自分は友人と呼ぶには少し歳が離れ過ぎているし、もう少し近い年代の人間を頼るべきだ、と。そう言ってみたが、帰ってきたのは滂沱の涙。曰く。
『と、友達だと思ってたのは私だけだったんですか!?』
とのこと。知らぬ間に倍近く歳の違う少女から友達にカテゴライズされていたことに多少驚きつつも、このまま放置していてはそのうち悪い輩に騙されかねないと悟った七海。
それこそリーンやらめぐみんやらに頼れば彼女らが手伝ってくれるとは思うが、それを告げては『そ、そんなに嫌でしたか……』とでも泣かれそうなので、渋々承諾した。
肝心のゆんゆんが考えたプランは、まあ普通と言えば普通。流行りの店で食事したり、商店街を適当に歩いたり。アクセルで行える遊びとしてはまあ、これぐらいなんだろうな、というものであった。
ただし。
「ゆんゆんさん」
「はい!」
「全ての店で奢ろうとするのはやりすぎです」
「!?」
そう。このゆんゆんという少女、真面目に友達料を支払おうとするほどに友人という存在に飢えている女。常識人に見えてコミュニケーション方面ではかなりまずい方向に仕上がっている狂人である。
なまじアークウィザードとして高難度クエストを片づけ続け、金を持っているだけに余計まずい方向に拗らせてしまっている。
「だ、ダメなんですか……?」
「ダメ、とまでは言いませんが。毎度毎度貴方が奢っていては、それが健全な友人関係とは言い難いでしょうね」
「な、なるほど。参考になります!」
七海も、別に友人が多い方ではない。高専という特異的な環境にいなければ灰原のような親しい友人が出来ていたかは怪しいところであるし、社会人として働いていた期間も同僚と良好な関係が築けていたとは言い難い。せいぜいビジネスライクが良いところだ。
だが、ゆんゆんよりマシであることには違いない。本来であればリーンのようなまともな少女に助力を願うべきなのだろうが、現状それが難しいというならば、最低限のレベルにまで押し上げるのが自分の役目。
自らが所属するパーティのリーダーがアレであるように、この街には少々どころでは済まない性根の腐り方をしている人間が多数居る。
そういった人間につけ込まれて、金を失うだけならまだ良いが、それ以上のものを失ってしまっては取り返しがつかない。
「例えば。ダストさんが貴方に、ご飯を奢ってくれたら遊びに行ってやる、と言ってきたらどうしますか」
「え、それぐらいで遊んでくれるなら喜んで奢りますよ!」
「……………………」
想定していたより事態は急を要するかもしれない。七海も不用意だったが、街中でこのような発言をしてしまったゆんゆんはまさに絶好のカモ。
今か今かと機会を窺う男冒険者どもは、この場においては七海に完全にシャットアウトされたが、そう遠くない未来にゆんゆんに悪影響を与えかねない事は想像に難くない。
「……と、言うわけです。私が教えられることには限界があります。なので、リーンさんにも助力をお願いしたい」
「……分かった。絶対ダストみたいなやつに近づかないように教育するよ」
後日。ギルドの酒場にて。
リーンと七海による、ゆんゆん常人化計画が実行に移されていた。
その後ろには、股間を押さえてピクピク震える、文字通りのダストが転がっていた。
7巻分はだいぶ短くなりそうなので手早く終わらせてしまいたいところ